Delighting World Brave 終章 Ⅸ(~祝福~)
「ええええええーーーーーーーーッ!!!!」
ドラゴニア城の会議室で大きな声が響く。
「イ、イビルライズとまた同化しちゃったのーーッ!!!?」
「あ、あぁ…あはは…実はそうなんだ…」
「…全く、自分のしたことがどれほど恐ろしいことか分かっているのか…?」
ビライトたちはドラゴニアに無事帰りつき、ボルドーたちから帰還を祝福された。
ビライトは事情を説明するために会議室に皆を集めた。
各方面から神々も帰還し、大勢に囲まれながらビライトは話を続けるが、あまりにも無謀極まりないビライトの選択に驚き。そして呆れが生まれていた。
驚いていたのはレジェリーたち。そして呆れていたのはデーガやカタストロフ、そして神々の方だった。
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ーDelighting World 最終章ー
Delighting World Brave 終章 Ⅸ(~祝福~)
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「事情は説明したとおりだよ。俺はクロと一緒に生きていく。それが俺が死なずに、クロも救える唯一の方法だったから。」
「あんたが死なずに済んだのは嬉しいわよ…だけど、イビルライズまで一緒についてきちゃうなんて…」
「…ビライト、イビルライズの様子はどうなっているのだ?」
カタストロフが訊ねる。
「あぁ、今は眠っているみたいだ。それに今は脅威とかは何も感じない。無力化されてる…って言った方が良いのかな。」
「フム…再び活性化した時には我らの手でビライトを倒さねばならぬとは…エテルネルも無茶なことを言う…」
カタストロフは無論消極的だ。ビライトは仲間だ。殺すことなどできるはずがない。
「…そうならねぇようにお前が努力すりゃいい。そのつもりなんだろ?」
「あぁ。活性化は絶対にさせない。でも、そうなった時の覚悟もできている。俺はそれだけのものを背負ったんだから。」
「そうか…なら良い。俺もお前を手にかけるのは気が引けるからな。」
デーガはカタストロフと違って覚悟はできているようだ。しかしビライトもそうならないように全力を注ぐつもりでいる。
デーガは杞憂すらしていないようだ。
「何にしてもだ。ビライト…お前って奴はそんな覚悟でイビルライズに挑んでいたなんてなァ…」
ボルドーは笑うビライトを見て言う。
「ビライト、何かあったら絶対俺様に言え。どんなことでもドラゴニアの全総力尽くしてでも力になってやる、お前は世界の英雄だ。」
「英雄なんて…大げさだよ。でもありがとうボルドーさん。心強いよ。」
「そういう話ならば我がワービルトも頼るがよい。我々にとってもお前は英雄だ。そなたが闇に堕ちそうになったらこの私が渾身の一撃で目を覚まさせてやろう!」
「あ、あはは…ありがとうヴォロッドさん。その時はお願いするよ。」
ヴォロッドも積極的だ。
「お前は多くの仲間に恵まれている。きっと大丈夫だが…我々もしっかり監視させてもらうぞ。」
「うん、お願いするよ。」
ガディアルの言葉にビライトは頷いた。
ビライトはこれからクロを抱えて生きていく。しかし、これだけ多くの仲間や、神々、魔王だっているこの環境であればきっとビライトが歪むことは無いだろう。
「よーし!!国はボロボロだが今日を祝わずとしてなんとするッ!!今日は祝杯を挙げるぞッ!!!持てるモン全部出せッ!!」
「「「「おおーッ!!!」」」」
「あはは、騒がしくなりそうだね。」
「そうだな。でも、嬉しいよ。いっぱい楽しもうな。」
「うん!」
ビライト達は一旦解散し、ドラゴニア兵や国民たちは宴の準備を始めた。
ヴォロッドもワービルトから早速ドラゴン便を使って物資を運ぶ段取りを行い、ヒューシュタットのホウも連絡を聞きつけて早急にドラゴニアに向かうようだ。
神々も手を回しているようで、全員がビライトたちの帰還と、世界の平和を祝福するため、盛大な宴の準備が始まるのだった―――
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世界の危機が去ったとことは瞬く間に世界中へと広がり、人々は安堵の声、喜びの声があがった。
特にドラゴニアでは国民全員が大きな歓喜に包まれ、ビライトたちは英雄として大きな祝福を受けていた。
「なんだか恥ずかしいね。」
「そうだな…でも、世界が平和になって良かった。俺たちも、夢に向かってやっと歩き出せるしな。」
「そうだね。」
城の屋上からボロボロのドラゴニアの街を一望するビライトとキッカ。
街は多くの国民たちが笑顔に包まれていた。
生き残った国民たちは悲しみに負けないように笑顔でこの国がより良き未来へ繋がるように、今は大きな祝福を上げるのだった。
「ビライトさん。キッカさん。」
「あっ、メルシィさん。」
ビライトとキッカを見つけたメルシィが声をかける。
「どうかしましたか?」
「主人からです。今夜城でパーティを行うそうですわよ。たくさん楽しんでくれって。」
「あはは、ありがとう。でもなんだか恥ずかしいよ。」
ビライトはそう言うが、メルシィは首を横に振る。
「いいえ、あなたたちは英雄なんだから。もっと誇らしくしてくださいませ。」
「はは…」
「ビライトさん、キッカさん。」
「はい。」
メルシィは頭を下げる。
「これからも主人と親しくしていただけたら嬉しいですわ。」
「そんな、頭を上げてくださいよ!私たちだってボルドーさんたちともっと仲良くなりたいし!」
慌てるキッカにメルシィは頭を上げて微笑んだ。
「では、私はこれで。」
メルシィはそう言い城の中へと戻っていき、ビライトとキッカは再び2人になった。
「そういえばメギラさんはどうするの?」
キッカはメギラについて聞くが…
「さぁ…アイツ、守護神の森に帰るのかなぁ。でもあそこって誰も居ないし…」
「おでのこと呼んだ~?」
「わっ!!」
メギラが屋上の城壁からビライトを覗き込んでいた。
「メ、メギラ!?」
「えへへ~見つけたぁ~」
メギラは嬉しそうに城壁を登り、ビライトに飛びつく。
「わわ…!」
ビライトより少し大きい巨体がのしかかる。
「ビライト、おでのこと心配してくれる、やさしい!」
「あはは…それで、メギラはこれからどうするんだ?」
「うーーーーん。おでの住処かえっても誰もいない、どうしよ。」
メギラは笑っているが、つまり行く宛が無いということだ。
「おでの信者のしそん、何処かにいるかも。でもたぶんおでのこと知らない。会いたいけどむずかしいかも。」
「そっか、メギラはあの森の守護神だっけ…それを信仰していた人たちの子孫か…」
「一千万年以上前のお話だもんね…凄く難しそう…」
「だから、おでそれはもういいかなって!それよりおで、ビライトとキッカと一緒に居たいなぁ~」
メギラはすっかりビライトたちに懐いてしまったようで、特にビライトに対しては相当好意を持っているようだ。
「そっか…じゃぁメギラ、俺たちコルバレーに帰ってしばらくして落ち着いたらキッカと一緒に旅に出るつもりなんだ。メギラも一緒に行くか?」
「たび!おでも行く~!」
メギラは尻尾をぶんぶん振って喜んでいる。
「あはは…じゃ、一緒に行こうか。これから俺たちは家族だからな。」
「わ~い!おでビライトたちのかぞく!」
「よろしくね、メギラさん!」
「かたっくるしいのなし!メギラでいいよ~」
「うん、じゃぁメギラで!」
「えへへ~」
ビライトとキッカはメギラを家族として迎え入れることになった。
行く宛のないメギラを引き取り、一緒に旅に同行することを約束した。
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その同じ頃、ボルドーは病院に顔を出していた。
忘却の惑星から帰還してからというものの顔を出す機会を逃し続けていたボルドー。
コンコンとノックを叩き、「はい、どうぞ。」という声を聞き、扉を開ける。
「よう、クルト。」
「ボルドー様…!」
久々に主の顔を見てホッと嬉しそうな顔を見せるクルトはボルドーが最後に会った時より酷くやつれていた。
すっかり身体も弱り果ててしまい腕も細くなってしまった。
生命を維持させるための装置が取り付けられたままだがクルトはゆっくり起き上がり一礼する。
「あぁ、無理しなくていい。楽な姿勢でな。」
「そうですね…そうさせていただきます…」
クルトは再び身体を寝かし、ボルドーはベッドの前に向かう。
ボルドーも歩くことが出来る状態ではないため、兵士に頼んで車いすでここまでやってきた。
ボルドーとクルトを二人きりにするため、一礼して兵士は一旦外へと出た。
「ボルドー様、足が動かないとお聞きしております。わざわざご足労いただけて嬉しく思います…」
「構わねぇさ。俺様の方こそなかなか会いに行けなくてすまなかった。」
ボルドーはクルトに謝るが、クルトも申し訳なくしており、お互いが謝りあう状況になってしまった。
「でもよ、一応立ち上がることは出来るんだ。ただそこから一歩が踏み出せなくてな。」
「そうなのですね…それはまた奇妙な…」
足が動かせないのに立ち上がるための足を動かすことができるのは奇妙だが、これはボルドーが今特別な治療を受けているからだ。
「ハハ、まぁ治療中って奴でな。そういうのに長けている神が居てよ、立ち上がるだけなら出来るように調整してもらってんだ。」
「なるほど…それだけでも出来ることが変わってきますから…」
そういった話をしつつ、ボルドーはクルトの様子を見ている。
ボルドーは、笑顔を見せるが明らかに身体もすっかり衰弱してしまっているクルトの姿を見て胸を傷める。
「身体、大丈夫…じゃねぇよな。」
「…そうですね…私はもう永くはありません。私は死に、新しいクルト・シュヴァーンが生まれるでしょう。」
「そっか…でもよ、それは…お前であってお前じゃねぇ。そうだろ?」
「はい…」
クルトは小さく頷いた。
クルトはクローン体として何度も生まれ変わることができる。
だが、新しく産まれてくるクルトは便宜上は同じであり、記憶も体験した感覚も全てが共有される。
だが、この内にある魂に刻まれたものは、今、この個体だけのものだ。
だからこそ、今ここに居るクルトはここだけのクルトなのだ。
「クルト、皆から聞いてる。俺様の戴冠式と結婚式を見るまでは死ねないって。」
「えぇ…私の…今、ここに居るクルト・シュヴァーンの最後の願いです。ボルドー様。」
クルトは病院の天井を見て呟いた。
「私が産まれ、私が朽ち果てるまで…お仕えしてきたのは貴方だけ。だからこそ、この目に焼き付けてから死にたいのです。」
クルトは涙を流している。
「今、ドラゴニアの町は復興に追われてきっとそれどころではないことは承知の上です…きっと先に私が朽ちてしまう。分かっていますが…それでも願わずにはいられないのです…こんな私は我儘でしょうか…?」
クルトの言葉にボルドー様はそっとベッドに手を置く。
「我儘なもんかよ。俺様に任せとけ。」
「ボルドー様…」
「クルト、あと何日持つ?」
ボルドーは真剣な目でクルトに質問する。その眼差しを見てクルトは安心したかのように呟いた。
「…そうですね…あと、1週間……私のこの身体が停止するまでの時間はあと1週間程度でしょう。」
「分かった。それまでに絶対にやるぞ。お前に俺様の新しい出発を見届けさせてやる。約束だ。」
ボルドーはクルトに約束をする。クルトはそれを信じて頷いた。
「はい…見届けさせてください…」
「よし!すぐに城に戻りお触れを出すッ!クルト!絶対にそれまで死ぬんじゃねぇぞッ!!」
「はい。ありがとう、ボルドー様…」
「おうッ!」
ボルドーは笑顔で部屋を後にした。残されたクルトは涙を流しながら小さく「ありがとう…」と、微笑んだ。
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城下町へと足を運んでいたヴァゴウはゲキの家に来ていた。
「おうゲキ!!サーシャも居るなッ。」
「ヴァゴウ!」
「兄さん!」
ゲキの家に居た2人がヴァゴウの顔を見て安心の顔を浮かべた。
「この野郎!心配したじゃねぇかよ!よく帰って来たな!」
「兄さん、お帰りなさい。」
「おう!」
喜び合う3人。ゲキの店を復興させるために片づけをしていたようだが、サーシャもそれを手伝っていたようだ。
「兄さん、もう終わったの?」
「おう、全部な。これからは自由だな。」
「そっか、良かった。」
サーシャは詳しいことは知らないし、特に問い詰めるようなことはしなかった。
ヴァゴウが戻ってきて、やるべきことを終えた。それだけで満足だったからだ。
「あっ、えっとよサーシャ。」
「何?兄さん。」
ヴァゴウは世界の狭間で出会ったドルグラたちのことを思い出しながら、サーシャに言う。
「これからは何があってもお前のことを守ってやるからな。」
「なぁに急に。」
「えっとよ、お前もこれまで苦労してきただろ?だからこれからは2人で一緒に支え合って行こうぜってことだよッ」
ヴァゴウは恥ずかしそうに言うが、覚悟を決めたような目をしている。
「嬉しい。兄さんからそう言ってもらえて嬉しいわ。これからは一緒だね。」
「おう!一緒だ!」
握手を交わす2人。
ゲキはそれを見て微笑んでいた。
「よかったじゃねぇか、お二人さん。」
「ガハハ、ゲキも一緒に暮らすかッ?」
「よせやい。俺には俺の店があるんだっての。お前もどうせ近いうちに引っ越してくるんだから別にいいだろご近所同士でよ。」
「ガハハ、じょーだんだよッ!」
「もう、兄さんってば。」
笑う3人の笑顔は本物だ。色々なものを失い続けたが、これからまた新しい未来が創られていく。
それは後悔や悲しみばかりの未来ではない。きっと、明るい未来だ。ヴァゴウはこれからもたくさんの友や家族と共に素晴らしい人生を歩んでいくことになるだろう。
―――
それからしばらくして、ボルドーからドラゴニア国内にお触れが広がる。
5日後、ドラゴニア城でボルドーとメルシィの結婚式と、ベルガからボルドーへと王の座が正式に渡る戴冠式が同時に行われることになった。
更に、世界の危機が去り、平和になったことを祝した特別な式も三大国家総動員でドラゴニア城で行われるという話も出ている。
国民たちは盛大に盛り上がり、歓喜に包まれた。
国はまだ復興中でボロボロで、何故急に決まったのかなど疑問が残りつつも、それはこれからドラゴニアが立ち直っていくために必要なことであり、より国全体の士気を高めるためだと説明されていた。
それに異を唱える者は国民の中にはおらず、ドラゴニアはここからまた再スタートしていくのだと前向きに捉えているようだ。
「ついにボルドーが王になるんだなァ。」
「なんつーか、むしろまだなってなかったんだって感じだよなぁ。」
ヴァゴウとゲキはボルドーとは幼馴染だ。一緒に居た時間も長かったからか、感慨深くもあり、ここまで長かったなぁと感じていた。
「そういやお前角飾り無くなってるな。ボルドーに返したのか?」
「おう、無事に帰って来たからな。アイツの想いも一緒で心強かったぜ!」
「俺も何か渡せば良かったなぁ。」
「ゲキのことだって忘れたことは無かったぜ!」
「へっ、ありがとよ。」
―――
「凄い!絶対参加したいわ!」
レジェリーもそのお知らせを聞き、喜んでいた。
「王が変わるのか。」
「そうだよ!ボルドー様がついにドラゴニアの王になるんだよ。きっと良い国になるよ。」
レジェリーはカタストロフと一緒に魔法学園に来ていた。
「レジェリーはこれからどうするのだ?」
「そうね、しばらくはドラゴニアの復興を手伝いたいけど…一回家に帰ろうかなとも思ってる。お父さんとお母さんに会いたいし。」
「ウム、それが良いだろう。我がアーデンまで送ってやるぞ。」
「ありがとう、その時はお願いするね。でもまずはボルドー様たちの戴冠式と結婚式よ!これは絶対見届けなくちゃ!」
レジェリーは嬉しそうだ。憧れの場所で開かれる憧れの人たちの式。レジェリーはそんなめでたい日が来ることを今から楽しみにしている。
「レジェリーが嬉しそうで何よりだ。」
「カタストロフも一緒に見ようね!」
「…良いのだろうか。我も。」
「もー!また遠慮しちゃって!良いに決まってるじゃん!」
カタストロフは遠慮しがちだが、レジェリーが引っ張ってくれる。カタストロフは「そうか。レジェリーが傍に居るならば、何も怖くはないな。」と微笑んだ。
「おっ、居た。カタストロフ。」
見上げると空からデーガが降りてきた。
「レジェリーも一緒か。悪いがカタストロフ借りてくぞ。」
「師匠、どうしたの?」
「あぁ、抑止力だけでこれからのことについて話があんだよ。まぁ大体ビライトのことなんだけどよ。」
「そっか、ビライトはこれから抑止力に監視され続けるんだっけ…」
「そういうこと。つーわけだから借りるぞ。その代わりを置いてくからよ。」
「え?それってどういう…」
デーガは目の前の建物の屋根を見る。そこにはクライドが居た。
「クライド。」
「つーわけであとは2人で仲良くやってろ。じゃぁな。」
「レジェリー、また後で。」
デーガはカタストロフと共に何処かへ飛んで行った。
そしてクライドとレジェリーが残され、クライドは屋根から飛び降りる。
「…」
「えっ、何?気まずいんだけど!」
クライドはジッとレジェリーを見つめたまま喋らない。
「…お前にも世話になったからな…感謝を、言いに来た。」
「え、頭でも打った?」
「…もう良い。」
「あー冗談!冗談だから!ごめんって!!」
クライドはためいきをついて去ろうとするがレジェリーは慌てて引き留めた。
「…」
クライドは不機嫌そうにレジェリーを睨む。
「ごめんってば!あんたがそんな律儀なことしてくるなんて思わなくてさ!」
「…俺にとってはやっと依頼が完了したんだ。その中で世話になった者たちに礼回りをするのは情報屋として当然だろう…」
「へぇ、意外~」
「俺のことをなんだと……いや、そう思われても仕方が無かったか…」
クライドは思い当たる節はあるようでため息をつく。が、それは一旦置いておき、改めてレジェリーを見る。
「お前とは色々揉めることが多かったが、それなりに信用していた。お前の純粋で明るく元気に振舞う姿は正直、鬱陶しくもあり…助かっていた。」
「フフッ、なぁによそれ、褒めてるの?」
「一応な…」
苦笑いしているレジェリーにクライドはため息交じりに呟いた。
「お前はそういう奴だ。だから、これからもそうしていると良い。」
「言われなくても、これがあたしだもん。」
「そうだな…」
クライドは後ろを向き、呟いた。
「…お前の言ったこと、忘れていないからな。」
「えっ?」
「…独りにさせない、と言ったろう。神々の領域で。」
「うん。何よ、当たり前じゃん。」
レジェリーは当たり前のように言うが、クライドは少し照れているのか表情を見せない。
「……時々、顔を見に来てやる。」
「…照れてる?」
「五月蠅い。もう行くぞ。」
クライドは歩き出す。
「ねぇ、ボルドー様の戴冠式と結婚式出るんでしょ?」
「…気が向いたらな。」
「絶対来なさいよ!!欠席とかあり得ないんだから!!」
「…分かった。」
クライドはかったるそうにそう言い、後ろを向いたまま去って行った。
「…ほーんと、口が下手っていうか、何と言うか。」
レジェリーは小さく微笑んだ。
「礼を言うのはあたしもだってば。」
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ボルドーの計画する5日後の戴冠式、結婚式、そして世界平和を祝福する特別な式の話は抑止力の中にも伝わっており、ドラゴニア城の一室では抑止力が集合していた。
エテルネルとヴァジャスは神々の領域からの念話で、残りの8人は各所から集まっていた。
「へぇ、面白そうだねぇ~」
ナチュラルは参加に積極的だった。
「良い機会だし、皆で見守らないか?新しい世界の始まりってやつをよ。」
アトメントも同じく積極的な意見だった。
「私は面倒だから遠慮したいのだけれど。」
「…そういうのは当事者だけでやれば良い…そういうのは苦手だ。」
アーチャルは消極的だ。
ガディアルもやや乗り気ではない様子だ。
「と、いうわけじゃがどうかな?エテルネル、ヴァジャス。」
「えっ、僕たちも?」
「私たちは…」
エテルネルとヴァジャスに中立的な立場のレクシアが聞くが、エテルネルとヴァジャスは自分たちも参加を促されると思っておらず困惑した。
「えっと…どうしよう。僕らも参加しちゃっていいのかな。」
エテルネルは遠慮しがちな雰囲気を見せている。
「…エテルネル、私たちもずっとここに居ては神として示しがつかぬのではないか、私は見てみたい。世界の新たな風が吹く瞬間を。」
ヴァジャスは珍しく積極的な意見を述べた。
「あんたがそう言うの、珍しいわね。」
アーチャルが呟くが、ヴァジャスは「私たちは消極的になり過ぎていた。イビルライズの活性化についても様子を見続けた結果がこの有様だ。思い立ったら行動せねばならない。そう思ったのだ。」と、心の変化を語った。
「…そうかもね。それに、僕もみんなに会いたいし。行こうよ、ヴァジャス。」
「ウム。共にドラゴニアへ行こう。」
「あーあ、エテルネルが顔出すなら私たちも出さないわけにはいかないじゃない、ガディアル。」
「…そう、だな…まぁ…良いだろう。彼らには世話になったからな…」
アーチャルとガディアルも仕方なく了解した。
「ウム、決まりじゃの。デーガとカタストロフもそれでいいな?」
「あぁ、構わねぇよ。」
「ウム。それで良い。考えてみれば我らは恐らく傍観者側ではないだろうからな…」
「あ?どういうこったよ?」
カタストロフは含みがありそうな言い方をする。
「世界の平和を祝する式…ビライトたち英雄と呼ばれた者たちには我々も含まれているはずだ…故に、当事者だ。参加は必須と見る。」
「げ、そうなるのかよ…怠いな…」
デーガは面倒そうだが、カタストロフは少し乗り気なのか嬉しそうに見える。
「我も、怯えることなくこの国で過ごすことができるようになる…それは、とても嬉しい。」
「あーそっか…お前、レジェリーとここで暮らしたいんだっけか。」
デーガの言葉にカタストロフは頷く。
「そういうことなら仕方ねぇか。お前の前向きな気持ちに付き合わねぇほど俺も非情じゃねぇ。」
「感謝する。」
抑止力全員の参加が決まった。
5日後、更に大きなことになりそうだ。
「さて、その話は決まったら次はビライトとイビルライズのことについて話をせねばなるまい。」
ヴァジャスは本来の議題へと話を移す。
――
「ビライトのことだが、当面我々抑止力で彼の監視を行う。監視と聞くと堅苦しく思うかもしれぬが、ただ彼の動向を見守るだけで良い。」
「イビルライズは眠っている。次期に目を覚ますかもしれないけれどビライトがブレイブハーツを絶やさない限りイビルライズが活性化する可能性は無い。つまり僕たちがやるべきことは…」
「なんだよ、ビライトのメンタルケアでもしろってか?」
アトメントはやれやれと呆れた態度を見せる。
「子供じゃねぇんだからよ、自分の管理ぐらい自分でどうにかするだろ。」
アトメントは言う。管理は大事だがあまりやりすぎるとそれは過保護となり、抑止力の“有事の際には動くがあくまで見守る立場”というスタンスが崩れてしまう。
「…そうだね、ビライトなら大丈夫だと思う。だけど彼の様子の確認は必須事項だ。それは変えられない。干渉するしないは自由だ。それなら良いね。」
「まぁ、それなら。」
アトメントは納得し、それにデーガとアーチャルは頷いていた。2人も同じような意見を持っていたのだろう。
「そして今後、僕たち抑止力は定期的に外に出て世界の様子を見て回る必要があるかもしれない。僕とヴァジャスは世界のバランスを維持するために領域から長時間離れることが難しいから、そこはみんなに頼みたい。」
エテルネルはヴァジャス以外の抑止力にお願いするが…
「俺は領域を引き続き守ることに注力する。故にそれには賛同せん。他に任せる。」
ガディアルは前から自分の務めである神々の領域の守護を続けたがっている。
「ま、お前の身体のでかさと威圧感じゃ逆にビビらせちまうわな~」
アトメントはからかうようにガディアルに言うが、ガディアルはそれに対しては完全無視を決め込んでいる。
「俺はアーデンに戻る。ついでにレミヘゾルは俺が見てもいい。人が住んでいるところも少ないしな。カタストロフはドラゴニアでレジェリーと暮らすことを希望している。」
「ボクもドラゴニアが気に入ったから時々顔見せに行こうかなぁ~」
「私はヒューシュタットから動くつもりはないわよ。」
それぞれが自分の居場所を希望する。
デーガはアーデンに。カタストロフとナチュラルがドラゴニア。アーチャルはヒューシュタットだ。
「では儂はワービルトと東部を中心に全体を見ておこうかの。アトメントはどうするつもりじゃ?」
「俺は…さて、どうしよっかねぇ。」
残り物を選んだレクシアだが、アトメントはまだ定まってはいないようだ。
「迷ってんのか?じゃお前がビライトの様子見とけばいいだろ。」
デーガがアトメントに提案する。
「俺がぁ?え~…まぁ、たまにならいいけどよォ。」
少し面倒そうな顔を見せるアトメント。
「世界各地を旅するつもりらしいし、君も前から世界中を宛もなく歩き回ってたんだし良いんじゃないかな。」
エテルネルも賛成の意志を示す。
「美味いものにありつけるかもしれぬぞ。」
ヴァジャスもその気にさせようとしている。
「かァ~ッ、口が上手いこって。まぁ良いぜ。たまに様子を見に行ってやる。けどテメェらも手伝えよな。」
「ウム、そのつもりじゃ。」
「しゃーねぇなァ。ま、俺もクライドと色々な場所に行くことになりそうだし…いっか。」
抑止力たちはこれからの動きについて話をまとめた。
エテルネルとヴァジャスは、世界のバランスを維持するために神々の領域に在中。
ガディアルは今までと同じく神々の領域の守護。
デーガはアーデンに帰り、レミヘゾル全体を担当。そしてクライドと共に行動する際は世界を回る。
カタストロフはドラゴニアでレジェリーと暮らす。
ナチュラルはドラゴニアへ定期的に顔を出す。
アーチャルはヒューシュタット。
レクシアはワービルトと東部を中心に全体を見る。
アトメントはビライトの様子を見つつ変わらず世界中を旅する。
ビライトの様子はアトメントが中心だが、外に出ている抑止力たちも定期的に様子を見る。
この方針で一旦抑止力たちは今後を動くことになった。
「よし、決まりだ。じゃヴァジャス。僕たちもドラゴニアに行く準備をしよう。」
「あぁ。ひとまずは解散だ。」
抑止力たちは解散し、それぞれが赴くままに散っていった。
「カタストロフ。」
「デーガ、どうした?」
「いや、ちょっと話をしとこうと思ってな。」
デーガとカタストロフは一緒にドラゴニアの外れへと移動した。
―――
「どうしたデーガ。」
「いや、改めて聞いておこうと思ってな。お前、本当にこれからレジェリーと暮らすつもりなんだな?」
「…あぁ。そのつもりだ。」
「…そうか。なんつーか、俺が聞くまでもなく覚悟も決めちまってるみてぇだな。」
デーガの言葉にカタストロフは申し訳なさそうにする。
「…すまない。お前と離れることは本意では無いが…我は、これからレジェリーとの時間を大切にしつつ、この世界のことももっと知りたいのだ。そのために我はドラゴニアで学びながら、共に暮らしていきたい。」
「あーそれは好きにしたらいい。俺が心配してんのはレジェリーのことだよ。」
「…分かっている。それも覚悟しているつもりだ。」
「…良いか。お前がいつか帰る場所は“俺のところだ”。それだけは忘れんじゃねぇぞ、相棒。」
「…あぁ、ありがとうデーガ。」
デーガが言いたいこと。それはレジェリーがいつか年老いて亡くなった後のことだった。
カタストロフにとって人間1人の命が産まれ、失われるまでの期間などあっという間だ。しかしカタストロフはレジェリーに恋をし、この僅かな時間を一生忘れられないかけがえのないものにしようとしている。
しかし、それには儚くもすぐ終わってしまうだろう。その時、カタストロフの帰るべき場所を示してあげること。それが相棒であるデーガの務めだと。
デーガはそうカタストロフに改めて伝えたのだ。
「…ま、時々様子を見に来てやる。それにお前もトーキョー・ライブラリのこともあるだろうからそん時はアーデンにも顔出せよ。」
「あぁ。分かった。」
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それぞれが思い思いに時間を過ごし、陽が沈み夜となった。
普段のドラゴニアであれば陽が沈むころには街の賑わいはなりを潜め静かになっていくのだが、今日は違った。
「「「「かんぱーーーーーい!!!」」」」
世界各地から多くの人々が集い、ドラゴニアの街全体は大賑わいであった。
特に城の中や城周辺では埋め尽くされるほどに多くの人々が祝福に包まれており、盛大に盛り上がっていた。
ワイワイと話をする人々。そしてまだ愛する人たちを失った悲しみから抜け出せていない人たちを励ます人たちだったりと、様々な感情を持った人々がひしめき合う夜。
酒を飲みあかし、笑いあったり、涙を流しあったり。
多くの人々が賑わいの中それぞれの在り方でこのパーティを過ごしていた。
ビライトたちもその中に混ざり、多くの人々から感謝され、称えられた。
「改めて、よく帰って来たな!ありがとうよッ!」
「ガハハ!お前もよく頑張ったぜッ!」
ボルドーとヴァゴウはグイッと酒を飲む。
「おっ、良い飲みっぷり!」
ヴァゴウはゲキとボルドー、そしてデーガ、アトメントと一緒に飲みあかしている。
「おうそうだボルドー。世界の狭間でフリードに会った。」
「…そうか。何て言ってた?」
「“儂の心は皆と共にある”…だってよ。」
「…そっか、国民にも伝えてやらねぇとな。」
「おう!あとお前のことも任された。ああ見えて神経質なところがあるからなだってよ!」
「うぐっ…!痛いところを突く…!」
「ガハハ!」
「ホレホレ!辛気臭い顔してんなッ!盛り上がれッ!あらよっと!!」
アトメントがヴァゴウとボルドーに絡み、ワイワイと盛り上がる。酔っ払って踊ったりと大賑わいだ。
途中からガディアルも無理矢理参加させられたが、頑なに酒を飲もうとしない。
アトメント曰く酒癖が非常に悪いようだが、ヴァゴウたちの悪乗りで酒を飲まされ、暴れられた…らしい。
後のボルドー曰く「最強の守護神でも酒酔いには勝てないらしい」だそうだ。
レジェリーはカタストロフと2人で城のバルコニーで語り合い、クライドは楽しむことよりは手伝いの方をしているようで、厨房や城のホールを行ったり来たりしている。
クライド曰く、「報酬稼ぎ」だそうだ。
それを見たメギラも面白そうだからとクライドを手伝っている。それを気にしてかナチュラルも手伝い側に回っている。
メギラは“獣人の色が濃い竜人との混血”ということで通っており、魔物だとは認識されていない。そもそも会話ができる魔物自体が希少であるため、本当に魔物だとは思われていないようだ。
メルシィはブランクを静かな部屋で寝かせ、ベルガと一緒に食事を楽しんでおり、そこにはレクシア、カナタ、サーシャ、アーチャルも同席していた。
「騒がしいところはちょっと…」や、「五月蠅いのは嫌いなの」など色々な理由があるようだが、何より今の状況は皆穏やかでありゆっくりと過ごすことができて都合が良いようだ。
カナタもすっかりなじんだようで、笑顔をよく見せるようになっていた。
特にブランクもよく懐いてくれるようで、ナチュラルもよく様子を見に来てくれるようで、特にこの2人とは仲良くしている。
「これからもよろしくお願いしますわ、カナタ。」
「うん。私…ここに居られて幸せだよ。」
カナタも新しい一歩を歩んでいく。
これからは1人の人間として、歩いていくのだ。
――
そして、ドラゴニア城屋上。
ここは比較的人が少なく静かだった。
城の下や中からは賑わいの声が聞こえる。
今このドラゴニアでも有数の静かなスポットであろう。
そこにビライトたちは居た。
「あはは、多くの人たちに話しかけられすぎて疲れちゃった。」
「そうだな、でもここは人も少ないし静かだな。」
綺麗な夜空が輝き、見ているだけで吸い込まれそうな藍色に癒される。
「…色々、あったな。」
「うん。」
「最初はキッカの身体を取り戻す旅だったのに、気づいたら俺たち英雄になっちゃったんだもんな。」
「そうだね、本当に…それに私たちもたくさん忘れてて、たくさん知って…なんだか明日からいつも通りの時間に少しずつ戻っていくんだって思うと、ちょっと寂しいね。」
キッカは今までの旅や起こったことを思い返す。辛いこともあったが、楽しかった。
「あぁ、そうだな…みんなで旅ができなくなるのは寂しいけど…でも俺たちはまた新しく旅をする。たくさん楽しい思い出を作れるさ。」
「うん。そうだね。でもね、またいつかみんなと旅もしたい。」
「俺もだよ。いつか叶うといいな。」
遠くを見つめ、ビライトは呟く。
「そうだ、俺たちの旅はまだ終わらない。」
ビライトとキッカの旅はまだ終わらない。これからも続いていく。それはビライトにとってクロと向き合う為の旅でもあり、この世界を楽しむための旅なのだ。これまでとは違う明るく前向きな旅だ。
これからも続いてくシンセライズで繰り広げられる小さな旅だ―――
――――
人々が賑わう盛大なお祭りは夜遅くまで続いた。
やがて徐々に盛り上がりは小さくなり、深夜になる頃には明かりも徐々に消えていき―――ビライトたちもドラゴニア城で眠りにつき…
そして夜が明けた。
それからビライトたちはボルドーたちの戴冠式、結婚式、そして世界平和の祝式を実現させるべく、手伝いを進めた。
物資があまり無い中ワービルトやヒューシュタットが進んで提供をしてくれており、各地の村や街、ドラゴンの集落からも物資が提供され、ドラゴニアの復興と、式の準備が順調に進んでいく。
その協力の度合いはドラゴニアの予想を遥かに超えており、式が終わった後はすぐに復興を進め、早急にライフラインを復旧させ、その恩返しをしなければならないと意気込んでいる。
これには神々の関心しており、人々が力を合わせるととんでもない力を生み出すのだと改めて知らされたと感服していた。
多くの人々が力を合わせ、そして時間はあっという間に過ぎていく。
そしてついに、式当日を迎えることとなった―――
----------------------
~式当日
ドラゴニア 英雄バーン像の広場~
ビライト、キッカ、ヴァゴウの3人はエテルネルたちを待っていた。
「おおーーーい!!」
「あっ!エテルネルさんにヴァジャスさん!」
「ルフも居るじゃねぇか!久しぶりだなァ!!」
「いえ~い、元気だった~!?」
世界各地からも多くの人が集まっていた。
空には多くのドラゴンたちが飛び交い、広場には様々な種族が交流していた。
これだけ多くの人々が居るのは過去にも無いらしく、ドラゴニアの商売人も気合十分であり、市場も大盛り上がりだ。
神々の領域からやってきたヴァジャスとエテルネルもドラゴニアに無事到着し、そこにはルフも同伴していた。
「トーキョー・ライブラリは良いのか?」
ヴァゴウが訊ねるが、「世界平和を祝うんだから当然こっちが優先!みんなにも会いたかったし!」
と、元気そうに振舞っていた。
「また会えて嬉しいよ。」
「俺も~!あっ、そうだ、クルトとカタストロフいる?」
「あぁ、カタストロフは祝式の準備を手伝ってる。城に居ると思うぜ。クルトは病院だ。」
「そっか!ちょっと行ってくる!あとでね~!」
ルフは手を振って城へと走っていく。
「あらら…挨拶する間もなく…カタストロフさんとクルトさんに用事ってなんだろ。」
「さぁ…?それにクルトさんと知り合いだったんだ。」
キッカはルフとは初対面なため挨拶をと思ったが、先にルフが行ってしまった。
そしてルフがクルトを知っていることを不思議に思うビライトとキッカだが…
「あぁ、そろそろ式が始まる時間じゃねぇか?ホレホレ、ワシらは参加者じゃなくて当事者だからよ!ワシらも城行くぞ!ヴァジャスとエテルネルもついてきてくれよなッ!」
事情を知っているヴァゴウは話を誤魔化しつつ、ビライトたちを城へと誘導した。
―――
「ウム、ここはこうしたら良いか…?」
「はい、お願いします。」
「ウム。承知した。」
カタストロフは城の入り口で飾り付けを手伝っていた。
カタストロフは背が高いため色々な所で重宝されているようで引っ張りだこだ。
力もあり、魔法も使えて大助かりのようだ。
カタストロフ自身も皆の役に立てており嬉しく、そして自身が受け入れられており、物珍しい容姿に惹かれて子供からも人気を集めているようだ。
「おーい!カタストロフ~!」
「ム、ルフではないか。来ていたのか。」
「うん、エテルネルたちに連れてきてもらったんだよね~」
「そうか。」
「で、さ。ちょっと話があって。良いかな。病院も行かないと行けなくてその道中にでも。」
「あぁ、少し待ってくれ。」
カタストロフは装飾をいったん止め、事情を説明して少しだけ持ち場を離れることを話していた。
しっかりコミュニケーションも取れているようで、そんなカタストロフを見てルフも嬉しそうだ。
「待たせたな。それでは参ろうか。」
「オッケ~」
ルフとカタストロフは病院に向かう。
「――病院へはクルトにか?」
「うん、病院にいるってことは活動限界なんだよね。何か力になれたらなって思って。あと会うの初代以来だから1000万年以上ぶりだったり!」
「…そうか、随分とご無沙汰のようだな。」
抑止力やルフは一般の人々とは時間の感覚が違うようで、こういう話でも平然としているのは、境遇が似ているところもあってお互いに話しやすい。
「ところでルフ。我に話とは。」
「聞いたよ。レジェリーと一緒に暮らすんでしょ。ドラゴニアで。」
「あぁ。だがルフ。お前のことも忘れてはおらぬぞ。トーキョー・ライブラリとドラゴニアを行き来しつつ、トーキョー・ライブラリの修繕と自動化の手伝いをするつもりだ。」
カタストロフはそのつもりでいる。なかなか手間のかかることではあるが、カタストロフにとってはどちらも大事なことが故に両方を満遍なく行おうと決めているようだが…
「あぁ、それの話をしたくてさ。それ無しでいいよ。」
「…!」
ルフはカタストロフに告げた。
「何故だ?我はトーキョー・ライブラリを破壊してしまった。これは罪滅ぼしなのだ。」
「あぁ、無しっていうのはね。手伝ってくれるのは嬉しいけど…君は君の大好きな人と一緒にいなよ。俺のことはその後で良い。」
ルフはトーキョー・ライブラリよりもレジェリーを優先して欲しいとお願いしている。カタストロフは驚きを隠せないが…
「あのね、カタストロフ。人間ってあっという間に死んじゃうんだ。君にとって彼女は今までに出会ったことがないほど素敵な人で、心から愛しているんでしょ。だったら1日でも多く彼女と一緒に居てあげるべきだよ。」
「しかし…」
「誰かを失う悲しみは俺にもよく分かる。俺も友達を先に見送ったことがあるし、後悔もしてる。だからカタストロフ、後悔しないように、ね。」
ルフはカタストロフのことを想い、そう言ってくれている。
「…ありがとう、ルフ。全てが終わったら必ず手伝いに行く…ム、そうだな…お前がここに居るということは…オールドとレミヘゾルの境界線は無くなったということになるのだろう?」
「え、うん。そう聞いてるけど。」
「では…お前が良ければ我が三大国家に交渉をしてみよう。トーキョー・ライブラリの修繕と自動化の協力を頼めないか。」
「うーん…それアトメントにも同じこと言われた。嬉しいんだけど…それだと取引が成立しないよ。俺から提供できることって無いし…」
手伝ってもらうということはそれに見合う対価が必要だ。ルフにはそれを提供できるだけのものを持ち合わせてはいない。
「そうか…難しい、のか…」
「取引ってそんな甘いモンじゃないんだよ~?大丈夫大丈夫。君のやりたいことが全て終わるまで待ってるし、他の抑止力にも相談してみるよ。」
カタストロフの提案は叶わないようだが…
「…ダメ元でも構わぬ。我がボルドーを通じて相談してみよう。」
「…ありがと。でも無理しなくていいからね。」
「あぁ。」
ルフがしたい話を終えたと同じぐらいのタイミングで病院に到着したルフたち。
「着いたね。あ、でも俺クルトに会えるかなぁ。多分クローン技術はドラゴニアでも機密だと思うからどこの誰ともわからない俺、もしかしたら会えないかも。」
「…そういうものなのか。我では駄目だろうか?」
「…いけるかもねぇ。だって君、英雄だろ?」
「…その呼び方はやめてくれ…恥ずかしい。」
―――
病院を訪ねたルフたちはクルトの病室へと向かう。
ルフ一人だとやはり入れそうになかったが、カタストロフが話をするとアッサリと通してくれた。
「ホント助かった~。カタストロフ、すっかり有名人だね。」
「ムム…」
恥ずかしそうにしているカタストロフを笑いながら、ルフはクルトの病室をノックする。
「はい、どうぞ。」
「こんにちは~」
「邪魔をする。」
「…あぁ…あなたは…」
最初2人を見て間が空くが、クルトはルフを見て思い出したかのような反応を見せ、微笑んだ。
「お久しぶりですね。ゼ…あ、いえ、今はルフさん、でしたね。」
「うん。久しぶり、クルト。」
「…?」
クルトは違う名前を呼ぼうとしていたが言い直しをした。カタストロフは疑問を感じるが今は何も気にしないことにした。
「そしてあなたはカタストロフさん、ですね。」
「ウム。分かるか…?」
「デーガさんと似た雰囲気を感じましたから。」
「そうか。」
クルトは古代人だ。抑止力の事も全員知っている。カタストロフとは深いかかわりがあったわけではないが、デーガの中に居た時から存在は知っている。
「身体、ヤバそうだね。あと1日も持たないかも。」
「そうですね。でも…それで良いんです。今日を迎えるために私はここまで生きてきたのだから。」
クルトは病室の窓からドラゴニア城を見る。
ボルドーが王となる日。これをずっと待ち望んでいたのだから。
「クルト、クローン生成装置の場所勝手に行っても良い?君が死んだあとのメンテナンスは俺にやらせてくれないかな。すぐに動けるようにしてあげた方が良いよね。」
「…助かります。いつもは産まれてきてすぐの私が行っていますが…慣れるまでに時間がかかってしまいます。特にこのような大きな行事の際にずっと姿が見えなくなるのは違和感にしかなりません。私からもお願いしたいです。」
クルトはルフに自身の死後と、新しく産まれてくるクルトのメンテナンスを依頼した。
本来なら新しいクルトが動けるようになるまでにはそれなりの時間がかかるようだが、ルフがそれを手助けすれば短時間で動くことができるようだ。
「…こうやって魂が維持されたまま、また生まれ変わるのだな…」
「複雑だよね。でも、俺たちが決めた道だから。」
「…ウム…否定はできぬよ。我もかつては魂だけを生き永らえ、次の世代の魔族へと憑依し続けていたのだ。我も…お前たちと同じだ。」
カタストロフには理解がある。だからこそ、ルフも安心してカタストロフを信頼して話が出来る。
この3人には不思議な関係性が構築されているのだ。
「じゃ、俺は装置の場所で待機してるね。カタストロフも付き合ってくれてありがとう。」
「ウム。見つからぬように…ウウム…心配だな。ルフよ。我が空間移動で移動させてやるから場所を教えろ。」
「あっ、助かる~ホント、君って気が利くよね~。」
「ほ、褒めても何も出ぬぞ。」
カタストロフは少し照れながら、ルフを抱え、空間を使いフッと消えていった。
「…思わぬ…幸運でしたね。これで安心して…見届けることが出来ますよ、ボルドー様。」
クルトは微笑みながら、城を見つめ続けるのだった。
----------------------
準備に大忙しの城で、ビライトたちは会議室に集まっていた。
結婚式と戴冠式の主役を飾るボルドー一家、そしてヴァゴウ、抑止力たちの姿が見えないが、彼らは別の場所で待機している。
この場にいるのはビライト、キッカ、レジェリー、クライドの4人だけだ。
「いよいよ始まるんだな。」
「あたしなんか緊張してきちゃった。」
「私もだよ~。こんなの初めてだもん!」
ビライトたちは一般人ではない。結婚式や戴冠式も特別な席が用意されており、祝式では言葉を発する機会もあるだろう。
外では大賑わいだが、ここでは少しばかり緊張が感じられた。
「ね、クライド。」
「…何故俺に聞く…」
「あんたも緊張してるんじゃないかって。」
「していない。」
「ふ~ん、ほんとかな。」
レジェリーは気を紛らわすためか、クライドと話をする。
「ね、みんなに本当にお礼回りしたの?」
小声でクライドに尋ねるレジェリー。
クライドは小さくため息をつきながら、小さく頷いた。
「ふ~ん…」
「なんだ…」
「別に?良いところあるじゃんって。」
「…ハァ。」
睨み合いになる2人だが、クライドが先にため息をつき、目線を逸らした。
「お前こそ良いのか、この式が全て終わったら本当に俺たちは違う道だぞ。」
「あたしはそうは思ってないからいいもん。」
「…お気楽だな…」
「あたしは誰とも縁を切るつもりなんてないわよ。これからもみんなと仲良くしたいもんね。」
レジェリーは笑顔で答える。クライドもまんざらでもないようで、小さく息を吐きながら「お前は変わらんな」と呟いた。
それからしばらくして、扉を叩く音が聞こえ、兵士がビライトたちを呼びに来た。
「皆様、準備が整いました。これより結婚式と戴冠式を行いますので、私についてきてください。」
「はい、分かりました。」
「は~い!」
ビライトたちは案内され、式場へと移動する。
――
式場は城の大広間を使用しており、美しい白銀の装飾が彩られている。
豪華な花や長椅子が置かれ、魔法がかけられているのか、周囲の壁もよりキラキラと輝いている。
「わぁ~…!!」
「こちらへどうぞ。」
ビライトたちは最前列に招待された。
そこには既にヴァゴウがおり、ビライトたちが合流した。
この式は全て、各主要都市とコルバレー。レミヘゾルではアーデンにて中継されている。
これはヒューシュタットの技術でありドラゴニアの様子が世界各国で見れるようになっているのだ。
機械を三国で運び、僅か5日でこれらを実現させてしまうほどの力。三大国家の力を合わせることで実現した荒業だ。
「あれ、抑止力のみんなは?」
「アイツらは遠くから見てるってよ。近くで見たいのは自分たちではなく、国民だろうってことでな。」
抑止力たちは最前列ではなく、式場の奥から見守ることになった。
その代わり、祝式では最前列を飾ることになるだろう。
メギラも騒がしくしそうだということで抑止力たちに説得されて遠くから見ることになっている。
「素敵!綺麗な装飾に綺麗な花、うわぁ、憧れちゃうなぁ。」
レジェリーは目を輝かせている。
「レジェリーちゃんもカタストロフとやっちまえよ。」
「えっ、やだもう!ヴァゴウさんてば!!」
「あはは…」
顔を真っ赤にするレジェリーにビライトたちが笑う。
そんな話をしていると、どんどん関係者たちが式場に入ってくる。
ベルガ王やカナタ。
車いすに乗っているクルトを始めとしてドラゴニアの重鎮たちがぞろぞろと入ってきており、ビライトたちもそれぞれに挨拶をしつつ、式の開催が待たれた。
やがて煌びやかな光がフッと消え…
~♪
楽器の音が聞こえる。
式の裏手にはヒューシュタットが抱える音楽団が居た。
ヒューシュタットの人間たちが誇る様々な楽器と同時に大扉からボルドーたちが現れた。
「おお~!」
ボルドーは歩くことができないため、車いすに乗っての登場だ。
本人は身の引き締まった服は好みでは無さそうだが、ピシッとした白く、裏地が赤色の派手な貴族服での登場。
城のメイドに車いすを押され、そしてメルシィは純白のウエディングドレスに身を包み、ブランクを抱きながらの登場だ。
「わぁ~!!素敵なドレス!!ボルドー様もかっこいい~!!」
「凄い!私も着てみたい!」
キッカやレジェリーは大興奮だ。女の子なら憧れるウエディングドレスに目をキラキラと輝かせる。
ビライトたちもその瞬間に感極まってしまう。
「凄い…!」
「うっ…うっ…うおおお…ボルドーぉぉぉぉ…!よがっだなぁ~!!」
「オ、オッサン落ち着けよっ!」
ヴァゴウはまだ始まったばかりなのに大号泣していた。友の結婚式がこんなにも嬉しいのだと涙をボロボロと流していた。
「これより、ボルドー・バーン様とメルシィ・バーン様の結婚式及び、ベルガ・バーン王からボルドー・バーン様へと王位を継承する戴冠式を行います。」
結婚式の後、インターバルがあり、その後に戴冠式が続けて行われる。
そしてその後は場所を移し、祝式が行われる。
今日だけで3つの式が行わるという長時間の行事となるが、人々は今日を心待ちにしてきた。
「それでは誓約を行います。新郎新婦はこちらへ。」
ドラゴニアの教会を運営する竜人神父が2人の前に立ち、その瞬間に息を呑む。
ボルドーは車いすから立つ。実は大事な場面だけコッソリ神々が神力を与えるようにしているのだ。
今の状態は最小限に負担を抑えながら、式を進めている。
静寂の中、神父の横に、ブランクを抱いているカナタが立つ。
そして神父は口を開く。
「新郎ボルドー・バーン様、あなたはメルシィ・バーン様を妻とし、子ブランク・バーンと共に次期国王、次期王女として、国を支えながら、そして悠久の時、いかなる困難が訪れたとしても、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「「誓います。」」
ボルドーとメルシィはお互いを見つめ合ったあと、神父に誓う。
「それでは、その証として指輪の交換と、誓いの口づけを。」
ボルドーの大きな指に、メルシィの小さな指に指輪がつけられ、そして2人は口づけを交わす。
「~!!!」
「ワアアーー!!」
拍手と喝采が巻き起こる。2人の結婚を祝福し、多くの国民が歓喜に包まれた。
「おめでとう、2人共。」
2人は見つめ合った後に、カナタからブランクをメルシィに渡し、メルシィはブランクを抱く。
そして2人は観客たちを見る。
「皆、急に決まった式に参列してくれてありがとう。心から感謝する。」
「私たちはこれから国のために支え合って生きていきます。この国を背負いながら、国民の皆様に寄り添いながら。皆様も私たちの家族でございます。だから、どうか私たちと一緒に歩んでください。お願いします。」
2人は頭を下げる。
更に拍手が巻き起こる。
「それでは、2人の結婚を祝し、代表の方からのお言葉を頂戴いたします。代表、ヴァゴウ・オーディル。」
「よし来た!」
ヴァゴウはボロ泣きしていたが、この時ばかりはグッと涙をこらえて立ち上がる。
「オッサンだ。」
「うわぁ、代表だなんて!素敵!」
ヴァゴウが前に出て、ボルドーたちの前に立つ。
「ボルドー、メルシィ。結婚おめでとう!ボルドー、ワシは幼いころからお前のことを知ってるが、小さい頃から何も変わらず国民のことが第一だったお前だが…まさか1人の女性と結婚するに至るなんて思いもしなかった。」
「…そうだな。」
「だから正直、今でも夢なんじゃねぇかって思っちまうけど、現実だ。子供の頃にもお前に救われて、大人になってお前と再会して、お前にまた救われて…お前には本当に助けられっぱなしだった。だからよ、お前が今こうやって結婚して幸せな気持ちでいられていること、本当に嬉しく思うぜ。」
「…照れるな…けどありがとな。」
ヴァゴウは次第にまた涙声になってしまいウルウルしている。
「これから王になってボロボロになっちまった国を立て直すために忙しくなると思う。大変なことも沢山あるだろうけど、ワシや、このドラゴニアの皆はお前の味方だからよ。何かあったら絶対に相談しろよな。何があってもワシは…お前の友達だからな!」
「…へへっ、ありがとよ…」
「そしてメルシィ。」
「はい。」
「ボルドーは何でも一人で突っ走ろうとする癖があるし、結構神経質なところもあるからよ、支えてやって欲しい。」
「はいっ。」
「短い時間だったけど、少し旅をしてても分かった。メルシィは優しくて
芯の強い素晴らしい女性だってよ。だから、ワシの最高のダチを…頼んだぜッ!」
「はいっ、私が絶対に支えます。」
ヴァゴウらしい砕いた言葉で贈る祝福に観客からも拍手が巻き起こる。
そんな言葉に皆が涙を流していた。
ヴァゴウもこらえ切れなくなり涙をボロボロと流す。
それにつられてボルドーとメルシィも涙腺が緩む。
握手を交わし、ヴァゴウは席に戻っていく。
「オッサン、良かったよ!」
「ヴァゴウさんらしかったね!」
「ウグゥッ…ウウッ、ウオオオン…幸せになれよぉぉぉぉ…!」
ヴァゴウは再び号泣してしまった。
「ヴァゴウ様、ありがとうございました。続いて披露宴を行います。移行準備を行いますのでしばしお食事とご歓談をお願いします。」
運営を行う人々が移行準備を行い、ボルドーとメルシィは一旦退場する。
「オッサン落ち着いたか?」
「お、おう…すまんつい感極まっちまって…」
「あはは、でも仕方ないよね!私も泣いちゃったもん…!」
「ホント素敵だわ~、憧れちゃう~!」
「…良いものだな。」
ビライトたちはそれぞれ会話をしながら披露宴を待つ。
「ね、ご飯食べよ!美味そうなものがいっぱいよッ!」
「あ、お、おいっ!」
レジェリーはクライドを引っ張っていき、用意されている食事に手を付け始めた。
「俺たちも行くか。」
「うん!」
ビライトとキッカはヴァゴウと一緒に食事を楽しむことにした。
----------------------
披露宴がやがて始まり、ボルドーとメルシィ、ブランクが再び入場し、乾杯が行われる。
ドラゴニアの食材を生かしたフルーツケーキが入刀され、それを食べさせ合う2人。その後再び食事と歓談が行われた。
「ボルドーさん、おめでとう!」
「おう、ありがとうな。」
「素敵でした!メルシィ様っ!ブランクも笑っているわね!」
「あう~!」
「ありがとう、こんなに沢山の人に祝ってもらえてとても嬉しいですわ。」
団らんの中、ボルドーはソッと席を外し、クルトの元へと向かっていた。
生命維持装置を付けた状態で車いすでその様子を後ろから見ていたクルトは静かに涙を流しながら見届けていた。
「クルト!」
「あぁ、ボルドー様…」
「見ていてくれたかッ?」
「えぇ…素晴らしい式をありがとうございます。私は…幸せでございます。」
「ハハッ、まだ早いぜ。披露宴はスケジュールの関係で短めなんだ。すぐに戴冠式も始まるからな。期待してろよッ。」
「はい、それが私にとっての本命ですから。」
ボルドーは笑顔を見せ、再び披露宴の舞台へと戻って行った。
「明るいですね…本当に、あなたはこの国の太陽だ。」
クルトはそう思い、静かに見届けるのであった。
時間の都合で披露宴は短めになっており、ベルガ王やヴォロッド王、ホウ王と各国の代表による手紙の朗読、記念品の贈呈などが行われ、最後にボルドーとメルシィが皆に感謝を伝える。
「大変な中、足を運んでくれて感謝する!まだ悲しみが癒えぬ者たちも居るだろう。だが、我々はこの国を前以上にもっともっと素晴らしい国にしていきたいと思っている!だから…これからも力を貸してくれッ!」
ボルドーの声に拍手と喝采が贈られ、2人は退場していくのだった。
「続きまして、戴冠式を行います。再び移行準備に入りますのでしばらくお待ちくださいませ。」
結婚式、披露宴が終わり、忙しなく次は戴冠式の準備が始まった。
多くの人々が慌ただしく動き、舞台が結婚式の煌びやかな雰囲気からしっかりとした堅実な空間へと早変わりしていく。
ボルドーたちも結婚式用の服を着替え、戴冠式用の正装へと着替え、すぐに戴冠式が始まる鐘が鳴り響くのだった。
それからというもの、先程までの明るく眩しい煌びやかな雰囲気は消え失せ、国民たちもゴクリと息を呑んでいた。
堅実に、厳格に。そして…この国の王がベルガ王からボルドー王に引き継がれるための大事な式だ。
ビライトたちもその雰囲気に呑まれ、真剣にその式を見届ける…
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「我らがドラゴニアを守りし歴代の大いなる王たちよッ!!ここに新たな王がその冠を被ります!我らが歴代王たちよッ!新たなる王を祝し、未来永劫守り給えッ!!」
「「「「「王よッ!!」」」」」
盛大な楽器の音と共に厳格な風格をまとった正装を纏い、ボルドー、メルシィが現れる。
玉座に座るベルガがドラゴニア王の名を冠する冠を被っており、2人を迎え入れる。
メルシィは後方に下がり、ボルドーはベルガの前に立ち、膝をつく。
「我が王にして父、ベルガ・バーン。この度、ボルドー・バーンは正式に王位を継ぎ、我が国、ドラゴニアをより強き、素晴らしき国としていくことをここに誓う。」
ボルドーは今までのおおらかで堅苦しいことは苦手だった雰囲気とは全く違い、厳格に、そして真剣に、心に強く決意を固めた目でベルガを見つめ、宣誓した。
「…ボルドー・バーン、我が息子よ。そなたの覚悟を受け、私は正式に王位をそなたに譲り、この冠を授ける。」
ベルガは膝をつくボルドーの頭に冠を乗せ、ボルドーは「確かに、承った。」
続いてメルシィもベルガより王妃となることを正式に告げられ、メルシィも王妃の証である首飾りを受け取った。これはボルドーの母が装飾していた歴史ある首飾りだ。
ベルガは玉座を降り、そしてボルドーが座る。
「これより、ボルドー・バーンは正式にドラゴニアの王となり、妻、メルシィ王妃と共に国を育ててゆくこととなるだろう。しかしその道は決して平坦ではない。様々な困難や苦労もあることだろう。だが、我らは何度でも立ち上がる。歴代王たちが残してきたこの国を…未来永劫続けていくために!」
「新たなる王!ボルドー・バーン王と、メルシィ・バーン王妃に敬礼ッ!!」
兵士たちが一斉に敬礼し、ビライトたち観客から拍手が贈られる。
この時、ボルドーもメルシィも決して笑顔を見せることは無かった。
王になることはボルドーにとっては悲願だ。だが、王になるということがどれほど重いものなのか。それを分かっているからだ。
これから、彼は今までよりも遥かに巨大なものを背負っていくことになる。その覚悟を背負っているからこそ、甘えた笑顔を見せることはないのであった。
「国民に告ぐ!我が友ヴァゴウ・オーディルより、遥か遠く死の地より我が国の象徴であったフリード・バーンより我らへ授かった言葉を伝えるッ!」
ボルドーは高らかにその言葉を伝える。
「―――“儂の心は皆と共にある”」
その声と同時に国民たちは涙を流し、フリードの言葉をしっかり胸に刻み込んだ。
「我らはフリード・バーンの御心を継ぎ、前に向かわねばならない。故にッ!―――どうか、力を貸して欲しい。このドラゴニアをより強く、逞しく、美しい国にするためにッ!!我々だけでは成しえることは出来ない。皆の力が必要だ。どうか―――頼むッ!」
その言葉に国民たちは大きな声で叫ぶ。
ボルドーの言葉に国民たちは強く高らかに宣言していく。この国を立て直し、素晴らしい国に皆でしていこうとする想いが強く胸に刻まれた。
「――ありがとう。」
ドラゴニアの象徴が残した言葉は多くの国民の心に刻まれ、より前に向かって歩くための力となったのだった。
(見てるかっ、クルト!あの世から見てるかっ、フリード!俺様は…王になったぞッ!)
――――
それを見届けたクルトは―――静かに、その場を去った。
----------------------
「…もう良いの?」
「…はい。十分です。ありがとう、ルフさん。」
クルトは城の地下を訪れた。ここにはクルトのクローン生成装置があり、ルフはここでずっとクルトが戻るのを待っていた。
【クルト・シュヴァーン第364103代目の活動限界を感知しました。第364104代目の起動準備に入ります】
機械音声が告知され、それと同時に車いすに座っていたクルトは生命維持装置を外していた。
意識が薄れていく。死がすぐ傍に来ている。もう何度経験しただろう。しかし、第364103代目クルト・シュヴァーンには笑顔が満ちていた。
「…あぁ…幸せでした。我が敬愛たる王の誕生に出会え、国の明るい未来、希望が満ちていた――安心して…逝けます。」
クルトは目を閉じ、ゆっくりその時を待った。クルトの魂がクローン生成装置へと移されていく準備が行われ、その記憶、思い出などが継承されていく。
「その情報、感情、魂に刻まれたものは確かにクルトのものだ。だけどこれから生まれる君は別の君…クローン生成なんてさ、全く持って倫理観もクソも無い非人道的な行為だよ。それでも、俺たちは歩みを止めない。限界が訪れるその時まで。」
ルフは車いすに満足そうに顔を上げて眠るクルトに優しく手を乗せ…
「おやすみ。」
そう呟いた。
そして、新しく誕生した第364104代目が装置から飛び出し、目を開く。
「おはよう、クルト。」
「…おはよう、ございます。」
【第364104代目、クルト・シュヴァーンの生成に成功しました】
その目にはうっすらと涙が流れ落ちているのであった―――
戴冠式終了から間もなく、ボルドーはこっそりと関係者からクルトの命が終わり、新しいクルトに生まれ変わったことを聞かされた。
祝式が終わる頃にはメンテナンスが終わるだろうと知らせを受けていた。
クルトは最後までボルドーの戴冠を見届け、笑顔で逝ったことを知らされ、ボルドーはその思いもまた、胸に刻み込み…心の中で、最大の感謝をするのだった。
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―次回予告―
ビライト・シューゲンは無力化されたクロ・イビルライズと再びひとつとなり、世界は平和を取り戻した。
しかし、ビライトにはこれからクロの力をブレイブハーツで無効化しながら、更に共にクロと生きていくためにクロに世界の楽しさを伝えるために生涯を生きていかなければならなかった。
ビライトの死はクロの死。ビライトの使命は、己の命が尽きる時まで、クロを再び覚醒させないことだった。
それはとても大変なことであり、茨の道かもしれない。
だが、彼には家族が居る。家族とも呼べるほどに大切な仲間たちも、国の王様だって、神様だって、魔王だってついている。
この世界を楽しむために、ビライトたちの物語はこれからも続いていく。
だけどまずは一旦この旅に終止符を。
ビライトたちの長い旅の終わりと、新しい日常と、そして新しい旅という楽しい物語を始めるために。
僕らのDelighting Worldはこれからも続いていくのだから。
次回、Delighting World 最終回
「Delighting World」
僕たちの世界がこれからも、楽しい世界でありますように―――




