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ベルタの旅 〜 ちょっと実家へ帰ってきますね、貴方の車で 〜  作者: 蘭鍾馗


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10/11

10.あんずのケーキ

 

「明日帰るんでしょ?」


「うん。」

「ケーキ焼くから持っていって。」

「あれね、あんずのケーキ。」

「そう。みんな好きでしょ?」

「手伝うわ。」



 ◇



 ベルタ達がマンハイムに帰る前日、アウグステとベルタの母娘は、台所であんずのケーキを作っていた。



「マンハイムでも作ってみたことあるけど、母さんの味にならないのよね。」


「あんずが違うのよ。あれは昔からこの辺で作られてた品種でね、他では手に入らないわ。」

「大きくて香りがいいけど、でも生で食べると酸っぱいのよね。」

「そうそう。でもシロップ漬けにすると香りが良くて飛び切り美味しいの。」


 アウグステは、今年獲れたあんずで作ったシロップ漬けの壺を棚から出した。


「切って並べるわね。」

「うんお願い。」


 ベルタ、あんずのシロップ漬けを櫛形に切って、生地の上に並べる。



 ◇



「カールさんてさあ。」


「何?」

「変人よね。」

「うん間違いなくそう。」

「独り言多いしね。」

「あれは頭の中で考えてることが口から出ちゃうんだって。」

「まずいわねそれは(笑)」

「普段からじゃないんだけど、考え事に夢中になったりすると出るみたい。」

「よく特許なんか取れたわね。」

「ほんとよ。」


 アウグステ、出来上がった生地をオーブンに入れる。後は焼き上がりを待つだけ。



「でもさ、あんたがいれば大丈夫でしょ?」


「そのつもりにしてるけど。」

「あんたはさ、シロップなのよ。」

「へ?」

「でね、カールさんがプフォルツハイムのあんずなの。」

「そうか。」


 ケーキの焼けるいい匂いがしてきた。



 ◇



「あんたが乗ってきたあの名前の長い車さあ。」


「ベンツ・パテントモトールヴァーゲンね。」

「なんか綺麗なのよ。」

「へ?」

「佇まいがいいの。あれは天才の仕事よ。」

「そうかなあ。」

「本当にいいものはね、佇まいが美しいの。」

「そっか。」



「あんた、カールさんをちゃんと美味しいケーキにしてあげるのよ。」

「オーブンで焼けばいいのかしら(笑)」



 ◇



 翌朝、ベルタ達は帰路に着いた。


 帰りは、東側から台地を降りるルートを選び、そこからブルッフザールを通ってライン川沿いの低地に出ることにした。そうする事で、急坂の峠を避け、距離も少し短くなった。燃料はプフォルツハイムで買い込んで、途中ブルッフザールで追加調達することにした。


 今度は上手くいきそう。



 ◇



「ブレーキからなんか音が出てるよ!」

「もうちょっとで下り坂が終わるから、それまで持ちこたえて!お願い……!」


 往路で酷使した木製のブレーキシューは、すり減ってヒビが入り始めていた。

 それでも何とか坂を下り切ったベルタ達は、これを修理すべく、その先の町で見つけた靴屋に駆け込んだ。



「これに皮を貼って欲しいの!」


「………何ですかこれ?」

「車のブレーキ。」

「何それ靴じゃないの?」


 ……………………


 結局こんな感じで、パテント・モトールヴァーゲンの応急修理と現場合わせの改良は、まだまだ終わらない。


 ああ、ごめんねカール。

 夕方までに帰れないかも知れない。



 このあと駆動用ベルトも切れて応急修理したみたいです。

 本編はこれにて終了。次回エピローグで完結となります。

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