子犬が友達に誘われて出掛ける話
小さな谷と古い城壁に囲まれた町を、いつものようにお使い帰りの子犬が駆けていく。町の中程にある広場では子供達が遊んでいて、子犬が通り掛かると、声の大きな少年が手を振って子犬を呼び止めた。
「遊んで行かないか?」
彼はいつも子供達の遊びの輪の中心にいて、子犬とは何かと気が合った。子犬がこの町に来てから最初に遊びに誘ってくれたのもこの少年だった。
「今日はすぐ戻らないとだから」
子犬が同じように大きな声で返事をすると、少年は子犬に駆け寄って、いつもより小さな声で子犬に聞いた。
「このあと空いてるか?」
「何?」
「いいもの見に行こう」
「行く」
子犬は二つ返事で答える。
「じゃあ迎えに行くから」
昼過ぎ早々に、子犬と声の大きな少年は連れ立って谷の奥へと向かう。
「空のうんと高いところを鷹が飛んでるだろ」
「時々いるね」
「そいつを、すぐ近くで見れる所があるんだ」
「聞いた事はあるけど、まだ見た事ない」
子犬は期待で顔を輝かせる。
「俺が両手を広げたよりでかいぞ」
「すっげえ」
驚く子犬に少年は得意気に言う。
「父さんが教えてくれたんだ。普段みんなが使う谷の道じゃなくて、猟師の使う獣道を行く。険しいけど、お前なら平気だろ?」
「勿論。そっか、お前の父さん猟師だもんな。腕が良いって兄いが言ってたよ」
そう言われて少年は歯を見せて笑った。
二人は谷へ入り、少年の先導で獣道を行く。道々、木の実を摘んでおやつにしながら歩き続けて、尾根をひとつ越えた。そこには町とは別の谷があって、その先には大きな山脈が連なる。鷹はその山脈の人がたどり着けない断崖に巣を作っていた。子犬達がいる場所から少し下った所の林に、一際背の高い木があった。
「あの木にとまるんだ」
二人は出来るだけ近付いて、他の木の影に隠れて待ち伏せをする。静かに、とお互いに仕草で合図して、遠く山脈や空を見渡し鷹の姿を探す。と、遠く高い青空を飛ぶ黒い姿が見えた。瞬く間に翼を広げたまま滑空して、二人の真上を通り過ぎる。その大きな姿に日を遮られ、影になった。鷹は子犬達が見張っていた木を掠め、そのまま飛び去ってしまった。二人は潜めていた息を吐く。
「気付かれちゃったか」
立ち上がって、鷹が飛び去った後の木へ近付いてみた。途中、「あった」と子犬が傍の地面にしゃがみ込んで、一枚の羽根を拾い上げた。掌を広げたより長く真っ直ぐで、根元だけ白い、黒に近い褐色の鷹の羽根。その羽根を少し空に透かして眺め、少年に渡す。
「使うだろ?」
「ありがとう。良い矢が出来る」
少年は明るく笑って受け取った。その羽根を嬉しそうに見つめて、他にも落ちていないか探す子犬に話し掛けた。
「お祭りが終わったら夏が来るだろ。でも夏はあっと言う間で、すぐ秋が来て冬になる」
子犬は顔を上げて少年の話に耳を傾ける。
「そしたら狩の季節だ。今年はもう、親の手伝いじゃないよ。俺も猟師の一人になるんだ」
いつも悪戯そうに笑う少年の顔が、少し頼もしく見えた。子犬は頷いて言った。
「お前、絶対良い猟師になるよ」
少年は歯を見せて笑う。それから子犬に尋ねた。
「お前は?」
「うん?」
「これからどうするのかなって。今は屋敷のお使いをしてるだろ。気の利く奴は、そこから屋敷のもっと大事な仕事を任されるようになる。お前はそう言うの目指すのか?」
子犬は首を横に振って、背筋を伸ばして答える。
「兄いと一緒に遠出する。今は、まだだけど。でも兄いもいつか遠出の仕事に戻るから、その時は俺も一緒に行くんだ」
「やっぱりそうか」
楽しそうに笑う。
「がんばれよ」
「うん」
子犬と少年はお互いに片手を上げて叩き合った。
2021.10.23 一部修正




