薬草の味見で子犬がひどい目にあった日の晩御飯の事
夏の日も傾き始めて大人も子供も家路に着く。屋敷でも使用人達が仕事から戻り、夕食の時間になる。変わりばえしない献立でも食事は大きな楽しみだ。一日働いて疲れていても夕食時となれば、ついでに一杯やりながら誰もが自然と笑顔になる。その中でも食べる事が大好きで一際良い笑顔をするはずの子犬が沈んだ顔をしている。
「どうしたの?ご飯なのに」
まさか具合でも悪いのかと台所当番が心配すると、子犬は元気なく応える。
「口の中が苦いんだよ」
「はあ。また何か変なの食べたね?」
隣で兄が苦笑いする。子犬は言い訳みたいに説明する。
「薬草だよ。生の葉っぱを味見したら、まだ苦いのが治んない」
「そりゃかわいそうに」
台所当番は笑ってそう言うと、子犬のお盆に口直しにと干し果物を付けてくれた。子犬は、ありがと、とへなちょこな笑い方でお礼を言って受け取る。
並んで空いている席の端に兄が腰掛け、左隣に子犬が座る。その前の席に若い厩番が来て、しょぼくれた顔の子犬に声をかける。
「おいおいどうした、飯なのに」
子犬が渋々事情を話すと腹を抱えて笑われる。凹んでいても食欲は変わらないので、からかってくる厩番を無視して子犬は食べ始める。食べ始めても苦味が取れないらしい子犬を見て兄が気の毒そうに言う。
「随分と長引くもんだな」
「何で?兄いの時は違ったの?」
「指先ほどだったから、そこまでは。味見ならその位で良いんだよ」
「先に言ってよ」
恨めしそうに兄に言う。
「お前何でも一口がでかいよな」
若い厩番に笑われて子犬はむっとするけれど、今も口一杯に頬張ったところなので言い返せず、もぐもぐと頰を膨らめたまま睨む。
それでも皿が半分になる頃には味覚が戻ってきて、食べ終わった時にはいつも通りの満足気な笑顔になった。最後に取っておいた口直しを手にして兄に笑う。
「得した」
そう言って一口で頬張った。
2021.07.09 一部修正。




