Delighting World Brave 終章 Ⅷ(~決戦イビルライズ この世界を共に~)
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ーDelighting World 最終章ー
Delighting World Brave 終章 Ⅷ(~決戦イビルライズ この世界を共に~)
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「帰ってきた…マスターキーが…!」
神々の領域。
エテルネルの元にマスターキーが渡り、エテルネルは主神としての力を取り戻していた。
「良かった…!エテルネル…!しかし…」
ヴァジャスはそれに喜ぶが、それと同時に苦しそうな顔を見せる。
そう、これにはシヤンの犠牲という大きすぎる代償があったからだ。
「うん、シヤン…本当にありがとう……今の僕の力なら…ビライトたちを助けに行ける。」
「…!しかしエテルネル…君の主神の力が戻ったとはいえ…戦いにおいては分が悪い…君は戦いには向いていない。」
ヴァジャスはエテルネルを止めるが…
「僕は戦いに行くわけじゃない。止めに行くんだよ。ビライトたちもそれを望んでいる。僕はその手助けがしたいんだ。」
「エテルネル…」
「神々の領域を不在にするわけにはいかない。ヴァジャス、君はここに残ってここを守っていて欲しい。」
「…決意は…固いようだな。」
エテルネルは頷く。
「僕は主神でありながらずっと足手まといだった。だから最後の最後に…僕だから出来ることをしたいんだ。」
「…分かった。ここは必ず守る。だからエテルネル。どうか無理をしないでくれ…そして必ず私の元へ戻ってくると…約束して欲しい。」
ヴァジャスは指を出す。
「うん。約束。」
エテルネルの小さな指とヴァジャスの大きな指が触れ、約束を結ぶ。
「気を付けて行くのだぞ。」
「うん。行ってくる!」
エテルネルは世界の狭間へと向かった。神々の領域から空間を切って向こう側へ飛ぶ。力を取り戻したエテルネルは完全なる主神。シンセライズの管轄下であれば戦い以外は大抵のことは可能にできる。
エテルネルを信じ、ヴァジャスは神々の領域を守り続けるのだった。
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「くそおおおおおっ!!!」
ビライトがクロの中でクロを追い、そしてヴァゴウがグリーディを解放した直後…
「!イビルライズの身体が…!」
クロのグリーディの身体が粒子となって消えていく。
そして、クロは靄のかかった球体となり外へと飛び出す。
それと同時にヴァゴウもそこから飛び出すように押し出された。
「どわっ!?」
「ヴァゴウさん!!」
不時着したヴァゴウに駆け寄るレジェリー。
「大丈夫!?グリーディは!?」
「大丈夫だぜ…無事、解放した。」
ヴァゴウは涙目で状況を報告した。
「くっ…くそっ…」
クロは小さく呟き、姿を消してしまった。
「お、おい!どっかいっちまったぜ…」
それは一瞬であったため、誰も反応できなかった。
「ビライトとキッカがまだ中に居ると言うのに…」
周囲を見渡すカタストロフだが、クロの姿は確認できない。
「ビライト、キッカ、まだイビルライズの中いる。でも、だいじょぶ、絶対。」
メギラはそう言うが、根拠は無い。
「気配、かんじる。だから、だいじょぶ。待つ!」
この中でクロの気配を感じることができるのはメギラだけのようだ。デーガやカタストロフにも感じ取ることはできないようだ。
「そうか、メギラは元六影…ヴァジャスの因子が組み込まれているはずだ。そしてイビルライズは邪神だった頃のヴァジャスの残滓と世界の負が合わさって産まれた。ヴァジャスの因子がイビルライズの気配を感知してるんだな?」
「うーーん、おでよくわかんない。」
デーガの問いに首をかしげるメギラ。
「だろうな。」
当然のようにデーガはため息をつき、メギラは目を細めた。
「む~…ばかにされたきがする!」
「してねぇよ。むしろお手柄だぜメギラ。そのままイビルライズの気配を追ってくれ。」
「む~…わかった!」
あまり細かいことを気にするような質ではないようだ。メギラはのしのしとクロの気配を追って歩き出した。
グラーデの外へと歩き出しているため、クロはグラーデの外へと逃げたようだ。
「ビライト…キッカちゃん…無事かしら…」
「案ずるな。アイツらはこんなことでどうにかなる奴らではない。」
心配するレジェリーにクライドが言う。
「分かってるけど…心配よ。」
「なら堂々としていろ。信じて待つんだな。」
クライドはそう言い、メギラについていく。
「あ、あたしだって信じてるんだから!!」
「なら弱音を吐くな。」
「分かってるわよ…!」
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クロを追いかけ、更に心の奥へと走るビライト。
道はどこまでも続き、果てしないように感じた。だがクロは間違いなくこの先へ逃げた。
ヴァゴウと別れ、一人クロを止めるために進むビライト。
(この先には何があるんだろう…俺の知らないクロの気持ちが…分かるかもしれない。それが分かればまた何か掴めるかもしれない。クロを救える道を…俺がまだこの世界で生きられる道が…)
走り続けるビライトだが、次第に景色に光が点在し始める。さっきまで暗く方向も定まらないぐらいの道を走っていたが、徐々に視野が広くなっていくのを感じていた。
そして…次第に周囲から声のようなものが聞こえ始めたのだ。
「…この声は…」
立ち止まるビライトだが、まだよく聞こえない。先に進めば声が大きくなるかもしれない。そう思い再び走るビライトだがその予想は当たった。
段々クロの声がハッキリしてくる。
「―――して」
「…!」
「ボク――生き―」
「ボクは、ただ――――」
ビライトはまた足を止めた。そして耳を澄ませた。
「ボクはただ――誰かに―――」
「…そうだよな、クロ。当たり前のことだよな。そんなこと、誰だって望んで良いものだし、叶わない運命なんて…辛いだけだよな…」
とぎれとぎれの声から読み取るビライト。
そして、かつてクロの過去を知った時の叫びとはまた違うクロの心の中の弱さを知った気がした。
あの時はクロの憎しみや悲しみや、理不尽ばかりが流れ込んできたが、今ビライトが聞いて、見ているものはそのどれでもない。
クロの心の中にある弱さや、涙であった。
理不尽な運命の元誕生してしまい、存在そのものが世界を破滅に導く存在イビルライズ。
世界の仕組みから産まれてしまった哀れな存在。
世界が存続していく上でいつか産まれる存在にも関わらず、世界に不要とされる存在。消えなければならない存在。
いつか消えてしまう定めならば、自分だけが消えるのではなく、この理不尽な世界ごと消してしまおう。クロ・イビルライズの憎しみや悲しみが生み出した心だった。
だが、そんな野心の裏側に心の弱さが今ビライトの中になだれ込んでいくのだ。
(ボクはただ、誰かに必要とされたかっただけなのに。)
(ボクはただ、普通に、当たり前のように生きたかっただけなのに。)
(ボクは―――誰かを愛したかっただけなのに――――)
(ビライトはボクを信じてくれるとオモッテタノニ―――)
(ビライト―――ビライト―ボクの――トモダチ――――――)
「…クロ…」
クロは運命を呪った。自分がこんな産まれ方をしなければ。
(ボクは…何故死ななければならないんだ)
至極当たり前の言葉だった。クロの受けた理不尽は計り知れないほどに重く、深い。
そして、ビライトを想う気持ちにビライトは胸をギュッと締め付ける。そして…
「…ッ…俺は、俺は!!あんたを救いたいッ!!きっと方法はあるんだッ!!」
ビライトは叫びながら走る。
「だから、出てこいッ!!クロ!!!俺たちはまだ話せるはずだ!!まだ!!諦めなくていいはずなんだーーーーッ!!!」
ビライトの叫びに反応して空間が揺れる。
そして―――
「…君ハ…まだ何か出来ると考えているのかイ…?」
クロが現れた。グリーディの身体を失ってよく見た靄のようなものにつつまれたクロは、かつての幼い頃のビライトと遊んでいた時の姿…真っ黒で人の形をした姿でビライトの前に姿を見せた。
シンセライズの力も失われ、グリーディの肉体も失われ、すっかり力が弱くなってしまったクロ。
今のクロを倒すことは、ブレイブハーツを使えるビライトにとっては容易いだろう。
このままクロを倒して世界を救って終わり―――にはできない。
ビライトはそんな結末は望んでいないからだ。
「ボクはもう終わりサ。このまま君に倒されて終わリ。ボクも、君もここで終わりなんダ。」
「いいや…させない。クロ、一緒に考えよう。あんたと俺が…まだこの世界を生きられる方法を。」
「納得すると思っているのかイ?」
「させる。させてみせる。」
クロの言葉に臆さないビライト。本気で向き合うビライトの目にクロは下を向く。
「…分かっタ。」
「本当か?」
「たダし…ボクを力で屈服させてみせロ。」
クロは力を振り絞り、実体を出現させる。それは幼い頃にビライトが見ていたクロの姿をよりはっきりと現実的に実体化させた姿だった。
子供の竜人のような姿。クロの姿に懐かしさを感じる。
「…その姿、懐かしいよ。」
「懐かしんでいる場合カ?」
睨み合うビライトとクロ。
静寂が流れ…そして…
「クローーーーッ!!」
「ビライトオオオオオオッ!!!」
互いの拳が交差する。
「クッ…!」
「ウウッ…!」
お互いの頬に拳が命中する。
「ビライトッ!!お前はッ…!どうしてそこまでしてボクを救おうとするんだッ…!」
「…そんなの…」
「ボクは世界の癌ダ!シンセライズに生きていてはならない存在なんだゾ!なのにどうしてボクを見捨てなイ!殺そうとしなイ!君がシンセライズが大好きならば…ボクを殺すべきなんダ!!」
拳と拳で殴り合うビライトとクロ。
重い一撃一撃が2人の頬を。胸を。額を。同じ痛みを2人は食らい続けている。
「どうしてボクを見捨てないんダッ!!!!」
クロの奮う右手の拳をビライトは左手でガシッと受け止めて…叫んだ。
「“トモダチ”…だからだッ!!!!」
「―――!!」
クロの拳を受け止めながらビライトは必死に訴える。
「俺は…クロッ!!あんたの…トモダチだから…!だから助けたいんだッ!!!世界の癌だからとか!世界にとって生きてはいけない存在だとか!!!そんなものは…知るもんかッ!!!」
「ボクは…そんなこと思って…」
「じゃぁ!!この空間から聞こえるあんたの本音はなんだ!?あんたも…俺のことをこんなにもトモダチだと思ってくれているじゃないかッ!!」
「黙レヨ!!こんなのは違ウ!!こんな言葉はボクじゃなイ!ボクと君は…決別したんダ!!あの時にッ!!」
クロは自分の本音を否定する。こんなのは違うと叫ぶ。だが、ビライトには分かっていた。クロはやはり…ビライトのことを諦めることができない。
ビライトだけは特別だと、そう思っている。
(最初はただ利用するつもりだった。だけど――)
―――
(ビライト…ボクがいつか…世界の敵になったとしても、一緒にいてくれル?)
(何言ってるんだよ!クロがそんなことになるわけないよ!そうなったとしても僕はクロのトモダチだよ!当たり前じゃないか!)
嬉しかった。
ビライトの記憶を改ざんして、ビライトがボクに振り向くように仕向けたのは間違いない。
だが、ビライトがあの時発した言葉はビライトのものであり、クロが意図的に言わせたものではない。
クロは、ただ利用しやすくなったと思っていたが、それと同時に誰にも悟られなかった1つの想いがあった。
それが、ビライトに対する“愛情”だった。
だから、クロは最後までビライトとだけは共に最後を過ごしたいと願い続けていたのだ。
情けなどではない、ただ、好きだから。トモダチだから。
それが、クロの本音であり、心の奥に眠るものだったのだ。
それが、クロが望んだ“叶わない夢”だった。
ビライトと一緒に居たい。
ビライトなら自分を受け入れてくれる。世界からも見放された自分を、ビライトなら受け入れてくれる。
そう信じていた。
ただ、クロはその手段を間違えただけだった。
クロは、結果的にビライトを含め全てを傷つけてしまったのだ。
それは、クロが“生まれてはいけない存在”だったからだ。ビライトの愛情も、世界に対する嫉妬も、恨みも、何もかもを混同した結果だった。
「君の妹を傷つけ、今も世界をめちゃくちゃにしているボクをトモダチだと言うのカ…?」
「関係ない!!」
ビライトは空いているもう片方のブレイブハーツを纏った拳でクロを殴り飛ばした。
「ガッ…!」
吹き飛ばされ、地面を転がるクロ。
「確かにあんたのやったことは許せないし、許されないさ!だけど…誰にだってやり直せるチャンスはあるんだッ!罪を償う機会を与えられるし、受けられるんだよ…!俺は…それをあんたに対しても信じてる!!これは…俺がシンセライズを旅した果てに学んだことの一つだよ…!教わったんだ!俺の…大切な人に…!」
ビライトはボルドーの教えを語る。
ガジュールと戦う前、ボルドーが言っていた言葉だ。誰にでも償える機会があるのならそのチャンスを与えるべきだと。
「甘いヨ…甘すぎル…」
「甘くたっていい!それが甘いっていうなら…俺はずっとそのままで良い。馬鹿だって言われても…それでいい!それが俺なんだ!」
ビライトは倒れているクロに手を差し伸べる。
「クロ、俺はあんたがやり直せる機会を与えたいんだ。だから一緒に考えよう。2人でこの先も生きられる方法を。」
「…馬鹿だネ。」
クロは手を取ろうとしない。
「クロ…!」
「そんなものは無いんだヨ、ビライト。ボクは死ぬ運命。ボクが生きることは世界が滅ぶこと同じなんだヨ…」
クロは寂しそうな目を見せる。そして…
「…クロ…」
クロの目には涙が流れ落ちていた。
「どうして…どうしてこうなってしまったんだろウ…ああ、君のせいだヨ…君がボクのことを好きになってくれたから。ボクを…トモダチだって思い続けたからだヨ…?だから…こんなにも苦しいんだヨ…?」
「…」
「ユルセナイヨ…ビライト…君が憎いヨ…君がボクをめちゃくちゃにするんダ…!君さえいなけれバ…!君を依り代にしたのは…失敗だったんだヨッ!!」
揺らいでいた。
この世界にただ復讐を。そう願って生きてきたのにビライトがそれをかき乱し、狂わせる。
それはやがて、クロの悲しみを、辛さを余計に助長させ、そして、あれだけ死ぬことを望んでいたはずなのに、クロの感情は変わってしまった。
「君のせいで…ボクは“死にたくない”って…心が叫んでいるんダッ…!!」
「…それがあんたの本音だよ。」
ビライトはクロの手を握る。
「…ずっと考えていたんだ。俺も生きられる。クロも生きられる方法を……
クロ、“もう一度俺と1つにならないか?”。」
「…なんだっテ…?」
ビライトの提案に困惑するクロ。
「君は…それがどういうことか分かっテ…」
「分かっている…つもりだ。」
「――――ビライト。」
「!」
声がする。
振り返ると緑色の光が声を発していた。
「その声、エテルネルか?」
「うん。」
エテルネルが世界の狭間から経由してクロの内部に語り掛けているのだ。
マスターキーを取り戻したエテルネルだからこそ出来ることだが、送れるのは思念だけのようだ。
「ビライト、さっきの話を聞かせてもらったけど…僕からもイビルライズ…いいや、クロと同じことを言わせてもらうよ。」
少し呼吸を置いてエテルネルは言う。
「それがどういうことか…分かっているのかい?」
「…うん。そのつもりだ。」
「ビライト、クロ・イビルライズと再び1つになるということは君自身が再び“世界の脅威”になることを意味するんだよ。」
クロを取り込むと言うことは、あの時ヒューシュタットでビライトがクロを覚醒させる前の状態に戻るということ。
そして、世界の脅威であるクロと共に生きることはビライトが死ぬまでずっと世界の脅威として認識されるということなのだ。
「…君の人生はたった60年、70年だ。君が死んだらクロは再びこの世界に放たれる。その時また、この世界は危機に晒される。ボクたちは結局、クロを倒さなければならない。ブレイブハーツを取り戻したシンセライズの民や、デーガとカタストロフを始めとした抑止力にただ倒されるだけだ。」
そう、結局結果としてクロは倒される。それが早いか遅いかの違いなのだ。
「なら、俺がクロにそうさせないようにする。」
「どうやって?」
ビライトは語る。
「ブレイブハーツだよ。クロの弱点はブレイブハーツだ。俺がこの人生を賭けてブレイブハーツでクロの力を無力化させる。俺が死んだあとも何も出来ないように。」
「…確かに、ブレイブハーツはクロにとって特攻だ。無力化も出来ると思う。だけどそれは君が死ぬまでの間だよ。その先クロは最初は無力化できていてもいずれ力をつける。結局それもその時を遅らせるだけに過ぎないと思う。」
「…黙って聞いていれば…その心配はないヨ…」
「クロ…?」
クロは語りだした。
「忘れたのかイ?ボクとビライトは命を共有しているようなものなんだヨ。ビライトが死ねばボクも死ぬ。ビライトが死んだあと、ボクに恐怖する必要なんてナイ…計算外だったのサ…ビライトならボクと一緒に死んでくれると思ったから…ビライトとトモダチになったあの時、ボクはビライトと命を繋いダ…」
「…君がビライトと共に生きたとして、君が生き延びる可能性はある。ビライト次第では君が再び活性化する可能性だってある。」
「そうなったら君たち神の手でボクを殺せばイイ。」
「…」
「クロ…それじゃ…」
「……勘違いしないでヨ。ボクは君が生きている間にもう一度利用してやろうとしているだけダ。君がそこまで言うなら…見せて見ろヨ。ボクが君の身体を乗っ取ろうとする気が失せる程にボクを満足させてみせロ。」
「…あぁ。俺が見せてやる。このシンセライズは辛いことも悲しいこともある、酷い奴もいる。だけど、それを塗り替えられるほど面白くて、楽しくて…あったかい人たちでいっぱいなんだってことを。俺が教えてやる!俺が生涯かけて証明してやる!」
「ちょっと待って。」
エテルネルがビライトとクロを静止した。
「エテルネル…」
「…シンセライズ…」
「ビライト…君が本当にクロと共に生きるなら…僕たち抑止力は君を生涯監視対象としなければならない。そして…酷なことを言うかもしれないが、君がもしいつか心を負に支配されるような…そう、ガジュールにボルドーが殺害された時のような強い憎しみや悲しみを抱えてしまい、クロを大きく活性化させてしまった場合…君を倒さなければならなくなる。しかもそれを執行するのは間違いなくブレイブハーツを使える抑止力…デーガとカタストロフに任せることになる。そしてクロ。君も何か少しでも不穏な動きを見せたら僕たちはビライトごと君を倒さなければならなくなる。」
エテルネルは警告した。
ビライトがこれからやろうとしていることはそれほどに危険なことであり、世界にとっては脅威が消えないという多大なデメリットを抱えることになるのだ。
そして、それは…ビライトの今後の人生によっては、仲間に殺されてしまう可能性だってある…ということだ。
「…その時は、俺を殺してくれて構わない。」
ビライトはハッキリとエテルネルに答えを出した。
「…本気、なんだね?」
「うん。」
ビライトは頷いた。その時――
「待って!!!」
奥から声が聞こえる。
「キ、キッカ!?」
キッカが追いついたのだ。
息を荒げながらビライトを見てキッカは呼吸を整えながら喋り出す。
「ハァ…ハァ…お兄ちゃん…今の話…本当なの…?本当にイビルライズと…クロとこれから一緒に過ごそうとしているの?」
「…ごめん、これしか俺とクロが生きられる方法が無いんだ。」
キッカは不安そうな顔を見せる。
「…エテルネルさんの声も聞こえたよ…もしお兄ちゃんに何かあったら…お兄ちゃんごと倒されるって…」
「キッカ、クロは世界の脅威だ。それは変わらない。これだけは変わらない事実なんだ。だからビライトがクロと共に生きようというなら、僕たちはそれを監視し続けなければならないし、何かあった時に手を下されても文句も言わせられない。クロに囚われ続けていた君なら…分かるよね?」
「…エテルネルさん…」
エテルネルは主神として、そこに同情を入れることは難しかった。
だが、ビライトがクロと共生すること自体を否定はしなかった。ただ、共生することがどういうことなのか、それだけは警告しておかなければならなかった。
それが主神としてビライトにできる配慮だからだ。
「…キッカ、不安かもしれないけど俺が必ずクロと共に生きてみせる。それに…俺にとってクロは、トモダチだから。」
「ビライト…君ハ…」
ビライトに迷いは無かった。
「じゃぁ、僕の警告は吞んでくれるんだね。」
「あぁ、受け入れるよ。だから俺に何かあった時はその手で俺とクロを…倒してくれ。」
「お兄ちゃん…分かったよ。お兄ちゃんに何かありそうな時は私が助けるから。私だってブレイブハーツが使えるんだから。」
「うん、心強いよキッカ。ありがとうな、我儘を聞いてくれて。」
「…約束してね、絶対に最悪のケースにならないって。」
「あぁ。」
ビライトとキッカは約束する。これからクロと共に生きるにあたって、最悪のケースにならないことを――
そして、ビライトはクロに手を差し伸べる。
「さぁ、俺はもう決めたぞ。後はクロが俺の手を取ってくれるだけでいい。」
「…どうせボクにはもう何の力も無いんダ。ビライトがシンセライズの警告通り最悪のケースにならない限りネ。」
クロはビライトの手をそっと掴んだ。
「精々ボクに乗っ取られないよう気を付けるんだネ。」
「そんなことにはならないさ。俺はあんたにシンセライズの楽しさを教えてやるんだから。それに、あんたはそんなことしない。俺には分かるよ。」
「…どうして、そう言いきれるんだイ?」
疑い深いクロにビライトは笑う。
「“トモダチ”だから。何度も言わせるなよ。」
「…何処までも、純粋な馬鹿だヨ、君ハ。」
ビライトとクロの身体が光り出す。
そしてクロの身体がうっすらと透けていき、ビライトの身体に吸収されていく。
「…でも…そういうところが君の良いところだネ…ビライト。」
「ボクは少し眠るヨ…凄く………疲れたんダ――だから、マタネ。」
「あぁ…おやすみ。またな、クロ。」
クロの意識はビライトに吸収され切って、身体もビライトに全て取り込まれていく。
クロは眠り、ビライトとクロはまた再び出会えると信じ、少しの別れの挨拶を交わしたのだった―――
「…エテルネル、ありがとう。俺の我儘を聞いてくれて。」
「君は世界の救世主だ。出来る限り君の意志を尊重しただけだよ。それに…僕も君に生きて欲しかったし…何より僕の相棒がね…クロにも生きて欲しいと願っていたから。」
「それって…ヴァジャスさんのこと…?」
「うん、クロはヴァジャスの因子から産まれてるからね。親みたいな気持ちがあるのかもね。」
エテルネルの言葉の後、周りの空間が歪み始めた。
「!」
「クロが君の中で眠ったことで君たちも元に戻ろうとしているみたいだね。クロが眠ったことでシンセライズも、世界の狭間も、レオンの世界にも影響が出ているに違いない。急いでここから脱出してシンセライズに戻らないと。」
「分かった、キッカ。行こう!」
「…うん!」
ビライトとキッカは手を繋ぎ、走り出す。
「僕は先に戻っている。ビライト、シンセライズでまた会おう。」
「あぁ!」
エテルネルはビライトとキッカを見送って呟いた。
「…君は本当にお人よしだね。でも…それが君なんだね、ビライト・シューゲン。君のような優しい子がクロの宿主で良かったって心から思うよ。この世界を守ってくれてありがとう。」
エテルネルは神々の領域へと戻り、このことを神々に報告するのだった。
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「キッカ!手を放すなよ!」
「うん…!」
手を繋ぎ出口へと向かうビライトとキッカ。走る先に出口らしき空間が見える。空間の奥には世界の狭間が見え、そしてそれを追いかけているレジェリーたちの姿が見えた。
「あそこだ!」
「…お兄ちゃん。」
「どうした?」
「…絶対、クロに負けないでね。」
キッカの目は鋭かった。
まるでエテルネルに警告をされた時と同じようなプレッシャーだった。それでも、ビライトは揺らぐことも驚くことも無く、純粋に応える。
「負けないさ、絶対に。キッカも一緒に居るんだから尚更さ!」
ビライトはキッカに笑顔を見せる。
「私ね、お兄ちゃんが消えなかったの凄く嬉しい。でも心配なの…」
「ごめんな、心配かけて。」
「ううん、お兄ちゃんが選んだことだもん。でも、その責任は私も一緒に背負うからね。支えるからね。家族なんだから。」
「…ありがとう。」
2人は言葉を交わし、空間へと飛び込んだ。
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「わっ…!」
「――!」
空間から飛び出した2人は転げ落ちる。
「ビ、ビライト!」
「キッカちゃん!!」
それを目撃したレジェリーたちは急ぎ駆け寄る。
「あたた…はは、ただいま。」
「ただいまって…ホントどれだけ心配したと思ってるのよッ!」
「ご、ごめん!でもホラ、大丈夫だから!」
ビライトは笑ってみせた。
「…全部、終わったのか?」
デーガが尋ねる。
「うん、全部終わったよ。」
「よ、よかっ「よかったー!!!」
レジェリーが言う前にビライトに飛び込む獣の姿が居た。
「わ、っ、メ、メギラ?」
「ビライト~!!会いたかった~!!よかったぞ!!」
「い、いたた!メギラ…落ち着…苦しいって…!!」
尻尾をぶんぶん震わせてスキンシップするメギラにビライトは慌てふためいている。
「あたしのセリフ~!!ちょっとぉ!!」
「フッ、締まらないな…」
「ホントにな!ワシらだってすげぇ嬉しいのにメギラが全部持っていっちまった!!」
クライドとヴァゴウはそう言い、小さく微笑んだ。
「…ビライト、イビルライズの気配する。どうして???」
「!」
メギラの言葉に一行がザワつく。
「え!?」
「どういうことだ…?いや、待て。お前が今ここに居ると言うことはイビルライズはまだ生きているのか?」
デーガはビライトに問うが…
「…世界の狭間が不安定だ。喜ぶのも、質問するのも後にした方が良いかもしれぬ。」
カタストロフが呟いた。
その通りで、空間が不安定になっているのか、道や風景にノイズがかかっているかのようになっており、一部が崩壊していく様も見える。
「そうだな、詳しいことは後で話すよ!一旦ここから脱出しなくちゃ!ファルトのところへ戻ろう!」
ビライトはそう言い、ビライトとキッカ、そしてメギラ以外は不安を抱えたままファルトの元へと走る。
来た道を戻るだけだ。
一行は急ぎ、ファルトの待つ場所へと辿り着く。
「ファルトさーーーん!!」
「!!戻ったか!何やら様子がおかしいのだ。早くここから出た方が…全て、終わったのかい?」
「話は後だ!皆乗り込め!ファルト!まずはここから脱出だッ!」
「こ、心得た!」
ファルトは皆が乗り込んだことを確認し、急ぎ空を飛ぶ。
狭間とシンセライズを結ぶゲートもまた不安定であり、強烈な乱気流のような揺れがファルトを襲う。
「キャー!!」
「ゆ、揺れるー!!」
「チッ、狭いんだよッ!」
「あはは~楽しいぞ~!」
帰りはメギラが一緒に居るためスペースは狭くなっており、大きな揺れにビライトたちは大きく揺れるが―――
「オオッ…!!」
身体を大きく揺らしながらも勢いでファルトは持てる最大速度で突き抜け…
ボッと大きな音を鳴らし、空間から脱出した。
「…ッ…いたた…」
揺れが収まり、キッカは外を見る。
「あっ!!みんな見て!空が!!」
キッカの声に一行は外を見る。
すると、空はいつもの青色に戻っており、美しいシンセライズが戻ってきていたのだ。
「空が…!」
「私たち、乗り越えたんだ…」
「綺麗…!」
遥か高い上空から地上を見るレジェリーは感動して泣きそうになっていた。
「美しいな…」
「うん!」
カタストロフと手を繋ぐレジェリー。
「見えるか、クロ。凄く…綺麗だぞ。」
ビライトはそう呟いた。
ファルトも美しい空と美味しい空気と風を浴び、ご機嫌だ。
ビライトたちはドラゴニアへと戻っていくのだった。
そして、空が元に戻り、地上でも―――
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地上では死者たちが動きを止め、消えてゆく。
そして赤い空も消え、青空が戻っていった。
世界中に蔓延っていた死者たちが消えてゆき、それぞれを守っていた魔物たちもデーガとカタストロフの統率が徐々に解かれ、それぞれの住処へと帰っていく。
「…!死者が…消えてゆく…!」
ヴォロッドが異変に気が付く。
「空が…元に…!」
そしてドラゴニアで戦っていたボルドーたちもその変化に気が付いて笑顔を見せる。
「ハ、ハハッ!!やりやがったな!!アイツらッ!!」
ボルドーの声に兵士たちは笑い…
「「「「「ワアアアアアアーーーーーーーーーッ!!!!」」」」」
大きな歓声が響き渡った。
そして同時にボルドーの神力が解け、地面にへたり込む。
「ボルドー、終わったようだな。」
「あぁ…ありがとうよ。ガディアル。」
「礼はビライトたちに言うのだな。」
「そうだな…でも、あんたにもありがとうだ。」
「…受け取っておこう。」
「あなたーーーーっ!!!!」
「ボルドー!!!」
「ぱっぱ~」
「おう!皆ッ!!」
座り込み動けないボルドーにメルシィが勢いよく飛びついた。
胸に抱き着き、ギュッと抱きしめるメルシィ。
「おっと…!」
「よかった…よかったです…!!」
「あぁ、全部終わったみたいだ。もうこれ以上、ドラゴニアを傷つける者はいねぇ…ようやく…安心だ。」
ボルドーは微笑み、メルシィを抱きしめた。
「ボルドー…頑張ったね。」
「あうあう。」
ブランクを抱いているカナタはボルドーにブランクを渡す。
「ブランク、怖い思いばっかりさせてすまねぇな。これからは…家族みんなで平和な国にしていくからな。」
「あう?」
キョトンとした顔を見せるブランクにボルドーは笑う。
「ハハッ、分かんねぇか!それでいいさ!」
「おおーい!」
「ヴォロッド様…!」
「無事のようだな、ボルドーよ。」
「あぁ、身体はご覧の有様だがな。」
「フッ、仕方ない。肩を貸してやろう。」
「あぁ、お言葉に甘えさせてもらうぜ。」
ヴォロッドの肩に支えられ、ボルドーたちはビライトたちの帰りを待つため、城へ兵士たちとガディアルと共に戻るのだった―――
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「―――全て、終わりましたか。」
世界の狭間の向こう。グラーデに戻ってきていたレオンはそこから平和を取り戻したシンセライズを眺めていた。
「フフ、イビルライズと共に生きる…ですか。可能性としてはあり得た話ですが…実に難しい茨の道を選びましたね、ビライト・シューゲン。」
レオンは微笑んだ。
「いやぁ、まだまだ面白くなりそうですねぇ。私も動向を見守らせてもらいましょうかねぇ。」
レオンは笑顔のビライトたちを見て、目を閉じる。
「眩しいですね。フフ。その幸せが生涯続くよう、私もちょっとだけ応援していますよ。」
世界の狭間へ通じる渦が閉じてゆく。シンセライズとグラーデを結ぶ世界の狭間が閉じるのだ。
「でも、少しぐらいはハプニングがあった方が私としては面白いんですけどねぇ~…って、そんなこと言ってると怒られちゃいますね。きっと“彼”はこれから幸せな未来を描きたいでしょうからね。」
レオンはシンセライズを見つめる。
「美しい青空が戻りましたが…シンセライズは今回の一件で大きくバランスを崩しました。今までのような平穏な世界ではいられませんねぇ。でもまぁ、それを見守るのも面白そうだ。」
――再び、私と出会うことは無いかもしれませんが、また会えると良いですね。フフッ。
では、ごきげんよう―――




