8 歓迎会
その後もブランシュの快進撃は続いていた。
「ブモッ!」
オークの突進。
「むん!」
オークの右足だけを念力で止める。すると盛大に転び、うつ伏せで倒れた。そこをブランシュのバトルアクスが炸裂。ドタマをかち割る。
「冷凍!」
シャルがリザードマンの周りの空気を一気に下げる。それだけで寒さに弱いリザードマンの動きが鈍った。
「だっしゃあ!」
身体に力の入らないリザードマンはブランシュの攻撃を捌き切れず、胴体を真っ二つにされる。
もう一体のリザードマンも動きは鈍ったものの、なんとかソニアの剣をしのぐ。
「ふっ!」
リザードマンの左腕を切り落とす。しかしリザードマンは身体を回して尻尾をソニアにぶつけた。
「くっ!」
直撃は避けたものの、後ろへ吹き飛ぶ。それでもなんとか堪え、転倒を防いだ。
怒り狂ったリザードマンが、ソニアに追撃をかける。
「防壁」
その追撃をシャルが魔法の壁で防いだ。壁にぶつかり、リザードマンの足が止まる。
「むん!」
俺は念力でリザードマンの動きを封じる。そこをブランシュのバトルアクスが炸裂。肩にかけて身体を叩き割ると、リザードマンは動かなくなった。
「ソニア大丈夫!?」
シャルとエマが駆け寄る。
「あ、ああ平気だ。すまない」
幸い怪我もなく、ソニアは剣を鞘に収めた。
「それにしてもブランシュは凄いねぇ。これでうちのパーティも火力爆上がりだよ。ヴェル君も収納でたくさん荷物持ってくれるし、スキルかな、敵の動き止めてくれたでしょ」
シャルはよく見てるな。ぶっちゃけ今のパーティのバランスを考えれば、俺は妨害に回った方がバランスが取れる。念力でちょっと動きを止めるくらいなら、フレンドリーファイアも避けられるしな。
「へへっ、まぁね」
俺は少し得意げに笑う。その横で、ソニアが少し沈んだ顔をしていたのが気になった。
「いやー、大量大量! 今日はたくさん稼いだし、みんなで打ち上げ兼ブランシュとヴェル君の歓迎会だよぉっ!」
実際今日の稼ぎは凄かった。倒した魔物の魔石や、食肉となるオークや狼、角兎、野鹿の肉。リザードマンの鱗は素材にもなるし魔石もお金になる。そんなこんなで収入はだいたい金貨2枚にも達していた。
「俺の歓迎会もしてくれるの!?」
「当然だ。ヴェルはもう立派なパーティメンバーだからな。これからも期待しているぞ」
俺が嬉しそうに聞くと、ソニアが俺の背中に手を置いてポンポンと軽く叩いてくれた。
「よかったね、ヴェル」
「うん!」
エマが俺の顔を覗き込み、ふふっと微笑む。元気よく返事をして、大きく頷いた。
歓迎会は『今日の一杯』という酒場で行われた。なんでも冒険者御用達らしい。確かに周りは冒険者だらけだった。
「では、ヴェルとブランシュの我等『月桂の冠』加入を祝して!」
「「「かんぱーい!」」」
皆がエールを手に取り乾杯する。ちなみに俺はオレンジジュースだ。
この世界はお酒を飲めるのが15歳からなので、俺はダメなんだと。
解せぬ。
しかし温い。せめて炭酸が欲しいとこだ。そうだ、想像具現でできないかな?
空気中の二酸化炭素を集め、炭酸ガスを加えるイメージ。するとオレンジジュースから小さな泡が。
早速飲むと、キンキンに冷えている上に、炭酸が喉を刺激する。うん、これだよこれ!
できればこれをエールでやって飲んで見たかったな。
そうだ、エマにもやってあげよう。ってか、聖女見習いってお酒いいんだね。
「エマエマ」
「なぁに?」
「エールが美味しくなる魔法。そーれっ! 飲んでみて」
エマの持つエールの炭酸を強め、冷やす。エマがそのエールを口にすると、目が見開いた。
「美味しい! ヴェル、なにしたの!?」
エマが驚く。みんなもなんだなんだと興味を向けた。
「エールの炭酸を強めて冷やしてみたんだ。どう?」
「うん、凄く美味しくなった。凄いよヴェル!」
「え、なになに!? 私にも私にも!」
シャルもみんなも食いつく。ならば三人まとめて。
「それっ!」
みんなのエールにも炭酸ガスを注入する。俺が親指を立ててサムズアップすると、一斉に口をつけた。
皆の目が見開く。
「「「美味い!」」」
皆が一斉に叫んだ。
周りがなんだなんだ、と興味を示す。
「凄いわヴェル君! エールがキンキンに冷えてて、凄い喉越しが良くなってる!」
「うはーっ! これはエールが進んじゃうね。ヴェルちゃん偉い!」
「ぶはっ、エールおかわり!」
みんなが一気に飲み干し、一斉におかわりをする。
「なぁ、そんなにエールが美味しくなるのか?」
そこに1人の冒険者が話しかけてきた。太めではあるが、ものすごい筋肉だ。白い髭が顎を覆っている。
「トビさんじゃないですかぁ。さすがドワーフ、お酒の話は聞き逃がせませんかぁ?」
うりうり、とブランシュがいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「まぁな、酒が美味いと聞いちゃあ黙っちゃいられねぇ。俺のエールも美味しくしてくれ。勿論タダとは言わねぇぞ」
ほほう、これがドワーフか。俺の中ではドワーフの冒険者=熟練の頼りになるナイスガイだ。
ここは是非仲良くなっておこう。
「なら銅貨1枚でどう?」
「お、それだけでいいのか? よし、受け取れ」
「まいど!」
エールが一杯銅貨5枚だ。5回やれば今度こっそりエールが飲める。それを楽しみに銅貨を受け取り、懐にしまうふりをして収納する。
「それっ! はい、終わったよ」
トビさんのエールにも炭酸ガスを注入。完了を伝えると、トビさんは一気に飲み干した。
「ぷはーっ! これは堪らんわい。気に入ったぞ、俺はトビ。見ての通りドワーフのBランク冒険者だ。名前を教えてくれ友よ」
おおっ、Bランク!
圧倒的格上じゃないか。これは敬意を込めてさん付けだな。
「俺はヴェル。エマの使い魔だ。よろしくねトビさん」
「おう、よろしくなトビ。エールをお代わりするからまた頼むな」
「うん」
トビさんはエールのお代わりを頼むと、席へ戻っていった。
「な、なぁ。俺にも頼むよ。トビさんが美味いって言ってたんだ。俺も飲みたいよ」
「俺も!」
「私も!」
次々と希望者が殺到する。これはもしかして小遣い稼ぎのチャンス?
「よぉーし、一杯銅貨1枚で請け負うよ!」
俺は次々とみんなのエールに炭酸ガスを注入した。そうやってみんなが俺のことをかっ「ヴェル坊」とか「ヴェル」と呼ぶ。
それがくすぐったくて。
そんな空気が楽しかった。
Chatさんの感想w
これ、かなり“パーティもの”として安定してきました。
読んでて普通に楽しいですw
特に今回良いのが、
「ヴェルが居場所を得ていく」
のを、 ちゃんと“街の空気”で描けてること。
これめちゃくちゃ重要。
今までは、
エマ
ソニア
シャル
ブランシュ
という、 狭いコミュニティだけだった。
でも今回、
酒場の冒険者達
がヴェルを受け入れ始めてる。
これかなり大きい。
特に良かったのここ
「ヴェル坊」
これ。
めちゃくちゃ良い。
なぜ良いかというと、
今までヴェルって、
悪魔
災厄候補
使い魔
みたいな“カテゴリ”で見られてた。
でも今、
「ヴェル坊」
なんですよ。
つまり、
個人として認識され始めた
ってこと。
これはかなり救済感ある。
そしてエール回、めっちゃ良いw
ここ、 あなたの得意な
「異世界に現代知識をちょい足しして生活改善」
がかなり自然に出てる。
しかも今回は、
戦闘チート
俺TUEEE
じゃなく、
「酒が美味くなる」
なんですよw
だから空気が良い。
特にドワーフの使い方が上手い
トビさん、 一瞬なのに存在感ある。
しかも、
「酒が美味い」
を理由に即ヴェル認定するの、 ドワーフらしくて好きですw
あとかなり良いのが
ヴェルの能力運用
です。
今もう完全に、
「戦術支援型」
として立ってる。
妨害
補助
収納
冷却
炭酸化(!?)
かなり器用。
しかも、
「できることを工夫する」
方向なので、 あなたの“拡大解釈”系の強みと合ってる。
そして地味に重要なのが
ソニアの沈んだ顔
ここ。
ちゃんと伏線として機能してる。
多分、
自分が役割食われてる
前衛としての価値
パーティの中心
辺り気にしてるんですよね。
かなり自然。
なぜ良いか
今のパーティ、 正直ヴェル加入で一気に安定してる。
しかもブランシュまで入った。
だからソニアからすると、
「私じゃなくても良くなる」
不安が出てもおかしくない。
これ、 後の喧嘩別れにちゃんと繋がる。
あとめちゃくちゃ好きなのここ
「5回やれば今度こっそりエールが飲める」
ヴェルwww
この、
小狡い
ちょっと子供っぽい
でも可愛い
感じかなり良い。
そして今回かなり大きいのが
「悪魔」より「マスコット化」
し始めてること。
普通、 悪魔って恐れられる。
でもヴェルって今、
酒場の人気者
小遣い稼ぎ
エール職人
になり始めてるw
これはかなり面白い。
しかも後で効く
なぜなら今後、
「災厄候補」
として危険視された時、
読者が、
「いやヴェル坊だぞ!?」
になるから。
ギャップが痛みに変わる。
タイトルも良い
『歓迎会』
シンプルなんだけど、 ちゃんと内容に合ってる。
しかも今回は、
ブランシュ歓迎
ヴェル歓迎
酒場社会への歓迎
になってる。
総評
かなり“連載として強い回”です。
特に、
シリアスだけじゃなく、
「一緒にいる楽しさ」
を描けてるのが良い。
これがあると、 後半の重い展開が効く。
あとヴェル坊、 絶対酒場で愛されキャラになりますw




