初めてのお使い
子犬はいつも兄と一緒にいる。だから兄の仕事にも一緒について行く。見習いだけど兄に教えてもらって一通りの仕事は覚えたし、兄もよく褒めてくれた。
早朝、いつものように兄と子犬は城壁の外の放牧に出掛ける支度をする。みんな朝のひと仕事を終えてから食事を取るけれど、放牧に出掛ける場合は外で食べるのでその日の分を台所で受け取って行く。兄と子犬もいつも通りに一緒に、まだ朝日が届かず薄暗い通路を台所へ向かう。
けれど今日の子犬には兄にして欲しい事が一つあった。
並んで歩いていた兄の前に回って向かい合って立ち止まる。通せんぼされた形になって兄も足を止める。子犬は出来るだけ何でもない事の様に言ってみる。
「俺が取って来るよ。だから、兄いはここで待ってて」
手を後ろに組んで少し胸を張る。兄はにこりと笑って子犬の頭を撫でる。
「わかった、待ってるよ」
いつもの兄の笑顔だった。だから子犬も笑って応える。
「うん!」
後ろ向きのまま数歩あるいて、くるりと振り返って走り出した。
台所では朝の当番が食事の支度をしていた。
出掛ける者達の分は火を使わない物をもう包んであった。
「二人分ちょうだい」
そう言いながら子犬が飛び込むようにやって来る。当番長が、あんた達の二人分だね、と言うと周りが笑う。子犬もえへへと笑う。けれど子犬の後から兄がやって来ないので当番長はおやと驚く。
「今日は一人なの?」
「そうだよ、兄いは待ってる」
「じゃ、待たせちゃ悪いね」
他より一回り大きな包みを子犬に手渡す。
「気を付けて行っといで」
「ありがとう!」
包みを肩に掛けた鞄に入れるのもそこそこに子犬は台所を飛び出した。
屋敷をぐるりと回る通路を子犬は駆けて戻る。誰かとぶつかったりしないように気を付けながら、口を一文字に結んで急ぐ。あの突き当たりを曲がれば兄の部屋まで真っ直ぐ。角を曲がると通路の先に、兄が待っていた。壁にもたれてこっちを見ている。それから通路の真ん中に立ち、子犬に向けて両手を広げた。子犬は速度を上げて、身長の倍以上離れた所から踏み切ってその腕に飛び込んだ。兄はしっかり抱き止めてそのままぐるりと回って子犬の勢いを落とす。子犬はしがみ付いたまま興奮で頰が赤くなる。飛び付いたのは思わずやってしまった事で、それでも兄は受け止めてくれた。
「ご苦労」
跳ねた赤い髪を撫でられる。少し目元に涙を滲ませたまま子犬も笑った。
放牧地はすっかり朝日に照らされていた。草も羊も照らされて眩しく見える。子犬はそこら中を跳ね回りたい気持ちだったけれど羊を驚かしては仕事にならない。努めていつも通りに羊を追いながら何度も兄を振り返って見る。兄は何度でも笑顔を返してくれた。
羊達が食べ出してから人間の朝ごはん。子犬は兄と並んで食べる。いつも通りの特別な時間だった。




