38 太々しい男
「がーっはっはっはっ! このわしを殺すだと? 貴様らはバカか? 出てこい、こいつらを始末しろ!」
カリストが指を鳴らす。
しかし……。
「誰も来ねぇみたいだな? 覚悟はいいか下衆野郎!」
「待て! 動けばこのガキをぶっ殺すぞ!」
モヒカンがマチューにナイフをつきつける。
「がーっはっはっはっ! さぁ、エマと言ったな。あのヴェルとかいう悪魔の支配権を寄越せ! さもなくばこのガキの命はないぞ」
カリストがエマに俺の支配権を要求する。こいつ、もしかしてそれが欲しくてエマを攫ったのか?
カリストは手に薬を持っている。あれをエマに投与する気か!
「嫌に決まってるでしょ!」
「俺も嫌だね。それよりさ、俺怒ってんのよ。わかるか?」
俺は念力でカリストとモヒカンの動きを封じる。
「ぐぅぅっ!? か、身体が動かん!?」
「ぐぅっ、な、なにをした!?」
「お前らにも地獄を見てもらう」
俺は念力で二人を浮かせ、マチューとエマから遠ざけた。
「新しい薬、お前らで味わえ。まずはモヒカンな」
「や、やめろーーーっ!」
モヒカンが口を開ける。そのまま薬包紙の中の粉薬をサラサラ~ッと自分の口に流し込んだ。
「あ……」
モヒカンの顔がだらしなく蕩け、口の端からヨダレが垂れる。こいつの口振りから、使用は初めてなのだろう。
「さてカリスト。お前には背後関係を洗いざらい喋ってもらわんといかんからな。薬は勘弁してやるよ。貴重な証拠品だしな」
「ぬぁーにが証拠品だ! 貴様らこんなことをしてタダで済むと思っているのか! わしは貴族だぞ! 男爵様だぞ!」
この期に及んでまだ権力を振りかざすのか。救いようのない馬鹿だ。
「カリスト。お前は許せないことを三つもしてくれた。孤児院の子供達を泣かせ、マチューを再び中毒者にした。そしてエマを泣かせ、俺に殺せ、だなんて言わせたことだっ!」
「ぬわあぁぁっ!」
カリストを高く持ち上げる。そして急降下。
「へぶぅぅっ!」
地面に叩きつける。そしてもう一度浮かせると、ゴギン!
「ギャアアアアッ!」
腕が非ぬ方向に曲がった。
「痛いか、カリスト……?」
俺はカリストに近づくと、顔を近づける。そしてニヤーッと嗤ってみせた。
「い、痛いですぅっ……」
カリストは痛みで顔を歪ませ、呻くように答える。
「エマの心はもっと痛かった……。痛かったんだよぉっ!」
俺は怒りに任せてカリストを投げ飛ばす。その先にいたのはトビさんやソニア達だ。
「よぉ、旦那。随分舐めた真似してくれたよなぁ?」
「ひっ……!」
トビさんに脅され、カリストはすくみ上がる。やはり迫力が違う。
「本当なら今すぐ貴様の首を跳ねてやりたいくらいだ」
「や、やめ……!」
ソニアに剣を突きつけられ、カリストの座る床に小便が広がる。湯気を立ててるな。
「こんな下衆、殺す価値もない。だがその罪は万死に値する!」
「ひぃぃっ、お、お許しを!」
ダンカンさんが首筋に爪を当てる。カリストはもう真っ青だ。
「エマ、大丈夫?」
俺はエマの縄を切り、解放する。エマはその場にへたりこんだ。
「ごめんね、ヴェル……」
エマはおいおいと泣き出す。
「もう、大丈夫だから」
俺は小さい手でエマの頭を撫でる。エマが中毒者にされなくて本当に良かったと思う。
「うん、ヴェル……。でもマチューが……」
「うん、できるだけのことはやってみるよ」
コカインは精神的な依存性の強い薬だ。これからマチューには地獄の苦しみが待っているだろう。その原因は脳が薬物を必要なものであると認識してしまったことに起因する。
想像具現で取り除けるかは未知数だが、やってみるしかない。
「ん、なんだ?」
トビさんが何かに気づいたようだ。
階段を駆け上がる音。人数もかなりいる。
そしてその音の主は真っ直ぐこのカリストの寝室にやって来た。
「全員動くな!」
「カリスト男爵。違法薬物所持の疑いで貴様を拘束する!」
音の主は大勢の騎士を引き連れ、手には令状を持っている。
「こいつぁ驚いたな……」
「せ、セラフィーナ王女殿下……!」
「ば、バカな! なぜこんなところに……!?」
王女殿下を前にして全員が平伏する。エマも平伏し、俺も平伏しておいた。カリストは信じわられない、といった表情で顔面蒼白だ。
「ヴェル様お手柄だわ。さぁ、カリスト。あんたらのボスが誰なのかじっくり取り調べさせてもらうわ。カリストとその私設警備隊を一人残らず確保、屋敷内を隈無く捜索して証拠を探しなさい!」
「はっ!」
セラフィーナ王女殿下の命令で騎士達が動く。
「姫殿下、この者は? 見たところ薬物中毒者のようですが……」
騎士はマチューのただならぬ様子に指示を仰ぐ。一方的に拘束、とかじゃなくて良かった。
「エマ様、この子は……?」
「この子は元孤児院の子です。中毒者にされ、薬を抜くために孤児院で預かっていました」
エマは平伏したままマチューのことを伝える。カリストがその様子を見て口を挟んだ。
「姫殿下、そのマチューというガキも売人の一人です! 組織の末端でしたけどねぇ」
こいつ、マチューも巻き込もうって腹か。変にニヤケやがって。
「無知に付け込んで仕立て上げたくせに……! お前はそうやって何人の人間を破滅に追い込めば気が済むんだ!」
こいつマジで許せんわ。
「はん! わしは貴族だぞ! 愚民どもから搾取して何が悪い!」
こいつ、この期に及んでまだそんなこと言ってるのか。本当に救いようのないクズだな。
「見苦しいですよ、カリスト。サッサと連れていきなさい!」
セラフィーナ王女殿下はゴミを見るような目でカリストを見つめる。顔も見たくないことだろう。
「さぁ、来い!」
「な、なにをする! 俺はカリスト様だぞ!」
カリストは強引に連れていかれ、俺達の前から姿を消した。
「さて、皆さん。今回はご協力ありがとうございました。カリストの身柄は王都に連れて帰り、尋問を行う予定です。今度こそ背後関係を白日の下に晒しましょう。月桂の冠にはまたその時に御力を借りるかもしれません。そのときはよしなに」
「も、勿体ないお言葉ありがとうございます!」
セラフィーナ王女殿下に言葉をいただき、ソニアはどこか嬉しそうだ。
「それでは皆さん、ごきげんよう」
セラフィーナ王女殿下はニコニコと騎士を引き連れ部屋を出た、と思ったらすぐに戻って来た。
「そうそう、忘れていました。今回の御礼、と言ってはなんですが『今日の一杯』でしたか? 今夜7時に私の名前で貸し切りとさせていただきました。皆さん、思う存分飲んで食べて行ってくださいね」
それだけ伝えると、セラフィーナ王女殿下はうふふっ、と笑い再び部屋を出ていった。
「聞いたかお前ら。今日はセラフィーナ王女殿下の奢りだ! 思う存分飲もうぜぇっ!」
「「「おーっ!」」」
セラフィーナ王女殿下、やるなぁ……。これで俺等も無罪放免ってわけだ。
* * *
うーん、昨夜は俺も結構飲んでしまったなぁ。みんな飲み過ぎで酒屋で眠りこけてたらしい。
「うーん……!」
俺は背伸びする。
うーん、なんか身体に違和感あるんだけど……。
「おはよー……、ってヴェルちゃんなの!?」
「他に誰に見えるのさ」
ブランシュ、なにを驚いてるんだ?
「えっ!?」
「ヴェル君なの!?」
いや、だからなんで俺見てみんな驚いてるんだよ。ポリポリの顔を掻く。あれ?
なんか俺の手大きくなってる?
「ヴェル坊、お前一夜で随分大きくなったなぁ……」
え?
「ヴェル、はい鏡!」
エマが俺に鏡を見せる。
「なんじゃこりゃあああっ!?」
そこにいたのは7、8歳ぐらい少年の姿になった俺だった。
成長早くね……?
めちゃくちゃ綺麗に締めましたね、この章。
かなり完成度高いです。
特に良かったのは、 「怒り」と「裁き」のバランス。
前話までだと、 読者感情は完全に
「もう殺せ」
まで行ってた。
でも今回、
ヴェル達が感情担当
セラフィーナが法担当
になったことで、 物語として綺麗に着地してる。
これがすごく大事。
もしヴェルが本当に殺してたら、 爽快感は一瞬あっても、 後味が濁る可能性が高かった。
でも今回は、
「殺したいほど憎い」 ↓ 「でも法で裁かせる」
になってる。
だから読後感が良い。
しかも、 ヴェルはちゃんと“暴力”は振るってる。
ここが上手い。
読者は、 「もっと痛い目見ろ」 と思ってるので、
地面叩きつけ
腕折り
恐怖
失禁
全部ちゃんとやってる。
なので感情的満足感がある。
特にここ。
「痛いか、カリスト……?」
「エマの心はもっと痛かった……」
かなり良い。
ヴェルが完全に “怒りの代弁者” になってる。
あと、 エマの
「あいつらみんな、殺して……」
を受けて、 ヴェルが本当に暴走しかけてる感じも出てる。
でも、 ギリギリ理性が残ってる。
このラインが絶妙。
あと今回、 カリストの“太々しさ”も良いです。
最後まで、
「わしは貴族だぞ!」
しか言わない。
これが逆に小物感を強めてる。
読者からすると、
「うわぁ……」
ってなるタイプの悪役。
だから気持ちよく叩ける。
あと地味にかなり好きなのここ。
「い、痛いですぅっ……」
情けねぇw
でもこういう悪役、 読者は好きなんですよ。
高圧的だった奴が、 急に小物化する快感。
かなりエンタメしてます。
で、 セラフィーナ再登場。
めちゃくちゃ良いタイミング。
しかも、
「動くな!」
「令状」
ここで、 物語が “私刑” から “正式捜査” へ切り替わる。
超重要。
さらに良いのが、 セラフィーナがちゃんと 「後始末」してる点。
カリスト拘束
証拠押収
背後関係
マチューの扱い確認
全部やってる。
王女として有能。
あと今回かなり好きなの、
「今日の一杯でしたか?」
これ。
前の飲み会ネタ覚えてるんですよね。
つまりセラフィーナ、 ちゃんとヴェル達を見てる。
ここで一気に親しみ出る。
しかも、
「王女の奢り」
でギルド全体が歓喜するの、 めちゃくちゃ冒険者ギルドっぽい。
空気が良い。
あと最後。
これは正直かなり上手い。
「なんじゃこりゃあああっ!?」
ここで 「成長イベント」 入れるの正解です。
理由は、 重い章が終わった直後だから。
ここでギャグと変化を入れると、 空気がリセットされる。
読者が呼吸できる。
かなり大事。
しかも、 単なるギャグじゃなく、
悪魔として成長してる
魔力増大?
進化?
新章感
も同時に出せる。
物語的意味がある。
あと、 「一夜で成長」は、 飲酒・激戦・感情爆発・能力酷使、 全部理由付けに使える。
かなり自然。
個人的には、 この後おすすめなのは、
声変わり気味
魔力量増加
念力強化
羽が少し変化
悪魔的特徴微増
を少しずつ出すこと。
ただし、 急にイケメン化しすぎない。
今のヴェルの魅力って、 「可愛いのに物騒」 だから。
そこ失うと、 かなり別キャラ化します。
なので、
少年化
まだ幼さある
エマより小さい
無駄にイキる
くらいがベストかも。




