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子犬が兄の睫毛を数えようとする話
仕事が一区切り付いて、休憩しようと子犬と兄は草地に並んで腰掛ける。子犬は両足を投げ出して、兄はその隣で緩く胡座をかいて子犬の頭をぽんぽんと軽く撫でる。子犬は元々下がりがちの目尻をもっと下げて、兄の方に体を寄せる。それから身を乗り出して兄の顔を覗き込んだ。
「俺も兄いの睫毛数える」
ははは、と兄は笑って子犬の顔を見つめ返す。
「どうぞ」
子犬は兄の前で膝立ちをして肩に手を置いて、鹿爪らしい顔をしてしばし向かい合う。
「ちょっと目え閉じて」
「はい」
兄は言われるままに目を閉じる。本当は可笑しくて声を立てて笑いたかったけれど、子犬が数え易いようにとじっと動かずに口元だけで静かに笑う。その兄の顔に、子犬はふと息を飲む。いつもは笑顔が気持ち良いとか目が優しいとかそんな風に感じていて、純粋に顔形を見つめる事はあまり無かった。今こうしてまじまじと見つめ、誰よりも整った顔をしていると思う。兄は身動きしないまま大分待ってみたけれど、子犬が何も言わないので、目を閉じたまま「数えられた?」と聞いた。そう言われて子犬は兄の顔をただ見つめていた事に気が付いて、思わず言い返してしまう。
「これから数えるし」
「そうか」
兄は笑いを堪えて肩を震わせる。
「けど、今日はもうやめる」
子犬は口を尖らせて、兄の前にどかりと座り込んだ。




