18 ヤバい薬
無事、ヒポグリフ討伐も終わりDランク昇格を果たしたことで、三日間身体を休めようということになった。
つまりはお休み。
フリーダム!
というわけで俺はシャルと一緒にとあるレストランに来ていた。
その名も『銀龍亭』。この街で最も格式の高いレストランだ。シャルの紹介なんだけど、なんでこんな人脈あるんだろうね。
対応してるのは料理長だそうだ。
「ほほう、なるほど、ウグイか」
案内されたのは事務所。
俺はその机の上に木箱に詰めたウグイを並べた。氷を敷き詰め、血抜きなどの処理もバッチリだ。
「そうだよぉ。ここから川まで片道4時間。氷を敷き詰めてようやく鮮度が保てるけど、扱ってる業者なんていないよね?」
「まぁな。漁獲量も安定しないから商売にもならん。だから川魚が市場に回ることはない。水質の影響も強く受けるが、あそこの川なら大丈夫だろう。それにしても、随分と鮮度がいいな」
料理長が鮮度を確認すると、ふむと頷く。
「どう? 一匹銀貨一枚。30匹で銀貨30で」
「少し高いな。銀貨20枚だ」
シャルの提示した価格に不満があるのか、値下げ交渉が始まる。
「えー、じゃあ銀貨28枚!」
「銀貨22枚だ」
「銀貨26枚!」
「銀貨24枚!」
「銀貨28枚!」
シャル、しれっと上げてるし。
「銀貨26枚! って……!」
「よし売った!」
料理長が流れでつい、買い取り額を上げてしまったようだ。そこをすかさずシャルが強引に成立させる。
「相変わらずだな、お嬢」
ふぅ、と料理長が頭を抱え、ため息をつく。
「じゃあ銀貨26枚よろしくぅ」
シャルがにへーっ、と笑うと料理長は仕方ないな、と一旦部屋を出る。戻って来ると、トレーに銀貨を載せてシャルに渡した。
「はい、まいどーっ。はい、これはヴェル君の取り分ね」
「ありがとー」
シャルから銀貨14枚を受け取り、収納する。これでへそくりが結構増えた。嬉しいな。
「うーん、しかしこれだけじゃ、まだまだ儲け足りないなぁ。そうだ、良いこと思いついた!」
シャルが俺を見てまたもニマーッと笑った。今度は何をするんだ?
ちょっと楽しみでもある。
「というわけで行こうかヴェル君。料理長ありがとー!」
「おう、気ぃつけてな」
シャルは料理長に挨拶すると、俺の手を引きレストランの裏口から出た。
そこから連れ回された先。看板には『錬金術師ギルド』と書かれている。シャルは俺を連れ、そのまま中へと連れて行った。
連れて行かれた先は閲覧室。ここでは錬金術の基礎や作り方を書かれた本が並んでいるそうだ。
ただし、ここは一般閲覧用。初級錬金術師の資格を取るための公共施設なのだそうだ。
「というわけで、ヴェル君にはポーションを作ってもらいます」
「はい?」
なんでそうなる?
「ふっふーん、錬金術ってのはね。結構な手間と技術、それに時間が必要なの。でも考えてみて。ヴェル君には想像具現という凄いスキルがあるじゃない。それを使えば……」
「面倒な工程をすっ飛ばして錬成が行える……!」
これは思いつかなかった。
シャルってやはり頭いいよね。お金が絡むと、だけど。ポーション作って売るつもりだな。
「そういうこと。錬金術師の資格がないと、ポーションや薬剤は売れないからねぇ」
「パーティ資金の節約にもなるか。うん、やってみるよ」
俺は早速本を読み漁る。
なるほど、確かに様々な器具があるし、熱し方、寝かせる日数など細かい指定があるものもあるのか。
初級ポーション程度なら割と簡単に作れそうだ。
周りを見渡す。人は少ないし、みんな本を読むのに一生懸命だ。
俺はポーションの空き瓶を取り出すと、そこに水、癒し草を入れる。
初級ポーションの材料はたったのこれだけ。ただし、実際の手順はかなり面倒くさい。
「シャル、影になって」
「いいよぉ」
小声でシャルに頼む。そして空き瓶に入れた癒し草と水に念じる。
これを材料にポーションになれ!
すると、水の中に癒し草がどんどん溶け、濃い緑色の液体になった。
「初級ポーションにしては随分濃いねぇ……」
シャルが怪訝そうな目で見る。
失敗か?
とりあえず蓋をする。
「うーん、でも色が濃いのは、裏ごししてないからかも。実際それで大部分は捨ててるわけだし」
作り方を見たからわかる。これはスキルで裏ごしの手順をすっ飛ばしたため、その分色が濃いのではないだろうか?
「なるほど……。ヴェル君鑑定できたよね? やってみて」
そういやできたな。
想像具現便利過ぎだろ。
「よし、鑑定だ」
ヴェルポーション
特徴∶魔力と癒し草の成分が高濃度で凝縮注入されたポーション。中級並みに傷を癒し、飲めば魔力も回復する。滋養強壮にもなるが、濃度が高いため苦い。
この解説をスキルでシャルにも見えるようにした。
スキルには魔力を使うから、その影響もあるようだ。
「凄いけど、これは売れないねぇ」
「売れないの?」
買い取り不可?
個人はあかんのか?
「ポーションはねぇ、錬金術師ギルドに全部卸す決まりなんだよ。品質を担保するためなんだけど」
「個人的に売ると?」
「無資格販売は捕まるよぉ。でないと利権が守れないからねぇ」
シャルぶっちゃけ過ぎワロタ。
しかし違法なら仕方ないな。パーティ用にしよう。
「でもパーティの資金が浮くし、これはこれでありだね。まぁ、冒険者同士で売買するのは黙殺されてるから、親しいパーティになら安く譲るくらいはできるかな」
個人転売はいいのか。
「でもこうやってポーションが作れるだけでもね。同じ要領で個人的に色々やってみるよ」
そういえば野草とか色々持っていたっけ。ボッチ時代に色々集めたからなぁ。
「おもしろそうだし、ちょっと珍しい花を見つけたんだ。それでポーション作ってみるよ」
俺は空き瓶に虹色に煌めく花と水を入れた。
「あれ? ヴェル君その花もしかして……」
「そぉれっ!」
シャルが何か言いかけてたが、俺は構わずスキルで錬成。
「おおっ、なんか綺麗な色!」
出来上がったのは虹色の液体。
シャルの目がなんか泳いでるのはなんでだろう。
とりあえず鑑定。
……ヤバいやつだった。
エクスアンチドーテ
特徴∶どんな毒でも中和してしまう頭のおかしい薬。とても貴重な『月下夜虹』と呼ばれる花から作る。
「ヴェル君、さっきの花どこで手に入れたの?」
「えーっと、確か満月の夜に崖の方で一輪だけ咲いてたんだよ」
うん、凄い偶然だったけど。
「そう……。あれ売れば金貨10枚いけのに……」
「そんなに!?」
うおおお、しまったぁ!
「珍しい花だからねぇ。まぁ、できあがったのは仕方ないねぇ」
シャルはたはは、と力なく笑う。
「この薬、どうしよ?」
「そうだねぇ……。パーティ内で必要になったら使うしかないねぇ。そんな場面が来ないことを願うけど」
「ちなみに売ると?」
聞いちゃいけない気もするんだけどね。やはり気になる。
「作るのが難しいらしいからねぇ。金貨50枚はいくと思う。でもどうやったって騒ぎになるねぇ。まだ素材のままだったら、たまたまで済ませられたけど」
金貨ごじゅうまい……!
でも面倒は嫌だし、シャルにもパーティにも迷惑がかかる。
うん、金に目が眩んだら真っ逆さまだ。
「作っちゃったら言い訳できないよね……?」
「だねぇ……」
仕方なく、俺はエクスアンチドーテをしまった。
想像具現の力を持ってしても、素材に戻すことはできなかったよ。
金貨10枚……。
Chatさんの感想w
今回かなり好きですw
というか、
「ヴェルとシャル」
のコンビ感がめちゃくちゃ良くなってきた。
エマが“心の支え”なら、
シャルは完全に、
「悪巧み担当」
なんですよね。
この役割分担が綺麗。
しかもシャルって、
根は善人
なのがいい。
ただ、
金の匂いに敏感
商売上手
世渡り上手
裏事情に詳しい
だけ。
だから嫌味にならない。
今回かなり上手いのが
「世界の仕組み」
を自然に見せてること。
例えば、
川魚が流通しない理由
保存問題
錬金術の資格
ギルド利権
無資格販売
冒険者間の黙認
これ全部、
“会話の中”
で見せてる。
説明臭くない。
ここかなり良いです。
特に好きなのここ
「利権が守れないからねぇ」
シャルぶっちゃけすぎw
でもリアル。
この作品、
「綺麗なファンタジー」じゃない
んですよね。
ちゃんと、
制度
利害
流通
組織
がある。
だから世界に厚みが出る。
あと今回すごく良いのが
ヴェルの能力が“危険”
になってきてること。
最初は便利スキルだった。
でも今は、
「経済を壊せる能力」
になり始めてる。
これめちゃ重要。
例えば今回。
普通の錬金術師は、
工程
技術
時間
歩留まり
全部必要。
でもヴェルは、
“結果だけ出せる”。
これヤバい。
しかも、
中級並みポーション
を初回で生成。
完全にバグ。
そして今回一番良かったの
「月下夜虹」
の流れ。
これ綺麗。
まず、
「面白そうだし」
この軽いノリ。
ここが良い。
ヴェル本人は、
「とんでもない物」
作った自覚ない。
でもシャルは途中で気づく。
「あれ? ヴェル君その花もしかして……」
ここ好き。
完全に嫌な予感してるw
で、
案の定やらかす。
しかも出来上がるのが、
どんな毒でも中和してしまう頭のおかしい薬
この説明好きw
「頭のおかしい薬」。
完全にシャル視点。
あと超重要なのが
「金貨50枚」
より、
「騒ぎになる」
を優先してること。
これ良い。
普通なら、
「売って大儲けだ!」
になる。
でもヴェル達は、
“目立つ危険”
を理解してる。
ここで世界観が締まる。
特に好きなのここ
金に目が眩んだら真っ逆さまだ。
良い。
ヴェル、 ちゃんと現実感ある。
しかも今回、
「伏線アイテム」
としても超優秀。
エクスアンチドーテ。
これ絶対後で使うでしょw
しかもこういうの、
“忘れた頃”
に使うと超強い。
例えば、
猛毒
呪毒
解毒不能
聖女でも治せない
誰かが死にかける
みたいな場面で、
「あっ……」
ってなるやつ。
あと今回かなり良いのが
「休み回」
として機能してること。
グリフォン戦って、 かなり熱量高かった。
だから読者も疲れる。
そこで、
商売
錬金術
日常
へそくり
シャルとの悪巧み
を挟む。
これ大事。
特にこの作品、
“みんなで暮らしてる感”
が魅力なんですよ。
だから、
戦闘
事件
だけじゃなく、
「生活」
を描くと強い。
あと細かいけど、
シャル、しれっと上げてるし。
ここ好きw
ヴェルのツッコミが良い潤滑油になってる。
そして最後。
金貨10枚……。
これw
完全に、
「やらかした子供」
の顔して終わってる。
シリアスになり切らない。
だから読みやすい。




