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第5話

安定の短さ

あれからニコルとは数回のデートをこなしている。信じられないようなポカミスも時々やらかすが、デートに行くたびに私の心をかき乱して胸を高鳴らせる。


「それってぇ。恋なんじゃないのぉ?」


ミレディがにやにやする。因みにニコルに不穏なことを吹き込んだミレディにはきっちりとアイアンクローを極めといた。


「恋…私があの粗忽者に…」


世も末だ。


「確かにうっかりしてるところはあるし、ふわふわしっぱなしだけど、あんなに魂が綺麗で、誠実で、一途で、ちゃんとアリシアの事見ててくれてて、優しくて、思いやりがある、ジャニ顔の男の子なんて早々居ないと思うけどなあ。獄卒仲間でもモテモテでしょう?」


ジャニ顔?知らない単語が出たが、多分大した意味じゃないと思う。

奴はモテているのに私のことを好きだという希少レアな男だ。悪い男ではないし、尊敬できるところもある。そして多分私は奴に恋をしている。それはわかっている。わかっているのだが…


「告白の仕方がわからない…。」

「アリシアは恋愛の経験値0なのね。普通に『好き』って伝えればいいだけじゃない。」

「そ、そんなこっぱずかしいことが言えるか!」

「アリシアは自分に素直になるの苦手ねえ。たったワンフレーズなのに。」


ミレディは我が家の菓子をぼりぼりと貪り食っている。わざわざ菓子食うために受肉した肉体で来やがるんだよな、こいつ。


「今度夜会でエスコートして貰うんでしょう?その時にでも告白してみたら?」


そんな軽く言われても…私はとてもそんなこと言えそうにない。


「ま、頑張んなさい。」


ミレディは満腹になると去って行った。頼りにならん奴だ。



***

夜会当日。私は幾重にも重なるクリームイエローのふんわりとした透けるような生地に、ピンクと黄色の小花がアシンメトリーな感じに散っているドレスを選んだ。髪には大きなピンクベージュの薔薇、小さなピンクの薔薇、黄色い薔薇とふんわりしたクリームイエローのリボンで膨らんだ髪飾りを付けた。綺麗に化粧も施して、準備万端。

ニコルも黒のシンプルなタキシードに臙脂のボウタイを締めて現れた。


「わあっ!先輩可愛いっす!いつも可愛いけど、可愛さマシマシっす!」

「珍妙な言葉を使うのはよせ。」


と言いつつ褒められて照れくさくてそっぽを向いてしまう。ニコルは私のそういう様子も可愛いと思ってるらしくて、ニコニコ笑って私の手を引いた。王宮のハランバラン宮で夜会だ。煌めくシャンデリア、鏡と金が多用された豪奢な宮だ。

王の挨拶が終わりダンスが始まる。


「お前、ダンスなんて踊れるのか?」

「酷いっす!僕一応貴族っすよ!」


類稀なる運動神経の二人だ。キレがありながら優雅なダンスを踊り終えた。悔しかったけど、楽しかったので2回踊った。二人でテラスへ出る。

月明かりの下で、雑談。ニコルが掴んできた情報によるとサザンスエルでは王が急死したらしい。私はオルトア王子の関与を疑ってしまうのだが。


「あんまり素敵な話じゃないっすね。」

「そうだな。」

「今日の先輩は綺麗っす。ホールの人、みんなが見てたっす。」

「やきもちか?」


軽く笑った。


「……そうっす。好きなんです、先輩。大好きなんです。苦しいほど。先輩の心が欲しいです…」


ニコルが泣きそうな顔をした。「私も好きだ。」その一言が出てこずに硬直する。ニコルがポロリと涙を流した。

私はニコルの唇に軽く重ねるだけのキスをした。


「私からの返答だ。それでわかれ。」


私は恥ずかしくてニコルに背を向けた。ニコルが後ろから私を抱きしめた。


「先輩。愛してます…」


二人で甘いひと時を過ごした後、ホールに戻った。

なんか、すごいカルマ値高くて魂汚い奴がいる。しかもどことなく挙動が不審だ。袖の長いドレスを着た女性だが、ふらふらとウォーレン王に近付いていく。嫌な感じがしたので私も足早にウォーレン王に近付いた。


「ご覚悟っ!」


袖の長いドレスの女は短剣を隠し持っていて、ウォーレン王に短剣を突き出した。私は女の手を打って短剣をとり落とさせる。そして突き飛ばす。


「確保っ!」


私の呼び声に答え、阿吽の呼吸でニコルが女を取り押さえた。夜会会場が騒然となる。


「サザンスエルの大使殿…いかなるおつもりか?」


ウォーレン王はちょっとびっくりしたようだが、私とニコルががっちりガードしているので、少し余裕を取り戻したようだ。女はサザンスエルの大使だったらしい。


「ふひっ、ふひひっ、偉大なるオルトア王は戦争を選択された。じきにこの国は滅びるだろう。ああ、オルトア様。私の手でウォーレン王の命を奪えませんでした。申し訳ございません。」


女はいきなり死んだ。奥歯に毒を仕込んでいたらしい。戦争が起こると聞いて会場は阿鼻叫喚。


「戦争!?ちょ、徴兵はされるのか!」

「我が領地はサザンスエルの隣りなのに!!」

「落ち着け!いずれ軍務のものから正式な伝達が行くことになるだろう。160年ぶりの戦争だ。皆、覚悟しておくように。」


ウォーレン王が皆を落ち着けて、堂々と発言した。

到底ひらひら踊っていられるような状況ではなくて、夜会は解散になった。


「そなたには、また命を救われたな…」


ウォーレン王が私に微笑んだ。私の顔は強張っている。


「ウォーレン王に折り入ってお願いが…」

「なんだね?」


私は自分が元サザンスエルの貴族の令嬢であったことを明かした。今度の戦争。スノウエレンのために尽力して戦う。その代わり、私の働きぶりが陛下のお目に適うほどであったならば、サザンスエルの貴族である家族の助命を願った。戦争に加担した家族を大手を振って歩かせろなんて言わない。生涯幽閉でもいい。それでも私を育て、逃がしてくれた優しい両親を死なせたくない。


「ふむ。命の借りは命で返そう。そなたの活躍に期待する。」

「僕も尽力させていただきます。先輩のご家族のこと、頼みました…」


ニコルが自分も戦場に出ると言ってくれた。獄卒とはいえ、今は人間の身、貫かれれば痛いし、酷い怪我を負えば死ぬのに…


「死ぬなよ、ニコル。」

「先輩もですよ?僕の赤ちゃん産んでもらって、幸せな家庭を築くんですから。」


ニコルが私の唇にキスをした。



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