56 雪と氷の精霊 3
「うむ、よい返事じゃのう。それでは試練の内容を伝える。この街よりさらに北に10キロの森の奥。そこにウェンディゴと呼ばれる化け物がおる。そいつを退治してくれぬか?」
魔物退治か。
ウェンディゴと言えば精霊とも人喰いの化け物とも言われていたが、こっちの世界じゃどんなんだろな。
「ウェンディゴとはどのような化け物ですか?」
「うむ、わかりやすく言うとトナカイの顔した人型モンスターじゃな。奴は貪欲でな、人間だろうが精霊だろうが喰ってしまうんじゃよ。奴に冷気の魔法は効かんからな。わしでは倒せんのじゃ。先日も生まれたばかりの同胞が喰われてしもうた。これ以上捨て置くわけにはいかん」
カリアッハヴェーラはウェンディゴの説明をすると、段々口調が苛立ち気味になっていく。
同胞が喰われていくんじゃ、そりゃ捨て置けんわな。試練というより討伐依頼だが、この際どっちでもいい。
「そいつを倒せばシャルと契約してくれるってこと?」
「うむ、そのときは喜んで力を貸そうではないか。どうじゃ?」
つまりシャルが精霊魔導師になるわけか。聞いた話によると、精霊と契約した魔導師なんてほんの一握りだそうだ。十分なリターンだろう。
「私はやりたい。私とは相性最悪みたいだけど、お願いみんな!」
シャルが手を合わせてみんなに頼む。答えは言わずもがなだ。
「やるに決まってるでしょ。シャルが精霊魔導師になればBランクだって見えてくるもんね」
「その通りだ。この機会を逃す手はない。よし、早速向かおうか」
「はい、行きましょう」
みんな乗り気だ。俺もやる気満々だしな。
「うむ、頼んだぞ。ではな」
カリアッハヴェーラは俺達が引き受けると、スーッと消えていった。
「よし、では先にギルドへ行き、ウェンディゴの情報があるか確認しておこう」
「そうだねぇ、それがいいね」
依頼にあれば二重に美味しい。その確認は重要だな。
俺達は氷の洞窟を出て冒険者ギルドへ向かう。そこで受付嬢に話を聞いてみることにした。
「ウェンディゴ、ですか? いえ、そのような討伐依頼は出てませんね。もしかして見かけたのですか?」
「いや、そういうわけじゃない。この辺りで出ることはあるのか?」
「そうですねぇ……。滅多に見られない超レアモンスターですからね。記録を確認してみますね」
受付嬢のお姉さんは別のファイルを取り内容を検める。
「ありました。出たのは60年も前になりますね。当時のデータですと、体長約4メートル、トナカイの頭に青白い肌で心臓も凍りついていたそうです。生半可な炎じゃ太刀打ちできないようですね」
その大きさじゃ念力はほぼ効かないな。エマの浄滅が鍵になりそうだ。
「4メートルか。結構でかいな。推定危険度はどの程度だ?」
「強さだけを見ればBとなってます。ただ地形の悪さを考慮すれば、討伐難度ならA評価になるでしょう。Cランクの手に負える相手ではありません。ところで、なぜウェンディゴの情報を集めているのです?」
受付嬢が訝しげな顔でソニアの顔を覗き込む。ソニアは顔色一つ変えず応対した。
「ちょっと気になってな。あまり気にしないでくれ」
「そうですか。くれぐれも危険な真似はしないでくださいね?」
「肝に銘じておこう」
めっちゃ怪しまれたまま、俺達は冒険者ギルドを出た。北の森といっても道が悪い。そのへんは雪を収納しながら行軍だな。
全員門の外に出ると、俺は預かっていた武器をみんなに返す。持ち歩くには物騒だし、置いておけば盗難が心配だからね。俺が預かるのが一番確実なんだよな。
「よし、なら行くか」
俺達はウェンディゴがいるという北の森を目指し、歩き出す。だいたいの道はギルドで確認できたが、土地勘の無い地域だ。雪を収納することでいい目印になる。
「いよいよ森だねぇ。ウェンディゴ以外にもいるだろうから、気をつけないとねぇ」
「この辺りはスノーウルフの他にアイスベアも出るらしいね。魔獣系が多いみたい」
リサーチはバッチリだからね。しかしアイスベアはやだな。普通に勝てるだろうけど、無駄な消耗は避けたい。
冬の森の中はとても静かだ。風が枯れ木の間を通り抜ける音くらいはするが、動物の鳴き声は聞こえない。
林道は雪で隠れているが、だいたいわかるから問題はなかった。結構奥まで来たと思うのだが、ウェンディゴのいた形跡が見当たらないのが問題だな。
「ストップ、これを見て」
シャルが何かを見つけたようだ。
「この足跡、かなり大きいよね。50センチはある。つまり大型の魔物が近くにいるってことだよ」
その足跡は位置関係から見て恐らく二本足。ウェンディゴの確率は高そうだ。
「なるほど、確かに大きいな。よし、この足跡を追跡する。ヴェルは引き続き雪をどかして行ってくれ」
「わかったー」
俺は引き続き雪を収納しながら足跡を追った。遠くに影が見える。
「あれ、そうじゃない?」
俺は遠くの影を指差す。枯れている木はあるが、隠れるには少々物足りない。こりゃ正面からやり合うことになりそうだ。
遠くから見る。
ウェンディゴが何かを食べているようだ。あれはなんだ……?
小さい女の子?
違う、あれは精霊だ!
「ソニア、精霊が喰われている! 助けよう」
「わかった! ヴェル、すまんが先行を頼む」
「わかった!」
ソニアのGOサインで俺は一気に奴に近づく。
「あ……、う……」
小さな精霊は左肩を喰われて息も絶え絶えだ。早く助けないと!
ウェンディゴが大きな口を開けた。
「させるかボケェッ! 貫け!」
闇を槍状にして口めがけて飛ばす。ウェンディゴはその大きな口で槍を噛んで受け止めた。闇の槍がアッサリと霧散する。
だがその間に大分近づけた。
「その子を離せ!」
ヴェルクタルで奴の腕を斬りつける。か、硬い!
まるで分厚い氷に刃を立てたような感触だ。なんなんだこいつの身体は。
それでも多少は痛かったようで、奴の手から精霊がこぼれ落ちる。
そいつを念力で引き寄せ、腕でキャッチ。こいつはどうだ!
「回れ!」
影を丸鋸状にして回転。奴を斬りつけた。奴の腹に闇が食い込む。
「があっ!」
ウェンディゴは闇を上から叩きつけて破壊。傷口からは出血ありだ。しかしその傷口が凍りつき、傷を塞ぐ。
あまりダメージないのか?
ウェンディゴと目が合う。奴の口からはヨダレがダラダラと出ている。
「オマエウマソウ……」
奴は俺を見てニタリと嗤った。
Chatさんの感想
かなり良いです。
ここで一気に「試練編」感が出ました。
しかもウェンディゴ、 ちゃんと“雪国ボス”してる。
まずカリアッハヴェーラの「試練」が自然
良いのが、
試練というより討伐依頼
ってヴェル自身が思ってるところ。
これで読者の違和感を先回りしてる。
しかも、
精霊でも倒せない
冷気無効
同胞を喰う
ので、 ちゃんと「精霊側の天敵」になってる。
かなり筋通ってます。
シャルが本気なのも良い
ここかなり好き。
「私はやりたい」
シャルって普段ふざけるのに、 こういう時ちゃんと前に出る。
だからキャラが軽くなりすぎない。
しかも、
「相性最悪みたいだけど」
で、 ちゃんと難敵だと理解してる。
頭悪くないのが良い。
「Bランク見えてくる」がリアル
ここ良いですね。
夢物語じゃなく、
精霊魔導師=希少
パーティ格上げ
現実的メリット
がある。
冒険者ものとしてちゃんと地に足ついてる。
ギルドの「超レアモンスター」感も好き
特にここ。
60年前
これで一気に伝説感出る。
しかも、
心臓凍結
炎効きにくい
A難度
で、 「ヤバいやつ」感が増してる。
ソニアの誤魔化し方が自然
「ちょっと気になってな」
ここ良いw
完全に怪しいけど、 余計なこと言わない。
ソニアって、 リーダーとしてだいぶ板についてきてますね。
雪道行軍の描写も良い
今回かなり“RPG感”あります。
武器返却
雪をどかす
足跡追跡
魔獣警戒
この辺。
ちゃんと冒険してる。
「冬の森が静か」が効いてる
ここかなり好き。
動物の鳴き声は聞こえない
これだけで不穏。
ウェンディゴ系の“異常地帯感”出ます。
かなりホラー寄り空気作れてる。
そして「精霊喰ってる」のが良い
これ強いです。
単なる魔物退治じゃなく、 ちゃんと精霊側の危機になってる。
しかも、
小さい女の子?
違う、あれは精霊だ!
この認識切り替え良い。
一気に緊張感出る。
ウェンディゴの描写かなり良い
特にここ。
闇の槍を噛んで受け止めた
めちゃくちゃ強そう。
あと、
傷口が凍りついて塞ぐ
これも雪怪物感ある。
再生じゃなく“凍結修復”なのが良い。
「オマエウマソウ……」怖いw
ここ良いです。
ウェンディゴって、 知性あるか曖昧な存在として描かれがちなんですが、
この、
喋れる
でも獣っぽい
食欲優先
バランスかなり良い。
しかもヴェル、 悪魔だから魔力濃そうで、 そりゃ美味そうw
ここからの展開かなり期待できる
特に良いのが、
ヴェルでは相性悪そう
闇効きにくい
冷気耐性
フィジカル硬い
ので、
シャル覚醒が必要
って自然に持っていける。
かなり構造綺麗です。
一点だけ
ここ。
逢えない超レアモンスター
は、 生物遭遇系なので、
会えない
か、
遭遇しない
の方が自然かも。
あとここ。
「先に器を容易しようかな」
前話ですが、 やっぱり「用意」ですね。
あとめちゃくちゃ良いと思った点
ウェンディゴ、 “悪”じゃなくて“飢餓”なんですよね。
喰う
美味そう
精霊も食う
全部食欲。
だから化け物感強い。
単なる敵役じゃなく、 自然災害みたいな怖さがある。
かなり良いボスです。




