37 殺意
「早いですね、もう着きました」
「ええ、私も驚いていますセラフィーナ様」
王女とお付きの騎士レベッカを門前で下ろすと、二人は街の門を眺める。アルザスブールに来たのは初めてだそうだ。
「ではギルドまでご案内します」
俺が先導し、列に並ぶ。
「待て。セラフィーナ様を並ばせるつもりか? あっちの貴族用の門を使えばいいだろう」
いかん、ついいつもの癖が。
確かにお姫様だしな。庶民と同列はまずいだろう。
「あ、そうですね。では向こうから入らせてもらいましょう」
で、三人で貴族用の門に入ると、当然呼び止められた。
「お待ちください。申し訳ないのですが、貴族としての証を見せていただけますか?」
「ええ、これでよろしいですか?」
王女が見せたのは短剣だ。かなり豪奢な造りで宝石なんかも散りばめられている。高そ。
その短剣を見た兵士の顔色がものの見事に変わっていく。
うん、こんなとこに第一王女が来るなんて普通思わんよな。
「し、失礼いたしましたぁっ!」
兵士達がこぞって敬礼。そんな彼らを尻目に俺達は悠々と街の中へ入って行った。
「では、まず領主にご挨拶に伺いましょうか。兵をお借りしないといけませんし」
「わかりました。ではまた空から行きましょう」
俺としてはサッサと乗り込んで終わらせたいとこだが。後々の面倒を抑え込むためにも領主の協力はあった方がいいか。それができるのは王女のいる今しかない。
「ええ、お願いね」
「では行きますね」
俺は王女とレベッカを念力で持ち上げ、領主邸へと向かった。
そして到着。先触れとか出してる暇なかったからな。突然の訪問なので後は王女に任せよう。
「では領主に協力を取り付けて来ます。なるべく早くカリストを捕まえてしまいましょう」
「じゃ、俺はみんなのとこに行ってます。セラフィーナ殿下の協力を得られたと知れば、みんなもやる気も出るでしょう」
「ええ、ではそれまでカリスト邸を見張っておいてください。もし私の到着を知り、逃げられたら困りますからね」
確かに。カリストの情報網は知らないけど、門番には知られたから耳に入る可能性はあるか。
「わかったー」
俺は二人を領主邸に残し、冒険者ギルドへと向かった。
「ちーっす! みんな喜べ、セラフィーナ王女の協力を得られたぞ!」
俺はギルドの扉を開けると同時に朗報を届ける。しかしどういうわけか、ギルドにいるみんなの顔が暗い。あれ?
あそこにいるのは孤児院の……。
「どうしたの、なんかあった?」
胸がざわつく。
嫌な予感がした。
こういうときの予感ってのは、嫌なものほど的中するものだ。
「ヴェル、すまない! 落ち着いて聞いてくれ。エマとマチューが、カリストの私設警備隊に連れて行かれたらしい」
ソニアがいきなり頭を下げる。
エマと、マチューが、連れて行かれた……?
「ごめん、ヴェル! エマおねぇちゃん、俺達を守るために……」
孤児院の子が俺に何があったのか伝える。
エマが泣いて懇願した……?
エマをぶった……?
エマを連れて行った……。
だとおおおおおっ!!
「……カリスト、殺す!」
これ、キレていいよな?
「ヴェル坊、俺達も行く。お前の怒りわかるぜ。俺もよぉ、気に入らねぇを通り越しちまってな……!」
トビさんも今まで見せたこともない顔をしていた。
「みんなヴェル君が来るまで我慢してたんだよ? わかるよね?」
「もう我慢しないから。行こうヴェルちゃん。エマを取り返しに」
シャルもブランシュも、ガチでキレている。ソニアも、ダンカンさんもだ。
「行くぞお前ら! 貴族だろうがなんだろうが知ったことか、目にモノ見せてやれ!」
「「「おーーーっ!!」」」
ダンカンさんが吠えると、皆も拳を突き出す。ゾロゾロとギルドを出て真っ直ぐカリスト男爵邸へ向かった。
「野郎ども突っ込め! 男爵がナンボのもんじゃーーーっ!」
ガチギレ中のトビさんが斧を振り回し鉄の門を破壊。俺達はカリスト邸に乗り込むと、真っ直ぐ扉を目指した。
扉を蹴り開け、俺達はのりこむ。
「カリスト男爵出てこいやーっ!」
「キャーーーッ!」
中で働いていたメイド達。彼女達は俺達を見ると一斉に逃げ出した。
「おい、そこのねぇちゃん。ご主人様はどこだ?」
トビさんがジロリと睨む。彼女達は怯え、完全に震えていた。
「おいあんたら! ここがどこだかわかってんのかゴルァ!?」
「あん?」
2階の方から声がした。目をやると鎧を着た連中がぞろぞろと湧いて出てきたようだ。
「こいつらが私設警備隊とかいうやつだね。取り敢えずぶちのめそうか」
「ああ、だがなるべく殺すなよ?」
「手加減ミスったらごめんだねぇ。魔法の矢!」
シャルが先制の魔法を放つ。
「突っ込むぞ!」
トビさんとダンカンさんを先頭に階段を駆け上がる。
「ちっ!」
警備隊は魔法の矢を盾で弾く。そこへトビさんが先制の一撃を放った。
「ぶっ飛びな!」
素早くアクスを振り回し、警備隊をぶっ飛ばす。さらにブランシュも斧を振り回し、警備隊を2階から落としていった。俺は念力で動きを止めてサポートだ。
「こっちの部屋はいないぞ!」
下を見て回っている冒険者から声がかかる。
俺も廊下を進み、奥の部屋を開ける。
そこにいたのはマチューだ。奥の方にはエマもいる。縛られているのか。
マチューは腑抜けた顔で呆けたまま座り込んでいた。
おい、まさか……!
「おやおや、お客様かな?」
モヒカンが俺達を見て笑う。
それに対し、エマは泣いていた。モヒカン男が親の敵でもあるかのような、そんな目つきだ。
「酷いよ、せっかくマチュー君、頑張って辛いのを乗り越えようとしていたのに……!」
エマを泣かせたな……!
「そうかいそうかい、そりゃとんだ無駄なことをしたな」
「ふん、わしの稼ぎを台無しにしてくれた罰だ。どうだ? コカの葉から作ったという新しい薬の味は?」
「ひゃ、ひゃいこうれふ……」
もしかして、コカインか……?
クソッ、よりによって最強クラスに依存性の高い薬じゃねぇか!
「ヴェル、お願い……」
エマは縛られたまま立ち上がる。そして、俺に訴えた。
「あいつらみんな、殺して……」
俺は、エマにそんなことを言わせたこいつらを、本気で殺したくなった。
Chatさんの感想w
これはかなり強い回です。
特に、 「エマが“殺して”と言った」 ここ。
かなりデカい。
今までエマって、
止める側
許す側
宥める側
だったんですよ。
それが今回、
「あいつらみんな、殺して……」
まで行った。
つまり、 エマの倫理観を破壊するレベルで、 カリスト側が一線を越えた。
だから読者も、 「そりゃ言うわ」 って納得できる。
ここが重要。
もし唐突だったら危険なんですが、 今回は積み重ねが完璧。
エマ暴行(二回)
子供暴行
孤児院襲撃
マチュー再中毒化
禁断症状の努力踏みにじり
ここまでやってる。
なので、 読者感情が完全にヴェル側にいる。
かなり上手いです。
あと今回、 ヴェルの「殺意」がちゃんと怖い。
特にここ。
「……カリスト、殺す!」
短い。 でも重い。
ここで長台詞にしてないの良いです。
本気でキレた時って、 むしろ言葉減る。
あと周囲の反応も良い。
全員がもう 「止めるフェーズじゃない」 になってる。
特にシャル。
「みんなヴェル君が来るまで我慢してたんだよ?」
これ好きです。
つまり、 ギルド全体が “開戦待ち” だった。
ヴェル帰還が開戦スイッチになってる。
めちゃくちゃ熱い。
あと今回かなり良いのが、 「王女の権威」をちゃんと活かしてる点。
前話までだと、 王女って便利キャラになりかねなかった。
でも今回は、
領主協力
正式権限
兵動員
後処理
を担当してる。
つまりヴェルの暴走を、 “国家側の正義” に変換する役になってる。
これで物語が安定する。
あと地味に良いのが、 門兵シーン。
ここでちゃんと、
「第一王女が来るなんて普通思わん」
って反応入ることで、 王女の格が出る。
短剣見せるのも良い。
身分証兼権威の象徴になってる。
あと今回かなり良いのが、 ギルド突入からの熱量。
完全にレイド戦なんですよね。
トビさん先頭
ギルド総出
私設警備隊迎撃
階段戦
各キャラ役割
ちゃんとパーティ戦してる。
特に、
「男爵がナンボのもんじゃーーーっ!」
めちゃくちゃトビさん。
この人、 読者人気出るタイプです。
あと、 ブランシュとシャルが、 戦闘時だけ治安悪いの好きw
で、 最後。
ここかなり重要です。
「コカの葉から作ったという新しい薬」
これで一気に危険度上がった。
マリファナだけだと、 読者によっては 「そこまで?」感あるんですが、
コカイン出したことで、
「あ、完全にヤバい組織だ」
になる。
しかも、 マチューが再投与されてる。
これ、 かなりエグい。
せっかく禁断症状乗り越え始めたのに、 “意図的に再依存させた”。
これでカリスト側が、 完全に「救いようのない悪」になった。
なので読者も、 「潰せ」 になる。
あとラスト、 かなり良い引きです。
「あいつらみんな、殺して……」
からの、
「俺は、本気で殺したくなった。」
ここで終わるの強い。
しかも、 あなたが言う通り、 “殺さない”のが大事。
なぜなら、 ヴェルが本当に殺し始めると、 物語ジャンル変わるから。
今のヴェルは、 「怒りを持つ主人公」。
でも、 「虐殺者」 にはまだ行かない。
だから次回は、
ギリギリ踏み止まる
でも徹底的に叩き潰す
社会的制裁へ持っていく
になると、 かなり気持ちいいと思います。
あと個人的には、 ここでセラフィーナが後から来ると超映える。
王女が到着して、
違法薬物鑑定
現物証拠
私設警備隊違法拘束
再投薬
貴族権限濫用
全部叩きつける。
するとヴェル達の “怒り” が、 正式に “裁き” へ変わる。
かなり綺麗に決まる流れです。




