08.街5
目が覚める。
知らない天井だ。
いや、天井すらなく真っ白だ。
そういえば自分の作った空間だったわ。
伸びをして体を起こす。
軽く体を動かし魔力循環を行う。よし、今日も頑張ろう。
透過魔法をかけてマイルームから出る。いきなり人が出てきたらびっくり
するからね。周りを確認し問題なさそうなので透過を解除する。
空を見上げると日の出始めのようだ。朝の涼しさも感じられる。
さて今日はどうするか考える。昨日と同じように街の外に出るか街の中の
依頼を受けてみるかだ。
うーん…、反復だな。一日だけでは気づかなかったこともあるだろう。
街の外で狩りと採取をすることにする。移動はのんびり行きましょ。
早速門から街の外に出る。今日は最初から森に行こうと思うので
街道を歩いて進む。
道中やることと言えば昨日手に入れた土があるので以前考えた木苺の栽培を
試す。栽培空間に土を敷き詰めて木苺の木を植える。
切り分けた別の空間に肥料用としてこちらにも土を敷き詰める。
こちらは魔物の内臓を埋めて肥料にしよう。コンポストってやつだ。
となると骨も余っているから骨粉も作ろう。確か高温で熱して
砕くんだったか。知識はあいまいなものだがそこは魔法の力でシミュレー
ションして自動検証してもらおう。
光、温度、水やり、空気を設定して栽培できるか試す。
最初から実っていた木苺は収穫して栽培でできた実と比較してみる。
栽培空間の時間を操作すればすぐだ。
栽培は問題なし、実の比較結果やその他の検証も問題なさそうだ。
これで木苺は無限に手に入るようになったがこれはすべて個人で消費する
つもりだ。というか魔法で作る物はすべて個人で消費する。
人にあげたり商売はしない。
理由はこまごまとあるが一番は面倒くさい。譲渡や商売自体ではなく
その後のことを考えると確実に面倒が寄ってくるとわかるのでそれが理由だ。
なので薬草も栽培を試すがギルドで納品する分は自分で採取したもののみと
する。縛りプレイみたいなものだ。自分で自分にルールを課す、人生は
多少の障害があった方が面白いものだからね。
ちなみに薬草の栽培については現在アイテムボックスに入っている薬草は
根がついてないので別途根ごと採取したものが必要である。
まぁ気が向いたときにでもやろう。
次に角ウサギの角で道具作りだ。確か資料に加工すれば武器になるとあった
ので試してみる。今欲しいのは…、うーん、ナイフは特にいらないからなぁ、
今必要なのは鞄、鞄を作るなら針と糸が必要…、よし、針を作ろう。
アイテムボックスにある角ウサギの角を加工。削り出すイメージで針を作る。
針は折れるものなので角一本丸ごと針にする。
…容器に入ったつまようじくらいできた。まぁ、あって困る物でもないし、
収納しとけばいいだけだし。
あとやることと言えば…、そうだ、昨日の朝からご飯を食べていないが
空腹は感じない。体に力が入らないなど異常はないがさすがに栄養補給的な
意味で食べた方がいいと思う。体の不思議についてはそのうち考えるとして
とりあえずは食事だ。収納してある角ウサギの肉をアイテムボックス内で
焼く。調理道具も調味料もないのでただ直火で焼く。素材本来の味を
楽しみましょう。
それでは、実食!
…うん、んむ。この世界で食べたステーキや肉串は調味料を使ったものなの
で比べることはできないが十分美味い。これはこの世界の美味いものを求めて
旅に出ることを考えるくらいだ。目指せ美食屋。
冗談はこのくらいで、空腹は感じていなかったがいざ食べ物を口にすると
もっと食べたいと感じ食が進む。うーん、この体についてはよくわからん。
深く考えてもわからないので考えるのはやめる。
なんにせよ肉は美味い!
肉を堪能し終えデザートとして木苺をつまみ食事は終了。
しばらくは景色を楽しみながら歩く。
街を出たときは日の昇り始めだったが森に着くころには日が昇っていた。
森に入り今日はどんどん進む。もちろん感知魔法で警戒しながらではあるが。
道すがら使えるものがないか探す。ディスカバリーチャンネルでサバイバルの
番組を見たことがあるが記憶はあいまいだ。確か植物のツタは頑丈で繊維に
すれば紐や糸が作れた気がする。記憶を頼りに目に付いたツタを収納する。
ついでに加工して繊維にし束ねて撚って糸を作る。これで針と糸はできた。
あとは布があれば袋か鞄ができる。多めの納品も安心だ。
ふと気になったが昨日と比べて森の中が騒がしい。いろいろな鳴き声や音が
遠くの方で聞こえる。森は2日目なので普通の状態はわからないが今日は
何か出会いがある気がする。木に登って現在地確認はできるので道を外れて
音の方に向かってみる。布が欲しいと思ったが魔物の革でも問題はないので
よさげな魔物がいれば積極的に狩ろう。
森を進むと木に何かで抉った痕を見つける。複数の不規則な線や貫かれた
ような痕だ。高さは1.5メートルくらい。爪痕のように並んだ傷ではないので
熊ではないだろう。熊の知識は金塊争奪の漫画を見たのである。
まぁ動物の知識もどこかで聞きかじった程度のものなので実際に自分で見て
判断するしかない。動物と魔物が同じとは限らないしね。
痕跡を頼りに何となくで進む。すると今度は複数のオオカミの死体を
見つける。資料で調べるとグレーウルフと出た。
グレーウルフは5~10頭の集団で連携して狩りを行い、その中心にはリーダー
がいると情報があった。
だが集団は倒されており、その体には先ほどの木にあった痕と同じような
傷痕があった。そして傷痕にはどれも大きな破片のようなものが刺さっており
それが致命傷になったことが見て取れた。
少し気になったので破片を触ってみる。破片は少し触れただけでボロッと
砕けた。変だな。破片は深く刺さっているのにえらく脆い。原理はわから
ないがとりあえず危険な存在がいることはわかった。
そして見た感じグレーウルフの死体は古くないので危険な存在は近くにいる
かもしれない。気をつけろ。
他人事のような注意喚起を自身にしていたその時感知魔法に反応がある。
何か投射物のようだ。とっさに横に飛び木の陰に隠れる。
木の陰から投射物の飛んできた方を確認する。
そこには歪な形の角を持った大型のシカがいた。
まずはシカを観察する。先ほどの投射物についてもそうだが戦うなら
相手の情報があれば対策も考えられる。
シカは頭を大きく振る。すると角の先がこちらに飛んできて私の隠れている
木に突き刺さった。なんだそれは、ファンタジーしてんな。
角飛ばしの攻撃が止んだので再び観察する。
飛ばして小さくなったシカの角はみるみる再生していき再び歪な形の角と
なった。ファー、再生可能ときたもんだ。そしてグレーウルフの傷口から
わかるがあの角が刺さったら体内で破片が砕けて取り除くのは難しいだろう。
攻撃を食らうのは厳禁と、さてどうしたものか。こちらも土魔法で作った
石を投げて遠距離攻撃をしてもいいが素材をダメにした経験からあまり
やりたくないんだよなぁ。
考えている間も定期的に角が飛んでくる。こちらを逃がすつもりはない
ようだ。
うーん、角の再生には時間がかかるみたいだからその間に近づくか?
しかし近づいても角は変わらず危険だしなぁ…。
武器はないし…、武器、中距離、…土魔法で石が作れるなら槍を作るか。
槍と言っても棒状の石の先を鋭くしただけのものだが十分だろう。
早速作る。長さは2メートルくらい。森の中なので振り回すことはできないが
突き刺すことはできるだろう。
槍というとトカゲ兄、セデクが使っていたのをふと思い出した。
なんだかんだで印象的だったな。
よし、準備は完了。作った槍はアイテムボックスに収納する。近づくまでは
いいだろう。
次の角の再生を待つ。角が木に刺さる音が聞こえたので隠れていた木の陰から
飛び出す。まっすぐには行かない。木の陰を利用しながらジグザグに移動して
敵に近づく。相手も接近に気づきより広範囲に角を飛ばしてくる。
…これだけ遮蔽物がある森は相手に不利だと思うがどうなんだろう?
疑問に思ったが戦いの最中なので一旦置いておく。
距離はすでに近く、槍の射程までもう少しのところまで来た。
するとシカはこちらを正面に捉えて角を向け突進してきた。
ギリギリで避けて首に槍を刺す。そう考えて私もシカに向かって走る。
お互い目の前の距離での衝突の瞬間、私は見た。
シカの角が伸びて攻撃範囲を増やしたのだ。再生だけでなく伸ばすことも
できるのか。これは一本取られた。間合いを見誤るのは致命的だ。
まぁ相手が悪かったな。シカの方のね。
私の魔法有効範囲は2メートル、その中であれば物の出し入れは自由自在。
シカの首の下から槍を出現させて貫く。シカは宙に浮き血が滴る。
何が起きたか理解できないシカは一瞬動きを止めていたがすぐに暴れだす。
だが槍は空中で固定されており動かない。苦痛を与え続けるのは忍びないので
風魔法で首を切断し終わらせる。すぐさま収納して戦闘は終了した。
いやー危なかった。槍で動きを止めたのは我ながらファインプレーだった。
先に風魔法で首を落としていたら頭だけ飛んできて角が刺さっていたかも
しれなかった。なんにせよ私が生き残った。よくやった私。
自画自賛しながら勝利者の権利としてグレーウルフの魔石を回収する。
グレーウルフの皮はズタズタで使い物にならなそうだったので魔石だけだ。
数は9個ほど。草原にいた魔物やゴブリンの魔石と比べるとやや大きくて
キレイな気がする。シカの魔石も見比べてみる。こちらはグレーウルフと
同じくらいか少し形が奇麗な気がする。違いはよく分からん。
戦いが終わり冷静になれたのでシカについて資料を調べてみる。
どうやらシャントラーズドという魔物らしい。
角が特徴的で飛ばして攻撃、角はすぐに再生と知っている情報の他に
奇麗な状態の角は高値で取引されるとあった。これは喜んでいいものか…。
私のような低ランク冒険者が金目の物を持っていると要らぬトラブルに
見舞われると相場は決まっている。
…よし、これは仕舞っておこう。
角のことは忘れるとして、欲しかった皮が手に入った。これで袋を作ろう。
革に加工するのに必要なのはなんだったか…。確かなめすのに植物を使った
気がする。渋いような苦いような植物だったはず。まぁ物は試しだ。
失敗してもいいじゃないか。みつお。
森を探索しながら樹皮や葉を集めて検証する。検証はもちろん自分のコピーに
食べさせて渋いかどうか。頑張れコピー君。
目当ての植物はすぐに見つかったので早速袋を作ってみる。
まずはシャントラーズドを解体して皮にする。
アイテムボックスでの作業なので面倒なことは何もない。
肉片や血液、表皮や皮下組織も一発除去。手に入れた植物を水に入れて
水の色が変わったら皮を漬け込む。これも均一に浸透。水抜きも一瞬で
終わる。柔らかくしたりシカの油を染み込ませたりして革は完成。
知識のない素人だがそこは魔法が補完してくれたのだろう。魔法サイコー。
次は袋作りだ。針と糸を用意したが革だけで作れる巾着袋にしよう。
細く切り革紐、円形に穴を二つで革ボタン。大きな円の内側にひもを通す
小さな穴をいくつか開けたものを作って組み合わせれば完成だ。巾着袋の
口を縛る紐を肩に回せば冒険するのにも問題ないだろう。
実際に魔石を袋に入れて背負ってみる。うん、まぁいいんじゃない。
正直邪魔だけど。
革袋から少し独特な臭いがしたので一旦アイテムボックスに入れて消臭する。
何でもできるアイテムボックス。超便利。
よし、一段落したので後は帰りながら草原で狩りと採取でもしよう。
近くの木に登り森を抜ける方向を探す。遠くに森の終わりが見えたので
そちらに向かう。結構森の奥まで来たと思ったが反対側はまだまだ森が
続いていた。これは探索のし甲斐があるってもんだ。
森の帰りには赤黒く硬い外皮の果物が成っていたのでとりあえずいくつか
収納しておいた。前世では見たことのないものだったので興味本位だ。
森を抜けると日が傾き始めていた。昨日と同じように日が暮れるまで
草原で活動する。収穫はアシドリ一匹。これはギルドの裏にあるという
作業場に持ち込んでみよう。
昨日と今日で思ったのが私はとことん索敵ができない。索敵が出来れば
狩りの成果も増えるだろうし攻撃を受ける前に対応できるだろうから
必要だ。…とは思うがこればっかりは性格的なものもあるだろう。
自分は能天気だし、危機感ないし。
となると仲間を考えるか…、でもなぁ、人付き合いは苦手を通り越して
嫌いだしなぁ…。うーん、…よし、前世でも友人は少なかったがその友人は
心から信頼できる人達だった。この世界でもそのような人と仲間になろう。
もちろん出会う確率は低いだろうが行動しなければ出会う確率は皆無だ。
とりあえず探して気が合わなければサヨナラバイバイ、面倒になったら
休んで、それを続ければいつか気の合う仲間が見つかるだろう。
こういう時こそプラス思考。いい結果を考えてまずは行動だ。
とりあえずはギルドの受付で聞いてみよう。
革袋とアシドリをアイテムボックスから出しておき、今日の活動を終えて
街に戻る。ギルドの表から入らずに裏に回ってみる。
そこには大きく開いた建物があり吊るされた魔物やまとめられた素材、
忙しなく働く人達が見えた。これが作業場か、ギルドの裏にこんな場所が
あったとは、街も探索しないとな。
今後の予定に追加しながら対応してくれる人を探す。
見回すと並んでいる人達がおり、皆大小さまざまな魔物を担いでいた。
並んでいる場所は搬入口だろうか、皆魔物を渡し少し話すと離れていった。
搬入口で対応する人は表の受付と違って逞しい体の人達ばかりだ。
肩に小っちゃい重機のせてる感じ。
すぐに私の番が来たのでアシドリを出しながら訪ねる。
「すみません、こちらは初めてなのですが買い取りはここで大丈夫で
しょうか?」
対応してくれるのは大きな体、盛り上がった筋肉、短い髪から突き出た猫耳の
女性。多分女性。
「おう、初めてかい。基本は表の受付と同じでギルドカードと納品したい
もんを出しな。で、魔物を丸ごと買い取りなら金はそのまま支払われる。
肉や素材が欲しいなら解体手数料を引いた分の金が支払われて後日
取りに来てもらう。わかったかい。」
何となくわかった。ギルドカードを渡す。
「ありがとうございます。それではアシドリと魔石と角ウサギの毛皮の
買い取りをお願いします。」
革袋から出しても不自然ではないものを出す。
「この毛皮、やけにきれいだね。…ちょっと待ちな、あんた駆け出しだろ。
毛皮もそうだけどこの魔石、どこで手に入れたんだい。」
鋭い目つきで問いだたされる。
おっと、そうきたか。分不相応で怪しいってことね。
こういう場合は焦らず冷静に、そして丁寧に対応するのが大事。
「魔石は森の中でシャントラーズドとグレーウルフが争っていて運よく
同士討ちしたので手に入りました。角ウサギの毛皮がキレイなのは飯のタネ
なので秘密です。」
最後ははにかむ表情で無害アピール。どうだ。
相手はこちらの対応に面食らったようだ。
「そう…かい?そういうこともあるか…。でもね!新人が森に入るのは
無謀だよ。草原までにしときな!」
勝った。とりあえず納得してくれたようだ。
「お気遣いいただき、ありがとうございます。しかし私も冒険者になったの
ですから自分の判断で行動します。」
これははっきりさせておく。口で了承するのは簡単だが従うことはない。
後で再度忠告を受けるより伝えた方がいいだろう。
あれ?それなら魔石も正直に言えばいいのでは?
あー、もうメンドクセー。目立ちたくないけど我慢はしたくない。
せっかくの異世界なのにこんなことで悩むなんて、あー。
悶々としていると女性が会話を続ける。
「そうかい。アンタも男ってことだね。だがアタシにそんな口を利いた
んだ、野垂れ死んだらただじゃおかないよ!」
悩んでいたらいつの間にか解決していた。
よかったー、自暴自棄になるところだった。銃社会でない国に銃を持ち込ん
だら危険なように力を持たない一般男性が力を持ったら何をするかわからん
からね。でも安心してほしい。私の大好きな映画は「MASK」。
力を手に入れて考えるのは世界平和だ。
それはさておき会話に戻る。
「肝に銘じておきます。そういえば名乗るのが遅れました。私はカルラと
申します。冒険者になったばかりですのでよろしくお願いします。」
「あいよ、アタシはシェーンだ。死なないように頑張るんだよ。
持ち込んだ分は全部で大銅貨2枚と銅貨9枚だ。」
お金とギルドカードを受け取り礼を言って別れる。
はぁー、いろいろ面倒になって来たなー。人間自分勝手な方が生きやすい
のかな…。前世でもネットを見ればやれ政治家だ、やれ有名人だかの言動が
目に入ってきた。傍から見れば好き勝手にしていると思ったがあの人たちも
大変なんだろうなぁ。…でもなぁ、法律に違反しなければなにをしてもいい
という考えはいやなんだよなぁ。
…いかんいかん。楽しくいきましょ。
一旦マイルームに入りコピー君を2体出し叫ぶ。
「ナニモシテナイノニママオコル!ハイ!ハイ!ハイハイハイ!アッソーレ!マッツーコデラックス!パナマウンガ!
パナマウンガ!アババババ!クソが!皆殺しだ!アハハハハハ!ゲル・ギム・ガン・ゴォ・グフォ!
メケメケメケメケメケ…」
はぁ、今日はもう寝よう。
そもそもなんで魔物倒して疑われねにゃならんねん。
なんで力を隠さないといかんのや。
便利な魔法持っとったらズルいんか、妬むんか、利用するんか。
いや、隠しとるのも警戒しとるのも自分やけども。
もういいや。好き勝手に生きよう。
邪魔する奴は排除しよう。うん。そうしよう。
私、明日から闇落ちします。タイトル(仮)
ベッドに横たわり眠りにつく。
残されたコピー君が二人、ポツンと佇んでいた。
気になるんで消えてもろて。
コピー君を消して再度眠りにつく。
「明日はいい日になるよね。ハム太郎。」
「へけっ。」
以上。全部私でした。




