09.初依頼
今日も目が覚める。
一日ふて寝して少しだけ落ち着いたようだ。
昨日考えたことは実行する。びくびくするのはもうやめだ。
そもそも日常的に自問自答している人間なんて頭おかしいわ。
そんな奴が人の目を気にして生きようなんて無理だったんだよ。
こんなことを考えているが別に人の道を外れようとしているわけではない。
ただ積極的に行動しようということを大げさに言っているだけだ。
今日も一日頑張れ私。
ベッドから起きて体をほぐす。昨日はすぐに寝たので体をキレイにして
魔力循環をしてスッキリしたところでマイルームを出る。
1人でうじうじ考えるのが悪いので今日は人と関わろうと思う。
まずは街の中の依頼を受けてみよう。早速ギルドに向かう。
ギルドに入ると多くの人で混雑していた。
依頼を受けて街の外に行くならこの時間帯がベストなのだろう。
他の人に混じって依頼ボードと掲示板を確認する。Fランクの依頼で私の出来そうなのは「荷運び」「清掃」「簡単な武器の手入れ」「畑の手伝い」くらいか。
今は人と関わりたいので畑の手伝いかな。
依頼者は農業地区のダグ。内容は依頼者の指示に従うこと、報酬は銅貨5枚~、働きにより追加報酬ありと記載されている。詳細やどれだけの時間を拘束されるかもわからないがFランクの依頼はこんなものなのだろうか?まぁそれも経験か。
後は依頼書を持って受付に行くだけだがその前に掲示板も見ておく。
掲示板には「要塞蜜蜂の目撃情報あり、当該魔物及び巣についてはすべてギルドに報告すること」とあった。
冒険者も日々大変だなと他人事のように考えながら覚えていたら要塞蜜蜂なるものを調べてみようと思った。
めぼしい情報は他になさそうなので受付に並ぶ。
冒険者もいっぱいいるんだななんてぼんやり考えていると自分の番となる。
受付の人に依頼書とギルドカードを渡しながら声をかける。
「おはようございます。こちらの依頼の受注をお願いします。」
「はい、おはようございます。こちらの依頼ですね。…はい、確認いたしました。それではお気をつけて。」
素早い対応だ。前世の市役所とは雲泥の差。朝の依頼受注ラッシュを捌くプロの仕事を垣間見れた気がする。…と適当に考えながらギルドを後にする。
農業地区の場所は知らないので朝飯も兼ねて時計塔のある広場で聞いてみることにする。
広場に着き、せっかくならばと以前に肉串を貰った屋台のおっちゃんを探してみる。確かだいたい同じ場所でやっていると言っていた。あれ?やってるのは仕入れの関係で2日に1回だったか?今日は何日か日にちの感覚が曖昧だ。
まぁ別にいいか。おっちゃんがいれば聞くし、いなけば別の人に聞くだけだ。
探してみるとおっちゃんはすぐに見つかった。肉串のタレの匂いで見つけるのは簡単だった。今後はこの匂いで探せるな。
声をかける。
「おはようございます。以前肉串を頂いた駆け出し冒険者です。今日はちゃんと買いに来ました。」
おっちゃんはニカッと笑う。
「おう!らっしゃい。元気そうだな、冒険者稼業は順調かい?」
「なんとか手探りでやってます。今日もこれから依頼の仕事です。」
「そうか!それじゃあここで肉食って頑張れよ。いくつ食べるかい?」
「朝なので1本でお願いします。」
散財できるほどお金があるわけでもないからね。
「あいよ!時間があるなら焼きたてを作るがどうだ?」
時間はある。というか依頼の開始時間は記載がなかったのでどうとでもなる。
「焼きたてでお願いします。」
「おう!ちょっと待ってな。」
すでに焼いてあるのとは別におっちゃんは肉串を焼き始める。聞きたいこともあったのでちょうどいい。
「そういえば依頼の場所が農業地区なんですが場所を聞いてもいいですか?」
「農業地区なら街の北側だ。こっからなあっちの道をまっすぐだな。」
おっちゃんに教えてもらい目的地の方向とついでに方角がわかった。
「ありがとうございます。」
さて、知りたいことは知れたし後は何を話そう。私は世間話は難しいと常々思っている。天気の話をされると他に話すことはないのかと嫌がる人がいるがそもそも本気で天気の話をしたいわけではないだろうし、話題が思いつかないからそちら何かないですか?と聞いているとも捉えられる。そういったことも含めて世間話だと思うのに嫌いと一蹴するなら関係性を築くつもりがないのではないかと思ってしまう。
…いや、これも私個人の考えに過ぎないか。正解はないだろうし考えすぎるのは悪い癖だ、もっと気楽に行こう。
「ここで屋台を出して長いんですか?」
「いや、そんなに長くない。冒険者だけじゃ厳しくてな、狩った肉で何かできないかと思って屋台を出したんだ。」
「へぇ、冒険者の先輩だったんですね。」
「まぁな、つっても今じゃ屋台の方が楽しくてな。こっちが本業で冒険者は食材確保でやってるってだけだ。」
まぁ冒険者といってもいろいろなのだろう。別に一生冒険者をやってないといけないわけでもないだろうし。
「よし!焼けたぞ。言ってなかったが今日の肉はアシドリだ。角ウサギとはまた違った美味さだぞ。」
お金を渡して肉串を受け取る。大きな肉が連なりタレを纏っており美味しそうな匂いを漂わせている。
「いただきます。」
早速頬張る。肉一つ一つが大きく一つで口の中がいっぱいになる。噛むと肉汁が溢れてくる。鶏肉でこんなにジューシーなのは食べたことがない。ゆっくりと噛み進めるとあっさりとしつつ旨味がある鶏肉にタレが合わさり口の中が幸せになる。最高だ。美味い飯は素晴らしい。
夢中で食べ進め5分ほどで食べ終わった。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」
うまし、自分でも調味料が欲しくなった。そのうち買おう。
「おう!また来てくれよな。」
ステーキを食べた店の店主もそうだが体の大きい人が料理上手だとかっこいいと思ってしまう。ギャップ萌えってやつか?
店主に別れを告げて教えてもらった農業地区に向かう。
道をしばらく進むと建物は少なくなり畑が増えてくる。
まずは依頼主を探すところからだ。目に付いた畑で作業している男性に声をかける。
「すみません、ダグという方を探しているのですがご存じないでしょうか?」
「んー?ダグさんならあそこに見える家に住んでいるよ。足を怪我して療養しているから行けば会えるんじゃないかな。」
早速情報ゲット。聞いてないことまで教えてくれる地域住民特有の緩さだ。故郷の田舎を思い出すぜ。
お礼を言ってダグさん宅に向かう。
家の周りには誰もいないので扉をノックして声をかける。
「すみません、冒険者ギルドで依頼を受けてきました。ダグさんはいらっしゃいますか?」
家の中から返事が聞こえた。それから少し待つと扉が開く。
「お待たせしてすみません、どうぞお入りください。」
家の中に入り勧められるまま椅子に座る。ダグさんは初老ほどのおじさんで歩くのも椅子に座るのも辛そうにしていた。先ほどダグさんについて尋ねた人の言っていたことは本当のようだ。
「依頼を受けて下さった冒険者の方でしたな。早速依頼の説明をいたしまする。依頼には畑の手伝いと記載しましたが実際にはお一人で畑を回って作業をしていただきます。私はこの通り足をケガしておりまして一緒に行動できんのですわ。そこは了承していただきたい。」
ふーん、私は構わないが他人を信用していいのか?畑が滅茶苦茶になったらどうするんだ。私はしないけどね。多分。
「わかりました。それでは作業とはどのようなことをすればいいのでしょうか。」
「なーに、簡単ですよ。作業としては水やりと雑草の除去です。水やりは畑には散水の魔道具があるんですが水自体は補充してやらないといけないんです。なので井戸で水を汲んで各魔道具に補充してください。」
水魔法で出した水でいけるか?まぁダメなら井戸水をアイテムボックスで保管して補充に使えばいいか。
「次に雑草の除去はそのまんまで畑を回って雑草があれば抜いてください。抜いた雑草は捨て場がありますので近くで作業してる他のものに聞いてください。どちらも簡単な作業ではありますが畑が広いので大変かと思います。すべての畑が終わらなくても日が暮れれば依頼は完了といたしますのでどうか頑張ってください。」
日が暮れるまでとなると一日潰れることになるな。それで報酬は銅貨5枚。働きによって追加もあり得るとあったがそれも微々たるものだろう。…これは如何に早く終わらせるかだな。畑の数は決まっているだろうし。
「ちなみに作業する畑はどこまででしょうか。」
「うちの畑はこの家の周り全部だけど他所の畑とは区切りでわかるようになっているよ。まぁ気にしなくてもそこまで作業を終えることは難しいと思うよ。」
うーむ、最初から一日潰させる気のようだな。なんだ?Fランクの依頼はこんな扱いなのか?これがこの世界の”普通”ってやつか?
「わからないことがあればここに戻るか周りの人に聞いてみます。」
「あぁ、周りの人は他の作業をしているがうちの畑の人達だから私の名前を出せば大丈夫だよ。よろしくね。」
ダグさんの家を出て作業を開始する。と言ってもまずは情報収集だ。家の横に井戸があるので水を汲みアイテムボックスに収納して調べる。コピー君に飲ませての検証や水魔法で出した水との比較。水魔法で井戸水と同じ成分のものは作り出せるかどうか。結果は飲んで問題なし、水魔法の水とは異なり同じものを水魔法で出すことはできない。うーん、水魔法の水は真水で井戸水はミネラルやらなんやらを含んでいるとかか?で、その含んでいる成分の知識やイメージが私にないから作り出せないとかかな?まぁ細かいところはわからないが作り出せないってことはわかった。オッケーオッケー。
やることはわかったのでひたすら井戸水を汲んでアイテムボックスに収納する。しばらく続けたが井戸が枯れることはなかったので水の補充に向かう。
周りを見渡すと畑は25メートルプールほどの大きさを一区切りとしてそれがいくつも並んでいた。そしてその区切りの間の所々に石のくぼみと箱のようなものが見えた。
近づいて見てみる。見たことのない装置のようなものがある。例えるならFFに出てきそうな感じ。思い当たる物がないのでファンタジーっぽいとしか言えないそんな感じ。
近くに人がいたので聞いてみる。
「すみません、ダグさんの依頼で畑を手伝っております。水やりはこれに水を補充すればいいのでしょうか?」
「そうだよ。そのくぼみに水を入れれば後は勝手に撒いてくれるよ。」
便利だね。水の補充まで自動ならもっと便利だが。
教えてくれた人にお礼を言って水の補充をする。もう人に見られてもいいのでアイテムボックスから水を取り出す。傍から見れば何もないところから水が出てきたように見えるだろう。
水を補充する対象がわかったのでさっさと済ます。透過魔法をかけて全力で魔道具を回る。透過すればダッシュしても足元の土を抉ることはない。
水の補充は数十分で終わった。移動自体は早かったのだが魔道具が水を飲み込むのに時間がかかってしまった。まぁそれでも早い方だろう。
次は雑草の除去だ。水の補充の時に畑を見たが畝があるタイプで作物はきれいに並んでいた。であれば畝の外の草と畝の中でも規則的に並んでいない草を自動的に収納するように感知魔法に設定。判別に迷うものは放置。素人判断で作物を抜くくらいなら雑草が少し残った方がマシと考えたからだ。
よし、自動収納の感知魔法と土を踏み荒らさないための透過魔法を発動して畑を走る。ダグさんの言っていた畑の区切りから始めて外側から内側に円を描くように進めていく。こちらは水の補充と違って走るだけなのですぐだ。
畑を走り終わりアイテムボックスを確認すると草が大量に入っていた。草の種類がわからないのでまとめて表示されている。一応目視でも確認すると作物らしきものはなかった。
近くに人がいたので聞いてみる。
「すみません、ダグさんの依頼で畑を手伝っております。雑草の捨てる場所はどちらでしょうか?」
「雑草ならあそこの空いたところに広げといておくれ。」
お礼を言って言われた場所に向かう。そこには雑草が広げられており乾燥させているようだ。空いたところに同じように広げておく。
よし、言われたことはこれで完了だ。時間にすれば1時間も経っていない。これは確実に怪しまれるがやることはやったのだ。仕事を早く終わらせて文句を言われる筋合いはない。残業が美徳などという古い考えは嫌いだ。仕事が終わっていないのならわかるが残業するために仕事を残すという意味不明なことをする人もいると耳にしたことがある。もう何が普通なのかがわからなくなる。自分の普通を世間の、世界の普通かのように言うやつもいて、そしてそれを拡散させる奴もいて、とまぁ話が脱線したな。私が思うのはその人達も自分が正しいと思ってやっていると思うので自分の信じたことはやってみようってことだ。
では報告にダグさんの家に向かう。
家に着き扉をノックして声をかけるとダグさんが出てくる。
「はいはい、何か聞き忘れたことでもありましたかな。」
「いえ、仕事が終わりましたので報告に来ました。」
ダグさんは疑うような顔をしている。当然の反応だ。
「いやぁ、あなたが家を出て数刻も経っていません。さすがにそれは…」
「疑うのはわかりますがどうか確認だけしてもらえませんか。雑草の除去に関しては判断できないものは抜いていませんがそれ以外の仕事は終わりましたので。」
こちらの真剣な表情に渋々ながら納得してくれた。
「わかりました。確認させますのでお待ちください。」
ダグさんが家の奥に声をかけると若い男性が出てくる。少し話すと若い男性は外に出ていった。
それからしばらくして若い男性が戻りダグさんと話す。ダグさんは驚いた表情でこちらに話しかけてくる。
「確認が出来ました。水の補充が完了しており雑草もほぼ完ぺきに除去されていたとのことでした。どうやったのかは存じませぬが疑って申し訳ありませんでした。」
ダグさんは頭を下げる。あまり畏まられるのは困るが自分の非を認められるのはいいことだと思う。
「いえ、確認していただけたので大丈夫ですよ。それでは依頼は完了ということでよろしいでしょうか。」
「ええ、もちろん。では依頼完了としますのでギルドカードをお願いします。」
依頼完了はギルドカードを使うのか。
ギルドカードを渡すと何やら紙に近づける。するとギルドカードは淡く光ってすぐに消えた。
「はい、これで完了です。今日の依頼は終わりですが同じ依頼を数日出しております。もし機会があれば是非ともよろしくお願いします。」
うーん、気に入られたのか社交辞令なのかは知らないが他の依頼をするかな。いつでも依頼があるなら空いた時間に受けてもいいがそうでもなさそうだし。
曖昧な返事をしてその場を後にする。
さてとこれからどうするか。ギルドに報告して次の依頼を受けてもいいが…。
考えていると鐘の音が聞こえる。朝の鐘ってやつか。
そういえば街の外では鐘の音は聞こえなかったな。街から離れたからかと思ったが草原で活動していた時も聞こえなかった。考えてみれば街の外まで聞こえたら魔物が寄ってくるか。何か外には聞こえない工夫があるのだろう。
街の外のことを考えてふと思い出す。シカの魔物の頭が売れるとかなんとか。そろそろそこら辺の村人Aのような服装もどうにかしたいと思っていたので相談も兼ねてポルカノさんのところに行くことにする。
のんびり歩きながら目的地に向かう。気分は休日のお散歩。
心の平穏を感じながら街を歩き目的地のポルカノさんのお店に着く。
中に入って声をかけると以前に対応してくれたネズミ頭の店員さんが現れる。
「いらっしゃいませ、たしかカルラさんでしたよね。今日はどうされましたか?」
ポルカノさんに真面目な相談がある旨を伝える。もちろん忙しいなら出直すことを重ねて伝える。
少し待つと店員さんに案内されて奥の部屋に通される。
部屋にはソファーとテーブルがあり紙や資料で散らかった中でポルカノさんが待っていた。奥に事務机らしきものも見えるので作業部屋なのだろう。
「お見苦しい状態ですみません。まだ応接間のようなものがありませんので。」
「いえ、いきなりの訪問にも関わらずお時間いただきありがとうございます。」
ポルカノさんは表情を緩める。
「堅苦しい挨拶はここまでにしましょう、カルラさんならいつでも歓迎しますよ。お元気そうで何よりです。」
はぁー癒される。ちゃんとした大人のありがたさ。荒んだ心が洗われるね。
「ありがとうございます、あれから私の方は何とか冒険者をやれております。ポルカノさんもお変わりないようでよかったです。」
「ええ、お店やお客様との繋がりも少しずつ増えていていい傾向です。さて、本日は相談があるとのことでしたがどうされましたか。」
ポルカノさんも忙しいだろうしさっさと本題に入ろう。
「では用件を簡潔に言います。シャントラーズドを倒したのですか頭を買い取ってくれないかなと。」
アイテムボックスから頭を取り出す。事前に血抜きしているので部屋が汚れることはない。
シャントラーズドの角は倒した時と変わらず大きく歪で、そして立派だ。角の再生後に傷つけてないので素人目で見てもきれいな状態だと思う。
いきなりシカの頭が出てきてポルカノさんは驚愕している。
「…………」
しばらく無言の状態が続いた後ポルカノさんは口を開く。
「色々聞きたいことがありますがまずはカルラさんの質問にお答えしましょう。買い取りは可能です、付き合いのあるお店やお客様で魔物の素材が欲しいという方がいますので。」
「よかった。では買い取り価格はポルカノさんの言い値で構いません。私は価値がわかりませんので。それと私が持ち込んだことはできる限り内緒でお願いします。目立ちたくないので。この内緒なのはできる限りで構いません。ポルカノさんに迷惑がかかるようなら正直に情報を開示して大丈夫です。」
迷惑な奴は対処するし面倒になれば街を出ればいいしね。
「…一つずつ整理していきましょう。まずは買い取り価格について、言い値で構わないというのは感心しませんがこれは私を信用してくださっていると受け取りましょう。価格につきましては価値がわからないと言ったカルラさんに漬け込んで買い叩く様なことはしません。ですが正直に言って私の提示する額よりも大きく上回る金額を出すところもあるでしょう。この角はそれだけの品物です。なのでその点をご理解いただければ買い取りましょう。」
うん、買い手によって提示額は変わるだろうしポルカノさんはたしか中間業者だ。更に買い手を見つけて利益を出さないといけない。
というか信用して買い取りを依頼しているので騙されても文句はない。すべて自分の選択だ。
「はい、大丈夫です。ポルカノさんだから買い取りをお願いしているところもありますので他の買い手は考えておりません。」
「そうですか、わかりました。では次にカルラさんの情報は伏せることについてですが、今回の品物については道すがら出会った旅人から買い取った物なのでので相手を知らないで通せます。しかし今後も持ち込まれて、しかもこのような高価なものの場合はどこかで必ず情報は漏れてしまいます。これは私が情報を漏らすということではなく調べられてしまいます。というのも貴族や大きな商会などは情報収集を専門に行う者達がいると噂されていましてね。噂と言っても商人達の間では情報の大切さは知られていますので存在を信じられています。私でもお金と権力があれば情報収集部門を作ります。おっと、話が逸れましたな。ともかく目立つ品物の情報を隠し通すのは難しいのです。」
そうか、なんか面倒だな。
ポルカノさんは続ける。
「カルラさんの言う目立ちたくないとは目立ったことによる不利益を避けたいという認識で合っていますか?」
「うーん、知らない人に話しかけられるのを不利益とするならそうですね。」
「そうですか…、そもそも目立ちたくないのであれば冒険者ランクに見合った魔物の素材をギルドに納品するのが一番です。とは言ってもギルドの買い取りは一律ですしランクも指標ですから実際の冒険者の実力と差があるのはよくあると聞きます。」
そうなのか。
「面倒ごとを減らす方法としては冒険者としての実力を知らしめる、後ろ盾を得る、結束の固いパーティーで行動などがありますがどれも完全に面倒ごとをなくせるとは言えません。ですのでカルラさんがどこまで許容できるかも大切になってきます。」
許容と言っても想像がつかないからなぁ。
「ちなみに今の私で実現可能なものとなると何がありますか?」
いくつか例に出されたができないと意味がない。
「そうですね…、パーティーは目途がついていれば説明すればいいので一番早いです。」
はい、無理。
「冒険者としての実力を示すのは魔物を狩ってギルドに持ち込めばいいので今日からでも始めれますが効果が出るまで時間がかかります。初めは大変ですが認められれば冒険者ギルドの後ろ盾という意味でも効果は大きいです。」
出る杭は打たれるって言うしな。最初を我慢すればいいみたいだがどうだろ。
「最後に後ろ盾ですが先ほど言った力の強い貴族や大きな商会でなくともすでに付き合いのある相手がいると示せば引いてくれる人もいます。少ないですがね。なのでカルラさんが嫌でなければ私の商会の名を出していただいて構いません。」
はぁー、なんかややこしいな。私はただ物を売ってウハウハしたいだけなんだがな。あー考えるのも面倒になってきた。こういう時は一つずつ処理していこう。まずは後ろ盾についてだが私は好きに行動するつもりだ。そしてポルカノさんには迷惑をかけたくない。となると商会の名は使えない。…いや、迷惑を考えるならそもそもポルカノさんの店を利用しない方がいいか。うーん…、ダメだ、勝手に悪いことを想像して行動しないのはよくないな。何事も挑戦だ。
「確認したいのですがそもそもこちらに売り物を持ち込むことは迷惑でしたか?」
「いえいえ迷惑などではございません。ですが大きな店でもありませんので買い取りが難しい時もあるのが現状です。」
社交辞令もあるか?いや、言葉通りに受け取ろう。…よし、決めた。ポルカノさんのお店が大きくなれば影響力も増す、すなわち後ろ盾として効力抜群。なので価値のある物は買い取ってもらおう。並行して自分の冒険者ランクも上げてギルドからの後ろ盾を得る。これは受注依頼を積極的に受ければいいだろう。そして一番重要なのが常に透過魔法で姿を消す。人との接触を物理的になくせば面倒なことも起きないだろうしな。
「わかりました、それでは今後良さそうな物が手に入ったらこちらに持ってきます。が、必要なければ断ってください。それと私の情報についてはあまり知られたくない程度で言う言わないはポルカノさんの判断に任せます。私も冒険者ランク上げを頑張って知られても問題ないようにしていこうと思います。」
「承知しました。それではお持ちいただいたシャントラーズドの角を査定いたしましょう。…ちなみに大変危険な魔物だと聞きますが大丈夫でしたか?」
「ええ、私も初めてでしたが難なく倒せました。」
嘘はついていない。
「そうですか、カルラさんはお強いんですな。…ふむ、状態、形、大きさどれも素晴らしい。」
しばらく角を確認する時間となる。
「わかりました。それでは買い取り価格は銀貨3枚でいかがでしょうか。加工の難しさを加味すると私がお支払いできるのはこれが精一杯となるのですが。」
言い値で構わないと初めに言ったので了承する。
「はい、その値段で大丈夫です。」
ポルカノさんは部屋の奥の机からお金を取り出し私に渡す。
ありがとうございます。ちなみにこういった商品を持ち込まれることはあるんですか?」
「私の店に個人が持ち込まれるのは少ないですね。カイルさんなどの付き合いのある冒険者の方が時々珍しいものを持ってきてくれるくらいですね。」
雑談をしているとポルカノさんが伺うように会話を切り出す。
「カルラさん、答えにくいのであれば答えなくても構わないのですが収納魔法が使えるのですか?」
丁度いい、私も聞きたかったことだ。
「はい、使えます。といっても独学でやっているので他の人のや一般的なものを知らないのですが…。なのでいくつか教えてもらってもいいですか?」
「私は水の生活魔法が使える程度なのでお教えできることは少ないとは思いますが答えれることは答えましょう。」
わからないことをすべて聞いていたら日が暮れるな、大まかなことだけ聞こう。後は私のことをどこまで話すかだな、設定も織り交ぜて違和感のないようにしなければ。
「私の周りには魔法が使える人がいなかったのですが一般的には魔法は誰でも使えるのですか?」
「そうですね、使えるかどうかでいえば使えます。それを説明するには精霊について知っておくといいでしょう。精霊についてはご存じですか?」
何それ、ご存じない。
首を横に振って知らないことを示すとポルカノさんが教えてくれる。
「私の知っているのはこの国で一般的に言われていることですので一部の種族や別の国では異なる意見を持っていることを前置きしておきます。」
今はこの国の一般的なことを覚えておこう。
「この世界には精霊という上位の存在がいて、その精霊が力を貸してくれることで魔法が使えると言われています。そして精霊にもいろいろな考えのものがいて種族や国、地域や個人毎に力を貸しているのだと。魔力量は個人差がありますが使える魔法は力を貸してくれる精霊によって異なります。この国では教会で祈りを捧げることで精霊と繋がりを得て魔法が使えるようになります。ここで意見が割れるのですが大多数の人は生活魔法などの簡単な魔法しか使えません。これは力の弱い精霊だからだとか力は強いが複数に力を貸すからだなどと言われていますが詳しくはわかっておりません。ともかく教会に行けばだいたいの人は魔法が使えるようになります。例外として種族によって魔法が使えない人や逆に生まれながらにして使える人などもいます。」
何となくで魔法を使っていたが精霊か…、あんまピンとこないな。
「なので魔法を使える人はほとんどですが強力な魔法や人と違う属性を使えるのは稀なことです。カルラさんの使う収納魔法は珍しいですね、この国でも数人しかいなかったはずです。」
数人でも存在するのならいい方か。
「それとカルラさんは詠唱をしていないように見えたのですが…」
そういえばギルドの適性検査でトカゲの妹さんが魔法出すときに唱えてたな。
この世界の魔法は詠唱が必要なのか?詠唱なんてゲームでしか聞かないしな。知ってるのは”天光満つる所我はあり…”ぐらいだし。
「詠唱とは何でしょう?」
もう素直に聞く。
「詠唱とは魔法を使う際に唱える言葉ですね。一般的には唱えないと魔法が発動すらしません。有名な魔法使いの方が詠唱短縮や詠唱破棄を使えると聞いたことがありますが…、ともかく詠唱するのが普通です。もしカルラさんが詠唱せずに魔法が使えるのであれば隠した方がいいかもしれません。」
あれ?トカゲの妹さんが詠唱短縮なるものをしていたような。もしかしてすごい人だったのか?
「ご忠告ありがとうございます。気をつけます。」
隠した方がいい理由は想像がつく。便利な力を世間を知らない若造が持っていたら食い物にされるのがオチってやつだ。まぁでもバレて利用しようと近づいてくる奴は容赦しないと決めているからな。バレたらバレたでいいだろう。
よし、売りたいものは買い取ってもらったし知りたいことは教えてもらった。何か忘れているかもしれないがそん時はそん時。また次の機会にしよう。
…いや、すっかり忘れていた、恰好をどうにかしたいんだった。
「色々教えてもらってありがとうございました。最後に服かマントがあれば買いたいのですが取り扱いはありますでしょうか?」
「布はいくつかありますが服は生憎、マントは少しあったはずです、どのようなものをお探しですか?」
初めての物だし様子見ということで手頃なものかな?
「新人が持てる手頃な価格のもので丈夫であれば尚いいですね。」
「でしたら思い当たる物があります、少々お待ちください。」
そう言ってポルカノさんは部屋を後にすると少しして手にいくつかの物を持って戻って来る。
「お待たせしました。条件に合うものですとこちらとこちらの2種類となります。」
ポルカノさんが広げて見せてくれたのは薄い緑色の物と薄い水色の物。サイズも2種類ずつ。
「こちらの薄緑色の方はオオトカゲの皮でできておりましてそれなりの耐火、耐水性能となっております。そしてこちらの薄水色の方はウォーターフロッグの皮でできておりまして耐火性能は期待できませんが耐水性能に優れております。どちらも価格は大銅貨4枚、サイズは腰までか膝下までの2種類からお選びいただけます。」
あんまり違いが分かんねぇな。最悪火も水も透過すればいいから色で決めるか。緑か水色か…、緑にしよ。深い意味はないけど。
「それではそちらのオオトカゲのマントを買わせてもらいます。サイズは膝下までの方でお願いします。…一度着てみてもいいですか?」
「もちろんです。ご確認ください。」
マントを受け取り確認する。持ってみると少し硬いレザーという感じの手触りだが重くはない。裏面は別加工なのかほんのり柔らかい。実際に羽織ってみると案外着心地は悪くなく、この独特な硬さは使っていれば馴染んでくるだろう。
それと体のだいたいは覆えるので服装の貧相さは隠せそうだ。
「良さそうですので買わせていただきます。」
早速銀貨を1枚使う。ついでにお釣りで銀貨が何の硬貨が何枚分か知れるだろう。
「ありがとうございます。こちらはお釣りの大銅貨6枚となります。」
銀貨1枚は大銅貨10枚分と。
受け取りこちらもお礼を伝える。
「今日はいろいろとありがとうございました。そろそろお暇しますが今後ともよろしくお願いします。」
頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いします。色々大変だとは思いますが頑張ってください。それと無茶はしないでくださいね、冒険者は危険ですから。」
ポルカノさんに見送られて店を後にする。
目標はできた。自分の立場を安泰なものにするために冒険者ランク上げとポルカノさんの店を大きくする。後者は私が頑張ったところで影響はないかもしれないので前者に力を入れる。
早速ギルドに戻って報告と次の依頼を物色するか。
歩いてギルドに向かい到着する。中に入ると人は少なく職員とテーブルにいる数人くらいだった。
先に依頼ボードで次の依頼を探す。朝と変わりがないようなので「簡単な武器の手入れ」の依頼書を手に取り受付に向かう。依頼者は衛兵第二訓練所のロバートとあった。
私は受付でギルドカードを出す。
「依頼が完了したので報告に来ました。」
「確認いたします。」
職員さんがギルドカードに板のようなものを近づけると淡く光った。
「はい、確認できました。それでは報酬の銅貨5枚となります。」
追加報酬はなしか、早さは関係ないのかね。
「それとこの依頼の受注をお願いします。」
依頼書を渡す。
「かしこまりました。…はい、手続きは完了いたしました。」
ギルドカードが返却される。スムーズでいいね。
受付には人が並んでいないようなので依頼について聞いてみる。
「すみません、この依頼にある衛兵第二訓練所とはどちらにあるか聞いてもよろしいでしょうか。」
「はい、衛兵第二訓練所は街の東南にございます。詳しくは街を巡回している衛兵の方に聞けばわかると思います。」
お礼を言ってギルドを出る。人に聞くのもいいが簡単な方法でいく。
投函魔法をかけて建物の屋根にジャンプする。そのまま屋根を飛び移りながら街の東南方面に向かう。
屋根の上からなら建物の違いが分かりやすい。民家や商店とは違う石造りで少し大きめの建物が目に付いたので屋根から飛び降りる。
建物の陰で透過魔法を解除し外から建物を見てみる。
入り口には衛兵らしき人が立っていたので声をかける。
「すみません、衛兵第二訓練所を探しているのですが教えていただけないでしょうか?」
衛兵らしき人は気軽に答えてくれる。
「衛兵第二訓練所ならここだよ。なにか困りごとかい?」
「いえ、冒険者ギルドで依頼を受けて来ました。依頼者はロバートさんという方なのですがいらっしゃいますか?」
「ああ、依頼を受けてくれた人ね、案内するよ。」
そう言って裏にいた人と交代して中へと案内してくれる。
「いやー助かったよ、衛兵だって日々の訓練や巡回で忙しくてね、それなのに買い替えかなんかで他所から大量に古い武器が回ってきたんだよ。この第二訓練所はよく雑用が回ってくるんだけど所長も断れない人でね、ホント大変だよ。あっ、それで今回は古い武器の中で使えるものを選別して手入れするんだけど如何せん数が多くてね、ここのみんなで金を出し合って人を雇ったって訳だよ。」
よくしゃべる人だ。だが不快ではない、見たところ年若く元気な後輩という感じだ。
話を聞きながら案内されると部屋に着いた。
「ここが作業する部屋だ。作業内容は中いるロバートに聞いてくれ。おーいロバート。」
案内してくれた人は声をかけながら扉を開ける。
「依頼を受けてくれた冒険者が来たぞー。」
中に入ると大量の箱と散らばった剣と槍に囲まれた男性が無表情で作業をしていた。
「おーい。ロバート?」
案内してくれた人が肩を叩くとようやく反応を示した。
「ああ…、お前か。こんな…こんな量…、終わらねえよ…。」
ロバートさんは心ここにあらずといった感じで呟いた。
「まぁやるしかないんだ、ほら依頼を受けてくれた助っ人が来たぞ。とりあえず作業の説明をしてやってくれ、俺は持ち場に戻るからな。じゃあな。」
案内してくれた人はそう言って部屋から颯爽と出ていった。残された私はロバートさんに話しかける。
「今日はよろしくお願いします、冒険者のカルラと言います。早速ですが作業は何をすればいいでしょう。」
「ああ…よろしく、せっかく来てくれたんだしな。よし、作業の説明をするぞ。」
ロバートさんは気持ちを切り替えたのかシャキッとした態度となる。
「箱にはそれぞれ剣と槍が入っている。まずはそれを一つずつ確認して使えるものと使えないものに分けるんだ。使えないっていうのは折れていたり刃こぼれしているやつな。そんで使えるやつは錆があれば研磨剤で落として油を塗って最後に拭き取って終わりだ。日が暮れるまでの歩合報酬だが辛くなったらそこで切り上げてもいいぞ。こんな作業…、犠牲になるのは、俺一人で…、十分だ。」
哀愁が半端ない、終わりの見えない単純作業に絶望してるのか、気持ちはわからなくもないので私も頑張りますかね。
その前に確認をば。
「ちなみに箱の中身は全部確認してみましたか?」
「いや、一つずつやっていってるから中を見てはいないが、それがどうした?」
「いえいえ、ふと気になっただけですからお気になさらず。全体を把握しておきたいのでちょっと見ておきますね。」
「箱の数を数えたらやる気なくすぞ…」
ロバートさんの忠告をスルーして積み重なった箱に近づく。
箱の中の剣と槍を一度アイテムボックスに収納して選別。手入れ用の油も収納して使える方はキレイにして錆取りと油塗り、余分な油は除去して完了。箱に分別したものを分けて入れなおしてOK。
ロバートさんの方に戻り作業途中の箱に合流する。
「この箱は選別は終わっているから手入れを頼むよ。」
言われた通り手入れ作業を行う。
剣の手入れなんて初めてなので内心では楽しかったりする。ロバートさんにとっては地獄の単純作業だろうが私にとってはロマンの塊だ。
楽しんで作業していると一箱目が終わる。
「やっぱり二人だと早いな。まぁまだまだ箱はあるんだけどな…、ん?」
次の箱を開けたロバートさんが疑問の声を上げる。
「どうしました?」
尋ねると箱の中を確認したロバートさんが答える。
「いや…、この箱の剣はどれも使えるやつで、しかも手入れ済みなんだ。」
「元々使える剣が送られてきたのではないのですか?」
「いや…、今までそんなことはなかったが…、まぁいいか、次の箱だ。」
ロバートさんは不思議そうな顔で次の箱を確認する。が次の箱を確認するなり次々に箱を確認していく。
「お、終わってる…、いや、最初から分けて送られてきたのか?分からん…、分からんが…、やった、やったぞ!こんな作業を延々とやらなくていいんだ!」
ロバートさんは嬉しそうに興奮している。
「おっと、せっかく依頼したのに悪いな、依頼は完了だ!報酬はどうしようか…、ええい全部持ってけ!」
懐から大銅貨4枚を取り出し渡してくれる。
「いえいえ、働いた分だけでいいですよ。それより皆さんで出し合ったお金とお聞きしました。なので返すか皆さんで飲みにでも行ってください。」
「そうか?お前いい奴だなぁ。そうだな、働いた分の銅貨5枚を報酬として後は皆に返すよ。」
銅貨5枚を受け取る。
「そういえば依頼完了はギルドカードに何かするのではなかったでしょうか?」
「そうだったな、ギルドカードを貸してくれ。」
ギルドカードを渡すと処理をして返してくれる。
「はぁー、カルラって言ったな?、Fランクってことは冒険者になったばかりだろ?、なんか困ったことがあったら言ってくれよ!仲間にも伝えとくからな!まぁ衛兵だから街の困りごとは対処するんだが、それ以外の事な。…あー、でも街の西側の衛兵たちは俺たちとちょっと違うから何とも言えないが…。」
ロバートさんが言葉を濁したのは何かあるな。衛兵の人達も一枚岩ではないと言うことか。組織なんてそんなもんだな。
「ありがとうございます、何かあれば相談させてもらいます。」
その後ロバートさんに外まで送られて別れを告げる。
報酬の受け取りはギルドと依頼者からとあるんだな。今度依頼書をよく読んでみるか、書いてあるかもしれない。
さて今からどうするかと考える。ギルドに報告に行くのもいいがまだ昼頃だろうし門も近い。考えた結果外に出ることにする。
朝には人との関りを求めていたが何も考えずに魔物の相手をするのもいい。というよりそっちの方が楽だ。ころころ意見が変わることはよくある、それが私だ。
私は街の外に行くため門の方に足を進めた。




