涙の味見をする話
城壁の見回りの帰り道。道端にもじゃもじゃと生えている葉を見て子犬が立ち止まり、兄に尋ねる。
「これ、薬になるんだっけ」
「そうだよ。良く覚えてるね」
褒められて子犬は嬉しそうに笑う。これはよく使われる薬草だと、見回りを始めた頃に兄に教えてもらった。子犬は健康そのものなので薬の世話になった事はない。だから薬草には関心が無かったし、美味しそうな匂いでもなかったので興味をそそられず、その時は話はそれ切りだった。
けれどこの頃、子犬はもっと役立つ事を身に付けたいと感じている。もっと多くを知って出来るようになって、兄のようになりたいと思っていた。だからこの葉っぱの事も詳しく知りたくなって兄に聞いてみた。
兄は葉を一枚ちぎり、子犬にこうして生えている時の呼び名、薬としての名称、効能と使い方を説明する。
「基本的に乾燥させて使うんだ。煎じて飲むには新芽が向いてるよ。今の時期は伸び切って苦味が強いから、主に貼り薬に使う」
子犬も一枚ちぎって匂いを嗅いでみる。
「匂いは悪くない」
「そのまま食べると口が利けないほど苦いよ」
「兄いは試したの? 」
「うん。だから勧めない」
子犬は兄がやった事なら自分もやってみたかった。平気だよ、と自信ありげに口にして悶絶する。兄は予想通りの反応をする子犬に噴き出すのを堪える。
「酷い味だろ?」
そう言われても苦味に耐えるのに精一杯で返事も出来ない。泣きながら鼻をすすっている子犬の頰を兄は拭ってやる。
「…ひどかった」
やっと息をついて子犬は呟いた。兄はまだ半泣きの子犬に笑いかけ、こう言った。
「涙の味をみせて欲しいな」
子犬は咄嗟に意味が分からず、兄を見上げて え?と聞き返す。体を屈めた兄の顔が近付いて、子犬は目元に口付けられた。子犬は驚いたけれどされた事は全然嫌とは感じなかった。嫌な訳はないけれど目的が分からない。
「何?」
戸惑いながら顔を赤らめて尋ねる。
「涙が出る理由で味が変わるかと思ってね」
子犬はまだ困惑している。
「なんか分かった?」
兄は味を反芻するように少し考えてから、笑って子犬の頭を撫でる。
「これだけじゃあまり分からないかな。でも覚えておくよ」
もし目が見えなくても、子犬が泣く理由を知る手掛かりにする為に。




