兄が子犬を拾いに行った日の幼馴染の事/出迎えた時の話
柔らかな明るい色の髪を揺らして、屋敷の通路を大股で歩く。向かう先は幼馴染である黒髪の青年の部屋。どうにも不機嫌な顔になってしまうのは、さっきの親父殿のせいだった。
秋も深まり皆んなが冬支度に忙しかった。
「そうは言っても悪くない忙しさだね」
「うん。今年は気候も良かったし家畜も皆んな良く肥えた」
「他の村を見に行った連中の報告だと、向こうも上手くいってるそうだ」
この国を治める家の者として、兄弟達とそんな話をしながら冬支度の確認をしていた。家畜達の一部は冬の間、草を求めて遠くまで回る。その為に国境の様子を見に行った集団も最後の一組がそろそろ帰って来る。今日明日にも見張り塔から姿が見えるはずだった。
そこに親父殿がふらりとやって来て、黒髪の青年が帰って来たと言う。彼はこれから帰って来るはずの国境に行った集団の一員だった。それが見慣れぬ足跡を見付けたので見回りに行く為に許可が欲しいと、一足先に戻って来たと言う。支度が出来次第またすぐ発つそうだ。
「一人で見回りですか?」
「だそうだ」
それは本当に火急の見回りなのかと訝しむ。何の足跡を見付けたか知らないが単に自分の好奇心の為では無いだろうか。でも親父殿が許可したのなら特に言う事も無かった。尤も親父殿は少々青年に甘い所があると思う。子供の頃から利発な青年に目を掛けていて、彼が身寄りを失くした時には養子にとも考えていた。本人が他の身寄りの無い者達と同様に屋敷に奉公する道を選んだので、以来彼はここで寝起きし働いている。
「それで、なんと言ってたかな?」
「何も聞いてませんよ。大体戻って来たのを今知りましたよ」
横で兄弟達がくすくすと笑う。
「そうか。しかしあの子は何を見付けたんだろうな?」
「帰ったら本人から報告するでしょう」
気になるなら最初から本人に聞けば良いのにと思う。言わなかったのかも知れないけれど、だからって自分に聞かないで欲しい。知らん顔をして場を離れた。
そして屋敷の端にある青年の部屋へ向かっている。大股で歩きながら自問する。どうせ向こうから来るだろうに、どうしてわざわざこっちから出向いてるんだろうな。
黒髪の青年が少年だった頃からそうだった。彼は幼馴染である自分に何でも話しに来てくれた。町の中の事や城壁の外の事。自分が出掛けられない場所へ探検した事や、この国ではまだ誰も知らない遠く広い世界をこの目で見たいと言う話も。それは夢想ではなく確固たる計画の様だった。お兄ちゃんになると言う話も嬉しそうに言いに来た。自身が弟だったから兄になるのをとても楽しみにしていた。
思い出から顔を上げて通路を曲がる。その向こう端、青年の部屋のドアが開いた。鞄を斜めに引っ掛けて青年が現れ、こちらを認めるとちょっと意外な顔をしてから楽しそうに笑って早足でやって来る。仏頂面をして通路の真ん中で両足を広げて立ち、腰に手を当てて待ち構えてやった。
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出迎えた時の話。
弟予定の迷子の分もあるとしてもあれだけ携帯食料を持って一体何日掛かるのかと思っていたけれど、案外あっさり二人は帰って来た。
ぼさぼさの赤い髪の子供によく来たね、と笑い掛けると片言で答え人懐っこく笑った。青年によると独りぼっちの迷子だったと言うけれどそんな影は無く、一日遊んで泥だらけになった町の子と変わらない屈託の無い笑顔だった。
ところで、と青年に尋ねる。
「あれ全部食べたのかい?」
「うん」
この二人を養ってやらないと、と強く思った。




