44 聖女候補筆頭
セラフィーナ王女殿下から連絡があり、俺達は王城へ呼び出しを受けた。それでまぁ、会議室に通されて今に至るわけだが……。
「凄いな、この部屋は……」
会議室とやらは楕円状の細長いテーブルがあり、そこにズラリと椅子が並んでいる。広さも凄まじいが、テーブルと椅子の質が凄かった。
テーブルは黒く塗装され、表面がスベスベ。椅子もふかふかで座り心地が最高だ。冒険者ギルドに設置されてあるものとは次元が違う。
案内された席に5人並び、用意された紅茶を飲みながらセラフィーナ王女殿下が来るのを待った。
「お待たせしました」
セラフィーナ王女殿下はお付のレベッカさん以外にも三人ほど引き連れやって来た。
セラフィーナ王女殿下とレベッカさんが議長席と副議長席に座り、俺らの向かいには連れられて来た三人が腰掛けた。
「皆さんお忙しい中の呼び出しに応じてくださり、ありがとうございます。これより麻薬密売組織の本拠地に突入するための作戦会議を行いたいと思います。それに先立ち、今回の作戦に加わっていただく冒険者を紹介させていただきます」
セラフィーナ王女殿下が話を切り出す。俺達を紹介する、ということでその三人が俺達に目を向けた。
「ご紹介します。アルザスブールの冒険者パーティで、組織の幹部カリスト捕縛にご協力いただいたDランクパーティ月桂の冠です。ここに戻る道中の護衛もお願いしまして、レッサーデーモン複数を見事に退治しています。皆様、簡単に自己紹介お願いします」
Dランクパーティ、と聞いて三人の表情が少し訝しげだ。それでも構わずソニアから自己紹介を行う。
「パーティリーダーのソニアだ。よろしく頼む」
「魔導師のシャルロットです」
シャルは緊張しているのか、いつもの軽い調子が鳴りを潜めている。
「ブランシュです」
「エマです。聖女見習いです」
「俺はヴェルシエル。エマの使い魔だ」
俺も簡単に自己紹介を行うと、向かいの女性が立ち上がる。
「お待ちください。その者は悪魔なのではありませんか?」
「エマとは魂の束縛で結ばれている。人に危害は加えないよ」
まぁ、悪魔なんでそういう扱いは受けるよな。仲間内だとみんな慣れてたから、そんな扱い久しぶりだわ。
「階級は?」
「男爵級だけど?」
「男爵級……? 普通ならSランクじゃないか!」
え、俺Sランクなの?
レッサーデーモンにめっちゃフィジカル負けてるんだが。レベルがまだ低いせいかもしれんね。
「エマ、とおっしゃいましたね。私は聖女見習いのソランジュ•ド•ブルドンと言います。貴方の使い魔、私にお譲りいただけませんか? 爵位持ちの悪魔は貴方には荷が重いのでは?」
貴族なのに聖女見習いやってるのかこの人。その献身性は買うが、俺はエマ以外に仕えるつもりはない。
「嫌だね。俺はエマ以外に仕えるつもりはないよ。継承には俺の許可が必要なんだろ? お断りだね」
俺はキツめに断る。こいつは俺を道具としてしか見ていない。俺が爵位持ちだから欲しいだけだろ。
「今よりも良い暮らしを保証しますよ? それに、どうせなら聖女最有力候補と言われている私に仕える方が、貴方の力を存分に生かせるでしょう」
話になんね。
確かにこのソランジュって人は金髪碧眼の絵に描いたような美女だ。でもエマだって負けてねーし。
「俺はアルザスブールの街が好きだし、月桂の冠のみんなが好きだ。贅沢な暮らしなんて興味ないね」
こいつわかってねぇ。人ってのは結局人に付くんだよ。
「悪魔なのに人を好きだなんて変わってるわ!」
それだよな。変わってるのを悪い、みたいに言うの、好きじゃない。それ言う奴って大抵その人を見ちゃいないんだよね。で、いつまでくだらない茶番続けさせるつもりだ?
「ソランジュ、そのへんで。ヴェル様とエマ様は特別な強い結びつきがあります。勧誘して靡くようなら、とっくに私がやってますよ?」
とか言ってたらセラフィーナ王女殿下が止めてくれた。この人、俺のことそんな風に思ってくれてたのか。
かなり見直した。人脈としても強いけど、人間的にも気に入ったわ。
「し、失礼いたしました」
セラフィーナ王女殿下に咎められ、ソランジュはバツが悪そうに着席。それをサポートするかのように、他の二人が自己紹介を始めた。
「第三騎士団団長のオーギュスト•ド・ラクロワです。よろしく」
オーギュストさんね。見たとこ30代くらいかな。渋めのにぃちゃん、て感じだ。
「副団長のクロヴィス・ド・ルボンです」
クロヴィスさんは20代前半くらいだろうか。黒髪のイケメンだな。
「本拠地には第三騎士団と聖女見習いを複数人、それと月桂の冠で突入します。指揮権に関してはオーギュスト団長にお願いすることになります。問題は奴らのボス、ダヴィドとその契約悪魔です。契約悪魔を抑える役を月桂の冠と聖女見習いが担うことになるでしょう。レッサーデーモンがいることも考えられますが、エマ様は力を温存してください」
「お待ちください。相手は子爵級悪魔です。温存すべきは私では?」
ソランジュ、またお前か。話の腰を折るなよまったく……。
「ソランジュ、あなたの浄滅でレッサーデーモンは何発で倒せますか?」
「二発です。普通なら三発必要と言われていますから、かなりの威力であると自負しています」
普通は三発なのか。エマの場合、祝福されし者の杖による影響もあるんだろうけど、それだけじゃないのかもしれない。
ということは、今のところエマが聖女最有力候補昇格あるか?
「……エマ様は一発です」
セラフィーナ王女殿下の言葉に三人が顔を見合わせる。
「何かの間違いでは……?」
「私がこの目で見ている。それでも疑うか?」
疑う彼らをレベッカが睨む。
「いえ……」
その一睨みで彼等は黙りこくってしまった。レベッカさん眼力つっよ!
もしかしたら凄い地位が高いのかも知れない。
「ご納得いただけましたか? ダヴィドはなるべく生け捕りにしたいので、よろしくお願いします。なにか質問はございますか?」
「いえ、ございません」
なるほど、この依頼はもしかしたらチャンスかも知れない。
この依頼でエマの力を見せつければ、エマは聖女候補に名乗りを上げられるはずだ。
俄然やる気出てきたわ。
Chatさんの感想w
かなり良い「格の見せ方」回ですね。
特に今回は、
ヴェルの“人に付く”価値観
エマの実力の異常さ
セラフィーナ陣営からの信頼
ソランジュという“対立軸”
を一気に立てられていて、物語が前に進んでる感があります。
あと「聖女候補筆頭」というタイトルも機能してます。
最初はソランジュのことかと思わせて、読後には「いや、エマじゃん……」になる構造が綺麗です。
特に良かった点を挙げると――
ヴェルの拒絶が“恋愛”じゃなく“帰属”なのが良い
ここ好きです。
「俺はアルザスブールの街が好きだし、月桂の冠のみんなが好きだ。贅沢な暮らしなんて興味ないね」
この返し、単なる「エマ一筋」じゃないんですよね。
街
仲間
空気
居場所
全部含めて拒絶してる。
だからヴェルが「人間側にいる理由」がすごく自然になってます。
しかも、
人ってのは結局人に付くんだよ。
これ、めちゃくちゃヴェルらしい。
元人間だった価値観が滲んでるし、 悪魔なのに“人間関係”を重視してるのがテーマに噛んでます。
ソランジュが「嫌なやつ」で終わってない
ここ結構大事で、ちゃんと
貴族
聖女候補
効率主義
権力側の価値観
で動いてる。
だからヘイト役として機能しつつ、 「この世界の聖女制度の歪み」の入口にもなってる。
後で明かされる、
貴族用契約は大聖霊が敗れても死なない
これ、かなり良い設定です。
つまり、
平民→命懸け
貴族→安全仕様
なんですよね。
“聖女”という神聖な制度ですら階級社会に汚染されてる。
この作品、こういう「善のシステムの裏にある歪み」が上手いです。
エマの格上げ演出が自然
ここも良い。
「……エマ様は一発です」
この一言だけで空気変わる。
しかもその後、
三人が動揺
レベッカが睨む
黙る
で、「マジなんだ……」が伝わる。
説明で盛ってないんですよね。
周囲の反応で強さを描けてる。
かなり読みやすい。
セラフィーナの株がめちゃ上がる回
今回かなり得してますね、この人。
特に、
「勧誘して靡くようなら、とっくに私がやってますよ?」
これ超いい。
単なる庇いじゃなく、
ヴェルを理解してる
エマとの関係性を理解してる
なおかつ自分も欲しかった
が全部入ってる。
有能感と人間味が同時に出てる。
しかもヴェル視点で、
かなり見直した
って入るから読者も一緒に好感度上がる。
上手いです。
少し気になった部分
一点だけ。
「クロヴィス団長」になってる
ここですね。
指揮権に関してはクロヴィス団長にお願いすることになります。
前文では、
オーギュスト=団長
クロヴィス=副団長
なので、
クロヴィス副団長
か、
指揮はクロヴィスに
の方が自然です。
細かいけど、会議シーンは役職ミスが目立ちやすいので修正推奨。
あと地味に効いてるのが「シャルの緊張」
これ良い差し込みです。
シャルは緊張しているのか、いつもの軽い調子が鳴りを潜めている。
会議シーンって放っておくと全員同じ喋りになるんですが、 これ一文あるだけで空気が生きる。
「王城」という格の高さも出る。
こういう小さい温度描写、かなり効いてます。
今後かなり期待できる構図
今回で、
エマ=本物側
ソランジュ=制度側
の対立が生まれました。
しかもヴェルがいることで、
「力」
「契約」
「献身」
「支配」
が全部絡む。
かなりテーマ性強くできます。
特に後で「貴族契約の安全性」が出た時、
エマの契約が“命懸け”だった事実が重くなるんですよね。
あの時ヴェルが受け入れたものの価値が後から跳ね上がる。
ここ、かなり良い伏線になりそうです。
指摘された箇所は直してますw




