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子犬の目の色と

子犬が城壁の上を歩いている。所々でとんとんと足踏みをして、問題ないよ、と城壁沿いに歩く兄に伝える。遊んでいるのではなくて、音で積んだ石に緩みが無いかを点検しているのだった。


見回りが一区切り付いたので、子犬は城壁の上に腰掛ける。近くに生えていたスイバをおやつ代わりに噛みながら、風が運ぶ音を気持ち良さげに聞いていた。兄はすぐ下の城壁にもたれて目の届く限りの遠くを眺めていた。草木の色も空の色も濃くなる季節で、谷を下った先の丘に立つ道標の木の葉も深みを増していた。ふと子犬を見上げると子犬も気付いて兄を見下ろす。兄は自分をじっと見る子犬の瞳の色が今の季節の色濃くなる葉の色に似てると思った。

「お前の目は、この季節の木の葉の緑に似ているね」

「急にどうしたの?」

そう言われた子犬は思わず噛んでいたスイバを落とす。兄の横に飛び降りて目を丸くして兄を見上げる。

「そんな風に言うの初めて聞いた」

弾語りの得意な青年が女性陣にそんな風に、目の色や容姿を花や物語の何かに例えて話すのは良く聞いていた。炉端で男衆で輪になって飲んでいる時に子犬は、口説き文句ならお兄さんに聞きなさい、と言われたものだった。

「お前の兄はそう言うのからきしだからな。黙っていてももてるから」

「からきしなのは本当だから、俺にも教えて欲しいな」

「後半は否定しないのか」

そんな雑談もしたけれど、その前にも後にも兄がそうした情緒的な物言いをするのを子犬は聞いた事がなかった。

子犬があまりに意外そうにしているので、兄はちょっと申し訳ない気持ちになる。

「昔、詩人には向いてないって言われてね」

兄が子犬より大分小さい頃に、たくさんの歌や物語を聞く内に自分でも作ろうとした事があった。第1作目はまず幼馴染に披露した。幼馴染は長椅子にもたれながら最後まで聞いて、にこやかに「君は詩人に向いてないよ」と言ったのだった。

「お前の目の色が良い季節の色だと思ったんだよ」

それだけだったのだけど。

「良い色?」

「うん」

子犬の前髪をかき上げて笑う。子犬は気持ちがくすぐったくなる。

「嬉しい、よ」

照れくさそうに笑った。

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