45 ドゥーマ
「ここが本拠地か……」
オーギュストは森林の奥にあった、やたらと大きな屋敷を見つめ呟いた。
「なんと禍々しい……」
ソランジュも寒気を感じたのか身震いしている。
「まぁ、全力で気をつけた方がいいのは間違いないんじゃない? 向こうはこちらが攻め込むことを予想しているはずだし」
カリストが捕らえられたことをダヴィドは把握しているはずだ。だから中には居ない可能性もある。それでももしいたとしたら、それは全員を返り討ちにする自信がある、ということだ。
「つまり迎え撃つ準備はできているということか。総員陣形を維持して中へ突入するぞ!」
「「おう!」」
オーギュストとクロヴィスを先頭に騎士団が陣形を維持したまま前進。屋敷の扉を開ける。
俺達は最後尾だ。子爵級悪魔ってのは相当ヤバいらしく、一体で一個小隊を余裕で壊滅させるとか。神聖魔法の使い手無しで戦うのは自殺行為らしい。
騎士団の人数は50人。聖女見習いの数はソランジュ含め10人。浄滅の使い手というのはそれだけ少ないらしい。
後は魔導師っぽい人達が10人程。
そんな彼等が大挙として押し寄せ、屋敷内になだれ込んでいく。前方では早くも悲鳴が聞こえていた。
俺は飛んでいるから見えるけど、入ってすぐは広いロビーになっていたらしい。そこには6体のレッサーデーモンが立ち塞がり、既に騎士団には負傷者も出ているようだ。
「前はどうなっている?」
「うーん、苦戦してるね」
レッサーデーモンのパンチ一発で騎士が吹っ飛び、その吐き出す炎に巻かれて転げ回る者。果敢に挑み、斬りつけるも、決定打にならず返り討ちに遭う者も多くいた。
浄滅を喰らわせても耐え切られ、前線は完全に崩壊している。
「このままじゃ半壊するね。ちょっと手伝って来るよ」
仕方なく俺はヴェルクタルを取り出すと、前線に加わる。
影を延ばし、騎士たちの間を縫ってレッサーデーモンを捕縛。
「そおれっ!」
スパーンとレッサーデーモン一体の首を跳ねる。さすがヴェルクタル、良い斬れ味だ。
「伸びろ!」
俺の影から手が出現すると、宙を舞うレッサーデーモンの足を掴む。そのまま引っ張り、床に叩きつけた。
「今だ、かかれーっ!」
床にめり込んだレッサーデーモンに騎士たちが次々と剣をぶっ刺す。
「下がって! 浄滅!」
ソランジュがそのレッサーデーモンに魔法を喰らわせ、霧散させる。なかなかの威力じゃなかろうか?
「はい、次々いくよ!」
俺はさらにレッサーデーモン一体の翼を斬り落とし、墜落させる。さらに炎を吐こうとしたレッサーデーモンの首を跳ね、騎士団と交戦中のレッサーデーモンを拘束した。
俺の介入により、状況は改善。交戦開始20分程でレッサーデーモンは全滅した。
この時点で怪我人12名。死者3名。彼等を見習い聖女達の治癒魔法で治癒するが、それでも離脱が更に5人出た。
「レッサーデーモン6体相手にこの程度の被害なら、まだ軽い方だ。各員は聖女見習いを混じえ4人一組。各扉を開けていくぞ」
オーギュストが命じ、手分けして扉を開けていく。ほどんどの部屋はもぬけの殻だが、中にはとんでもない部屋もあったようだ。
「うわあああああっ!」
騎士団員が扉を開けると、いきなり蜘蛛糸が絡みつき、中へ引きずり込まれた。
「じ、ジャイアントスパイダーだ! クソッ、離しやがれ!」
騎士団員達が突入していく。魔導師も部屋に入っていき、戦いが始まったようだ。他の部屋でも魔物と遭遇しており、同じように戦闘に突入している。
「手の空いた者は二階だ! 隊列を組み、部屋を捜索していく。油断するなよ!」
オーギュストが声をかけ、俺達も二階へ上がって行く。この辺でもそこかしこの部屋で戦闘が起こっているようだ。
「大丈夫、なのか……?」
ソニアが心配そうに呟く。
「問題ない! 残った者は奥へと向かう。隊列を崩すな」
もうすでに半数以上が脱落だ。怪我人だけでなく、看る人も必要だからな。その分人員の消耗が激しいようだ。
そこからもあちこちの扉を開け、戦闘を繰り返しながら道を進む。なかなか入り組んだ造りで、下に降りる階段なんかもあって迷路のようだ。
「ここか!」
辿り着いた部屋は異様に広い殺風景な部屋だった。部屋の天井も高く、体育館並みの大きな部屋だ。
そこで待ち構えていたのは肥満な巨人トロルだ。しかもそれが三体。どうやってこの部屋に入れたんだろうな。
「トロルか、総員戦闘配置!」
トロルの背丈は約3メートル。脂肪の多い身体のため、動きはかなり鈍いようだ。
「ヴェル、トロルは再生能力が高い魔物だ。一体は我々が引き受けよう」
「うん、そだね」
確かにトロルは大きいが、オーガ程じゃない。スピード、タフネス、パワー全てにおいてオーガの下位互換でしかないそうだ。
「どの程度の再生能力なのかな?」
俺は影を延ばし、トロルの身体を拘束する。
「うおりゃあああっ!」
ブランシュが右脚を半分程切断。俺の影を巻き込んだので、そのままブランシュのミスリルアクスに纏わせてしまう。
ブランシュは更に身体を回転させると、同じ傷にもう一度ミスリルアクスを叩き付けた。
鈍い音がして、トロルの太い脚を切断する。アンバランスな身体だ。片脚を失ったトロルは後ろ向きに転倒。大きな音を立てる。
トロルの片脚は失われ、血が流れているが、切り口からじわじわと肉と骨がせり上がってくる。
やがてそれは肉となり骨となっていくという気持ち悪さ!
これってかなりエネルギー使うはずだよな。だからあんなに太っているのか。だったら。
「再生される、手を緩めるな!」
ソニアが突撃。足の裏に剣を突き刺す。んで、俺はというと。
「ほいほーい♪」
トロルの腹を斬り裂く。すると肉がバックリ割れ、脂肪が露わに。
「燃えてろ!」
想像具現で熱エネルギーを具現化。ようは炎を生み出すと、その脂肪にぶち込む。ついでに要らない布も幾つかポイッとそのお腹に投げ捨てた。
こうすると溶けた脂肪が布に染み込むのだ。そして、その布はよく燃える!
俺の炎に焼かれ、トロルの腹に火が着く。再生のエネルギーは腹の脂肪だろうからな。そこを燃やしてエネルギー源も奪える一石二鳥の手だな。
「うわっ、燃えてるねぇ~」
「再生速度も落ちてきたよ!」
ブランシュは引き続きトロルの脚を叩き斬っている。その次は腕だ。
大量出血に全身火傷。もう動いてないみたいだし終わったかな?
「消火するねー」
後は水をかけて消火だ。大量の水をかけて消火する。じゅわーっ、と凄い音したな。
騎士団の方は未だ決着付かずか。トロルはDランクらしいから放っておいても勝つと信じよう。
「くぅっ!」
騎士団員達も剣で斬りつけるが、決定打にはなっていない。身体が大きいため急所にも届かず、魔法を喰らわせ剣で斬りつけて削っている。
隙をついてオーギュストは剣でトロルの脚を切断。転ばしてから始末するまではすぐだった。
クロヴィスの方もトロルの動きに慣れたのか、攻撃を躱すと太い脚をアッサリと両断。倒れる寸前に首を斬り落とすという離れ技を見せてくれた。
この二人は別格に強いらしい。
「よし、ここは片付いた。俺とクロヴィスで扉を開ける。月桂の冠は俺の後に続け」
「わかった。よし、行くぞ」
オーギュストの指示に従い、二人の後ろに俺達が並ぶ。その後ろをソランジュ達聖女見習いと魔導師、騎士団員の順で並ぶ。
「開けるぞ」
先頭二人が大扉を開く。
その先の部屋。そこはまるで王の謁見の間のような造り。
赤い絨毯の先には玉座があり、そこに膝を組んで偉そうに座る男が一人。
男は見下すように俺達を見ると、鼻で笑う。ソバージュのかかった長い髪に眉のない悪人顔。こいつがダヴィドだろう。
「ようこそ諸君。随分と数を減らしたようだが、大丈夫かな?」
その横に立つのは青い顔をした執事。背中に蝙蝠の翼を生やし、青い角を生やしている。
「お前がダヴィドだな。無駄な抵抗はやめて降伏しろ」
「如何にも。俺様がダヴィド様だ。お前わかってねぇなぁ。なんで俺様が逃げずに待ってたと思うよ?」
ダヴィドはニヤニヤと座ったままだ。
「知らんな。抵抗しなければ命までは取らん」
オーギュストは剣を抜き、構える。騎士団員達も前に出て剣を抜いた。
「はぁ~、これだから騎士様はやだねぇ。お前らじゃ俺様達には勝てねぇんだよ。出てこいお前ら!」
ダヴィドの命令でゾロゾロと奴の部下達が出てくる。全員しっかりと武装をしているものの、人数はこちらが上のようだ。それなのにこの余裕、なんかあるんだろうな。
「ドゥーマ、そっちの悪魔は任せていいか? そいつだけはちょっと別格みたいなんでな」
「任せておけ。しかし、人間に飼い慣らされた悪魔がいるとは、同じ悪魔として実に嘆かわしい話です。私の手で処分して差し上げましょう」
ドゥーマがパチン、と指を鳴らす。すると、俺の周りから誰もいなくなった。どういうことだ?
「ようこそ私の領域へ。私を滅ぼさぬ限りここからは出られません。さぁ、死して我が糧となるがいい!」
ドゥーマの上着が裂け、青い肉体が露わになる。魔力が膨れ上がり、その波動がビリビリと俺の身体に伝わってきた。
こりゃなかなか骨が折れそうだな。
Chatさんの反応w
指摘されたとこ全部は直してないw
うん、一対一はかなりアリです。
むしろ今回の引きなら、一対一の方が絶望感もヴェルの格も出しやすいですね。
特に良いのはここ。
「ようこそ私の領域へ。私を滅ぼさぬ限りここからは出られません」
これで一気に「ボス戦用の隔離フィールド」感が出ます。
味方の支援が消えるので、
エマの浄滅が届かない
ソニア達の連携が使えない
ヴェル単独で格上悪魔と戦うしかない
という状況になる。これは美味しいです。
ただ、さらに絶望感を出すなら、直前にヴェルがちょっと油断してると効きます。
今のヴェルはレッサーデーモン、トロル相手にかなり活躍してるので、読者も「ヴェル強いじゃん」と思っている。
そこからドゥーマに、
「なるほど。影を操り、物を生み、炎も使う。器用ではありますね。ですが――浅い」
みたいに軽く見抜かれると、格上感が出ます。
今回かなり良いのは、前半でヴェルが無双気味なんですよね。
だから後半で隔離されると、「あ、ここから本番だ」と分かる。
一方で気になった点は少しだけ。
オーギュストとクロヴィスの温存理由が少し欲しい
ヴェルも疑問に思ってますが、
オーギュストとクロヴィスはまだ戦ってもいないが、彼等も温存か?
ここは読者も気になります。
ボス戦用に温存しているなら、オーギュストに一言言わせてもいいです。
「我々が消耗すれば、ダヴィドまで辿り着けん。今は指揮を優先する」
みたいな感じ。
これがあると、騎士団長がサボってるように見えにくいです。
トロル戦は少しヴェルが賢すぎるかも
脂肪を燃料にする発想は面白いです。
ただ、
再生のエネルギーは腹の脂肪だろうからな。
ここはやや現代知識っぽさが強いので、ヴェルらしくするなら、
再生するにも材料はいるはずだ。だったら、その腹の脂肪を燃やせば多少は効くだろ。
くらいの方が自然かも。
理屈が厳密というより、「たぶん効くだろ!」の実戦アイデアにすると読みやすいです。
ドゥーマの格上感はもっと盛っていい
今のドゥーマ、かなり良い登場ですが、もう一押しできます。
たとえば領域に入った瞬間に、
羽ばたこうとした瞬間、身体が重くなる。
魔力が、いつもの半分も動かない。
みたいな制限があると、「領域」の怖さが出ます。
あるいはドゥーマが、
「男爵級とはいえ、まだ若い。魔力の練り方も、魂の扱いも幼い」
と見抜く。
これで「ヴェルは爵位持ちだけど未熟」という以前の説明とも噛みます。
一対一にするなら、エマ側の不安も一瞬入れたい
隔離された直後、ヴェル視点で周囲から誰もいなくなるだけでも良いですが、読者の感情を刺すなら一瞬だけ、
最後に見えたのは、俺に手を伸ばすエマの顔だった。
みたいなのがあると強いです。
これだけで「エマから引き離された」感が跳ねます。
かなり美味しい。
全体として
この45話は、ダンジョン攻略回としてかなり機能してます。
前半で、
騎士団でも苦戦するレッサーデーモン
ヴェルの介入で戦況改善
屋敷内の消耗戦
トロル戦で各実力を見せる
ダヴィド&ドゥーマ登場
ヴェル隔離
と段階が綺麗です。
一対一は正解寄り。
ここからは「ヴェルが勝つ」よりも、まず**“格上に通じない”を見せる**とかなり熱くなります。
その後でエマとの絆、契約、想像具現の応用で突破すると気持ちいいです。




