子犬のお使いの帰り道の事
子犬のお使いは少しずつ時間が掛かるようになった。時間が掛かると言っても、脇目も振らずに最短距離を駆け戻っていたのが回数を重ねる内に、お使い先で立ち話をしたり、道すがらに荷物運びを手伝ったり、友達に会って少々遊びの輪に加わってくるようになったからで、他の子達のお使いと同じ程度の時間が掛かるようになっただけの事だった。
「今日は試合にでも誘われたかな」
「この間は収穫の手伝いだっけ」
お使いに出た子犬を待ちながら兄と幼馴染がそんな風に話していると、部屋の手前で立ち止まる気配がして、それから「ただいま」と俯きがちに子犬が入って来た。困惑した様子の子犬の髪には出掛ける前には無かった花やリボンが編み込まれている。
「おや。お祭の花飾りじゃないか」
幼馴染が笑って言うと、
「女の子達に捕まった」
子犬はため息混じりに言って、自分では見えない髪や花を気にして触れる。
お使いの帰り道、子犬は同年代の女の子とその妹達が野の花を集めている所に出会って呼び止められた。子犬はあまり気乗りがしなかったのでお使いの途中だからと一度は断ったけれど、
ーもう帰りなんでしょ
ーちょっとだから
ー君は足が速いから走っていけばいいよ
口々に誘われて断り切れなくなった。結果、お祭の花飾りを編む練習台にされてしまった。子犬は不本意そうだけれど、何だかんだで付き合った子犬を兄は微笑ましく思い、幼馴染は可笑しそうに笑う。
「女の子達、よく編めたな」
編み込みを見て兄が感心したように言う。子犬の赤い髪は利かん気が強い。実際女の子達は随分と手こずって、途中から本気で取り組みだして、おかげで子犬はなかなか離してもらえなかった。子犬は両手で髪をくしゃくしゃと解きながら不貞腐れた顔で兄を見上げる。
「みんなお祭で兄いと踊りたいんだってさ」
「それは光栄だね」
そう言って兄は笑う。幼馴染も声を立てて笑う。子犬はむくれた顔をして、自分の髪から取った花を兄の髪に挿す。
「お前も踊りの練習をしておこうか」
兄が言うと「それは良いねえ」と幼馴染も頷く。
「え」と子犬は顔を赤くして幼馴染を見る。何か言いたそうで言葉が出ずに、子犬は髪に挿してある花をひとつずつ取る。編み込んであったリボンが解けて子犬はそれを手に、
「これ、返して来なきゃ」
と呟いた。




