同じなのに違う事
夜に包まれて兄は子犬のよく跳ねる赤い髪を撫でる。子犬は兄の腕に包まれて、もっと、と言う様に頭をすり寄せる。それが猫の様だと思って兄は子犬の頰から首筋に触れて顎を指先で撫でる。子犬はくすぐったくて声を立てて笑う。
でも、さっきまではそうじゃ無かった。
暖かくてくすぐったくて楽しい時と、熱くて疼いて声をあげてしまう時。撫でてくれる手は同じ。名前を呼ぶ声も同じなのに。優しくて嬉しいだけじゃなくて奥まで響いて堪らなくなる時。何が違うんだろ。何で違うんだろ。
子犬は兄の手に手を添えると目の前に引き寄せて、しげしげと観察して撫でてみる。兄は目を細めて子犬にされるままにいる。
「何?」
「同じ兄いの手で、同じとこを触られてるのに」
「うん」
「今とさっきは違うんだよ」
子犬は腕を抱き寄せて兄を見て、不思議そうに首を傾げる。子犬の言いたい事が何となく分かって、そうだね、と兄も少し首を傾げる。同じ様に名前を呼んで撫でていても、子犬にとってはその時々で感じる事が違うらしい。兄にとってはいつでもどんな子犬でも大事である事に変わりないのだけれど。
「心臓が早く打つから、かな?」
そう言って兄は子犬の胸の真ん中に手を当てる。子犬はまた少し鼓動が早くなって目元が赤くなってくる。子犬は兄の胸に耳を当ててみる。規則正しい音。目を閉じてじっと聞く。自然と口元に笑みが浮かんだ。




