枕元で物語る事
日が落ちた後、屋敷の広間は夕食後の団欒を楽しむ人達が集う。屋敷の者たちだけでなく、町の人もやって来て思い思いに過ごしている。灯りの近くでは内職をしながら談笑する女性達がいて、子供達は子供達で集まっている。弾き語りをする周りにも輪が出来る。子犬は、兄がすぐ側で大人達の輪にいるので、友達と一緒に遊んでいた。
遅くならない内に子供達が帰ってしまうと、遊び相手がいなくなった子犬は兄の隣に行って座る。兄の杯から酒をつまみ飲みしたりしながら、兄や大人達がパイプをくゆらせて雑談しているのを横耳に聞いて過ごす。
だんだん広間の人の数が減って、灯りが消される時間になる。残っていた人達もおやすみの挨拶を交わしてそれぞれの家や部屋に帰って行き、子犬と兄も自分達の部屋へと戻る。もう暗い通路を子犬は兄と手をつないで歩く。
二人の部屋で子犬は兄の膝に抱かれて心音を聞く。昼間は兄と仕事をして、友達と遊んで夕べの団欒を楽しんだ後、子犬の気持ちが一番和らぐ時間だった。撫でられて柔らかくなった体を密着させる。兄の声が聞きたくて子犬は話をしたがった。首筋に触れて声を振動と聞く。それで?と話の続きをねだる。子供が寝る前にせがむ昔語の様で、閨の語らいの様で。兄の知っている話は尽きる事がなかった。続きをねだる内に夜が更けていく。子犬はずっとそうしていたかったけれど、意識は半ば眠りに落ちかけていた。兄の話し掛けに返事はするけれど、先刻からちぐはぐになってる。でも本人は気付いていないようでほろ酔いの人のように楽しげに笑っている。兄は子犬の髪をかき上げながら言う。
「もう遅いから、あとひとつだよ」
「あとひとつ?」
子犬は聞き返して首を傾げる。
「そう。お前が好きなのを話してあげるから。何が良い?」
もう寝なければいけないと理解して子犬は口をへの字に曲げる。兄はそんな子犬の頬を撫でてやる。子犬は本当のところ眠気の限界だった。夢うつつの頭で思う。あの子守り歌なら、眠ってもいいや。
「うた」
目を閉じて笑顔で言う。兄は優しい目で頷いて、布団の上から軽く肩をたたいて拍子を取り、ゆっくりと歌い出した。




