初夏の夜の怪談話
少しずつ日が長くなってきて、屋外もそう寒くはなくなった。屋敷の庭の木々に灯りを吊るして、外でも夕べの憩いの時間を過ごす。小さな椅子に腰掛けて爪弾く語り手の周りには聞き手達が集まり、緩く輪になっている。いつも家畜小屋にいる猫達も何匹かやって来て、語り手の足元で三角の耳を傾けていた。
日が長いと言う事で、屋敷に遊びにやって来る子供も増えてきた。それを見て弾き語りの青年は、いっちょやるか、と企む。陽気な曲を弾き始めると子供達に呼び掛けた。
「お前達、特別な話をしてやるぞ」
喜んで子供達が集まって来る。子犬も兄と語り手の前に座る。興味津々の子供達を見回すと、手元の灯りを取って顔を下から照らして思い切り悪い顔をする。
「とびきりに、怖いお話だ」
そう言っておどろおどろしい音を掻き立てると子供達は一斉に悲鳴を上げてはしゃぐ。怖い話と言っても洒落にならない類では無くて、雰囲気を作って盛り上げてオチで驚かせるだけのつもりだった。夜に眠れない子はいないように。
はしゃぎながら聞き手達の席が大体決まったようで、二人組もいくつか出来ていた。語り手はそんな様子を面白そうに見回す。
「そこ、密集してるな」
兄の周りには子供達、主に女の子がほぼ全員集まっていた。何故か猫も一匹やって来て兄の膝に座り込んでいる。そうだね、と言って兄は笑う。兄の隣にいた子犬は反対の隣に座った少女に圧迫されていた。子犬は自分より少し背が高くてお下げにリボンを付けているその子に文句を言う。
「狭いんだけど」
「じゃあどけば? 」
そんな事を言われても子犬に譲る筋合いは無い。
「俺、最初からここにいたもん」
少しだけ押し返すと、しばらく押し合いへし合いになる。
そうしている間に夕闇は濃くなって、怪談話の雰囲気が出て来る。語り手は佗しげな曲を奏でて語り出す。悲鳴を上げて隣同士で抱き合う子供もいるし、強がって両手を握り締めている子もいる。兄は子供達にしがみつかれて半泣きの子を宥めている。子犬は全然怖がらず面白そうに聞いている。語り手はそんな聞き手の反応を楽しみながら話を盛り上げていく。
盛り上がる直前の一瞬の静寂に聞き手達は息を飲む。
と、猫と兄と子犬が無言で同時に同じ方を向いた。語り手の斜め後ろの上の方だ。そこには夕闇の他に何も無いはずだった。語り手は背筋がぞくりとする。
兄弟揃って猫まで一緒に、一体何を見ている?兄はいつもの穏やかな笑みを浮かべているけれど子犬は不思議そうな顔だった。
彼らの視線の一致に気付いているのは、立ち位置的に恐らく語り手の自分だけだった。
ここで余計な事を言って子供達を本気で怖がらせてはいけないと平静を装う。いや、何を見てるかなんて聞きたくないだけかも知れない。とにかく指を動かして曲を弾き続けた。
みんな続きを待っているのだから、と気を取り直して再び語り出そうと口を開いた瞬間に、猫と兄と子犬が同時に語り手の方を向いた。語り手は内心泣きそうになる。何なんだ一体。意味が分からないじゃないか。何で猫までこっち向く。しかも視線の先は自分の方だけど自分では無い気がする。
引きつった笑いの語り手に兄はにこやかに笑いかけ『何でもないよ』と言うように軽く手を振った。子犬はそんな兄を見て、また語り手を見ていつもみたいに笑う。猫達は飽きたのか、兄の膝にいるのはそっぽを向いて丸くなり、語り手の足元にいたのは伸びをしてどこかへ行ってしまった。




