表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫と元野獣  作者: 千魚
12/14

姫と心の支え 前

……喉が……乾いた……。


ひりつく痛みに、うっすらと意識が戻って来る。

体のあちこちが辛いのに、だるいまどろみの中にいるようで目が開かない。朦朧と靄のかかる意識で、わたしはただただ、不快感だけを感じていた。


「……だ」


遠くでヒトの声がする。どこかで聞いたことがある気もするけど、わからない。


『……ット! マーガレット!』


ふいに、切迫したリヒャール様の声が耳元で響いた。


何? どうしたの?


すぅ、っと頭の中の霧が晴れる。

リヒャール様、どこ……?


声を出そうとしたけれど、乾涸ひからびた喉は荒い吐息を漏らすだけ。相変わらず目も開かない。


『良かったマーガレット……気付いたんだね!?』


あれ……? なんで……?

わたし、喋れてない、よね……?


『聞こえてる、精霊術だよ。精霊と、きみのピアスを通して話してるんだ。落ち着いて、そのまま聞いて?』


あぁ……そういえばリヒャール様、ピアスをつけてくれた時に精霊術を使ってたっけ。こんなこともできるんだ……?


ともすればまた闇に吸い込まれそうになる意識を辛うじて保ち、わたしはリヒャール様の声に耳を傾けた。


『大丈夫、すぐに助ける。マーガレットの居場所も犯人もわかってるんだ。ただ……ちょっとだけ根回しに時間がかかってて……ごめんね、あと少しだけ。すぐだから』


あ……わたし、誘拐されたのか……。

急にいろんなことを思い出した。


宿の屋上に居たのは、突風を起こしたらしき魔術師風のローブの男と、わたしを抱えた覆面の男。薬を嗅がされた後の記憶は一切ないが、ここが彼らの……またはその雇い主の隠れ家にあたる場所なのだろう。

薬のせいだと思えば、この異様な渇きも遠のく意識も頷ける。とりあえず、生きてて、良かった。


バタン!!

カッカッカッ……


「待て! まだ話しは終わっておらん!」


突然、リヒャール様のものとは違う男の声が予想外の近さで響いた。誘拐犯のものだろうか。でもやはり、どこかで聞いたことがあるような……。


『マーガレット、危ないから気付いていないフリをしててね』


ピアスを通してこちらの音が筒抜けなのか、リヒャール様がそう囁く。


バタンッ!!


今度はすぐそこ。ふわっと風が流れたのがわかったから、きっと今わたしの居る部屋のドアだろう。


「……これがマーガレット王女、か?」


確実に知らない老人の声。ズカズカと荒い足音の後、グイッと髪を掴まれた。


『マーガレット!』


大丈夫だよ、体がまったく動かないから「気付いてないフリ」どころじゃないし。痛みだって感じない。それよりリヒャール様、ダメだよ、声が聞こえちゃう。


『……私の声はマーガレットにしか聞こえない。精霊術だって言ったでしょ? それよりマーガレットが……』


「クソ……! 確かに前王妃に似ているな……冗談じゃないぞ、ロメオおまえ……!」


「だから言っているではないか! 大叔父上さえ黙って匿ってくれれば良いのだ」


ロメオ……? ……あっ! この声、ロメオ・ハーバースか!


「おまえ……本気で上手く行くなどと……? この短慮者めが!」


「なぜだ!? 出国させなければ私の勝ちだ! 直前で心変わりして私の元に身を寄せたことにすれば良い!」


「それで聖皇国との国交悪化の責任はどうとるつもりだ!? 割を喰うのは我ら国境を擁する領主なのだぞ!」


どうやら、もう1人はトッカの街の領主のようだ。……ということは、ここは領主の屋敷だろうか。


『マーガレット、用意ができたよ。待たせてごめんね』


言い合う男2人の声に重なるようにリヒャール様の声が響いた。その声を聞いた途端、緊張に強ばっていた心がふわっと弛む。


『少しうるさくなるけど気にしないで? それから、私が行くまで無理しちゃダメだよ』


ありがとう。でも……リヒャール様こそ、危ないことはしないでね?


『……っ、心配しないで。精霊を開放する。それじゃあ……行くよ?』


ふつり、とリヒャール様との繋がりが切れたような感じがあった。

何かが始まる、そう思うのに、リヒャール様の気配が遠のいた今、不安で不安で仕方ない。わたしのせいでリヒャール様に何かあったら……!


ドンドンドンドンドン──ッ!!


数秒後、どこか遠くで激しくドアをノックする音が聞こえた。

ロメオ達の言い争いがピタリと止まる。


息が詰まるかのような緊迫した空気の後、


「お待ちください! いくら大司教殿とはいえ……!」


「問題ありません。何せ、こうして騎士団の方々がご一緒されていますからね」


慌てたような足音と、迷いのない足音が近付いて来る。


「……なぜこのタイミングで大司教が……!?」


混乱したような呟きはトッカの領主のものだろう。


「クソッ! こうなったら……うわ!? 何だこれは……っ!?」


まだ目の開けられないわたしにはわからない。けれど、こちらに向かって来たらしきロメオが悲鳴を上げた。


「騎士様方。この部屋です」


「な……勝手をされては困ります!」


…………ガン……ガタ──ン!!


「ひっ……な、なぜここが……っ?」


「マーガレット姫ご無事か!?」


あ……この声……増援の騎士の1人だ……。


「マーガレット姫……!?

……ロメオ・ハーバース殿、ニコライ・オコットリー殿。マーガレット王女誘拐の咎で捕縛致す!」


「ひ……」


「私は無関係だ! ロメオが勝手に連れて来たのだ!」


「申し開きは王都にて為さるがよろしい。……では大司教殿、しばし教会の牢をお借り致します。取り押さえろ!」


バタンガタンと物々しい音が響き、同時に廊下の向こうからも争うような音が聞こえてくる。

どうやら騎士達による使用人の捕縛が始まったらしい。


「クソ……ロメオ! 許さんぞ、この大馬鹿者が!!」


「ぐぅ……ふざけるな! 貴様ら下賎の騎士風情が私に触れるな!」


しばらくしてその怒声は遠のき、外からの叫びに変わって行った。


けれどまだ、わたしの体は動かない。

少し前から聞こえる低い祝詞は、大司教と呼ばれたヒトのものか。彼はわたしに近寄るでもなく、一心に祈りを捧げているようだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ