兄が子犬の成長を楽しみにしている話
子犬は兄の膝に抱き抱えられるのが好きだった。兄もそれを楽しいと思う。子犬を膝に乗せて赤い髪を撫でる。子犬を拾ったあの日と同じようにこうしていると、成長したなと楽しくなる。ぼさぼさだった髪は長く櫛を通す事も無かったせいかと思ったけれど、元々の髪質だったらしい。今撫でる子犬の髪も自由気ままに跳ねていた。
子犬は気が済むまで撫でられ愛撫されて、兄と一緒に布団に入る。もう少しくっ付いていたくて、また乗って良い?と遠慮がちに聞く。いいよ、と兄は笑って子犬を抱き上げて自分の体の上に寝そべらせた。
「今だけだし」
子犬が言い訳っぽく言うと、兄は楽しそうに子犬を撫でながら
「俺より大きくなってからでも良いよ」
と言う。子犬は困惑して
「それはない、と思う」
と小さな声で言う。どうして?と兄に聞かれて子犬は答えに困る。兄より大きくなるのが無いのか、大きくなっても兄に抱き付くのが無いのか、自分で言っておきながら分からなくなってくる。大体、以前からその傾向があったけれど、何故そこまで子犬が大きくなるのを期待するのかと思う。もちろん子犬としても、もっと背も高くなるつもりではあるけれど。兄は子犬をとても大切にしてくれる。けれど何となく、兄の大きく育つようにと言う期待や態度が家畜や犬猫に対するそれと同じような気がしてきた。実際その通りで、兄は相手が何者でも接し方が変わらなかった。人でも動物でもお互いの言葉が分からなくても、同じように笑って手を差し延べていた。
考えがまとまらなくなって来た子犬はしかつめらしい顔をして、その時になったら考えるよ、と言って兄の胸に伏せる。先の事はまだ考えられない。今は今だけに集中したかった。兄は子犬の背中に両腕を回して抱き締める。重さと少しだけ圧迫感を感じて子犬の顔が緩んだ。




