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ベルタの旅 〜 ちょっと実家へ帰ってきますね、貴方の車で 〜  作者: 蘭鍾馗


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06.帽子のピンとガーターベルト

 

 パン・パン・パン・パン・パン・パン………………



 乾いたエンジン音が、あたりに響く。


 ヴィースロッホを出てから、ブルッフザールという次の大きな街までは、ひたすら葡萄畑が広がる景色の中を走る。すれ違う馬車や人の数はめっきり減ってしまった。

 そんな景色の中を、パテント・モトールヴァーゲンを運転しながら、ふとベルタは思うのである。


(ここで故障されたら、ちょっと厄介だわ。)


 そして、ベルタの心配は、そこからもう少し走ったあたりで現実となってしまう。



 ◇



 パン・パン…パン……パン………パン…………パン………………パン。 ストン。


 エンジンが止まった。

 なんてこと。こんな何もない畑の真ん中で止まるなんて。


「オイゲン、リヒャルト、車を降りて押して!脇に寄せるわよ。」



 ◇



 手袋をして、エンジンの点検を始めるベルタ。

 点火系は問題なさそう。では、燃料系は?


 これだ。気化器に燃料が来てない。でもどうして?


 パテント・モトールヴァーゲンの燃料系は単純な重力式だ。燃料ポンプはなく、タンクの下のコックを開くと、細いパイプを通って燃料が少しずつ気化器に入って来るだけの単純な仕組みだ。ということは、この細いパイプが詰まっている可能性が高い。


 ベルタ、まず燃料タンクのコックを閉めてタンクを外し、中の燃料をリグロインの空き瓶に移す。その下の細いパイプも外す。


 それから、被っている帽子を髪に留めているピンを抜いて、燃料タンクから出ているパイプに差し込む。ここは何も詰まってなかった。


 次に燃料を気化器に落とすパイプにそれを差し込む。あ、なんか手ごたえがある。ゴミかなんか詰まってたのね。


 何か落ちてきた。目の細かい土みたいな茶色いもの。


 気化器につながってる燃料パイプは細いから、燃料に混じった細かいゴミが少しずつパイプの内側に引っかかって溜まって、とうとうパイプを塞いじゃったのね。

 燃料を気化器に送る前のところに、フィルターを挟んだ方がいいのかも知れない。今後の要改良点ね。


 ベルタ、修理を終えると、修理に使ったピンを布で拭いてまた帽子に挿す。リグロインはすぐ揮発して飛んじゃうから、ゴミさえ拭き取ればすぐに乾いてまた帽子に挿せる。いいわねこれ。


 オイゲンとリヒャルト、その様子を見て少し引く。



 ◇



 車はまた順調に走り出す。

 そして、燃料パイプ詰まりで止まった場所から、5km程走った時だったろうか。

 

 パン・パン・パン・パン・パン・パン・ストン。


 今度は、前触れなしに突然エンジンが止まった。

「今度は何?」


「オイゲン、リヒャルト、車を降りて押して!脇に寄せるわよ。」



 ◇



 なんか、軽く焦げ臭いにおいがする。

 これきっと電気系統ね。


 ベルタ、まずはバッテリーのスイッチを切り、バッテリーの端子のところから、順番に配線をチェックしてゆく。


 すると……あった。点火コイルの手前のところで、配線の被覆が破れて銅線同士が接触してショートしたみたい。被覆が少し焦げている。


 端子を-極から順番に外す。そして配線の様子を端から確認してゆく。どうも被覆が破れた原因は、配線が長すぎて遊んでしまい、車が振動するたびに車台の角のところに当たって、少しずつ被覆がこすれて破れてしまったからみたい。


 どうするかな。


 被覆を巻きなおすのは簡単だけど、それだけだとまた配線が車台の角に当たって破れてしまう。

 被覆を巻きなおして絶縁したら、余って遊んでしまう配線を巻いて、ひもで縛って、それを車台の角に当たらない場所に吊ってしまおう!

 

 我ながらいいアイデアだわ。

 でも、被覆は何で巻く?何で吊る?

 平たい紐状のもので、できれば丈夫なもの。この場にそんな都合のいいものあるかしら?


 うーん・・・・・・・・そうだ!


「オイゲン、リヒャルト、ちょっとこっちに来て!」

「はい母さん。」

「二人そこに並んで。」

「はい。」

「そして向こうを向くの。」


 ベルタ、二人の息子を衝立にしてその陰に隠れると、やおらスカートをたくし上げた。

 そして、腰に巻いていたガーターベルトを外したのである。


「はい、もうこっち向いていいわ。」


 振り向くと、ガーターベルトを手にしたベルタが立っていた。

「これで修理するわよ。」



 ◇



 まずは、ガーターベルトを鋏で切り、被覆が破れた部分に巻き付ける。二本の線に同じように巻き付けると、それをまとめてまたガーターベルトで巻き、紐で縛った。

 そして、配線が動いて車台の角に当たらないように、長さが余る部分を巻いて、これも紐で縛り、車台のパイプに結んだ。


 これでよし。

 

 現代の車のように、配線類がきれいに整理されていないことが原因で起きた故障だった。


「配線はきれいにまとめること。これも要改良点ね。」



 ◇



 ベルタ達を乗せた車は、再びブルッフザールへ向けて、葡萄畑の間の細い道を走り始めた。


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