子犬が兄の頭を撫でる話
子犬は町へ来たばかりの頃、兄以外の人からもよく頭を撫でられていた。子犬が歳の割に小柄だったのと、背の高い兄といつも一緒にいるので余計に小さな子供に思われたせいだった。加えて兄の服を外套代わりに着ていて、丈は子犬に合わせて直してあるものの「服に着られている」感がまた幼げに見えて、子犬は屋敷の人や町の人など会う人ごとに「元気だねえ」などと言われながら撫でられていた。
けれど程なく、兄の仕事を手伝う様子から見た目ほど小さな子ではないと皆んなも気付いて、自然と大人同士の挨拶に変わっていった。
兄は子犬だけでなく、子犬の友達である町の子供達の面倒もよく見ていた。町には先生と呼ばれる医者がいて、子供達に手習いを教えている。兄は時折その手伝いをして、「よく出来たね」と言って子供達の頭をぽんと軽く撫でてやる。兄に撫でて欲しい子供達、特に女の子達が手習いを見て欲しがって兄の周りに輪を作った。
そんな風に兄は子犬や子供達にしてやるけれど、兄自身が頭を撫でられたのは、この国一番の年寄りだったおばあが最後だった。
兄は子供の頃から他の子より頭ひとつ背が高いだけではなく、言動も大人びていた。早くから屋敷の奉公人として働いて大人と同等の扱いを受けていたけれど、逆に年相応の子供として見られる事は無かった。周囲が子供扱いする事を遠慮してしまっていた。
けれどおばあにとってはこの国の皆んなが「子供達」だったから、相手が誰であっても、孫のいるような歳の白髪頭であっても変わらずに愛しげに撫でていた。それも今は昔の事。
そんな話を聞いて、子犬は首を傾げて尋ねる。
「兄いは、今でも誰かに頭撫でられたら嬉しい?」
「ああ、嬉しいね」
兄は笑って答える。へえ、と少し意外そうに子犬は言って、それから何かを思い付いた顔をして兄の前に向かい合って立つ。両手を後ろに回して兄を見上げて笑う。
「兄い、しゃがんでみて」
「うん」
兄も笑って子犬の前に片膝を付く。視線の高さがいつもと逆になって、兄が子犬を見上げる。子犬は片手を伸ばして兄の黒い髪に触れた。少したどたどしく、自分がいつもしてもらうように形の良い頭を撫でる。
「嬉しいな」
兄はいつものように楽しそうに笑う。子犬は何だか気持ちがくすぐったくなって照れ笑いをする。少し固い短い髪を両手でわしゃわしゃとして、兄の首筋に抱き付いた。兄も子犬を抱きしめると赤い髪をくしゃくしゃにして撫でて、二人で声をたてて笑う。




