子犬が受け身的になる事
子犬は兄と二人きりになると、兄にして欲しい事がたくさんあった。お喋りを聞いて欲しいし、兄の声も聞きたい。何より触れたいし触れて欲しい。ぴったり寄り添って、兄の胸元に頭を擦り寄せて鼓動を聞く。笑いながら兄を見上げると、兄も笑って子犬の肩を抱く。腰に抱き付くと頭を撫でられて、子犬は目尻を赤くして照れたように笑う。
触れ合う内に吐息が熱っぽくなると、子犬は自分から触れるより兄に触れて欲しがった。兄は子犬の望むままに子犬の身体を撫でる。膝の上に優しく抱き寄せると、小柄な子犬は兄の両腕に収まってしまう。けれど兄も町の皆も知るように、子犬はその外見からは想像出来ない尋常ならざる大力を持っていた。分厚い毛皮を持つ猛獣だろうと、子犬がその気になれば容易く倒してしまうだろう。けれど実際は、子犬はこの町に来てから誰一人、傷ひとつ負わせた事は無い。友達と遊びで巫山戯ている時でも、生まれたばかりの家畜を扱う時でも。その力は生まれ付きの物だったから、普段ならば意識する事もなく力の加減が出来た。
けれど兄に愛撫されて気持ちが昂ると、まだ慣れていない感覚に余裕が無くなって、加減が分からなくなってしまう。だから間違って過剰な力を込めてしまわないように、子犬は兄に触れるのを止める。その分、撫でて欲しいとねだった。直接触れない代わりに、子犬はよく兄が着ている物の裾を握り締めた。自分より一回り小さな握り拳を、兄は包むように愛しげに撫でる。それから兄は子犬を強く抱き締める。子犬の名前を呼んで、普通の人ならば息が止まるほどの力を込めて、きつく強く。喘ぎ声の混ざった子犬の呼吸は変わらず、けれど兄の両腕の力を感じて、子犬は嬉しくて頬を真っ赤にして涙目で笑う。




