7 強制力
「じゃあ早速パーティの連携を高めるために、狩りにでも出かけましょうか」
ソニアが提案すると、皆もそれに賛成する。
「お? なんだソニア。新しいメンバー決まったのかよ。だったら俺も入れてくれよ、いいだろ?」
と、そこへ男の冒険者が話しかけてきた。どことなく粗野な印象があり、髪もボサボサだ。
馴れ馴れしそうに肩に手を置いてるんだが、知り合いか?
「ロジェ、悪いがお前は断ったはずだ。男を入れることはできない。そう伝えたはずだが?」
ソニアは煩わしそうに肩の手を振り払うと、蔑んだ目でその男を見つめる。
「だから、なんでだよ? 男と女のトラブルを回避するためか? だったら心配ねぇ。全員俺の女になれば済む話だ。なんたって俺は、Dランクの冒険者様だからな」
なんだ、ただの最低野郎か。しかしDランクで威張れる、ということはソニア達はもっと下ということになる。
「だったらDランクのパーティを探してくれ。今は人数を増やすつもりはない」
「つれねぇ、ことを言うなよ。俺は役に立つぜ?」
全員女性のところだから入りたいのか、ソニア狙い、いや、他の子かもしれんな。
そういえばこのパーティ、美女ばっかりじゃん。
ソニアは長い黒髪をポニーテールにまとめた、切れ長の目の美女。
シャルは優しそうで人懐っこい感じの、水色の髪のボブカットが似合う女の子だ。
エマは長い栗色の髪が特徴の、清楚な感じのある美少女だし。
シャルもなんだかんだで美女だしな。
その中に混ざりたい、という男の一人や二人はいるだろう。
「いい加減にしてくれないか? 他を当たってくれ。行こう、みんな」
「お、おい!」
ソニアがみんなに呼びかけ、ぞろぞろとギルドの建物を出る。俺は男を睨んで牽制だ。
「な、なんだよ……」
追ってこられても面倒だな。
傷つけなきゃいいんだよね?
1つ、試してみるか。
念じる。
「おわっ!?」
突然ロジェのズボンがストーンと落ちて股布が露わになる。
――切れろ。
そう念じるだけで股布の腰紐がプツン、と切れた。
「な、なんだぁっ!?」
スルリ、と股布が外れると男の愚息が見えそうになる。ロジェが慌てて手で隠すと、周りからはクスクスと笑い声が聞こえた。
これで追って来られないだろう。俺は悠々と皆の後を追い、飛んでいった。
俺達は森に入ると、獲物を求め林道を歩く。なんでも林道を歩いていれば、魔物が獲物と思って出てきてくれるらしい。
林道といっても結構広く、馬車二台がすれ違える程度の幅は確保されているそうだ。
「何が出てくるといいの?」
「そうだな、オークがいいな。三人だと一匹で手一杯だった。しかし前衛が二人なら、二匹でも相手にできると思う」
ソニアに尋ねると、割と普通に返してくれた。良かった、ちゃんと受け入れられている。
そうだ、想像具現の力でオーク二匹を呼べないだろうか?
そう思い、念じること5分。
全く出て来なかったね。こっそりステータスを確認しても魔力は減ってなかった。つまり、発動すらしてないってことだ。
どうやらできることと、できないことがあるらしい。街一つ滅ぼせる能力ちゃうんかい。
鳥が飛び立つ音。
野生動物の唸り声。
「おっ、来たねぇ」
ブランシュが斧を構える。
デカい。バトルアックスとかいうやつか。よくあんなもん振り回せるな、と思う。
「囲まれたな。私が後ろを守る。ブランシュは前を」
姿を現したのは狼だ。
狼って魔物なのか?
野生でも十分危険ではあるけど。
「俺もやる!」
「なら私の右を頼む。エマは反対側に魔法の壁。シャルはブランシュを援護だ」
ソニアがみんなに指示を出す。
大きな石を持ち上げられたんだ。狼の一匹や二匹、持ち上げられるかもしれない。無理なら別の手を考えるまでだ。
狼どもは俺達を包囲する。群れには必ずリーダーがいるはずだ。そいつさえ仕留めれば、残りは逃げ出すはず。
群れの中で一番大きな狼が吠えた。同時に狼どもが、一斉に真っ直ぐ向かってくる。
「止まれーっ!」
俺が念じると、俺の前の三匹が動きを止め、空中に浮かび上がる。その三匹をソニアに向かった二匹目がけて投げ飛ばした。
一匹に命中、他は地面に身体を打ちつける。でもダメージは大したことないはずだ。
それでもソニアを襲う狼が一匹に減った。その一匹をソニアが斬り伏せる。
「はぁっ!」
振り抜いた剣は狼の顔面に命中。カウンターとなって狼を弾き飛ばす。
ギャン、と小さく鳴くと、身体を打ち付けた。それでもすぐに態勢を立て直し、こちらを睨む。
額から鼻にかけて深い切り傷ができており、どくどくと血が流れている。それでも狼どもは退かない。
それでも一箇所にまとまっているのなら!
念じる。
ギャウウン!?
5匹まとめて浮かび上がらせる。
「ソニア!」
俺はソニアに合図すると、5匹を仰向けにして地面に張り付けた。
「おう!」
狼を仕留めるなら顔じゃダメだ。狙うは腹か喉!
ソニアは素早く狼に近寄ると、仰向けに張り付けられた狼の喉を斬って回る。
魔法の壁に阻まれた方向は狼も諦めたようだ。代わりに別の方向に集まり、ブランシュを襲っていた。
「なんの!」
ブランシュは大きなバトルアクスを器用に振り回し、狼の噛みつきを全て防いでいる。いや、これやってることかなり凄いぞ。
弾き飛ばした狼をシャルが魔法の矢を飛ばし、傷を負わせている。それでも仕留めたのは一匹だ。
一番大きな狼が吠える。
すると、狼どもは一斉に逃げ出した。敵わないと判断したのだろう。
「あ、あぶなかった~」
シャルがため息をつく。シャルも警戒を解いて「はぁ~」と両手を膝に置いた。
「ふぅ、なんとかなったな。ヴェル、助かった。触れずに狼を投げたり動きを封じたりできるんだな」
「うん、何匹、とかじゃなくて一定の範囲と距離、総重量次第かな。オークだと一匹が限界だと思う」
使った感じ、そんなとこだろう。成長して力が増せば、できることも増やせるだろうけど。
「いや、十分だ。みんな無事か?」
「大丈夫です」
「うん、平気」
「まだまだいけますよぉっ」
「余裕!」
けが人はなし、と。
「ブランシュは凄かったね。あんな大きなバトルアクスでよく狼の突撃防げたよね」
あれは本当に凄いと思う。
「うんうん、凄かったね。頼もしかったよぉ」
近場で見ていたシャルが一番それをわかっているだろう。
「いやー、照れるね。ヴェルちゃんいいんだよ? ご褒美に私に抱かれても!」
いや、なんでそこで腕を広げるんだよ。
「全力で遠慮します」
「なんで!?」
「減るからやだ!」
精神力削られるわ!
「うわっ、先に言われた! ヴェルちゃんのいじわる! せめて頭を撫でるだけでも!」
「いやじゃ!」
即答。するとエマがまさかの行動に出た。
「ヴェル、可哀想だよ。頭撫でるくらい許してあげて?」
「いぎっ!?」
エマがそう口にした途端、なにか見えない力に無理矢理動かされる。
て、抵抗できない……!?
「あ、頭くらいなら……」
いやいやいや!
思ってない、思ってないからな!?
見えない強制力に俺の口が勝手に動く。そして頭を差し出した。
まさか、これが『主人の命令に逆らえなくなる』ってことなのか?
「ヴェルちゃんありがとーーっ!」
ブランシュは喜んで俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「しあわせーーーっ!」
いや、泣くなよ。
Chatさんの感想
これ、かなり良い回ですw
ギャグ回として機能してるだけじゃなく、
「契約の怖さ」
をちゃんと物語に組み込めてる。
ここかなり大きい。
まず最初に。
ロジェの扱い、ちょうどいいですw
ここ上手い。
ただの嫌な男なんだけど、 重くしすぎてない。
しかも、
ズボン落とし
で済ませてるのが良い。
ヴェルって、 基本的に“人を傷つけたくない”。
だから能力の使い方も、
嫌がらせ止まり
なんですよね。
ちゃんとキャラに合ってる。
そして重要なのが
「できること」と「できないこと」
が見え始めたこと。
オークを想像しても出せない
ここかなり大事。
能力が万能じゃない。
だから読者が安心できる。
戦闘もかなり読みやすい
特に今回良いのが、
ヴェルが“サポーター”してる
こと。
浮かせる
投げる
固定する
妨害する
これ、 めちゃくちゃ能力個性出てる。
しかも、
「直接攻撃最強」
じゃない。
パーティ戦感がある。
かなりバディ&チームもの向き。
そしてブランシュがちゃんと強い
ここ重要。
ギャグキャラって、 弱いとノイズになるんですよ。
でもブランシュ、
「前衛として普通に頼もしい」
から、 ちゃんとパーティの柱になってる。
だから読者も受け入れやすい。
一番良かったのここ
「強制力」
です。
めちゃくちゃ良い。
今まで契約って、
設定
説明
将来の不穏
だった。
でも今回初めて、
実際に逆らえない
をヴェル自身が体感した。
ここ超重要。
しかも使い方が上手い。
シリアスじゃなく、
「頭撫でさせろ」
で発動してるw
だから読者が自然に理解できる。
でも実は怖い
ここ。
エマは悪気ゼロなんですよ。
本当に、
「可哀想だから少しくらい」
くらい。
でも、
ヴェルは逆らえない。
つまりこの契約、 本当に支配力がある。
これがギャグの中で見える。
かなり上手い。
しかもエマのキャラも壊れてない
ここ重要。
エマって、 多分命令を“支配”として認識してない。
でもヴェルからすると、
強制力そのもの
なんですよね。
この認識差、 今後絶対効く。
つまり今回、
ギャグ回に見えて、
後の火種を置いてる
んですよ。
かなり良い構成。
例えば今後あり得る
エマが感情的に命令
ヴェルが止まれない
エマが罪悪感
ヴェルが「気にするな」
みたいな。
かなり重くできる。
あとここ好きですw
「減るからやだ!」
ヴェル、 完全に被害者w
しかも、
「いやじゃ!」
即答なの可愛い。
そして画像込みで見ると
ブランシュ、 将来かなり危険w
今は、
「可愛い〜♡」
で済んでるけど、 成長後ヴェル絶対色気出る。
その時ブランシュどうなるんですかねw
今
「ヴェルちゃん♡」
↓
数年後
「……あれ? なんかドキドキする」
↓
更に後
「待って無理近寄るな」
みたいな逆転現象起きそうw
あと今回かなり良いのが
ソニアが完全に仲間側へ来た
こと。
以前は、
「危険なら斬る」
だった。
でも今、
「ヴェル助かった」
って自然に言ってる。
関係性の積み重ねちゃんと出てる。
総評
かなり“長編の中盤感”出てきました。
特に、
パーティ完成
能力運用
ギャグ
日常
契約の怖さ
全部一話に入ってる。
しかも最後の「強制力」が、 ちゃんとタイトル回収になってる。
かなり良い回です。




