06.街3
受付に着く。今の時間帯はあまり人はいないようだ。昨日受け付けてくれた受付の方が
見えたのでそこに行く、確かコルルさんだったはず。まったく知らない人より話がスムーズに進むだろう。
「おはようございます。適性検査が終わってこちらで手続きすると聞いて来ました。」
「おはようございます。カルラさんですね。検査は問題ありませんでしたので冒険者として
登録いただけます。最後にギルドカードを作成いたしますのでこちらの魔道具で血を頂戴いたします。」
コルルさんが手に持つのは金属の棒のようなもの。血を利用とはどうするのだろう。
とりあえず手を差し出す。棒先が手の甲に押し当てられるとチクっとした。手の甲を見てみると
特に何もない。コルルさんは今度は棒の後ろ側を小さな板に押し当てる。すると小さな板が淡く光り
文字が浮かび上がる。
「はい、これで完了となります。ギルドカードは依頼の受注と報告の際にご提示ください。
紛失や破損は再発行となり、故意や過失と判断されると罰則がありますのご注意くださいね。」
差し出された小さな板を受け取る。これがギルドカードか。表面には名前とランクが表示されており、
裏面には文字ではない模様のようなものが描かれていた。
「依頼について説明が必要ですか。もしくは現在受注可能な依頼をご案内しましょうか。」
せっかくなのでどちらもお願いする。
「説明をお願いします。依頼は今は受けるかわかりませんが受注可能な依頼がどんなものか
知りたいのでそちらも教えてください。」
「かしこまりました。依頼形式は2つあり、依頼人の注文に対応する注文依頼、国や街などが常に
募集している常時依頼となっております。
注文依頼は薬草の納品からドラゴンの討伐までいろいろありますので達成可能なものを選んで
受注してください。受注はあちらの依頼ボードにあるものを受付までお持ちください。
依頼にはランクがありご自身と同じランク以下のものしか受注できません。
常時依頼は受注は必要なく魔石や薬草など需要のあるものの納品や駆除の必要な特定の魔物を討伐して
いただく依頼となります。対象となるものや魔物は掲示板に張り出されますのでそちらをご確認ください。
納品は品質や状態が報酬に影響しますのでご注意ください。討伐は証明部位をお持ちください。
説明は以上となりますが何かお聞きしたことはございますか。」
習うより慣れろだ。とりあえずやってみてから考えよう。
「今は大丈夫です。また疑問があれば質問させていただきます。」
「かしこまりました。それではカルラさんの受注可能な依頼につきましてご案内いたします。
Fランクの注文依頼は街中での安全で簡単な作業がほとんどとなります。現在あるのは清掃、荷運び、
荷物整理、武器の手入れ、あとは文字の読み書きについての指導となります。」
いろいろあるみたいだ、なんだか日雇いのアルバイトみたい。
「ありがとうございます、勉強になりました。最後にお聞きしたいのですがギルドでは資料が
公開されていると聞いたのですがどちらかで見れるのでしょうか。」
「はい、資料でしたらカルラさんが利用した休憩室を過ぎて奥にある扉に本の絵がある部屋で
ご覧いただけます。中にも職員がおりますので資料に関しての質問も可能です。」
「そうなんですね、いろいろと教えていただきありがとうございます。早速行ってみます。」
「いってらっしゃいませ、いつでもお待ちしております。」
笑顔で見送られる。ギルドは施設も職員もしっかりしてるなと改めて感心する。
教えてもらった通り部屋に向かう。向かうとすぐに本の絵の扉を発見。わかりやすいのはいいね。
ノックすると中から「どうぞ。」と聞こえた。
「失礼します。」
中に入るとすぐに机で作業をしている男性が見えた。
「おや、冒険者の方でしたか。どうぞどうぞ。資料は大切に扱ってくださいね。何かお探しでしたら
お手伝いもできますよ。」
眼鏡をかけた優しそうな人だ。
「ありがとうございます、資料の扱いには気を付けます。今日は少し寄っただけですのでとりあえずは
一人で見させていただきます。」
資料に関してはすぐに済むので遠慮する。
部屋を見回す。そんなに広くないが棚があり、そこに本が並んであった。タイトルには
「一般的な武器の扱い」「初めての魔法」「植物図鑑 オツサの街周辺」
「図解・魔物解体 オツサの街周辺」「ゴブリンでもわかる解毒方法」などいろいろだ。
見たところ入門書とこの街周辺に焦点を当てた本がほとんどのようだ。ありがたい。ありがたいが
一冊ずつ読んでいると時間がかかるので中身の情報をスキャンさせてもらう。必要な時に照会する
やり方でいく。スキャンは一瞬で済むので部屋を回って完了だ。
早速照会してみる。知りたいのはアイテムボックスにある木苺について。すぐに画面が表示される。
「名称:ベリー」「生食可能」「毒なし」「どこでも育つ」「枝のトゲに注意」と出た。
ここでふと思ったが資料で安全とあっても自分にもそうだとは言い切れない。アレルギーなど自身に
原因があるかもしれないし、そもそも資料が間違っているかもしれない。
そうなるとどうすればいいだろう。一つの考えが頭に浮かぶ。
たしか前世では毒の影響から核の威力までコンピュータで検証できると聞いたことがある。
いや、あれば膨大なデータから予測するんだったか。うーん、考え方としては参考にできるか。
少し考えて試してみる。検証空間を作り自身をスキャンした情報からコピーを作る。同じ要領で木苺の
コピーも作る。そして食べさせて観察する。コピーを複数作り量を変え時間を進めて試す。
正直コピーは魔力で作られていると思うので実際に食べると死ぬかもしれないがそれならそれでいい。
この検証で欲しいのは確実性ではなく納得なのだ。誰かが納得は全てに優先すると言っていたが
私もそう思う。納得していたら失敗は受け入れられるものだからだ。
検証の結果バケツ一杯を三食食べるとお腹を壊すみたいだ。なんだこのバカみたいな検証結果は。
そりゃ食べすぎはなんでもダメだろ。
しかし考えてみるとそれだけ食べてやっとお腹を壊す程度とするとこの世界の私の体は
丈夫なのかもしれない。納得。
ひとまず情報を手に入れたので職員さんに挨拶して部屋を後にする。
帰り際掲示板と依頼ボードを見てみる。
掲示板はいくつか区切られており説明してもらった常時依頼対象もあればパーティー募集、店の宣伝も
掲示されていた。私が知りたいの常時依頼対象なのでそちらを見る。
対象は絵とともに説明が書かれていた。
対象:ゴブリン
討伐証明部位:右耳
理由:繁殖力が高く、集団となると脅威となるため
注意点:集落レベルの集まりの場合、交戦せず速やかに報告すべし
報酬:3体毎に銅貨1枚
おー、お馴染みのゴブリンだ。報酬は銅貨1枚とあるが銅貨1枚で何が買えるか知りたいな。
店があれば価格調査も必要だ。
一通り常時依頼対象を確認した。街から出たら積極的に探してみよう。
よし、身分証を手に入れたし次は門の方に報告して入場一時金を返却してもらおう。
冒険者ギルドを出て門に向かう。昨日の到着時、空は暗くなってたが通った道は覚えている。
逆に進めば着くだろう。
現在の空は明るくいい天気だ。行き交う人々も忙しそうだが活気がある。いい街なのだろう。
私は些細なことで幸せを感じる。空が青いと幸せを感じるし、部屋の中から雨の景色を見ても幸せを感じる。
何も考えなくていいことに幸せを感じる。今は考えることはあるが解決できそうなのでどちらかといえば
幸せかな。単純でよかったー。
そんなことを考えながら街並みものんびりと観察する。木造もあれば石造りもある。見た目は違和感なく
整った印象。前世の家屋とは違うので見ているだけでも楽しい。
しばらく歩くと門に辿り着く。そこには昨日のおじいさん門番が見えた。
今は街に出入りする人は見えないので声をかける。
「おはようございます、今は大丈夫ですか。」
「おお、おはよう。大丈夫だよ。」
よかった。
「昨日一時入場したカルラといいます。身分証を作ったので報告しに来ました。」
「ああ、覚えとるよ。そんじゃ手続きがあるから詰所の方に行こうか。おーい、見張りの交代を頼む。」
おじいさんが奥に声をかけると別の門番が出てきた。何人か待機してるのが普通か。
おじいさんが出てきた人と話し終わりこちらを向く。
「じゃあこっちに来とくれ。」
付いて行くと椅子と机と棚だけの小さめの部屋に通され椅子に座るように促される。
おじいさんは棚の箱から書類と小さな袋を取り自分も椅子に座る。
「では身分証を貸しとくれ。」
言われた通りギルドカードを手渡す。
おじいさんは書類にギルドカードを押し付けて離す。するとギルドカード裏面の模様のようなものが
書類に転写されていた。あれで個人を識別するのか?書類も普通の紙ではない?
疑問には思うが原理を知りたいとまではいかないので黙って待つ。
書類の数か所に何かを書き終えておじいさんが口を開く。
「はい、終わったよ。身分証は返すね。」
受け取るとおじいさんは続ける。
「一時金は自分でポルカノさんに返すかね?あの人はここをよく利用するから私の方で
返すこともできるよ。」
「そうですね、挨拶も兼ねて会いに行きますので自分で返そうと思います。」
「そうかいそうかい、じゃあこの袋に銀貨3枚入っているから中身を確認しておくれ。」
渡された小袋を開くと銀色の硬貨が3枚入っていた。
これが銀貨か。本物かどうかなんてわからないのでおじいさんを信じるしかないな。
「はい、大丈夫です。」
「その袋ごと持っていきなさい。落としたら大変だからね。」
「助かります。ありがとうございます。」
貰えるものはありがたく頂戴する。アイテムボックスがあると収集も苦にならない。
袋を懐に入れるふりでアイテムボックスに収納する。
そういえば挨拶に行くとしてもポルカノさんの店の場所を知らなかった。
おじいさんは顔見知りのようだし聞いてみることにする。
「すみません、挨拶に行くと言いましたがポルカノさんのお店の場所を知りませんでした。
もしよろしければ教えていただけないでしょうか。」
「おー、ええよええよ。ここからなら大通りをまっすぐ行ったら広場と時計塔があるから
そこを左に行くと商業地区なってる。商業地区に入って進むと左手に青い屋根の防具屋が見えてくるから
その奥の道に入るとポルカノさんの店があるよ。少し入り組んでてわかりづらいと思うけど
わからなければ近くの商人に聞けば教えてくれると思うよ。この街の商人は横の繋がりがあるからね。」
商業地区があるのか。暇なときにでもこの街について調べてみよう。暇なときに…ね。
「わかりました。教えていただきありがとうございます。」
「うんうん、君は身分証もすぐに作って持ってきてくれたし礼儀が正しいからね。そういう人は
歓迎するよ。冒険者としてやっていくなら頑張ってね。」
「はい、頑張ります。今後は冒険者として活動していくのでよく門を利用すると思います。
最後にお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか。」
今後の付き合いを考えれば名前を知っておいて損はないだろう。
「わしか?わしはヨワヒムという。しがない門番だよ。」
ヨワヒムさんね。私は溌溂としたおじいちゃんキャラやダンディなおじさんキャラに弱いんだ。
「ヨワヒムさんですね。改めてカルラと申します。今日はまた門を利用すると思いますが
今後ともよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくね。」
やることは終わったので次に向かう。
「それでは失礼します。」
ヨワヒムさんと詰所を出て門で別れる。
教えてもらった通りまずは広場へ。昨日は暗かったし朝は門へ向かっていたので見えなかったが
街の内側には高い塔が見える。あれが時計塔のようだ。
広場は公園のようなものを想像していたが違っており屋台や出店のにぎわう商売の場だった。
通り抜けながらも商品を見ていく。屋台では肉の串やパンが並んでおり、出店では装飾品やキレイな石が
見えた。少し情報収集しよう。
肉の串の屋台にいる人に話しかける。エプロンとバンダナをしていて頭の左右から角と牛耳が生えている
ガタイのいいおっちゃんだ。
「こんにちは、おいしそうですね。これは何の肉ですか?」
「らっしゃい。これは角ウサギの肉だ。うちは特製のタレで味付けしているからよその肉串とは一味違うぜ。
そして自前で仕入れているからなんと1本銅貨2枚だ。どうだい?」
そういえばと思い情報を照会する。角ウサギはこの街周辺に生息する魔物で私が最初に出会って
倒したやつだ。名前については考えることは一緒で合っていた。
情報には他にも「おいしい」「一人の時に奇襲してくる」とあった。
ついでに検証しておく。アイテムボックス内の角ウサギを解体すると肉、骨、内臓、毛皮、魔石に別れた。
肉を検証して毒なしと表示。とりあえずは大丈夫と。生食や常温で数日放置した場合などは除外されている
と考えていいのだろうか。私のイメージで作った魔法なのでそこらへんは反映されていると思いたい。
話を肉串に戻す。サイズは前世の焼き鳥の長さも大きさも2倍ほど大きくて銅貨2枚と。おっちゃん曰く
安いみたいだ。そう考えると1日3食を肉串1本にすると1日銅貨6枚。ゴブリン3匹で銅貨1枚だから
18匹狩れば食費は賄えると。泊まるところなどは別に考えるから食費の目安はそれくらいと。
実際は街の外で手に入れればタダだが普通を知るのは大切だ。人は普通でないものを排除するからな。
怖い怖い。
一通り考え終わったのでおっちゃんに言う。
「そういえば駆け出し冒険者なんでお金がありませんでした。お金貯めてまた来ます、
冷やかしてすみません。」
情報はもらったので今度はちゃんと肉串を買いに来よう。
「冷やかしかいっ。ったく、駆け出しならしゃーねぇな。ちょっと待ちな。」
気のいいおっちゃんみたいだ。おっちゃんは商品とは別の小さな串を差し出してきた。
「これは売り物にならないやつだからやるよ。」
「いいんですか?」
くっ、親切にされると申し訳なさが…。
「いいんだよ。小さいが味は売ってるやつと変わらねぇ。一度味を知ったらまた食べたくなるのが
うちの肉串よ。だから遠慮すんな。」
なるほど、試食的な感じか。おっちゃんの口ぶりから人は選んでいるようなので人柄もあるのだろう。
ありがたく頂こう。
「ありがとうございます、いただきます。」
肉串を口に運ぶ。肉はぷりぷりとして弾力があり噛むほどに旨味が出てくる。特製と言っていたタレは
甘みがあり肉に絡んで旨味を引き出している。空腹は最大の調味料と言うし起きてから何も
口にしていないのもあるだろうがめちゃくちゃ美味い。今のところ食べた飯はすべて美味い。
この世界の食材がすごいのか何なのかはわからないが食べ物が美味ければ幸福に生きていけるだろう。
気づけば2口で食べ終わっていた。これはキンキンに冷えたビールと同じ現象っ!!
一度味を知ってしまったら最後っ!!逃れられぬ誘惑っ!悪魔的っ!手を着けてはいけない金に手を伸ば…、
さない。普通に我慢する。お金を貯めて大人買いを夢にやることを終わらせよう。
「とても美味しかったです。お金を貯めて必ず買いに来ます。」
「おう、店を出すのは2日毎だがだいたいはここで店を出してる。また今度よろしくな。」
軽く頭を下げて店を離れる。今のところ会う人はいい人ばかりだな。…トカゲ兄はいい人ではなかったか。
寄り道してしまったが商業地区の方に向かう。まずは青い屋根の防具屋を探す。
こう見ると建物の屋根の色は結構バラバラだ。私のように目印にするためか?歴史とか関係あるのかな?
考えながら道を進むと青い屋根が見えた。外から見えるショーウインドウ的なところに鎧や盾が見えたので
教えてもらった店で間違いなさそうだ。
この店の奥の道となると店を過ぎたところに横に入る道が見えた。今歩いてきた道と比べると細いが
しっかりと続いており奥にも店が並んでいる。
ポルカノさんは確かメグオル商会と言っていた。その名前で探しながら店を見ていくと小さな看板に
目的の名前が書かれた店を見つけた。無事に辿り着けてよかった。
店に入る前に魔法で口の中と体全体をきれいにし、ついでに水魔法で出した水で水分補給をしておく。
この水も検証して安全を確認済み。私は身だしなみを気にする人間ではないがふと思いついたので
やっておく。気まぐれだな。
扉を押して中に入る。
「こんにちはー。」
声をかけると中から返事が返ってきてパタパタと足音が近づいてくる。
「いらっしゃいませー。」
現れたのは私の腰ぐらいの身長の鼠頭の人。
「どうも、私は昨日ポルカノさんにお世話になったカルラと申します。ポルカノさんにご挨拶したいのですが
いらっしゃいますでしょうか。」
「カルラさんですね、話は聞いてます。呼んできますので少々お待ちください。」
店員さんだろうか、奥に消えていく。待っている間店内を見回す。
店内は薄暗く、所狭しと棚と荷物が置いてある。見た感じ普通の小売店とは違う気がする。
卸売りの方かな?知らんけど。
少し待つと奥から人がやってくる。ポルカノさんだ。
「どうもカルラさん。立ち寄ってくださりありがとうございます。」
相変わらずダンディで柔らかい笑顔だ。
「こんにちは、ポルカノさん。あれから無事に冒険者になれましたのでその報告と支払っていただいた
一時金を返しに来ました。本当にありがとうございました。」
頭を下げて袋に入った銀貨を返す。
「これはこれはご丁寧にどうも。確かに受け取りましたよ。」
よし、これでミッションコンプリート。
「カルラさんはこの後の予定はありますか?」
ポルカノさんから質問される。
「この後は街の外に行って腕試しや常時依頼をこなそうと思っています。」
予定があるんだ。止めてくれるな。
「そうですか、でしたらこちらのポーションをお持ちください。軽いケガであれば効果があります。」
おぉい、また世話になるのかぁ。これは持論だが助けって言うのは本当に困っている相手にしないと
記憶にすら残らないぞ。あの時助けてやったのに、はだいたい相手は覚えてないっていうね。
いや、待てよ。ポルカノさんのは純粋な善意なのでは。薄汚れた考えに染まっていたのは私、自身…。
私が申し訳なく感じているのが伝わったのかポルカノさんが付け加える。
「これは先行投資と考えてください。私は冒険者の方が街の経済を回すのに必要だと思っているんです。
冒険者の方が狩猟や採取で得たものを街で売り宿や飲食店を利用する。これは生産者であり消費者となり
街に潤いをもたらします。そして護衛や討伐で私たち商人が安心して活動できる。それらの理由から
冒険者の方には体を大事にしてほしいですしこの街で長く活動してほしいという思いがあり、
私のできることとして薬を提供しているというわけです。まぁ店の宣伝や個人的に無事を祈りたいと
いうのもありますけどね。」
微笑む顔がズルい。負けた。この人とは付き合っていこう。
「そういうことでしたらありがたく頂戴いたします。ありがとうございます。」
お礼を言う。気が向いたら何か別の形でお礼をしよう。
「そうだ、せっかく立ち寄ってくださったので私の店について紹介させてください。」
聞きましょう。
「ぜひお願いします。」
「よかった。それでは、当店は街の外で商品を仕入れてそれを他の店に卸したり直接販売を行っております。
商品内容としてはポーションなどの薬や元となる薬草、織物に魔物素材などを取り扱かっております。
数は少ないですがいろいろなものがありますので何かお探しのものがあればせひ当店をよろしく
お願いいたします。
…と、それっぽいことを並べましたが実際のところは村や町を周って商品を集めて街で売っている
というだけです。ははは、従業員も一人だけの小さな店です。」
謙遜しているな。よし、わかった。
「この街だけでなく外の村などの経済が停滞しそうなところのことも考えていると、わかりました。
もし私が外で物の売り買いを望んでいる人を見かけたらお伝えします。」
「えっ!?」
「えっ!?違いました!?」
結論を急ぎすぎたか?オタク特有の会話の先を話してキモがられたか?
「いえ、私の商売についての考えを言い当てられて驚いてしまいました。おほん、失礼しました。
おっしゃる通りで閉鎖的な村や自給自足で賄う集落などに必要なものを届け特産品や売り物を
仕入れています。辺鄙なところに住んでる方が悪いと切り捨てる人もいますが私はそうは思いません。
土地から離れられない事情や思い入れもあるでしょう。なのでそういった方々が必要としてくれる商売を
私なりのやり方で行っています。…語りすぎましたね。カルラさんも予定があるというのに長々と
すみません。」
「いえいえ、商売という知らない世界のお話は楽しかったです。」
商売と言えば物を売ってお金を稼ぐ、シンプルなようで売値、買値、利益率などの数字の話から需要、宣伝、
他社との比較など情報の話までいろいろ考えることがあるのだろう。自分の知らないことをやって立派に
生活している人は普通に尊敬してしまうな。
「そう言ってもらえると助かります。」
ではそろそろ行こう。
「それではそろそろお暇します。どうもありがとうございました。」
「はい、それではお気をつけて。」
ポルカノさんとネズミの従業員さんに見送られて店を後にする。
これでやるべきことは一通り終わった。例えるなら新生活で住民票の切り替えと電気、ガス、水道の契約が
終わった状態だ。うんうん、開放感だ。なんだか人目を気にせずに走り回りたい気分だ。
思い立ったが吉日。やりたいときにやりたいことをやる。我慢する人生は前世で十分だ。
よし、魔法で自分自身を透過。相手から見えない、触れられない。こちらからも触れられない。
地面や壁はすり抜け不可、魔法解除時に物体と重なっていた場合は私が移動。
イメージは自分の体の表面、服の外側に膜があり光、音、物理的な接触は反対側から出ていく感じ。
これでいけるか?早速発動する。
すると自分の体が見えなくなった。右手で反対の手に触れようとするが通り抜ける。
自分自身も触れられないと。触れられないが自分自身の感覚はちゃんとある。
右手の拳を握って開いてみる。うん、感じられる。
足に地面の感触はある。近くの建物の壁に触れてみるとこちらも感触がある。
試しに叩いてみる。感触はあるが衝撃はない何とも言えない不思議な感じだ。まぁぶつかってもケガしない
と考えればいいかな。今度は人で試したいので広場の方に戻ってみる。
広場には多くの人がいるので目に付いたおじさんで試す。まずは声かけ。
「こんにちは」
目の前に立ち目を見ながら挨拶してみる。
返事はない。目も合わないから無視されている訳ではないと思う。
次は肩を軽く叩いてみるがすり抜ける。
人は大丈夫そうだな。
次は出店にある小物、屋台の机、椅子など試したがどれもすり抜けた。おそらく地面と壁は奥の想像が
出来ないのですり抜けることができないのだろうと考えテストは終了。
それでは門までダッシュだ。人や障害物を無視して走る抜ける。
爽快だ。風を受ける感覚が心地よい。
ふと思ったが透過しているのに風は感じるのか。それに今更だが空気も問題なく吸えている。
地面と壁の判定もしているから安全なものはフィルターを通過する感じか?
機会があれば毒も試すかな。
そのようなことを考えながら走っていると門に着く。あっという間だ。
人目に付かないところで魔法を解除する。そうだ、魔法の名前は単純に透過魔法にするか。
魔法の名前も決まったところで門番のヨワヒムさんに声をかける。
「こんにちは、また来ました。」
「やぁ、こんにちは。今度はどうしたんだい。」
「腕試しと常時依頼のために外に行こうと思います。手続きはどうしたらいいでしょう。」
素直にいこう。つく嘘もないからね。
「そうかい、気を付けてね。手続きは身分証を提示しておくれ。これは街に入るときも一緒だよ。」
「わかりました。ではこちらを。」
懐から身分証を取り出し渡す。ヨワヒムさんは受け取り持っていたボードに近づけるとすぐに返してくれた。
あれで何をチェックしているんだ?入退場か?
「はい、大丈夫だよ。街の外に行くのは初めてだと思うから言っておくけど夜になると門は閉まるからね。
そうなると次の日の出までは開かないよ。」
「わかりました。気を付けます。」
最悪透過魔法で入れそうだが本当に入退場がチェックされているならやめとこう。
ヨワヒムさんともう一人いる門番さんにも軽く頭を下げて出発する。
いざ鎌倉。命の危険のある場所へ自ら赴く。考えが足りないだけかもしれないがその時はその時。
私は好奇心とときめきを胸に探索に向かう。




