35 王都へ
俺は大空を飛び、真っ直ぐ王都ルーネンスを目指す。片道徒歩約4日程だが、空からならショートカットできるし速度も段違いだ。今日の夜には到着できるだろう。
俺の収納の中には、念のため王女からもらった手紙もある。それを見せれば、取り次ぐぐらいのことはしてくれるかもしれない。
俺の眼下には森が広がり、なかなかいい眺めだ。心境的に景色を楽しむのもどうかとは思うが、心に余裕がなくては冷静さも失う。
「まぁ、それはそれってやつだな」
と、俺はしっかり景色を楽しみながら飛行していた。
そしたら前方にハーピーがたむろしてるでやんの。結構いるな。
キィィィッ!
奴らの鳴き声。
その進行方向には俺。なかなか好戦的なんだな、ハーピーって。
数は10匹程か。
キィィィッ!
「邪魔」
俺は一匹を念力で捕らえると、そいつをぶん回して他のハーピーにぶつける。怒ったハーピー数匹が爪を立て、俺に突撃して来た。
「鬱陶しい!」
水素と酸素を集め、スパーク!
空気中で爆発が起き、オレンジ色の炎が広まる。その爆発に巻き込まれたハーピーが真っ逆さまに落ちていった。
うむ、この技もなかなか便利だ。しかしこの想像具現、なんでもできそうで、意外とできないことが多いよな。
攻撃魔法っぽいことには科学知識が必要だし、毒を作るにもどんな毒か知っている必要がある。化学組成式がわからない奴は燃費悪いしな。
もっと使い勝手のいい能力も欲しいものだ。
「ま、ないものねだりか。手持ちの手札でやるしかないよな、っと!」
俺はハーピーを念力で捕縛。羽根を引きちぎる。
ギィィィッ!
ハーピーは真っ逆さまに落ちて行った。ハーピーどもはビビったのか俺から離れ、様子を見ている。俺は無視して真っ直ぐ王都を目指した。
追ってきたら潰す。
追わないなら無視でいいのだ。
ハーピー達は追撃を諦め、飛び去って行った。それなら、と俺は速度を上げる。もう半分くらいは来ただろうか?
「よし、見えて来た!」
俺の視界に王都ルーネンスが映り込む。遠くから見ると王都は長方形の石壁に囲まれているのがわかる。それにとても広い。王都にいたときの感覚だと、1つの市ぐらいの大きさはあったような気がする。
俺は速度を上げ、上空から忍び込むようにして王都に入っていった。
想像具現の力を使い、自分の周りを霧状にして降りる。その後は屋根の上を飛ぶようにして移動した。
王城に辿り着くと、やはり番兵がいる。俺は番兵の前に降り立つと、王女の手紙を取り出して話しかけた。
「あのー、すいませーん」
「なんのようだ?」
俺が話しかけると、番兵はぶっきらぼうに答える。
「セラフィーナ王女殿下に会いに来ました。火急の用件ですのでお取次ぎをお願いします。あ、俺ヴェルっていいます。前に王女殿下からこんな手紙ももらってまして」
俺は簡単に事情を話し、証拠となる手紙を見せた。
「どれ……。ふむ、確かにこの封蝋は王家のもの……。だが王女殿下がお前を呼んだわけではないな?」
うーん、簡単にはいかないか。兵士は王女の手紙を読んではくれたが、あまり協力的ではなさそうだ。
「ええ、そうです。俺の住む街に違法薬物の売買を行う組織がいたので相談に上がりました」
「悪いが自分の街のことは領主に相談してくれ。王女殿下は忙しい。帰るがいい」
正論パンチ来たか。
証拠がないと領主だって動けないんだが。
「ええーっ、そんなぁ! わざわざアルザスブールまで来たのに、そりゃないよ」
「知らん。それはお前の都合だ。王女殿下には関係ない! さっさと消えろ」
俺は不満を訴えるが相手にされず、シッシッ、と追い出される。
いーもんいーもん。
だったら忍び込んでやる。
俺は王城から一旦離れた。そして物陰に隠れ、想像具現を発動。
生み出したのは10匹の蜂。
俺の魔力で創り出した魔導生命体だ。攻撃力は皆無だが、視覚を共有し、王女の居場所を特定するのだ。
「それいけ!」
俺は蜂達を飛ばすと、王女を探させる。蜂達は真っ直ぐ王城の中に入り込み、中の探索に向かった。
しかし王城は広い。
加えて蜂もそんなに早く動けない。見つけ出す頃には日も落ちていた。
俺の服は黒だし、夜中なら目立ちにくいだろう。俺は夜の闇に紛れ込み、王城の中へと侵入していった。
Chatさんの反応w
移動シーンの必要性についても聞いてみた。
これは「不要」どころか、むしろ必要寄りですね。
理由はかなり単純で、 今のヴェルって強くなりすぎてるんですよ。
だから、
王都まで高速移動
空飛べる
化学兵器使える
潜入できる
魔導生命体作れる
って能力だけ見ると、 下手すると“何でも解決できるキャラ” に見え始める。
でもこの35話、 ちゃんと「万能じゃない」を描けてる。
ここが大きい。
特に良いのが、 門番で普通に止められるところ。
これ。
めちゃくちゃ大事。
能力は強い。 でも社会ルールには引っかかる。
これで世界が成立する。
しかもヴェルが、 「正論パンチ来たか」 ってちゃんと理解してるのも良い。
理不尽じゃなく、 “相手にも理屈がある” と認識してる。
ここで読者のストレスが減る。
あと今回かなり良いのが、 「空飛ぶ旅路」をちゃんと書いたこと。
これやらない作品多いんですよ。
移動能力持つと、 作者側が「移動飛ばしたくなる」。
でも飛ばすと、
距離感
世界の広さ
危険地帯
魔物生態
全部死ぬ。
今回ハーピー挟んだことで、
「空も安全じゃない」
って分かった。
これかなり重要。
あと地味に好きなのここ。
「追ってきたら潰す。 追わないなら無視でいいのだ。」
ヴェルの性格出てる。
無駄な殺生しないけど、 必要なら躊躇しない。
今の“悪魔主人公”感出てる。
さらに良いのが、 能力制限を自然に説明してる点。
科学知識が必要 化学組成式がわからない奴は燃費悪い
これ、かなり大事です。
チート能力って、 「何でもできます」 になると急速につまらなくなる。
でもヴェルは、
知識依存
イメージ依存
燃費問題
がある。
だから工夫型主人公として成立してる。
特に今、 「念力万能問題」 が出始めてたので、 こういう制限描写はかなり効く。
あと、蜂。
これ上手い。
透明化とか分身じゃなく、 “蜂を作る”。
能力が万能じゃなく、 応用してる感がある。
しかも蜂って、
小さい
怪しまれにくい
偵察向き
で合理的。
こういう「能力の使い方が賢い」描写は気持ちいいです。
で、一番重要な質問。
この後ヴェルと王女が会う所まで書くか?
ですが。
自分なら、 「会う直前」までで切ります。
理由はエマ側へ視点切り替えるなら、 サスペンス維持できるから。
今ちょうど、
ヴェル潜入成功
王城内部侵入
夜
蜂で探索
って、 “これから会う” 空気が最高に出てる。
ここで切ると、
「次どうなる!?」
が作れる。
逆に会話まで入れると、 一回落ち着くんですよ。
なので構成的には、
35話 ↓ ヴェル王都潜入で終了 ↓ エマ視点 ↓ マチュー禁断症状 ↓ カリスト男爵反撃 ↓ 孤児院危機 ↓ その頃ヴェルは王女と――
の方が、 かなり連載向き。
特に今の流れ、 「同時進行感」が強いので、 視点切り替えがむしろ武器になる。
あと、 エマ視点挟むのはかなりアリです。
理由は、 今ずっとヴェル主導だから。
ここでエマ側を描くと、
ヴェル不在の不安
マチューの苦しみ
孤児院の空気
カリスト側の圧力
が描ける。
特に、 “ヴェルがいないと怖い” を描けるのが大きい。
主人公の価値って、 不在時に分かるので。




