07.街4
「しゃっ!しゃっ!しゃっ!しゃっ!しゃっ!しゃっ!えびばーでぃーっ!」
ノリノリで走る。透過魔法をかけているから人目を気にする必要はない。大声で歌いながら走る。
街を出て街道沿いにしばらく走った。周りは草原だが奥には森が見え、さらに奥には山も見えた。
まずは草原で腕試しをする。透過魔法を解き周りを見渡す、草原と言っても腰までの高さの草や
むき出しの岩肌などがあり生物が隠れられそうな場所がいくつも見られた。
冒険者ギルドでスキャンした資料の情報を照会する。
街の周りの平原で見られる魔物は主に「角ウサギ」「アシドリ」「ハイドスネーク」とあった。
名前からすると鳥と蛇の魔物のようだが。角ウサギも含めて詳細を見てみよう。
角ウサギは「食用可」「鋭い角を使った突進に注意」「角は武器などに加工可」「基本は単独で
こちらが一人の時に奇襲してくるが複数体で群れている場合群れの数以下の相手であれば攻撃してくる」
角は価値があるのか。以前解体した時は知らなかったので角は別で保管しておこう。
アシドリは「食用可」「爪を使った足での攻撃に注意」「飛行はしないがジャンプにて高く飛び頭上から
攻撃してくる」
ハイドスネークは「食用可」「牙に出血毒あり」「草影や岩陰から飛び出して攻撃してくるため注意」
ふむふむ、どれも食べれると。食料は何とでもなりそうかな。
あと気になったのはアシドリ。羽根があるなら羽毛布団が作れるのでは?ふかふかお布団で惰眠を貪る。
最高じゃないか。夢ののんびり自堕落生活に必要なものだ。ぜひとも狩ろう。
そういえばファンタジーで定番のスライムの情報が表示されていないな。
まぁ定番という考えは前世のゲームの影響によるものだが。
街周辺の魔物ではないのだろうか?疑問に思ったのでスライムで調べてみる。
スライムは「どこにでもおり魔物の死骸を溶かして吸収する」「生きているものは基本的には襲わない」
「魔物の死骸は山積みにしなければスライムがきれいにしてくれる」「愛好家もいる」とあった。
どうやらこの世界のスライムは人にとって都合のいい掃除屋のようだ。
草原の魔物の情報はこれでいいとして、次は採取するものとして常時依頼にあった薬草について調べる。
薬草にも種類があり使用方法は傷口に当てたりそのまま食べたりどちらでもいいようだが
共通して加工すれば効果が上がるとあった。
知識のない人間からすればそのまま使えるのはありがたいな。
常時依頼では対象の薬草であればどれでも5つ納品で銅貨1枚になるとのこと。
これは見つけ次第採取していくつかは自分用にストックしておこう。
後は気になったこととして対象の薬草に魔力乱しに効果があるものとあった。
聞きなじみがないので調べる。
魔力乱しとは毒の一種で体内の魔力が乱され身体能力の低下や魔法の発動が困難となる状態のこと。
一部の植物や魔物がこの毒を持っている。
おうふ、文字だけ見るとめちゃくちゃ危険な症状だ。これは気をつけよう。
採取の注意点として根は残すこととあった。把握。
最後に自分自身について。
身体強化でいろいろ強化されてはいるが何があるかわからない。うーん、何かできることは…。
私の魔法影響範囲は2メートル。この範囲に生物、魔法、矢などの投射物が入ってくればわかる魔法。
感知魔法としよう。これを発動して対処しよう。
正直自動反撃や別空間に収納で無効化もできそうだがあんまり強そうな魔法だとどこで見られて
問題になるかわからないのでやめておく。もっと魔法というものを知ってから追々やっていこう。
まぁ死んだときは死んだときでそういう運命だったと考えよう。前世もそうだったし。
よし、今のところはこれで大丈夫かな。
それでは草原の中にレッツゴーしましょ。
私は草をかき分けて警戒しながら進んでいく。
…警戒しながらの探し物はなかなか集中できなくて大変だ。よし、探知魔法に薬草の情報を取り込み
これも反応するようにしよう。薬草の反応は危険とは区別して柔らかい反応に設定。現在の情報は
資料にあった絵しかないが実物があれば精度も上がるだろう。これで攻撃のみ警戒して進める。
しばらく歩くと足元に柔らかい反応があった。これは…、傷用の薬草か?早速採取して検証してみる。
ケガをした自身のコピーで「薬草をほぐして患部に貼る」「経口摂取する」を試す。他の薬草は
熱や腹痛を再現できるイメージが湧かないので検証できないが傷はできそうだ。
検証の結果、切り傷や擦り傷の軽度なケガの場合どちらでも効果があるが患部に貼った方が治りが早かった。
食べた方はとても苦く、その苦みで傷の痛みが忘れられるほど。
深い切り傷や裂傷の中度のケガの場合、貼る方は溢れる血で薬効が流れるのか効果なし。
食べる方は苦みで一瞬痛みを忘れられるが効果なし。
あくまで軽度のケガ用だな。
ここでポルカノさんに貰ったポーションを思い出す。低級と言っていたが薬草と比べてどうなのだろうか
同じ方法で検証してみる。
結果は患部に掛けても飲んでも軽度のケガは瞬時に治癒。中度のケガは傷が塞がり薄い皮膚ができるほど。
掛けた方が若干治りが早いかな。動くと傷が開くが安静にすれば縫合も必要ないほどだ。
すごいな。これがあれば外科医師が廃業してしまう。
改めて前世の世界とは違うと実感する。魔法という存在しないものより比較できるものがあると
わかりやすい。まぁこのポーションというものが存在するせいで起こる問題もあるだろうが
それはこの世界の人が考えることだ。ただでさえ人に影響を与えたくないので考えないでおこう。
探索に戻る。薬草は見つけ次第採取しながら歩き続ける。
…遠くの方で草むらが動いた気がした。注視し警戒しながらゆっくりと近づく。草むらにあと5メートルほど
の距離でガサッガサっと大きく揺れた。姿は見えないが移動したようだ。しかし逃げるのではなく
回り込んだように見えた。殺気とかはわからないが狙われている気がする。
先ほど調べた魔物なら遠距離攻撃はないはずだが油断は禁物。受け止めるにしろ避けるにしろ緊張しては
反応が鈍るとどこかで見た気がする。体の力を抜き脱力する。慌てない慌てない一休みひと…
背後から飛んでくる反応がある。即座に後ろを向き目でとらえる。角ウサギだ。
胴体に向かって鋭い角で突撃してきているので前回と同じように首根っこを掴む。
そして目を見て尋ねる。
「言葉はわかりますか。こちらに敵意はありません。」
1人の時はなるべく確認する。人間だって人それぞれなのだから魔物も違いがあると思うからだ。
意思疎通を諦めたら終わりだよ。殺し合いでも無関心でもとりあえず幸福からは遠ざかるからね。
声をかけたが激しく暴れ続ける。
「もう一度だけ言います。敵意はありません、落ち着いてください。」
努めて冷静に優しく声をかける。
変わらず暴れ続ける。両手で首を持ち一瞬で首の骨を折る。力なく垂れ下がる角ウサギを収納する。
この考えや行動はエゴだがどうしても無感情で狩りをするというのに抵抗がある。
まぁこういう場合に考えるのは人それぞれ。人は自由。それで割り切る。
楽しんで殺そうが淡々と殺そうが人それぞれだ。前者の方が悪そうに思えるが待っている家族に
美味しい料理を食べさせる想像で楽しんでるかもしれないし、後者は売るためでも食べるためでもなく
ただ殺しているだけかもしれない。どちらについても私が言えるのは「好きにすればいい」だし、
自分の事を棚に上げて私に文句を言うのも「好きにすればいい」だ。
それらを含めて自由だ。まぁそんなことをされれば私も自由にするけどね。
気持ちを切り替えてさらに草原を進む。いいように考えれば食料ゲットと魔物に対応できることが
わかったのだ。順調順調。
岩肌が出ているところあったので近づく。反応は特にない。
しばらく歩いて薬草をいくつか採取したが魔物とはあまり出会わない。効率を考えると草原はあまり
おいしくない気がする。運が悪いのか時間や時期なのかはわからないので何度か続けてみよう。
それよりも草原は飽きてきたので森に向かうことにする。森の方が採取できる植物があるだろう。
森の方に向かいながら情報を調べる。
森の魔物は「ゴブリン」「グレーウルフ」から始まり虫や植物系など多種多様な魔物が生息しているようで
多くの情報が表示された。これは時間があるときにゆっくり見るか出会って都度調べた方がいいかな。
あと虫や植物を相手に素手は危ない気がする。嫌悪感もあるし。森は浅いところまででやめておこう。
様子見ということで。
私は森の前で止まり奥を見てみる。鬱蒼としており奥が見えない。森林浴の散歩コースとは訳が違う
不気味でおどろおどろしい雰囲気だ。森こわっ。これは躊躇するほどだ。
とりあえず森の外周に沿って歩く。するとけもの道のような森の奥に続く道が見えた。
森の中と外を繋ぐ道なのでけもの道とは違う気がする。とすると人、冒険者の使う道とか?
道があるのなら迷う心配もない。帰りも来た道を戻るだけだし。これはちょっと進んでみよう。
傍から見れば何も持たずに森に入る自殺志願者だろう。私もそう思う。
それでも森という冒険の舞台があれば入ってしまうのが私だ。どんな空気か、敵は?手に入るアイテムは?
やりたいことはやりましょう。気になったのなら即行動。不安も含めて楽しもう。そうしよう。
様子見と思いながら森の奥に進む。まだ様子見。さらに様子見。森の中は暗く湿っており唸り声や
甲高い声が遠くで聞こえる。
そういえばアイテムボックスに入れた木苺の木用に土が欲しいんだった。森は見渡す限り植物が
生い茂っている。おそらく土にも栄養があるだろう。見た感じフカフカそうな土を収納していく。
微生物やミミズも必要なのでアイテムボックスとは別の栽培空間に入れておく。
木苺を生産できれば木苺パーティーだ。ジャムが作れればパンやパイが作れるしジュースにしてもいい。
私は甘酸っぱい味が好きなのである。
一通り土を回収し終わるとパキッ、パキッと枝が折れる音が耳に届いた。何かいるな。
息を殺し木の後ろに隠れて音のした方を探る。まだ遠いが子どもほどの背丈の緑色の生き物が3匹見えた。
あれがゴブリンかな。常時依頼の掲示の絵で見たものと同じだ。
どうするか考える。戦うか逃げるかだが逃げるのはまだ距離があるし何なら透過魔法もあるので容易だろう。
戦うとなるとこちらは素手だがいけるか?
…いや、今の私には魔法があった。となると戦うことも可能だがあとは魔物とはいえ人型の生物を
殺せるかどうかだ。角ウサギを2匹殺しておいてとは思うが私は魚を捌くのにも抵抗がある人間だ。
それが人型となるとどうだろう。考えてみる。
考えた結果いけるわ。命あるものいつかは死ぬし相手を殺そうとするなら自分も殺される覚悟があると
判断する。とりま声かけてみて襲ってきたら対応しよう。
わざわざ相手の前に行くのも何なので音を出して気づいてもらう。これで逃げるならそれもよし。
手ごろな棒で木を叩く。ガンッ、ガンッと鈍い音が響き渡るとゴブリンはこちらに気づき近づいてくる。
こちらは敢えて気づかないフリをして横目で相手の出方を窺うと1匹は木の棒を持ち、ゆっくりとこちらに
向かって来ている。残り2匹は刃物のようなものを持ち1匹目と別れた。どうやら回り込んで包囲
するようだ。これは襲う気満々ですね。
襲われると声をかけることもままならないため1匹の方に近づき両手を挙げて声をかける。
「どうもこんにちは、言葉はわかりますか。」
冷静に話しかけるがゴブリンは気づいていないと思った相手が急に近づいてきたのに腹を立てたのか
ギャギャギャと大きな声で威嚇してきた。
私は両手を挙げたまま続ける。
「落ち着いてください。敵意はありませ…」
言い終わる前に目の前のゴブリンがギャッ!と叫び襲い掛かってくる。
高く飛び手に持った木の棒を頭目掛けて振り下ろそうとしている。それに加えて感知魔法に反応があり、
残り2匹も背後から襲ってきているようだ。うんうん、同時攻撃は効果的だよね。
交渉決裂だ。交渉じゃないけど。
まずは後ろの2匹と距離を取るため前に出て振り下ろされた木の棒を躱しながら立ち位置を入れ替える。
振り向き3匹と対峙したと思ったらすぐに2匹は移動して包囲を崩さない。あれ?ゴブリン賢くない?
狩りに関しては違うってこと?
いかんいかん、ゴブリンは弱いなどと勝手に思い込んでいた。そうだよな野生で狩りをして生きているなら
普通か。ライオンやオオカミだって群れで狩りするし。
3匹は連携して攻撃してくる。木の棒は執拗に頭を狙ってくるし刃物は腹や足を狙ってくる。
言葉も通じず一方的に襲ってくる。これが魔物か。まぁ共存の道なんて昔の人が試しただろうし
ぽっと出の私が試すのなんておこがましいのかな。
…否!一人でする分には問題なし!
ゴブリンたちの攻撃を避けながら考えはまとまった。避けていて思ったが連携していると言っても
絶対に避けられないタイミングの攻撃などはなかった。これが人と魔物の差かそれともゴブリンだから
なのかはわからないが対応できるというのはわかった。よかったよかった。
ゴブリンは未だ攻撃を続けているので2メートル以内の距離にいる。あまり触りたくないので魔法を使う。
風魔法で1匹の刃物持ちの首を飛ばす。いきなり仲間の首が飛んだことに驚き動きが止まったもう1匹の
刃物持ちの腹に前蹴りを放つ。ぐちゃっ、と何かが潰れた感触があり崩れ落ちる。
先ほどまで一方的に攻めていた相手に一瞬で仲間をやられて残った1匹は叫びながら背を向けて
逃げ始めた。
うーん、逃して仕返しされるのはよろしくない。一度始めたのなら最後まできっちりとだ。
土魔法で球体の石を作る。以前遠距離攻撃魔法がうまくいかなかったので考えた。あの時は魔法を
飛ばすのがうまくいかなかったので魔法で作ったものを腕力で飛ばせばいいのではないかと。
石を握って目標を目で捉える。ゴブリンは一目散にまっすぐ逃げていた。
よし、全力投球いくぜ。ピッチャー第一球、振りかぶって、ゴーッ、シューッ!
私の手から放たれた丸い石はゴブリンの頭部目掛けて飛んでいき目標を粉砕した。
そして目標を貫通し大木をなぎ倒したところで役目を終えた。
ザ・自然破壊。やりすぎたわ。なんなら討伐証明部位の耳まで吹っ飛んだわ。
威力は十分ということはわかった。うん、それで良しとしよう。
3匹のゴブリンを一旦収納し右耳×2と魔石×3を保管する。残りはスライムか森の栄養になることを
信じてそこらへんに捨てる。ほんとに大丈夫か?
不安はあるが資料の情報を信じよう。一応距離を離して捨てる。
さて、木を倒して騒がしくしてしまったので移動する、様子見は終わりだ。まだまだ余裕はあるが
何事も余裕を持った行動が大事だ。来た道を戻る。
特に何もなく森の入り口まで戻ってきた。今後も森を探索する場合はこの道を利用したいので
現在地を把握したい。街からもしくは街道からの位置が分かればここに来るのが楽になるはずだ。
周りを見渡す。目に付くものは…ないな。高いところからなら何か見えるかもしれない。
とすると木に登るか?もしくは身体強化で垂直ジャンプ、新たな挑戦なら魔法で空を飛べるか試すかだが、
まぁ木に登ってみるか。
近くにある一番高い木に足をかけよじ登る。自分の体重を持ち上げる感覚は小さいころ以来だ。懐かしい。
木の登って周りを見渡すと遠くまでよく見える。
後ろには森が広がり前方には草木が生い茂っているが遠くの方に私が通ったであろう街道が見えた。
こう見るとこれと言って目印がない。そうなると何回か往復して景色で覚えるしかないか。
何か魔法で解決できるか考えたが特に思いつかないし勝手に目印を建てるのも論外だ。
しょうがない。もしかしたら急に閃くかもしれないし今は深く考えなくてもいいだろう。
とりあえず木から降りて街道に向かう。草木をかき分けて進むと街道に出た。
振り向いて通って来た方を見る。景色を覚えるために眺めるが緑が広がっているとしか思えないな。
…そうなると森の道は誰が、何のために作ったんだ?
うーん、疑問はあるがせっかく見つけたので利用はしたい。まぁ何かあればそん時はそん時で対処しましょ。
とりあえず街道で街まで戻ってだいたいの距離を調べよう。
のんびり歩きながら考える。いざ異世界に転生したとしても私の人生こんなもんだ。
少しずつ手探りで進めていく。行き当たりばったりな点は否めないが好きに生きるなら自由にする。
ストレスなく出来るだけ人と関わらずのんびり過ごし些細なことに幸福を感じる。
そのために自分の力は自分のために使うと決めている。どこかのヒーローが大いなる力には大いなる
責任が伴うと言っていたが私はそんな崇高な考えは持てない。ましてや積極的に他者を助けるなど
できない。以前にも思ったが人間本当に助けてほしい時に手を差し伸べられて初めて他者に
手を差し伸べられるようになると思っている。個人的にね。
そして私は残念ながら手を差し伸べられなかった人間だ。恨みとかは全然ない。ただそういう人間だからで
終わる話だ。
だがそんな人間がなぜだか2度目の生を与えられた。おまけの力付きでね。
ならばやることは一つ。好きなように生きるんだ。
私は自分に言い聞かせるように頭の中で考える。そして気分が落ち込む。悪い癖だ。
ダメだな、気持ちを切り替えよう。せっかくの異世界なんだハッピーにいこう。
こんな時は体を動かすとスッキリするので走る。全力を出したいので透過魔法をかける。
最初はゆっくり。徐々に速度を上げていきトップスピードへ。
嫌な考えを振り払うかのように一心不乱に走り続ける。
…しばらくすると街を囲む壁が見えてきた。速度を落とし歩きながら息を整える。
っふーー…。息を吐く。
異世界二日目でこれでは先が思いやられるな。何か生き甲斐的なものを見つけないとそのうち感情が
爆発してしまうぞ。
落ち着くと考えれるようになってきた。
まだ日は高く活動するのに問題はなさそうだ。
寝る場所について考えたのだが透過魔法か自分を別空間に入れたら街でなくてもいいのでは?
ベッドは冒険者ギルドの休憩室で情報をコピーして手持ちの木材で作ったものがある。
時間を気にせずに街の外で活動、食事は魔物、体の汚れは魔法で、ずっとではないが一時はこれで
いいんじゃないか?
…いや、ギルドへの報告をまとめると疑問を持たれるかもしれない。目立たないようにしたいが
面倒を省きたい自分もいる。うーん…、ギルドへの報告はあくまでお金稼ぎが目的なので別にあれば
そちらでもいい。差材をまとめて買い取ってもらえるところとなると…、ポルカノさんに聞いてみるか。
ダメならギルドに量を調整して持っていこう。
よし、そうと決まれば狩りと採取だ。常時依頼にない魔物を買い取ってもらえると勝手に思っているが
違ったら諦めよう。調べてから行動も大事だが今は体を動かしたいのでとりあえず行動だ。
確認のために森の道付近まで再び街道をダッシュしてそれから街方面に移動しながら草原を探索する。
ウサギだトリだヘビだと襲ってくるものは片っ端から首を折って収納、首を折って収納。
ヘビは折れなかったので風魔法で首を切って収納。
薬草も感知魔法で感知すると自動で収納を設定。俺は人間掃除機だぜ!ヒャッハー!
私は日が暮れるまで草原を練り歩き狩りと採取を続けた。
その後の成果は角ウサギ×1、アシドリ×2、ハイドスネーク×1と各種薬草をいくつか。
こう見るとやはり草原に魔物は少ないみたいだ。他の冒険者も近場で活動するだろうし魔物からしても
敵である冒険者が多い場所にはいたくないのだろう。
今日知り得たことを踏まえて明日からの行動を考えていこう。今日は活動終了だが。
街に戻り冒険者ギルドに向かう。薬草は納品するとして買い取ってもらえるなら何か適当に素材を売ろう。
ギルドに着くと多くの冒険者が受付に並んでいた。私も並ぶと列は進み順番がすぐに来る。
ギルドカードを懐から出す。薬草は手持ちにいくつかは残してあとはすべて納品しようかな。
「常時依頼の薬草を納品します。それとお聞きしたいのですが魔物の素材や魔石の買い取りは行って
いますでしょうか?」
「素材につきましては買い取りをしておりますが大きなものや解体が必要なものは
裏の作業場にて対応しております。魔石につきましてもこちらで買い取りしております。」
そういうことならアイテムボックス内の魔物を解体して角ウサギの角3本と魔石9こも渡そう。
…と思ったがこれだけの量を懐から出したらさすがに変なので小さめの薬草5本と角ウサギの角1本、
魔石はそもそも小さいので全部でいいか、9こをポケットから出したふりをして渡す。鞄が必要だな。
「こちらすべてで銅貨2枚のお渡しです。」
早いな。見ただけで金額が出せるということは何か基準でもあるのだろう。
カードとお金を受け取りお礼を言って受付を離れる。
1日で銅貨2枚、肉串1本分。稼ぎとしては少ないが元手なしでお金を稼げるのはすごいことだと思う。
個人的には満足だ。
今日の成果に浸っていると周りが何やら騒がしくなり話し声が耳に入ってくる。
「おい、あいつって今日冒険者になったばかりの…」
「有望だな、やっぱ声かけとくか…」
「あんだけの数を二人だけでかよ…」
周りの人たちが見ている方に目をやると見覚えのあるトカゲがおり、受付には袋いっぱいのゴブリンの耳が
置かれていた。きも。
受付の人とトカゲ兄の話が聞こえる。
「セデクさん、これだけのゴブリンがどこにいたかお聞かせ願えますか。」
受付の人は淡々としている。
「森の中だよ。どこかまでは覚えてねぇが集落があったからぶっ潰しただけだ。」
「そうですか、その中に一際大きなゴブリンはいましたか。」
「そういえばいたかもな。」
「わかりました、最後にゴブリンが集落程の集まりの場合ギルドに報告するようにと掲示しておりましたが
ご存じでしょうか。」
トカゲ兄が不機嫌を隠そうともせずに答える。
「知らねぇよ。魔物がいたら殺すだろうが。くだらねぇこと聞いてねぇでさっさと報酬を出せ。」
相変わらず口が悪い。
受付の人は変わらず淡々と会話を続ける。
「ギルドへの報告は冒険者の義務です。適切な理由がなければ罰則の対象となります。今回は討伐できた
からいいものの、あなたが死んでいた場合発見が遅れて他の冒険者や周辺の村、もしくはこの街に危険が
及んでいたかもしれません。それではお聞きします。ギルドに報告せずに討伐を行った理由が
ございますか?」
トカゲ兄が淡々とした攻めにしびれを切らし怒鳴ろうと口を開いたところで兄の後ろから影が飛び出す。
「すっ、すみません。討伐したのには、理由が…あります。」
妹さんが声を絞り出す。
「私がゴブリンに見つかって囲まれてしまって…、何匹か倒したのですがどんどん増援が来て逃げられ
ませんでした…。もう元を断つしかないと思い、倒しながら増援の来る方に行くと集落があったので
掃討…しました。ギルドへの報告については…兄は字が読めないので私が伝えるべきでした、
ごめんなさい…」
「そういうことでしたら問題ございません。」
受付の人の表情が和らぐ。
「冒険者になりたての方は無茶をすることが多いので攻めるような言い方をしてしまいました、
すみません。お二人は実力があるようですので討伐は評価されると思いますよ。それでは報酬の準備を
いたしますので少々お待ちください。」
冒険者初日でゴブリンを大量討伐してギルドで注目を集める。この二人の方が主人公っぽいな。
物語のタイトルはリザード兄妹冒険譚でどや。
ギルドでのイベントは終わったようなので後にする。ああいう将来有望な人たちには頑張ってほしいね。
そういえば朝に屋台で貰った肉串を食べてから何も食べていなかった。空腹を感じないので気にして
いなかったが考えてみるとおかしい。…が体に異常はない。お腹が減っていないのに時間だからと食事を
取るのはよくないと何かで見た気がする。そして今日はもう寝るだけだ。食事は明日にして寝る場所を
探そう。宿屋の値段が知りたいので一旦宿屋を探す。立地的にどこが高いか安かなんてわからないので
適当に探す。ギルドの近くに冒険者向けの宿とかないかな?
辺りを歩き回りいくつかの宿らしき建物を見つけたがどれも立派できれいな見た目をしており
駆け出し冒険者が入れる雰囲気ではなかった。
ならばと街の壁側を探してみる。壁の近くは街が襲われた際一番危険なので立地としては悪い。その分
料金は安くなっているのではと考えたからである。ぶらぶらと歩きながら目当ての建物を探す。
先ほどと比べて私でも入りやすそうな宿がいくつか見つかる。さてどれにするか。
私はその中で見た目は古くとも掃除の行き届いている宿を選ぶ。やはり清潔感は大事。
いざ中に入ると受付に座り舟を漕いでいるおばちゃんが見えた。
「こんばんは。」
驚かせないように慎重に声をかける。
「…ぁあいらっしゃい。お客さんかい。どうも日が暮れると眠くなるよ。そうそう故郷にいた時はライトも
ろうそくも貴重でね、日が昇る前に起きて日が落ちると寝てたんだけど。この街じゃあ冒険者のおかげで
物が入ってくでしょ、そのおかげで…あら、あんたもしかして冒険者だったかい?武器も防具も
着けてないとおばちゃんわかんないよ。」
よくしゃべる人だ。おしゃべりな人は性に合わないので値段だけ聞いて退散しよう。
「すみません、こちらの宿は一泊いくらになるでしょうか。」
「うちは食事はつかないから銅貨5枚だよ。部屋の物を壊したら別途払ってもらうけどね。
それよりあんた冒険者なったばっかりでしょ、おばちゃんにはわかるよ。よし、それなら一泊銅貨3枚に
してあげるよ、泊まっていきな。」
私は全然断れるタイプである。
「いえ、出会ったばかりの方に親切にされるのは気が引けますのでお金を貯めてまた来ます。
お邪魔してすみませんでした。」
そもそも値下げしてもらってもお金足りないし。
「そうかい?まぁうちは人気店でもないからいつでも空いてるよ。またね。」
宿を出る。値段を教えてもらったしおばちゃんは善意で言っていたと思うので一度は泊まりに来よう。
さて知りたいことは知れたので寝ることを考える。考えていた別空間を試そう。
生活空間なのでマイルームと名付けて魔法を発動、自分を収納するイメージ。
すると目の前が真っ白となる。少し待ったが変化はない。
これは何もない空間に立っているということなのだろう。そういうことならアイテムボックスから
ベッドを取り出す。ぽつんとベッドだけある状況だがいいだろう。温度、湿度は適当に設定。
この適当はちょうどいい方のやつ。
体をきれいにして横になる。目を瞑り眼球を上下左右に動かす。
なんだかんだでやることは終わったしお金を稼ぐ目途はついた。とりあえずはやっていけるだろう。
今後の目標は特にない。しかし今日の感情の乱れで私という人間はだれかと関わらないと
道を踏み外しそうだとわかった。仲間か友達か、それとも家族か、はたまたペットかはわからないが
心のよりどころが必要だ。そこらへんも考えていこう。
そんなことを考えていると眠くなってくる。
おやすみ私、頑張れ明日の私。




