その昔に兄とおっさんが勝負した時の事
兄の遠出仕事の仲間に、子犬や子供達が「おっさん」と呼ぶ一人がいる。厳つい髭面や貫禄ある風体からそうあだ名されているけれど、実際の歳はおっさんと言うにはまだ若く、子犬と一回りほどしか違わない。子供達がからかうように「おっさん」と呼ぶと怒った振りをして追いかけて、とっ捕まえては投げ飛ばす真似をする。振り回された子供ははしゃいで、またおっさん呼ばわりをする。昔から大柄で腕っ節が強く力比べが好きで、同年代では誰も敵わないので大人相手に勝負を挑んでいた。成人する頃にはこの国一番と言われるまでになった。
そんな頃に屋敷で働く兄の噂を聞く。当時の兄は子犬と同じ年頃だったけれど成長が早く、既に大人と変わらない体格だった。中々の力自慢で、屋敷で働く大人達は誰も勝てなかったと言う。
おっさんは兄と面識はあるものの、年が違うので一緒に遊んだ覚えはほとんどない。昔から年の割に背が高いなとは思っていた。だから力も年の割にはあるだろうと思う。そうは言っても年下に勝負を挑む気にはあまりなれなかった。それに背丈はそんなに違わないけれど、体の厚みも目方も自分の方が上だ。おっさんはがさつではあるけれど、年下や弱いものには親切な性分だった。
けれど強いと聞けば力比べしたい気持ちも湧いてくる。様子見のつもりで声を掛けたところ、相手も案外と乗り気だった。
「国一番に申し込まれたら、喜んで受けて立ちますよ」
屋敷の庭で勝負する事になり、手の空いている屋敷の者や近所の人達が集まって観客の輪が出来る。勝負が始まり、すぐにおっさんは自分の認識が間違っていたと思い知る。簡単に勝てない所ではなく、本気になっても押し負けそうだった。双方一歩も引かず、勝負は続いた。話を聞き付けて、町の人達が仕事もそのままに屋敷の庭に集まった。大きな声援の中、とうとう決着が付いて兄に軍配が上がった。おっさんは汗だくで肩で息をしながら素直に称賛を送る。
「すげえな、お前は」
兄も息を切らせながら首を振って「がむしゃらでしたよ」と汗を拭って笑う。
負けはしたけれど、おっさんはとても清々しい気持ちだった。力自慢であるけれど、それ故に小さなこの国ではそうそう相手がいなかった。年下だの何だのと思ったけれど、強さにそんなの関係無かったなと思う。だからそれからも兄とはお互いに、何かと勝負をしては勝ったり負けたりする良い相手になった。
その後に兄の影響もあり、おっさんは親の仕事を弟に譲り遠出の仕事に就いた。
ちなみにおっさんは飲み比べでは兄に全敗している。
兄が子犬を拾って来て、その内に子犬も相当な大力と噂が広まった。兄弟揃ってとはな、とおっさんは楽しくなった。けれど兄とは違って子犬は勝負事に興味が無いようだった。子犬に力比べを持ち掛けたけれど「俺が勝つから」と、あっさり断られた。
「あったり前みたいに言うな」
舌打ちしながらも大した自信だと思う。
「そうだな。大食い競争ならしても良いよ」
子犬がにやにやと笑いながら言うと、おっさんは呆れたように「辞めとくわ」と返した。




