09. 義妹とのお茶
ミリア・アルディーンから招待状が届いたのは、ヴィオレッタがアルディーン公爵家を訪れてから数日後のことだった。以前に約束していた二人だけのお茶会への招待で、きちんとした文面ではあるものの、最後には当日をとても楽しみにしていると書き添えられている。ヴィオレッタはそれを読んで微笑み、その日のうちに参加すると返事を送った。
当日、アルディーン公爵家へ到着すると、ミリアは玄関広間まで迎えに来ていた。
「お待ちしていました、お義姉様!こちらです。今日は私がおもてなししますから、ゆっくりしていってくださいね」
「ありがとう。私も楽しみにしていたわ」
案内されたのは、ミリアが普段から使っている小さな居間だった。大きな窓から庭園を眺められる明るい部屋で、窓辺には花が飾られ、棚には何冊かの本や小物が置かれている。家族や親しい友人と過ごすための場所らしく、アルディーン公爵家の屋敷の中でも特に気取らない雰囲気の部屋だった。
ただし、中央のテーブルだけは随分と賑やかだった。焼き菓子や果物を使った小さな菓子、蜂蜜を添えたケーキなどが並べられており、二人だけのお茶会にしては少し種類が多い。
「たくさん用意したのね」
「どれにしようか迷ってしまったんです。お義姉様がお好きなものもまだよく知りませんし、だったら色々あった方がいいかなと思って。こちらは私が好きなもので、こっちは料理長がおすすめしてくれました!」
ミリアは楽しそうに一つずつ説明していく。どうやら朝から使用人たちと相談しながら決めていたらしい。
「それなら、まずはミリアのおすすめをいただこうかしら」
「では、これです!」
迷うことなく差し出されたのは、木苺を使った小さな焼き菓子だった。ヴィオレッタが一口食べて美味しいと伝えると、ミリアは自分が作ったわけでもないのに嬉しそうに笑った。
そこからは紅茶を飲みながら、のんびりとした時間が始まった。最初こそミリアが次々と話題を持ち出していたものの、ヴィオレッタもすぐにその調子に慣れた。最近読んだ物語のことから始まり、好きな菓子や花の話、王都で評判になっている店のことへと話題が移っていく。
「お義姉様は、どんな物語がお好きなんですか?」
「旅行記を読むことが多いけれど、物語なら冒険ものも好きよ。知らない土地が出てくるものは、つい読んでしまうの」
「冒険ものですか?少し意外です」
「あら、どうして?」
「恋愛物語を読んでいそうだと思っていました。なんとなくですけど」
「それならミリアは?」
「私は恋愛物語も好きです。でも、最近読んだものは主人公がなかなか気持ちを伝えなくて、途中から少し腹が立ってしまいました」
真剣な顔で言うミリアがおかしくて、ヴィオレッタは笑ってしまった。ミリアもつられて笑い、そのまま二人で最近読んだ本について話し続ける。
やがてミリアの視線がヴィオレッタの髪へ向いた。
「今日の髪飾り、とても綺麗ですね!」
「これ?ありがとう」
「その色、お義姉様によく似合います。私も似たものが欲しいんですけど、明るい色と落ち着いた色で迷っているんです」
「ミリアなら明るい色が似合いそうね。淡い桃色とか」
「桃色ですか?」
「ええ。今日のドレスにも合いそう」
ミリアは自分の袖を持ち上げ、しばらく真剣に眺めた。
「では、今度は桃色を探してみます!」
服や装飾品の話になると、ミリアはますます楽しそうになった。十四歳という年頃もあって、最近は自分で身につけるものを選ぶ機会が増えてきたらしい。以前は母であるレティシアや侍女に任せることが多かったものの、今では仕立て屋が持ってくる布地や意匠の見本を眺めながら、自分で考えるのが楽しくなってきたという。
「そうだ。お義姉様、王都の西通りに新しくできたお店をご存じですか?髪飾りや手袋、それに小さな鞄なんかを扱っているそうなんです!」
「もしかして、角に白い看板が出ているお店?」
「そうです!」
「この前、馬車で前を通ったわ。私も少し気になっていたの」
ミリアの顔がぱっと明るくなる。
「でしたら、今度一緒に行きませんか!?」
「いいわね。私も中を見てみたいわ」
「本当ですか?」
「ええ。せっかくだから、ゆっくり見ましょう」
それだけで次の約束が決まってしまった。ミリアはさっそく、店では髪飾りを見たい、最近新しい手袋も欲しかったのだと楽しそうに話し始める。ヴィオレッタも小さな鞄なら見てみたいと話し、どんな色がいいだろうと二人で考えた。
気づけば二人は向かい合って座るのをやめ、同じ長椅子に並んでいた。ミリアが最近仕立ててもらったドレスについて話しながら、今度はどんな色にしようかと悩み始めたため、ヴィオレッタも一緒になって候補を考える。
「薄い青も似合いそうだけれど、春なら若草色も可愛いと思うわ」
「若草色……。着たことがありません」
「一度試してみてもいいんじゃない?」
そんな話をしているうちに、最初は多いと思っていた菓子も随分と減っていた。紅茶も一度新しく淹れてもらい、窓から差し込む陽射しも少しずつ傾き始めている。
ヴィオレッタ自身、これほど話し込むとは思っていなかった。ミリアとは年齢も離れている。それでも本や菓子、服や装飾品といった好きなものについて話していると、年齢差はそれほど気にならなかった。
「お義姉様」
「うん?」
「またこうしてお茶をしてくださいますか?」
それまで楽しそうに話していたミリアが、少しだけ遠慮するように尋ねた。
「もちろんよ。いつでも誘っていいわよ」
ヴィオレッタが答えると、ミリアはすぐに笑顔へ戻った。
「よかったです!今日は私ばかり話してしまった気がして、少し心配だったんです」
「そんなことないわ。私もたくさん話したでしょう?」
「そうでしょうか?」
「ええ。それに、楽しくなかったらこんな時間まで話していないわよ」
そう言って窓の外へ目を向けると、ミリアもようやく時間に気づいたらしい。驚いたように目を見開いた。
「もうこんな時間なんですね」
「本当ね。私も気づかなかったわ」
間もなく侍女がヴィオレッタの馬車の準備ができたことを知らせに来た。二人は残っていた紅茶を飲み終え、席を立つ。それでもミリアはまだ話し足りないらしく、玄関広間へ向かう途中でも、今度の買い物ではどこから見て回るかを楽しそうに話していた。
「まず髪飾りを見たいです。でも、お義姉様が鞄を見たいなら、そちらからでも構いません」
「お店に着いてから決めればいいじゃない」
「あ、それもそうですね」
ミリアが笑う。ヴィオレッタも笑いながら、そのまま玄関まで歩いた。
外にはグランシェル家の馬車が待っていた。ヴィオレッタが乗り込もうとすると、ミリアは名残惜しそうに一歩だけ近づく。
「今日はありがとうございました、お義姉様」
「こちらこそ。楽しかったわ」
「次はお買い物ですね」
「ええ。楽しみにしているわ。またね、ミリア」
「はい!また、お義姉様!」
ヴィオレッタは笑って馬車へ乗り込んだ。扉が閉まり、馬車がアルディーン公爵家を離れてからも、先ほどまで話していた店のことが頭に残っている。
ミリアには桃色の髪飾りが似合うだろうか。それとも、実際に店へ行けばもっと似合うものが見つかるかもしれない。自分も新しい鞄が欲しいし、時間があれば別の店を覗いてみるのも楽しそうだ。
そんなことを考えているうちに、ヴィオレッタは自然と次にミリアと会う日を思い浮かべていたのだった。




