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【完結】私を捨てたあなたに、幸せになる資格まで奪われたくないのです  作者: 入多麗夜


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23/28

23. 二人が望む結婚式

 少しの休憩の後に作業は再開した。


 日程そのものは、先程すでに決まっているため、今度は式をどのような形にするのかを考えることになる。ヴィオレッタはフェリクスの隣に座り、会場、祝宴、料理、進行と並んだ項目へ順番に目を通した。両家で用意できるものや慣例について簡単な説明は添えられているものの、どれを選ぶべきかまでは書かれていない。クロードもアーノルドも、家として必要な部分はこちらで整えるから、まずは二人の希望を聞かせてほしいという考えらしかった。


 新居について決めた時とは違い、ヴィオレッタは結婚式に強いこだわりを持っているわけではなかった。豪華な装飾を用意したいわけでも、これまで誰もしたことのないことを試したいわけでもない。けれど、何も考えずに両家へ任せてしまうのも違う気がする。フェリクスも紙を眺めながら、とりあえず全部盛大にすればいいというものではないだろうと話した。


「きちんとした式にはしたいわ。両家の立場もあるもの。でも、ずっと決められた通りに動いて、来てくださった方とほとんど話せないのは少し寂しい気がするの」


 ヴィオレッタがそう言うと、フェリクスはすぐに頷いた。


「俺もその方がいいな。儀式そのものはちゃんとやって、その後はもう少し落ち着いて過ごせるようにしたい」


 式そのものについては、両家に伝わる慣例から大きく外す必要はなさそうだった。婚姻を公に認めてもらうための儀礼や、両家の代表が立ち会う流れまで変えてしまえば、かえって準備が複雑になる。ヴィオレッタもそこへ手を加えたいとは思わなかった。気になったのは、その後に開かれる祝宴の方である。


 過去に出席した結婚式を思い返せば、華やかではあっても、新郎新婦が次々と挨拶を受け、食事へ手を伸ばす頃には料理が冷めているようなものもあった。ヴィオレッタは祝宴について書かれた欄で手を止める。


「式の後は、もう少しゆっくりできた方がいいわね。挨拶が続いて、席へ戻った時には料理が冷めているのは嫌だわ」


 フェリクスが思わず笑った。


「そこ?」

「大事でしょう。せっかく用意していただくのだから、温かいうちに食べたいもの」

「それは俺も賛成だね。料理はちゃんと楽しみたいな」


 ヴィオレッタは横目でフェリクスを見る。旅先で見つけた珍しい食べ物の話をすることもある彼なら、料理について何か言い出すのではないかと思った。


「珍しい料理ばかり並べるつもりではないでしょうね」

「さすがに結婚式では冒険しないよ。俺だって、初めて見る料理をみんなに食べさせたいわけじゃない」


 その答えにヴィオレッタは安心し、候補として出されていた料理についての説明へ目を移した。格式のある祝宴でよく使われるものを中心にしながら、季節の食材や二人の好みに合わせて多少変えることはできるらしい。細かな料理をここで決める必要はなく、見栄えを優先して食べにくいものばかり並べるより、招かれた者が落ち着いて食事を楽しめる形にしたいという点だけを書き留めることにした。


 会場についても、いくつか候補を出してもらえるようだった。王都には貴族の婚礼に使われる礼拝堂や、祝宴を開ける広間を備えた施設があり、アルディーン家と縁のある場所もあるという。ヴィオレッタは大きな会場そのものを嫌ってはいなかったが、遠く離れた席の顔がほとんど見えないような場所には少し抵抗があった。


「広すぎるところでなくてもいいわ。来てくださった方の顔くらいは見える場所がいいもの」

「うん。俺もそう思う。候補を出してもらってから見に行こうか」

「そうしましょう。紙だけで決めるより、その方が分かりやすいわ」


 ヴィオレッタは会場の項目の横へ小さく書き加えた。新居を選んだ時と同じように、実際に足を運んで見てから決めたい。広さだけでなく、祝宴を開く場所との距離や、参列者が移動しやすいかも確認したかった。


 そこまで書いたところで応接室の扉が開き、レティシアが姿を見せた。別の用事を終えたところらしく、二人の前に広がっている紙を見て足を止める。


「進んでいるようね。何か決まった?」


 ヴィオレッタは席を立ちかけたが、レティシアにそのままでいいと言われて座り直した。フェリクスが、式そのものは慣例に沿い、祝宴は堅苦しくしすぎない形にしたいと伝える。ヴィオレッタも、会場についてはいくつか実際に見たうえで選びたいと付け加えた。


 レティシアは卓上の紙を手に取り、二人が書き加えた部分を読む。


「そのくらい決まっていれば十分よ。最初から会場も料理も全部決めてしまう必要はないわ。希望に合いそうな場所をこちらでいくつか探しておくから、あとは二人で選びなさい」

「ありがとうございます。候補を見てから、フェリクスと一緒に決めたいです」


 レティシアは料理について書かれた部分にも目を通した。長い挨拶ばかりにならないようにしたいという話をすると、少し笑いながら、進行役にはその点も伝えておくと言う。細かな内容はクロードやグランシェル家とも相談して整えることになり、レティシアは紙を元の場所へ戻して応接室を出ていった。


 ヴィオレッタは再びフェリクスと二人になると、書き込んだ内容を最初から見直した。格式を崩さないこと。祝宴では食事や会話を楽しめる時間を作ること。会場は広さだけで選ばず、二人で実際に確認すること。並べてみると、考えていたよりも書くことは多くなっていた。


「ほかに、これは嫌だっていうものはある?」


 フェリクスに尋ねられ、ヴィオレッタは少し考える。


「挨拶が長すぎることかしら」

「そこは本当に嫌なんだね」

「嫌よ。聞いている間に何を話していたのか分からなくなるくらい長いものもあるでしょう」


 フェリクスは笑いながら、それなら自分からも両親へ伝えておくと答えた。ヴィオレッタもそれ以上話を広げず、卓上の紙を整える。まだ決めていない項目はいくつも残っていたが、会場も料理も候補を見てからでいい。今ここで無理に埋める必要はなかった。


 フェリクスが紙を一つにまとめている間、ヴィオレッタは窓の外へ目を向けた。庭では使用人が植木の手入れをしており、剪定された枝が少しずつ籠へ集められている。応接室へ来た時には何から考えればいいのか分からなかった結婚式も、今では会場へ行った時にどこを見ればいいのかくらいは分かるようになっていた。


「これは母上に渡しておくよ。候補が決まったら連絡をもらえると思う」

「お願い。私も家へ帰ったら、父と母に今日話したことを伝えておくわ」


 フェリクスは書類を抱え、ヴィオレッタも自分の手袋を取って立ち上がったのだった。

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