子犬がこんがらがる理由
子犬はとても分かりやすい。大体その時の気持ちが顔に出ている。して欲しい事があればすぐに言うし、したく無い事は態度に出る。顔にも声にも出る。あまりにはっきり嫌がるので、兄は声を立てて笑ってしまう事もあるくらいだった。
そんな風に分かりやすい子犬ではあるけれど、もちろん兄も子犬の全てが分かるとは思っていない。それでも言葉にならない部分も出来るだけ気付きたくて、兄は子犬をよく見て、時によく撫でていた。
ある晩、いつものように子犬は兄の膝に抱かれていた。顔が見えるように横抱きに抱えられて、まだ赤い目元で拗ねたような、何か言いたげな顔をしている。兄が理由を聞けば「こんがらがってる」
子犬が望めばいつも兄はそれに応えてくれる。そうして欲しがるのはいつも子犬だけど、その気持ちを強くしてるのは兄の方じゃないだろうか。
ふいに顔が近くなる時とか、髪や頬だけでなく全身を指先まで撫でてくれる大きな手とか。
それが子犬の様子を確かめる為の行為だとしても、子犬の気持ちは動かされてしまう。子犬から誘ってるのか、兄から誘わされているのか。頭の中で絡まってしまうのは、今も優しげに自分を見つめている兄のせいじゃないだろうか。
子犬は口を尖らせて上目遣いで兄を見る。
でも、だからと言って今までのあり方を変えて欲しくはなかった。
「今のままがいい」
「こんがらがったままで?」
「うん。でも、それ兄いのせいでもあるから」
それは知っておいて欲しかった。
「そうか」
兄は笑って子犬の髪をわしゃわしゃと撫でる。よく跳ねる赤い髪がもっと飛び跳ねた。




