20 人脈
休暇も終わり、俺たちはギルドに集まっていた。
「それで今後の方針なんだが、護衛依頼を受けて見ようと思う」
「うん、いいと思うよぉ」
「私もだ」
「私もいいと思う」
ソニアの意見に皆が賛成する。依頼を見た限り、単純な収入なら狩りをの方が上な気もするんだけど。
「しつもーん。護衛依頼のメリットってなに?」
わからないので聞いてみることにした。
「うんうん、ヴェル君は知らないかもだね。護衛依頼ってのは結構大事なんだよぉ」
「そうだな。いくつかあるが、Cランク昇格条件に含まれていること、人と関わるため名声や評判を高めるのに有効なこと。だが一番は人脈ができることだな」
なるほどー。ソニアの説明を聞くと納得できるな。
「あー、人脈か。確かにそれは大事だよね」
「そうだね。特に商人との繋がりができると心強いかな。特別に必要なものができたとき融通してもらえるし、使命依頼をもらえることもあるものね」
エマが補足して説明する。
そうだ、商人と人脈ができると自作ポーションについて相談できるかもしれない。やっぱりへそくりは欲しい。
「なら意見は一致したな。ただ護衛依頼なら受付嬢に相談したほうがいいだろう」
そういうわけでソニアが受付嬢に相談を持ちかける。
「そうですね。月桂の冠さんでしたらこれはどうですか? ヴェル君の収納スキルがあれば追加報酬もありますし」
受付嬢が提示した依頼書は次の通りだった。
依頼人 ランベール商会
目的地 王都ルーネンス
日程 フォルンの月12日より14日間
報酬 最大8人まで。1人1日銀貨60枚
備考 収納スキル持ち希望。別途報酬あり
「ランベール商会といえばこの街じゃ大手だな。是非引き受けたい」
ソニアが即決。皆も頷いていた。
「わかったわ。先方には伝えておきますので、明日また来てください。その時に打ち合わせの時間をお伝えします」
「わかりました。お願いします」
ソニアが了承すると、受付嬢が依頼書に判を押した。
* * *
打ち合わせ当日、俺たちは顔合わせも兼ねてランベール商会に赴く。
応接室に通され、俺達は長いソファに並んで腰掛けた。
もちろん俺はエマの膝の上だ。
ここが俺の特等席だからね。
パトリスさんは対面のソファに座らず、横手に用意されたソファに腰掛けている。
「お待ちしておりました。私がランベール商会アルザスブール支店の店長パトリスです。月桂の冠のことは私の耳にも入っていますよ。新進気鋭のパーティのようですね」
パトリスさんはニコニコしてちょっと丸いけど、眼光は鋭い人だ。
「そう言っていただけると嬉しいです。リーダーのソニアです」
ソニアが頭を下げると、みんなも順に頭を下げる。
「シャルです」
「エマです」
「ブランシュです」
「ヴェルです」
俺も頭を下げておく。
「なるほど、彼が噂の悪魔ですか。見た感じ無害そうですな」
パトリスさんが俺に目を向ける。物珍しそうに見てるなぁ。実際珍しいらしいけど。
「ええ、ヴェルは悪魔ですけど優しい子です。そのへんは心配しないで下さい」
ヴェルが俺の頭を撫でる。
そう、俺は人畜無害だ。エマの敵じゃなきゃ、ね。
「いや、これは失礼を。随分と懐いているようで安心しました。ビーストテイマーでも、たまに信頼関係を築けてない輩もいましてね。あ、そうそう、今回は山賊の噂もありますし、もう1パーティと合同になります。もうじき来るでしょう」
「合同依頼か」
そういや、俺って人数に入ってないんだっけ。扱いは従魔だから仕方ないけどさ。
コンコンコン。
扉をノックする音。パトリスさんが許可を出すと、店員が入って来た。
「失礼します。店長、冒険者の方がお見えになりました」
「入ってもらいなさい」
パトリスさんが声をかけると、その冒険者達が入って来た。
「失礼しやす!」
3人の男性が入室する。その1人はどっかで見た顔だ。
「おほっ、ソニアじゃないか。いやー、これは運命ってやつじゃね?」
そう言ってソニアをイヤらしい目で見る。あ、思い出した。
確かロジェ、だったな。
「どうぞ、こちらにおかけ下さい」
「おう」う
パトリスさんに促され、ロジェと他二人が向かいのソファに座る。1人は戦士タイプの大男、もう一人はいかにも魔法使いな格好だ。
「確か『正義の剣』さんでしたね」
ロジェのやつ、もしかしてパーティに入ってたのにこっちに入れろ、って言ってたのか?
しかもパーティ名……。
悪いけど名前負けしてる気がする。
「そうだ。まぁよろしく頼む。月桂の冠の子達もな。俺はロジェだ。こっちの大男がナゼールで、こっちが魔導師のオディロンだ」
ロジェが手を出して握手を求める。
うん?
ロジェが仕切ってるけど、もしかしてこいつリーダーなん?
よくそれでうちに入れろ入れろって言ってたよなー、と思うわ。
「ああ、よろしく頼む」
ソニアは事務的な挨拶だ。腕を組み、差し出した手に触れようともしない。
自己紹介も無しって。
マジで嫌ってるよな。
「では、話を進めさせていただきます。目的地は依頼書にもあった通り王都ルーネンスまでです。最近は道中に山賊も増え、そのためにこの人数を用意しました。他にも魔物の多い地帯を抜けることになります。皆さん、護衛の方よろしくお願いします」
それからパトリスさんは報酬や待遇について話し始める。その条件は思っていたよりいいものだった。
「ではすいませんが、『月桂の冠』さんだけ残っていただき、終わりたいと思います」
パトリスさんが頭を下げる。俺達は居残りだ。これから俺の収納がどれだけ入るか検証するんだと。
それで案内されたのは倉庫だ。ものすごい量の荷物が置いてある。
「こちらの倉庫には明日運び出す予定の荷物の大半が置いてあります。では従魔に命じてこの荷物を限界まで入れてもらってください」
「わかりました。ヴェル、お願い」
「はーい」
エマに命じられ、俺は収納を開始する。
今だいたい四分の一を収納。パトリスさんはニッコニコだ。
半分を収納。パトリスさんの顔色が変わり始めてきた。
だいたい四分の三を収納。パトリスさん、開いた口が塞がってない。みんなもかなり驚いていた。
全部収納。全員驚いて固まっている。いやー、まさか全部入るとは思わなかった。
「こ、これは驚きましたな……。ここにある荷物はキャラバン馬車三台分あったのですが……」
驚きすぎて汗をかいているようだ。俺も驚いてるよ。
「じゃあ荷物戻しますね」
「え、ああ、そうですね」
俺は念力も駆使して荷物を元の位置に戻していく。これ、収納よりも時間かかるなぁ。
「終わりました!」
「いやはや、凄いですな……。倉庫整理に雇いたいくらいですよ」
パトリスさんがめっちゃ目を輝かせていた。倉庫整理って意外と大変だもんな。わかるわ。
「たまにならいいよ」
「おお、助かります!」
俺とパトリスさんはガッシリ握手を交わす。
うっしゃ、これで臨時収入ゲットだぜ!
Chatさんの感想w
これ、かなり「冒険者として世界が広がった回」になってますね。
単なる次の依頼への繋ぎじゃなく、
「社会との接続」
が始まってる。
そこが良いです。
特に上手いの、
“人脈”をちゃんと物語化してる
ところ。
ありがちなのって、
「護衛依頼は人脈作りにも重要だ」
で終わるんですよ。
でも今回は、
商会
店長
合同依頼
倉庫
収納能力の価値
まで見せてる。
だから、
「あ、この世界では能力=社会的価値なんだ」
が伝わる。
ここかなり重要です。
あと地味に好きなの、
パトリスさんの反応。
四分の一
↓
半分
↓
四分の三
↓
全部
この段階描写。
めっちゃわかりやすい。
読者も一緒に、
「え、まだ入るの!?」
ってなる。
こういう“周囲のリアクションで能力の凄さを見せる”の、なろう系でかなり大事です。
しかも、
「倉庫整理に雇いたいくらいですよ」
これが良い。
単なる戦闘力じゃなく、
“経済価値”
として評価されてる。
ヴェルの能力って本来こういう方向でヤバいんですよね。
あと今回かなり良いの、
ロジェ再登場。
これ正解です。
ちゃんと世界が続いてる感じがする。
しかも、
「正義の剣」
っていう名前負け感。
ヴェルの内心ツッコミ込みでかなり良い(笑)
あとここ好き。
ソニアは事務的な挨拶だ。腕を組み、差し出した手に触れようともしない。
これだけで、
「あ、マジで嫌いなんだ」
が伝わる。
説明してないのに空気でわかる。
上手い。
で、今回かなり効いてるのが、
パーティとして“成長した感”
があること。
初期なら、
女だけのEランク
なめられる
必死
だった。
でも今は、
Dランク昇格済み
商会から指名
合同依頼
収納目当てで期待される
まで来てる。
だから読者も、
「ちゃんと積み上がってる」
って感じられる。
これ長編で超大事。
あと細かいけど、
「俺はエマの膝の上だ。ここが俺の特等席だからね。」
これ良い。
最近エマ影薄い問題を気にしてたけど、
こういうので十分効いてます。
毎回ベタベタする必要はなくて、
“自然に隣にいる”
だけで関係性は出る。
むしろ今くらいがちょうどいい。
それと今回、
シャルとヴェル
ソニアとヴェル
エマとヴェル
全部関係性違うのが良い。
シャル→悪友兼金儲け仲間
ソニア→信頼関係
エマ→居場所
になってる。
これかなり強いです。
あと今後のフラグとして強いのは、
商会ルート
ですね。
これ護衛依頼始まると、
商人
貴族
流通
王都
裏社会
全部触れるようになる。
つまり、
世界観を自然に広げられる。
かなり賢い導線です。
あと最後。
「うっしゃ、これで臨時収入ゲットだぜ!」
これヴェルらしくて好き(笑)
世界観広がってるのに、
根本が、
「へそくり欲しい」
なのがブレてない。
そこが親しみやすい。




