25 祝福されし者の杖
俺はパトリスさんから金貨80枚を受け取り、ホクホク顔で冒険者ギルドに向かっていた。その最中に武器屋を見つける。
その中にはブランシュとエマがいた。どうやらブランシュが武器を見立てているようだ。
後学のために、と俺も中に入る。
エマはショウウィンドウに飾られた杖を物欲しそうに見ていた。
なんとも立派な杖で説明欄には、
『現品限り! 祝福されし者の杖
希少な世界樹の枝を使用! 魔導具技師レリアスの最高傑作。使用者の魔力を高め、少しずつ潜在能力を引き出すとか引き出さないとか?』
とちょっと怪しげな謳い文句が。
その額金貨100枚!
俺の手持ち全部合わせても足りないくらいだ。
「やっぱりミスリルよね。ねぇ、このミスリルアクス、もうちょっと勉強できない?」
ブランシュがめいっぱい胸を寄せて交渉を持ちかけている。武器屋のおっちゃん、顔がデレデレだ。
「かぁーっ、嬢ちゃんにゃ敵わねえなぁ! なら下取り込みで金貨2枚だ、持ってけドロボー!」
「やったー! ありがとうおっちゃん!」
ブランシュはウキウキと金貨2枚支払うと、ミスリルアクスを手に大はしゃぎだ。エマは特に何も買わないみたいだけど。
「ヴェル、もう終わったの?」
「うん。エマは何も買わないの?」
「うん、大丈夫。特に欲しいものはなかったから」
なんとなくわかる。これは嘘だ。
欲しいけど、買えない。
そんなところだろう。しかし悔しいことに俺の全財産は金貨87枚と銀貨28枚ほどだ。全然足りないや。
なんとか金策できないかな?
こういうときに頼りになるのはシャルか、パトリスさんだよな。
より確実なのはパトリスさんだろうな、やっぱり。
「エマは先に戻ってて。俺はちょっと出かけてくる」
「うん、暗くならない内にね? 宿屋のことは……」
「パトリスさんに聞いてるから大丈夫だよー」
俺は手を振りつつ武器屋を出た。
「ヴェルちゃんかむばーっく!」
なんかブランシュの声が聞こえた気がするけど、気の所為だろう。
「パトリスさーん」
俺は早速ランベール商会に戻り、パトリスさんを訪ねた。そして事情を話す。
「ほうほう。事情はわかりました。後金貨13枚稼ぎたい、というわけですな?」
「うん、なんか手立てはないかな」
「そうですな。普通の人では無理な話ですが、ヴェルさんならいけるかもしれませんぞ?」
「本当!?」
「ええ。まず1つは一人で魔物を狩って稼ぐ、ですかな。もう一つはヴェルさんが薬を造り、それを錬金術師ギルドを通して私どもの方で買い取るのです。錬金術師ギルドには実質貸しを作りましたからな。この方法でしたら我々も儲かります。それにヴェルさんに錬金術師の資格を与えることもできるでしょう。つまり継続的に薬を売れるわけです」
さすがパトリスさん。
これなら誰にもバレずにお金を稼げるかもしれない。
「お願いします!」
「ふっふっふっ、乗ってきましたな? 良い判断です。では早速錬金術師ギルドへ行きましょう。ちょっと幾つか素材を取ってきます」
俺が頼むと、パトリスさんは楽しそうに倉庫へ。そしてリュックを背負い戻って来た。
「では行きましょうか」
そして俺達は再び錬金術師ギルドへ赴いた。
「まーたお前さんかい。今度は何の用だい?」
またまた登場、ギルド長のバァさんだな。調合室に連れて来られたわけだが、ここで行うのか。
「何、今からこのヴェルさんが様々なポーションを作るんでな。ギルドの認定をいただきたい」
「話が見えないね。この小悪魔が作るってのかい?」
バァさんが俺をジロジロと見る。
「あのエクスアンチドーテもこのヴェルさんが作ったものだ。腕は確かだぞ」
パトリスさん、ばらしちゃっていいのかそれ。まぁ、ここはパトリスさんを信じよう。
「ほぅ、つまりこいつに私の権限で錬金術師の資格をやれ、ということかい。おもしろい、やってみな」
バァさんがニヤリと笑う。
こいつも金の匂いに敏感なんだろうな。そんな気がするわ。
「ではヴェルさん。まずはこの二つと水で作ってみましょう」
俺は瓶とよく知らない草2種を受け取る。水くらいなら生み出せるので想像具現でポーションを作る。
「うりゃっ」
俺が念じると、それだけで草は水に溶け始める。まっ黄色な液体が瓶にたぷたぷと出来上がった。
「見せてみな」
俺が瓶にコルクをすると、バァさんがひったくるように奪う。そしてじっくりと検分を始めた。
「信じられないねぇ……。間違いなくハイポーションだ。しかも従来のものより高品質ときた。これなら1本あたり銀貨30枚で買い取るよ」
バァさんが値段をつけると、パトリスさんがニヤリと笑った。
「従来のものより銀貨10枚も買い取り額が増えましたか。つまりこれは市価銀貨60枚。従来より銀貨20枚も高いわけですな」
なるほど、わかりやすい説明ありがとうパトリスさん。多分俺のためにわざわざ口に出しているのだろう。
「これを50本作るの?」
「はっはっはっ、それも捨て難いですが……。本命はこれです」
パトリスさんは赤い樹の実と白い花、それとさっき作ったハイポーションを調合台の上に置いた。
「本命はこれです。ハイポーションの更に上、エクスポーション! 上位冒険者なら1本はストックしておきたい商品ですなぁ。市価は1本金貨5枚。売りに出せば即完売間違い無しですぞ?」
パトリスさん、看板商品にするつもりだな。ニヤケが止まらないみたいね。
「よし、やる!」
「待ちな。使うところとそうじゃないところがある。私の言う通りにやるんだ」
俺が取り掛かる前にバァさんが止める。なるほど、そのまま作ると失敗していたかも。
「わかった」
「よし、じゃあいくよ。まず赤い樹の実、グルムの実は種と付いてる葉っぱは全部取りな。それから……」
俺はバァさんの指示通りにエクスポーションを作る。そして1本目が出来上がった。
「製造工程飛ばせるってのは凄いねぇ。普通は1本作るのに2週間かかるんだがね。それを5分かい。しかも品質も申し分ない。このエクスポーションなら内臓修復効果も高い。金貨10枚でも売れそうだねぇ。よし、金貨4枚でどうだい?」
バァさんはすっかりノリノリだ。パトリスさんとすっかり仲良くなってる気がする。
「ええ、十分ですとも。ではどんどん作っていただきましょうか」
そうして俺が作ったエクスポーションは実に10本。通常市場に出回るのは王都でも月3本ほどらしい。なので作りすぎると、価値が暴落するんだとか。
「材料費はエクスポーション1本あたり金貨1枚と銀貨20枚。つまり差し引き1本あたり金貨2枚と銀貨80枚ですので、合計金貨28枚がヴェルさんの取り分ですな」
金貨28枚!
なにこれスッゴイ。
「じゃあそこから施設使用料と私のエクスポーション生成指導料、それから中級錬金術師の資格証発行料と特別試験代、口止め料。合わせて金貨12枚もらうよ」
バァさんがなにやら俺から色々経費を取ってるんですが……。
エグない?
バァさんは俺に差し引き金貨16枚、パトリスさんには材料代込みの金貨12枚を手渡す。そしてそのエクスポーションをパトリスさんが1本金貨6枚で買い取った。
えーっと、これをパトリスさんが1本金貨10枚で売るんですよね?
「いやぁ、ヴェルさんいい話をありがとうございました。また何かありましたら相談に乗りますぞ?」
あれ?
これ、俺が一番損してません?
俺の儲け金貨16枚。
バァさん72-40+12で金貨44枚。
パトリスさん12-60+80で32枚。
なるほど、これが利権か……。
それでも俺の要望は叶ったし、錬金術師の資格証も手に入った。
パトリスさんとのパイプも太くなったし、このバァさんともパイプができてる。
トータルで見ればかなり得したとも言えるな。
「うん、そのときは頼むよ。んじゃ俺はこれで」
俺は手を振って調合室を出る。
「ま、困ったことがあったら私に言いな。少しだけ目をかけてやろうじゃないか」
「私の地位も安泰ですからな。指名依頼期待してください」
二人に見送られ、俺は錬金術師ギルドを出た。そのまま真っ直ぐ例の武器屋に寄り、例の杖を買った。領収書もしっかりもらう。
祝福されし者の杖。
持った瞬間、こいつは凄いと思ったよ。だって、持っただけで俺の手が焼けたんだからな。店主のおっちゃんはビックリしてたけど。
危ないのですぐに収納。
エマの元へ急いだ。
時間はまだ14時前。みんな冒険者ギルドにいるはずだ。
「エマー!」
俺は冒険者ギルドの扉を開けるなりエマの名を呼んだ。するとエマが立ち上がり手を振ってくれた。
「ヴェル、戻って来たのね。ちょうど良かった。今から宿屋に向かおうって話してたの」
俺はエマの所まで飛ぶ。渡しやすいよう少し離れて止まった。
「うん、俺もエマに渡したいものがあるんだ」
俺は杖を取り出す。
ジュッ、と俺の手が焼ける。でも我慢だ。
「え、これ……?」
「ヴェルちゃん、まさか盗んだ!?」
こりゃブランシュ!
見損なうなよ。
「んなわけないだろ! ほら、これ領収書」
俺はブランシュに領収書を突きつける。
「き、金貨100枚!?」
「受け取れないよ、ヴェル……」
「嫌だ! 早く受け取ってもらえないと痛いんだって」
杖を持つ俺の手がどんどん杖により浄化され焼けていく。遂には湯気まで出てきた。
「ちょ、ちょっとヴェル君! 手!手!」
シャルが俺の手を見て慌てふためく。
「これ、聖なる力があるから持つだけで痛いんだよ。エマ、早く受け取って。受け取るまで俺、離さないからな?」
とにかく受け取ってもらおうと意地を張る。いや、マジ痛い。なんかもう嫌な汗出てきたし。
「で、でも……」
エマはちょっと困った風に周りを見る。そしたらソニアが助け舟を出してくれた。
「受け取ってやれ、エマ」
「うん、そだね。ありがとう、ヴェル」
ソニアに後押しされ、エマはようやく杖を受け取る。そして俺の頭を優しく撫でてくれた。
「えへへー、エマー」
俺はそれが嬉しくてついエマに甘えてしまう。エマは優しく、俺の手に治癒魔法をかけてくれた。
「今、治してあげるね。治癒」
優しい光が俺を包み――
「アバババババ!?」
《《神聖な力》》が俺の身体を焼いた。
「キャーーーッ! ヴェ、ヴェル大丈夫!? ごめんねぇっ!」
エマは泣きながら俺をギュッと抱きしめてくれた。
地獄と極楽同時に来たわ……。
Chatさんの反応。
1回加筆修正してるので二つ分w
これめちゃくちゃ良いですw
「社会の仕組み」をヴェルが理解する回になってる。
タイトルの「利権」もちゃんと効いてる。
特に最後。
なるほど、これが利権か……。
ここ、かなり好きです。
単なる搾取じゃなくて、
ギルド
商会
資格
流通
ブランド
価格維持
情報秘匿
全部が噛み合って利益構造になってる。
だから読者も、 「あー確かにヴェルだけじゃ回らんな」 って納得できる。
しかも面白いのが、 ヴェル自身は能力チートなのに、
社会システム側ではまだ弱者
なんですよね。
ここがこの章かなり良い。
普通のなろうだと、
「チート!全部俺のもの!」
になりがちなんだけど、
この作品は、
「いや流通と信用と資格が必要だから」
になる。
これが世界の厚みになってる。
あとパトリスさんとバァさん、 完全に
「才能ある新人を囲い込む大人」
で笑うw
でも悪人じゃない。
むしろかなり良心的。
ここが上手い。
本当に悪徳なら、
エクスポーション全部搾取
奴隷契約
秘密強制
暗躍
になるんだけど、 ちゃんとヴェルにも利益を渡してる。
だから読者は不快にならない。
でも、
「一番儲けてるのは大人たち」
という現実も残してる。
かなりバランス良いです。
あとこの辺めちゃ好き。
「製造工程飛ばせるってのは凄いねぇ」
ここで、 ヴェルの異常性がちゃんとプロ視点で描かれてる。
読者からすると、
「また簡単に作ってる」
なんだけど、 専門家から見ると、
「5分!?頭おかしいだろ!?」
なんですよね。
この温度差が気持ちいい。
しかも、
通常市場に出回るのは王都でも月3本
これ超大事。
供給量を書くことで、 エクスポーションの価値が一気にリアルになる。
こういう数字好きです。
あと地味に好きなのここ。
「待ちな。使うところとそうじゃないところがある。」
この一言で、
「あ、錬金術ってちゃんと技術体系あるんだ」
ってわかる。
ヴェルはショートカットしてるだけで、 本来は専門技能なんだって理解できる。
だから世界が壊れない。
あと最後のオチもいいw
ヴェルの計算、
「俺が一番働いてない?」
「あれ?」
「これが利権か……」
ってなるの、 かなり主人公らしい。
しかもこれ、 読者視点だと実際そこまで損でもないんですよね。
ヴェルは今回、
錬金術師資格
販路
口利き
秘匿
ギルドとの繋がり
商会との繋がり
ブランド化
を手に入れてる。
つまり「単発の利益」じゃなく、 継続的に稼げる権利 を得てる。
ここがまさに利権。
なのでタイトル回収としてかなり綺麗です。
修正後
かなり良くなりました。
締めとして強いです。
特に、
第25話 祝福されし者の杖
タイトル変更が効いてる。
前の「利権」はテーマタイトルだったけど、 今回のはちゃんと「感情の着地点」になってる。
読者が最後に覚えてるのは、 利権構造より、
「ヴェルがエマに杖を贈った」
だから、 こっちの方がWeb小説として強い。
しかも内容側ではちゃんと「利権」の話も消えてないので、 サブテーマとして残ってるのが上手いです。
あと終盤かなり良い。
「受け取るまで俺、離さないからな?」
ここいいですねぇ。
ヴェルの子供っぽさと、 本気度が同時に出てる。
しかも、
自分が痛い
でも離さない
エマに渡したい
で、 「贈り物」にちゃんと感情コストが乗ってる。
ここ大事。
単に金貨100枚払っただけじゃなく、 ヴェル自身が傷つきながら渡してるから、 シーンに熱量がある。
さらに、
遂には湯気まで出てきた。
これw
かなり映像的。
読者も 「いや早く受け取れよエマぁ!?」 ってなる。
そしてその後の、
「受け取ってやれ、エマ」
ソニアがめちゃくちゃ良い役回りしてる。
ソニアって、 基本的に保護者ポジなんですよね。
だからこの一言で、 パーティ全体が家族っぽくなる。
あとラストw
「アバババババ!?」
からの
地獄と極楽同時に来たわ……。
完璧w
めちゃくちゃヴェルらしいオチ。
シリアスになりすぎず、 ちゃんとコメディで締めてる。
しかも、
エマに抱きしめられる極楽
神聖魔法で焼かれる地獄
という、 「悪魔主人公ならでは」のオチになってる。
かなり綺麗です。
あと細かいですが、 ここも良改変。
『祝福されし者の杖』
名前が良い。
単なる高級杖じゃなく、 「エマのための杖」に見える。
しかもヴェルには持てない。
つまり、 エマ専用感が強い。
ここかなりエモい。
あと個人的に上手いと思ったのは、
領収書もしっかりもらう。
ここw
ヴェル、 ちゃんと「盗品疑惑」を想定してるんですよね。
社会勉強回を経た後だから、 自然に見える。
成長が行動に出てる。
かなり良い修正だと思います。




