兄がお使いの子犬を待つ事
子犬は自分の仕事を持っている。屋敷のお使い係だ。届け物や伝言を言付けられて、小さな谷と古い城壁に囲まれた町を駆ける。足が速く町中を駆け回るので、子犬は屋敷の人だけでなく町の人にもちょっとした用事や伝言を頼まれては、気さくに引き受けていた。そしてお駄賃にと焼き立てのお菓子やその家で育てた果物を貰ってご機嫌に頬張っていた。
兄は幼馴染の補佐をしていた。幼馴染の仕事部屋で張り切ってお使いに出掛ける子犬を見送ると、もうすぐ開催されるお祭りの支度や一年の殆どが費やされる冬支度、屋敷の中の細々とした事を一つずつ片付けていく。時折雑談を交わしながら、長い午前がゆっくり過ぎる。
開けっ放しの仕事部屋の扉をとんとんと叩いて、幼馴染の兄弟が顔を出した。「何だい」と聞く幼馴染に「うん」と頷くと、兄に声を掛ける。
「遠出の連中が集まってるんだ。あんたにも来て欲しいんだけど」
兄の本来の仕事は、町を離れて遠く国境の放牧地を回ったり、街道沿いの街へ交易と情報収集に行く事だった。子犬を拾って弟にしてからは遠出を休んで代わりに町での仕事をしているけれど、遠出の連中は仕事仲間だ。お祭りが近いこの町に多くが戻って来ていた。幼馴染は黙って兄を見る。兄も幼馴染を見て、それから振り返って幼馴染の兄弟に軽く頭を下げる。
「こちらの区切りが付いたら行きます」
「待ってるよ」
しつこくは誘わず、幼馴染の兄弟は去る。通路の足音が遠去かってから、幼馴染が頷きながら兄に言った。
「そうだね。あの子が戻って来るまではね」
「うん」と兄は幼馴染に笑う。子犬以外ならば、お使いの間に兄が席を離れても、この部屋に残る幼馴染が兄の行き先を伝えれば済む事だけど。
「見送った時と同じ場所で、あいつを待っていたいからね」
「お茶の時間には戻って来るだろ」
そう言って軽く笑い合った。




