49 ヴァンパイアの住む街 1
冬が来て、アルザスブールの街にも雪が降り始めた。そんな雪の季節でも商売は行われるもので、ランベール商会のパトリスさんより指名依頼が入っていた。
「いやー、雪中行軍になってしまうので申し訳ないのですがね。この時期に毎年ノーザンファラムまで行商を行っているのですよ。それで道中の護衛をまた是非お願いしたいと思います」
パトリスさんが言うには、ノーザンファラムでは本格的に雪が降る前に大量の食糧を仕入れるのだとか。それが諸事情で遅れてしまったらしい。
「あの、それはいいんだけどぉ、雪は既に足が埋まるくらい降ってるんですよ? 馬車、走りますか?」
シャルが雪の中、馬車を走らせることに疑問を呈する。そういや雪の中って馬車走るのか?
「そこなんですよ。ご存じの通り馬車というのは雪が10センチも積もれば立ち往生の危険が高くなります。地面がぬかるみますし、馬の蹄鉄にもトラブルが起きやすい。しかし、ヴェル様がいれば話は変わるのです!」
パトリスさんはグッ、と拳を握りしめて力説する。想像具現でも雪を溶かすくらいならできそうではあるけど。
しかしそこはシャル。もっと手軽な方法を思いついていたらしい。
「ほぅほぅ、なるほど。つまりヴェル君に道中の雪を収納してもらい、道を作ってもらうと?」
あ、なるほど。
俺は思わずポン、と手を叩く。
「ふっふっふっ、さすがシャル様ですなぁ。目端が利く。といっても、やはり地面がぬかるむ可能性は捨てきれませんがね。しかしヴェル様がいれば対処は簡単です。一旦馬車の屋形をしまえば簡単に脱輪を解決できます」
パトリスさん、俺より収納の使い方把握してんじゃん。
「うーん、ヴェルありきなのは仕方がないか。ヴェル、また力を貸してくれるか?」
「リーダーはソニアだよ」
聞くまでもないと思うんだけど。みんなの行く所が俺の行き先だからな。
「そうだな、助かる。パトリスさん、この依頼お受け致します」
「ありがとうございます。では明日の朝8時にこの店で」
ソニアの返事にパトリスさんはニッコニコだ。これ、俺達いなかったらどうするつもりだったんだろ。
「わかりました」
こうして俺達は冬の行商に駆り出されることとなったのだ。
* * *
「いやー実に快適ですな」
俺が目の前の雪をしこたま収納しつつ馬車が走る。若干ぬかるみがあるので、そこは想像具現で瞬時に乾かしてしまえばいいだけだ。
「いやー、でもこれだとヴェルちゃん抜きで旅に出られなくなりそうだね」
ブランシュが俺の後ろを歩きながら話す。歩いてる間は後ろから抱きつくの禁止だかんな?
「はははっ、そうかもしれないな。なら引退するまでにたくさん稼いでおくことにしようか」
ソニアが笑う。
引退か。いつかはそんな時もやってくるだろう。そういえば皆は夢とかあるんだろうか。
「そういえば、みんな将来どうしたいとかあるの?」
何の気無しに聞いてみる。
エマは聖女になる目標がある。その先までは知らないけど、何をやるにもお金は必要だ。
「うん? そうだな。目標としてはAランクパーティだな。その後は特に考えたこともない。冒険者になったのは両親の影響だからな」
「ソニアの両親も冒険者なんだ」
「ああ、二人ともBランクまでは行ったんだ。だが色々あってな、実家も今は剣術の道場だ」
ああ、それでソニアは剣士なんだ。なんか納得。
「私は角無しだからね。一族のみんなを見返したくて冒険者になったんだ。鬼人族は女でも強くないと嫁に貰ってもらえないから……」
あ、ブランシュが遠い目をしてる。強くないと嫁にも行けないって、生産職の女性とかどうしてんのかね?
「私はねぇ、Aランクに昇格していい男捕まえて玉の輿! 元Aランクの魔導師となれば、お金持ちの貴族と知り合うことも可能なのよねぇ。そして私に恐れを為した貴族が私に求婚!」
むっちゃシャルらしいわ。
うん、なんか安心する。
「いや、恐れを為したら求婚とかしないと思うんだけど……」
「それは言葉の綾だよぉ」
絶対違うと思う。
「私は、聖女かな、やっぱり。その後は子供達に囲まれて生きて行けたらいいな」
エマって絶対子供好きだよね。
聖女になり、災厄を退けたら貴族は絶対にほっとかないよな。
エマの相手は俺が厳しく審査することにしよう。
「エマらしいね」
「そう? ところでヴェル、寒くないの?」
「全然平気だけど?」
そういや俺の服って上はともかく、下は半ズボンなんだよな。みんなはしっかり防寒対策で着込んでるのに。
俺達はそのまま旅を続け、途中のニーズガルドという街に立ち寄った。
門の方では街に入る人達をチェックしている。どういうわけか門番と話をして帰る人がチラホラ見られた。
なんでだろう、と思いながら俺達の番になると、門番が神妙な面持ちで話し出す。
「街に入る前に忠告することがある」
「なんでしょう」
パトリスさんが通行税を支払おうと革袋に手を伸ばす。
「この街では今、夜になるとヴァンパイアが出る。それでも入るか?」
パトリスさんの手が、ピタリと止まった。
Chatさんの感想w
良い導入です。
かなり「次の章始まった感」があります。
特に今回は、
雪国行商
日常会話
将来の夢
冬旅の雰囲気
で空気を柔らかくしてから、
「この街では今、夜になるとヴァンパイアが出る」
で一気にホラーへ切り替えてる。
この落差が効いてます。
前半の「旅パーティ感」がかなり良い
今回かなり好きなのはここですね。
「そういえば、みんな将来どうしたいとかあるの?」
これ、実はかなり重要な会話です。
戦闘や依頼だけだと、 キャラが「冒険するための存在」になりやすい。
でもここで、
ソニア→家業由来
ブランシュ→角無しコンプレックス
シャル→玉の輿願望
エマ→子供に囲まれたい
が出ることで、 ちゃんと「人生」が見える。
特にブランシュの話、かなり良いです。
鬼人族は女でも強くないと嫁に貰ってもらえない
これ一言で文化出てる。
説明臭くないのも良い。
シャルがずっと良い仕事してる
「Aランクに昇格していい男捕まえて玉の輿!」
安心感あるw
こういうキャラって、 シリアス続きの後にかなり重要なんですよね。
しかもシャル、 ただのギャグ要員じゃなく、
頭の回転速い
現実的
空気を軽くする
役割になってる。
かなり使いやすいキャラです。
エマの夢、めちゃくちゃ“エマ”
「子供達に囲まれて生きて行けたらいいな」
これすごく良いです。
エマって、
誰かを守りたい
救いたい
母性的
な部分が強いので、 聖女の先に「家庭」が見えてるのが自然。
しかもヴェルが、
エマの相手は俺が厳しく審査することにしよう。
って考えてるのも良いw
完全に保護者。
でも恋愛感情と断言しない距離感なのが今ちょうどいいです。
冬旅ギミックが面白い
収納魔法の使い方、かなり上手いです。
特に、
雪を収納
馬車を収納して脱輪回避
地面乾燥
この辺。
「便利能力を物流に使う」の、 異世界ものとしてかなり好きなやつです。
しかもパトリスが、
ヴェル様がいれば!
になってるのがリアル。
そりゃ商人からしたら革命的人材ですw
そしてラストが良い
めっちゃ綺麗。
「この街では今、夜になるとヴァンパイアが出る」
で終わるの、強いです。
特に、
パトリスさんの手が、ピタリと止まった。
ここが効いてる。
誰も軽く流せない空気になる。
「ヴァンパイア」がちゃんと危険ワードになってる。
しかもヴェルと相性が良い敵
ヴァンパイア編、かなり相性良さそうです。
理由は、
エマ=聖属性
ヴェル=悪魔
吸血鬼=夜の怪物
でテーマが噛み合うから。
特に、
「悪魔なのに人を守るヴェル」
と、
「人を襲う吸血鬼」
を対比できる。
かなり美味しい。
一点だけ気になったところ
ここ。
歩いてる間は捕食禁止だかんな?
ちょっと意味が分かりにくかったです。
多分ブランシュがヴェルを食べようとするネタだと思うんですが、 久々だと読者が一瞬止まるかも。
例えば、
歩きながら俺を齧ろうとするのは禁止だからな?
くらいだと伝わりやすいかも。
あと細かいですが、
「そお?」
は、
「そう?」
の方がエマっぽいかもしれません。
エマって伸ばし気味の喋りはそこまでしない印象なので。
全体としてかなり良い「新章導入」です。
前章が、
政治
悪魔
聖女制度
王都
だったので、 今回は空気を変えて、
「雪国ホラー冒険譚」
に入る感じがちゃんと出てる。
しかも日常→不穏への落差が綺麗なので、 かなり読みやすい導入になってます。




