27 セラフィーナの企み
「わかった、許す」
王女なりにケジメはつけたし、とりあえず態度保留だな。エマを困らせないことを優先にするしかない。
「ありがとうございますヴェル様。それともヴェルシエル様とお呼びした方がよろしいですか?」
王女がニッコリ微笑む。
うーん、読めん。
「お好きな方でどうぞ」
和解が成立すると、エマは再び跪く。
「あの、ところで私どもを呼び寄せた理由を御教え願えますでしょうか」
エマがお伺いを立てると、王女は人払いをさせる。残ったのは一人のメイドだけだ。
「その前にお座りになりませんか? 話しにくくて仕方ありません」
「しかし私ごときが王女殿下と同席するなど……!」
エマは余程恐れ多いのか、完全に尻込みしている。
うーん、もしかして俺ってめちゃくちゃ礼儀知らずとか思われてないよね?
「私が許します。ですのでどうぞ。アリア、紅茶とケーキを二つ用意してください」
「はい、姫様」
メイドさんは別の台に用意されていたケーキを切り分け、ポットから紅茶を注いでテーブルに並べた。
王女はどうぞ、と手を出してエマを誘う。
「では失礼します」
エマは一礼して席に座る。
俺はエマの横でふわふわと浮いていた。
「それで、お話というのは……」
「はい。私が毒を盛られたのは4日程前でした。毒を盛られた理由は私の能力が邪魔だったからでしょう。犯人も目星はついています。しかし証拠がありません。そこで見つけたのがヴェル様です」
王女の顔から笑みが消え、厳しい表情を見せる。
「ヴェル、ですか?」
「はい。いただいたエクスアンチドーテはかなり強力で、少し飲むだけでデルポネラという毒を解毒しました。私の鑑定は少し特殊でしてね」
王女が紅茶をソーサーの上に静かに置いた。
「《《私の鑑定は作った人の情報も手に入る》》んです」
なるほど、だから俺が作ったって知ってたわけね。
「そして今、王都では恥ずかしながら違法薬物が出回り初めています」
うわっ、そういうことか。
そりゃ元締めにとって王女の能力は天敵だろう。消したいよな。
「それも既に鑑定は済ませました。毒の方もです。しかし相手は上位貴族。王族といえど、証拠もなしに処罰はできません。一方的に行えば反感を持つ者も出てくるでしょう。そこでヴェル様の力を是非お借りしたいのです」
王女、なんか笑顔が怖いぞ。
「なぜヴェルを……?」
「想像具現、持ってますよね? その力をお借りしたいと思います」
王女が俺をニコニコして見つめる。言いたいことは理解した。
「つまり、みんなの前で自白させたいわけですね」
俺の想像具現は俺が想像した事象を引き起こすものだ。
相手に《《うっかり》》自白させる、という使い方に気づくとは、この王女、相当な切れ者なんだろう。
「ええ、話が早くて助かります。これは私からの指名依頼です。報酬は金貨20枚。後でギルドの方に使いを出しておきますので、受けていただけますか?」
……最初からそうしてくれ。
切れ者かと思ったけど、この王女結構抜けてるな。鑑定使えるのに服毒させられてるし。
「はい、喜んで。ヴェル、いい?」
「もちろん」
王女《《様》》からの指名依頼ならパーティの名前に箔が付く。そういうことなら喜んで手を貸しますぞ。
「そういうことですので、ヴェル様を一日お借りしますね」
「エマは?」
うーん、エマと離れることになるのはなぁ……。
「あらぬ中傷を受けることも考えられます。お仲間とお待ちいただいた方が得策かと」
「そうですね。私も貴族様に囲まれては生きた心地がしません。ヴェル、お願いね」
それを言われるとね。
それにエマを気に入って妾に、とか言い出しかねん。
ここは俺一人でやるべきか。
「わかった」
「ありがとうございます。せっかくですので、エマ様とも少しお話したく思います。その後馬車で宿まで送らせましょう」
こうして俺は違法薬物の流通を潰すため、手を貸すことになった。
* * *
「国王陛下、お呼びに預かり馳せ参じました。如何な御用でございましょうか」
国王の前に姿を見せたのはヤニック侯爵というらしい。まるまる肥えてて、いかにも悪党な顔だ。
「ヤニックよ、最近違法薬物が出回っているのは知っているな?」
「はい、全力で調べさせております。ところで、その、セラフィーナ様の近くにいるのは悪魔では……?」
ヤニックが俺に気づいて不思議そうな顔をする。王女の話だと、こいつが黒幕で、毒もこいつの差し金なんだとか。
つまり、エマがぶたれたのはコイツのせいとも言える。
おめでとう、俺の中で君は社会的抹殺の刑に決まった。
「ええ、そうです。こわーい悪魔でしてね。私に毒を盛った貴方を懲らしめてもらおうと思いまして」
王女が仕掛ける。
さぁ、始めようか!
「はっはっはっ、笑えぬ冗談ですなセラフィーナ王女殿下。なにか証拠でも?」
「ありません。ですので、自白していただこうかと。さぁ、ヴェル様」
「はいよー」
バチッ!
「痛っ! 何をする!」
「呪いをかけたんだ。君はこれから嘘をつけなくなる。手を見てごらんよ」
俺はふよふよとヤニックの眼前まで近づく。
「なんだ、この紋様は……!」
これはブラフだ。
俺の想像具現でもそんな呪いは作れない。ただ紋様を刻んだだけだ。
「君が嘘をつく度に君は堪え難い苦痛を受けることになる。嘘はつかない方が身のためだよ?」
「な、なんだと……?」
ヤニックの顔色が変わる。
よし、効いてる効いてる。
「じゃあ最初の質問だ。セラフィーナ王女殿下にデルポネラの毒を盛ったのは君だね?」
俺はニヤーッとできるだけ不気味に笑ってみせた。
演技、大事だよね。
「な、なんのことだ? 知らん、そんなことは知らん!」
はいダウト!
紋様を光らせ、制裁発動!
引き起こせ、世界三大激痛の一つ尿路結石!
「……ッ!?」
ヤニックは突然の激痛に声も出ないようだ。顔色は真っ青になり、股間を押さえている。
痛すぎて転げ回ることすらできないようだ。
こんな激痛、味わったことないだろうな。その身体だといずれなるかもしれんけど。
こうやって相手を追い詰めれば、後は想像具現の力で白状する方向に傾ける条件が整うわけだ。
「あーあ、だから言ったのに。嘘をついたら苦痛を受ける呪いだって。可哀想だから痛みを取り除いてあげるよ」
俺は尿路結石を取り除く。それでも暫くは痛いけどな。
しぼらくして、ようやくヤニックの呼吸が整う。
「もう一度聞くよ? セラフィーナ王女殿下にデルポネラの毒を盛ったのは君だね?」
さぁ全て白状しろ。
想像具現!
「はい……、その通りでございます」
よし、ゲロった。これでもうコイツは嘘をつけない。
「理由は違法薬物流通ルートを潰されるのを恐れたから、だよね?」
「はい、仰る通りです……」
ヤニックは観念し、素直に白状した。それを聞き、国王が立上がる。
「ヤニックを捕らえよ! 徹底的に尋問し、流通ルート、背後関係、全て吐き出させろ!」
「「「はっ!」」」
国王の命令で兵士がヤニックを拘束し、連れて行く。俺が振り返ると王女はクスクス笑っていた。
「スッ、としました。あのヤニックの顔、口から泡吹いてましたね」
毒を盛られた仕返し込みか。
最大級の苦痛、っていうリクエストだったからな。
少しは溜飲を下げられただろうか。
* * *
依頼を終えた俺は宿屋に戻る。夕食には間に合ったのが嬉しい。
部屋へ行くと、みんなが揃っていた。
「エマー、みんなー! 依頼は成功したよー」
俺は王女から受け取った指名依頼書をひらひらさせ、エマの胸にダイブしようと飛ぶ。
「よくやったヴェル!」
「ヴェル、おかえり」
「ヴェル君やったー!」
口々にみんなが迎える中。
「ヴェルちゃぁぁぁーん!」
ムギュッ。
油断していた俺はあっさりとブランシュに捕まった。
唯一の救いは、ブレストプレートがないおかげで痛くないことか。
「おーかーえーりー!」
「はーなーせー!」
ブランシュは半泣きでグイグイと俺を抱きしめる。
まぁ、心配かけたしな。
今日ぐらいは許してやるかぁ、とブランシュの頬ずり攻撃に耐えるのだった。
Chatさんの反応w
これ、完全に「作品の方向性」が固まってきてますね。
かなり“読ませる型”になってる。
特に良いのが、
第25話 → エマに杖プレゼント
第26話 → その代償で王族トラブル
第27話 → 王女との共闘
っていう流れ。
Web小説って、 「イベントが次のイベントを呼ぶ」 構造が超大事なんですが、 ここかなり綺麗に繋がってます。
しかも全部、
「エマのため」
から始まってる。
ここが強い。
ヴェルの行動原理が一貫してるから、 読者が迷子にならない。
あとセラフィーナ、 かなり良キャラ化してますw
第26話だけだと、
「切れ者なのかポンコツなのか分からん王女」
だったんですが、 第27話で、
政治的事情を理解してる
自分の立場も理解してる
証拠主義
王族として振る舞える
でもちょっと抜けてる
って輪郭が出た。
かなりバランス良いです。
特にここ。
「その前にお座りになりませんか? 話しにくくて仕方ありません」
好きですね。
“育ちの良さ”が出てる。
あと、
「私が許します」
これも王族感ある。
ちゃんと 「上に立つ人間」 なんですよね。
で、その上で、
「スッ、としました」
この俗っぽさw
ここで一気に親しみやすくなる。
かなり上手い。
あと今回一番いいの、 ヴェルの能力の使い方です。
正直、 「想像具現で自白」 ってかなり危険な能力なんですが、
今回、
呪いはブラフ
実際は心理誘導
激痛で追い込む
能力で“白状しやすい方向”へ傾ける
になってるので、 ギリギリ“頭脳戦”になってる。
これかなり大事。
もし本当に 「絶対自白魔法」 だったら、 物語壊れるんですよ。
でも今は、
演技
威圧
誘導
心理戦
が必要。
だから面白い。
あと尿路結石www
これめちゃくちゃ笑いました。
世界三大激痛の一つ尿路結石!
いや発想が最低すぎるw(褒めてる)
しかもヴェル、 「殺す」 じゃなく、 「めちゃくちゃ痛い目に遭わせる」 なのが妙に子供っぽくて良い。
ここヴェルらしい。
あと今回地味に好きなのここ。
「お好きな方でどうぞ」
ヴェル、 まだ王女を信用してない。
でも敵対もしてない。
この距離感いいです。
すぐデレないの大事。
あと最後のブランシュ。
「ヴェルちゃぁぁぁーん!」
これ超効いてます。
26話がかなり感情重めだったので、 27話ラストを 「仲間の温度」 で締めてる。
だから読後感が軽い。
かなりWeb小説向き。
あと構成的に上手いのが、
エマ → 精神的支柱
ブランシュ → 空気を軽くする
シャル → 察しが良い
ソニア → 常識人
って役割分担が見えてきてること。
パーティものとして強くなってきてます。
一点だけ言うなら、 第27話はかなり説明量が多いので、 少しだけ“間”を入れてもいいかも。
特にここ。
「違法薬物」 「上位貴族」 「証拠がない」 「鑑定」 「エンバディメント」
が一気に来るので、 読者が少し情報過多になる可能性ある。
なので例えば、
王女が一瞬苦い顔をする
エマが息を呑む
ヴェルが「うわっ、面倒そう」と心の中で呟く
みたいな感情クッションを挟むと、 読みやすささらに上がりそうです。
でもかなり面白い流れになってますね。
特に、
「杖プレゼント回が、 王族陰謀編の導入になってる」
のがめちゃくちゃ良い。




