21.迷い
目が覚める。
なんだかとても熟睡できた気がする。頭もすっきりしており今日も頑張れそうだ。
隣を見るとハクが寝ておりその手は私の頭の上に置かれていた。
どうやら私の頭を撫でながら寝落ちしたみたいだ。
これが熟睡できた理由か?、だとしたら私は母性を求めている…?
私の深層心理はどうでもいいので体を起こし水狼をハクに嗾ける。そういえば昨日は途中から水狼の存在を完全に忘れていたがまぁいいか。魔法だから出したり消したりできるし、自動行動だし。
水狼はハクの顔に飛びついて舐め回す。
私はその様子を見ながら昨日はきれいにする魔法をかけずに寝たのでハクと私に魔法をかける。この魔法は歯磨きの役割も兼ねてるので本当は寝る前にする必要があったのだが、完全にミスったな。今後忘れないように朝昼晩に自動発動するように設定しておこう。
ハクは水狼に顔を舐められてすぐに目を覚ます。そして水狼を顔から引きはがすと私を見て笑顔を向ける。
キュゥゥゥン!!。キュンキュンキュンキュインキュインキュイン!
途中からスロットが大当たりしたがこれはハクの可愛さに胸がときめいただけね。
「おはよう。」
「…おはよ。」
挨拶を交わし2人で軽く運動して魔力循環をする。
朝のルーティーンが終わったところでハクに聞く。
「ハク、お腹は減ってる?。ここで食べるか後で食べるかだけどどうする?」
「…お腹は、減ってる。ご飯食べたい。」
ハクも大分自分の意見を言ってくれるようになったな。
私は返事をして朝食を準備する。食べ物は屋台で買った肉串とパンでスープはトマトベースの野菜スープを作る。お皿に盛ってハクに渡すと美味しそうに食べてくれたので私もスープだけ口にする。…うん、まぁまぁだな。
食事を終えて準備をしてから部屋を出て、おばちゃんに見送られて宿を後にする。
今日はセイさんとの約束を優先しつつ時間があれば依頼と香草集め、あとは森に燻製に使う木を集めに行くかな。まぁあれこれ考えてもできるか分からないのでセイさんの用事だけ済ませれば上出来だな。1つずつ確実にやっていく、コツコツ堅実にってね。
2人で歩いてギルドに向かう。1日経って冷静に考えれるようになったので昨日の襲撃者について考える。確か相手は白狼の子どもを探していたがハクを特定したとは言っていなかった。だがこれで2組の悪党が辿り着いたとなると偶然で片づけるには不安だ。うーむ、ハクが魔法を使えるようになったし正体を明かして迎え撃つか?、…いやそれは無謀だな。相手が馬鹿正直に正面から武力で来るとは限らないし、それにハクの魔法はまだ練習が足りないし…。
となると時間を稼ぎつつハクの強化か。その間に両親が迎えに来れば解決だしな。…戦うことを考える自体野蛮か?
考えを巡らせて昨日のことを思い出す。
あ、忘れてた。そういえば襲撃者に依頼した女の匂いをハクに覚えてもらったんだった。これは人違いの可能性もあるのであまり期待はしていないが、もしビンゴでそいつを見つけて仕留めれば終わりにできるかもしれない。…これは希望的観測だな。はぁ、面倒だな。大嫌いな面倒が溜まってくると爆発してしまう。そうなるとすべてがどうでもよくなるからな、気をつけないといけない。
そんなことを考えているといつの間にかギルドに着く。何もないことに感謝する日常に戻りたいぜ。
ギルドの中に入って依頼を見る。まだセイさんと会う朝の鐘には早いのでただ見ているだけだ。香草集めに南の草原付近の依頼か燻製用の木集めに森での依頼、そんな良さげなものがないかと依頼を眺める。…うん、場所だけで言えば当てはまる依頼は結構ある。採取、狩猟、納品、…ん?、この”ヴァシミッドの狩猟”というのは初めて見るな。内容は西側平原の上空で目撃されているヴァシミッドを狩るというもの。
討伐証明部位は嘴、それとは別に胃酸を納品すれば追加報酬あり。胃酸は取り扱い注意な為依頼受注時にギルドからの確認あり。と記載されている。
ふむふむ、とりあえずヴァシミッドがどんな魔物か保存した情報から調べてみる。
ヴァシミッドは山岳に生息する鳥の魔物。生き物の骨を主食としており口から胃酸を飛ばして獲物を仕留める。空から遠距離攻撃されるため対応できる武器や魔法が必要となる。ヴァシミッドは自身の胃酸で溶けることはないので胃酸を持ち運ぶ場合はヴァシミッドの素材でできた入れ物を使うのが一般的。胃酸を適切に処理できれば肉は食用可能、と…。
ふーん、あ、オツサの街の西の方に山が見えたからそこからヴァシミッドなる鳥の魔物が飛んできたと、納得。納得はしたが依頼を受けるほどでもないな、胃酸も危なそうだし。街の外で見かけたら狩ってもいいくらいかな。
特にこれだという依頼もなかったので部屋の隅に移動する。以前アローザさんを待った時のようにギルドに入ってくる人を見ながらのんびり待つ。待っている間ハクは私の隣で水狼を抱きかかえている。
しばらく待っていると見覚えのある真面目そうな青年が入り口から入ってくるのが見えた。セイさんだ。
相手もこちらに気づいて軽く頭を下げてくれる。
「久しぶり!、…あ、です。」
ん?、どした?
私の疑問の顔に気づいたセイさんはすぐに説明してくれる。
「あ、ごめんね。少し時間が空いたら言葉遣いをどうすればいいか分からなくなっちゃって。」
まぁそうか、アンシーの町でもそんなに長く一緒にいた訳じゃないしな、それにお別れも早かったし。
「そうなんですね。私はそんな大層な人間じゃないので適当でいいですよ。」
私は安心してもらうために冗談っぽく言う。大層な人間じゃないのは事実だしな。
「はは、ありがと。カルラ君が変わってなくて安心したよ。それより遅くなってごめんね、あれからアンシーの町で色々あってちょっと留まっていたんだよ。」
何かあったのか?。例えばどこかの悪徳商会長と奇行を繰り返す年老いた母親、それに暴力で物事を解決する従業員数名が突然行方不明になったとか。
私が考えていると興味があると思ったのかセイさんは話し始める。
「カルラ君と別れて少しして僕も町を出ようとしたんだ、だけど急に金鮭の発生が確認されたって町中大騒ぎになってね。それで手続きに時間がかかっていると元職場のえらい人が来て僕を臨時で雇いたいって打診があったんだ。あ、金鮭の話は秘密にしておいてね。僕も詳しくは知らないけど輸送中の盗難を警戒して話を伏せてるんだって。」
へぇ、確かにこのオツサの街では金鮭の話は聞いてない、だがセイさんが教えてくれたように秘密は秘密として広がっていくものだからそれも時間の問題だろう。
セイさんは続ける。
「それでお願いがあまりにも必死だったから話だけは聞くことにしたんだ。それでその話って言うのが金鮭を討伐したら即座に冷凍してほしいって、うん、そうなんだ。その時はまだ討伐されてなくてね。それでも優秀な氷魔法使いである僕を雇いたいんだって言って来てね。僕もそんなこと言われたのは初めてだからちょっと迷ったんだけど、臨時とはいえ一度辞めた職場に戻るのもどうかと考えたんだ。そしたらその人が望むなら一生関わらないでも上の役職での再雇用でもなんでも約束するし金鮭をラック商会が討伐できなくても報酬は前払いで全額払うって言うから協力することにしたんだ。あ、ちなみに受ける前に関わりを断つのと借りは作りたくないから報酬は町の滞在にかかるお金だけでいいって伝えたんだけどね。」
この人も欲がないなぁ。これが若さか?
「それでその後は特に何事もなくラック商会が金鮭を討伐して僕が凍らせて終わり。乗合馬車で町を出て昨日ここに着いたんだ。」
セイさんも色々あったんだな。
「大変だったんですね。」
「いやぁ、いい経験だったよ。あ、僕ばっかり話しちゃってごめんね。カルラ君は元気だった?」
いい経験とは前向きな発言だ、出会ったときは相当参ってたんだな。
「ぼちぼちですね。訳あって今はこの子、ハクと一緒に行動しています。」
私は隣のハクに目線を向ける。ハクは興味がないのか水狼に夢中だ。
「そうなんだ、そっちも色々あったみたいだね。ゆっくり話したいけどお願いしたことを済ませた方がいいよね。」
そうだな、今はやることを済ませようか。
「そうですね、それでは商会に案内します。その商会については歩きながら説明します。」
「うん、よろしくね。」
ギルドを出てポルカノさんのお店に向かいながらセイさんに説明する。
「それでは商会について説明しますね。セイさんをお連れするのはポルカノさんという方が商会長をやっているメグオル商会です。このオツサの街を拠点にしている小さな商会ですが利益より人助けに重きを置いていて周辺の村や町で仕入れや販売をしてこの街でも卸しや販売をしています。まぁこれは客と店員の立場での私の聞いた話ですから実際にはセイさんがお話しして聞き出してみてください。ですがこのポルカノさんという人は見ず知らずの私に親切にしてくれた方なので私は信用しています。あとは…、そうですね、私の紹介ですがセイさんが気に入らなければ断っても働いてみてすぐに辞めても構いません。仕事はセイさんの生活に関わることですので自分優先で考えてください。…説明と私が言いたいのはそれくらいですかね。」
少し生意気だったか?
「わかったよ、そのポルカノさんと話したうえで自分でよく考えてみるよ。でもまぁカルラ君が信用しているのなら僕は大丈夫だと思うな。」
セイさんは軽く笑いながら言う。
セイさんの様子を見る限り大丈夫そうだな。
少し歩くとお店に着く。そういえばポルカノさんに事前に伝えてなかったがいなかったらどうしよう、あんなに偉そうに説明しておいて恥ずかしいぞ。
店に入り声をかける。
「こんにちは、誰かいますか?」
私の声掛けに返事は返ってこない。
マズい、本当にいないか?
1人で気まずくなっていると奥から渋みがあるが優し気な声が聞こえる。
「…はーい、少々お待ちくださいね。」
少しするとポルカノさんが顔を出す。
「おや、カルラさん、いらっしゃいませ。」
「おはようございます。こちらはセイさん、今日はお話があってきました。今ってお時間大丈夫ですか?」
ポルカノさんはにこやかに答える。
「セイさんですね、どうぞよろしくお願いします。時間は大丈夫ですのでこちらにどうぞ。」
セイさんが挨拶をして一緒にポルカノさんに付いて行く。
いつもの会長室に通されたので3人でポルカノさんの向かいに座る。
「それでは、本日はどうされましたか?」
では早速。
「今日はこちらのセイさんをメグオル商会で雇ってもらえないかと思って来ました。いきなりのお話で困るかと思いますがこちらのセイさんは生製品の運搬では確実に商会の力になると思います。なので面接だけでもお願いできませんか?。何卒、どうか。」
私は頭を下げる。
「丁度人を探していましたから大丈夫ですよ、それでは面接をいたしましょう。」
ポルカノさんは嫌な顔をせずにこやかに答える。
いきなりの話にちゃんと対応してくれる、やっぱりいい大人の見本だな。
「機会を与えて下さりありがとうございます。それでは後はお2人で、私はお暇しますね。」
私は2人に挨拶して部屋を出る。
いきなり来てぶん投げた形だがまぁいいだろう。仕事に関しては私は邪魔なだけだし。
店員さんがいれば買い物でもしようかと思ったが見当たらなかったのでそのまま店から出る。
時間はまだ朝、場所的にギルドに戻るのも面倒なので南門から外に出て香草集めに向かう。
街を出たところでハクに話しかける。
「ハク、昨日みたいにまた草の匂いを探して走ってもらってもいいかな?」
ハクは頷き走り出す。ありがとね。
草原を走り香草を自動収納で集めていく。10…、20…と順調に集まっていくがついでにハクの魔法の練習ができないかと考える。走りながら魔法が使えれば実戦で足を止めずにいられるだろうしいいんじゃないか?。うーむ、だが今日はハクを思い切り走らせてもいいな…。よし、昼ご飯まではハクが飽きるまでは走らせて午後からはハクと話し合って決めるか。
私は黙ってハクに付いて行く。
いい天気だなぁ。
のんびりとしているとハクが足を止める。
おや?、昨日みたいに誰かいたかな?
私も足を止めハクを見る。
ハクは耳をピクピクさせながら周りを警戒している。
私の見る限りでは特に何も見えないがハクは何を感じ取ったんだろう?
私も周りを警戒していると前方の茂みが揺れる。生成した石を軽く投げると角ウサギが茂みから飛び出して一目散に逃げていく。
ふむ、ハクが警戒した相手はあれではないと思う。なぜならハクはまだ警戒を解いていないからだ。となると何だろう?。強い魔物か、はたまた昨日のように刺客的なものか。まぁ何にせよ一旦隠れるか。
私は小さな声でハクに耳打ちする。
「しゃがんで草むらに隠れようか。」
ハクはすぐに従って草むらにしゃがんでくれたので私も草むらに身を隠し透過魔法を発動させる。
これで攻撃を受ける可能性はなくなったのでハクに声をかける。
「よし、ハクを肩車するからもう一度周りを確認してもらってもいい?」
ハクには透過魔法の説明をしたことはないが何も聞かずに頷いて私の肩によじ登る。
私は立ち上がりハクに見渡してもらうためにゆっくりと体を一周させる。
ハクが何かを見つけるか私たち2人を見失った相手が確認のために近づいて来るかと期待したが特に何事もなく周りに動きは見られない。
「…ごめんなさい。」
私の頭の上でハクが急に謝る。
ハクを肩から降ろしながら沈んでいるハクと話をする。
「謝らなくて大丈夫だよ、何が気になったのか教えてもらってもいいかな?」
しゃがんでハクと目線を合わせて優しく聞く。
「…何かが、私たちを囲んでた…気がしたの。…でも、いなかったみたい。…お仕事の邪魔して、ごめんなさい。」
めっちゃ気にするやん、それに仕事だと思われてたのか、これは私の考えを知ってもらわないといけないな。
「ハク、私は邪魔だと思ったことはないから大丈夫だよ。それに気になったことは失敗を恐れずにどんどんやってみよう。本当にダメなことはちゃんと言うからね。あと索敵は私よりハクの方が得意だからハクが気になったのならそれは間違いじゃないから安心して。最後にお金のために仕事をする必要があると伝えたけど別に私やハクが我慢してまで仕事をやる気はないんだ、のびのびと楽しみながらお金を稼ぐ、これが私の考えだからハクは気にしないで楽しみながら日々を過ごしてほしい。…あと今日のは仕事じゃないんだ、ごめんね。」
私の話を聞いていたハクは最後の言葉で安心したのか抱き着いてくる。
クッソー、楽しく走っていたのにハクを不安にさせるなんてふてぇ野郎だ!、犯人が分かったらタダじゃおかねぇぜ!
ハクが落ち着くのを待ち、少しして提案する。
「ハク、気分を変えて魔法の練習でもしようか。もちろん他にやりたいことがあるならそっちでもいいよ。」
「…魔法の練習する。」
ハクは真面目だね。まぁ何かに集中すれば気も紛れるかもしれないな。
「よし、それじゃあちょっと移動しようか。」
透過を解除してから2人で歩いて的になりそうな手頃な岩のある場所に移動する。
岩から10メートルほど離れてハクに話しかける。
「まずは復習からだね、以前やったように魔法を発動してみようか。的はあの岩を狙ってみよう。」
ハクは頷き詠唱を始める。
「…氷の精霊よ、私の呼びかけに答えよ。敵に刺さるは氷の針。アイスニードル。」
問題なく魔法は発動でき飛んで行った氷の針が岩に刺さる。
大丈夫そうだな。今日はアローザさんから教えてもらった呪文をハクに試してもらおうかな。
アローザさんからもらったメモを取り出し確認する。
なになに…、アイスショット、アイスランス、アイスバインド、フリーズロックと、ふむ、魔法の名前と呪文から想像できるが魔法って似たものがある気がする、さっきハクが放ったアイスニードルは大きくすればランスになるだろうしな。アローザさんは練習で魔法は操作できると言っていたから1つの魔法で応用できそうな気がするがどうなんだろう?。…まぁそれは考えても分からないか、とりあえず試してもらおう。
「ハク、アローザさんに教えてもらった魔法が使えるか試してみようか。」
ハクが頷いたのでメモの魔法を上から試してもらおう。ハクは字が読めなかったはずなので復唱してもらえばいいか。
「じゃあこのアイスショットからだね、私に続いて呪文を唱えてみようか。」
ハクがさらに頷いたので私は呪文を唱える。
「氷の精霊よ、私の呼びかけに答えよ。撃ち出すは氷のつぶて、アイスショット。」
ハクは私に続いて呪文を唱える。
「…氷の精霊よ、私の呼びかけに答えよ。撃ち出すは氷のつぶて、アイスショット。」
呪文を唱えたが魔法は出ない。てか詠唱ってやっぱ恥ずかしいな、これは文化の差か?。素面じゃキツイわ。
その後他の魔法を試してもらったが発動したのはフリーズロックだけだった。
魔法の発動条件は何なんだろう?、今だけ使えないのか、それとも一生使えないのか。…まぁどうでもいいか、ハクは新しい魔法が使えて嬉しそうだし。
ちなみにフリーズロックの魔法は的にした岩の周りに薄い氷が張り付いただけだった。本来なら氷で相手の動きを封じる魔法なのだろうが初めてならこんなものだろう。発動できただけでもすごいぞ、ハク。
ハクを実際に褒めて反復練習してもらう。私はそれを見ながら何かハクへのご褒美がないかと考える。まぁご褒美といっても簡単なものだが。
ハクといえば体を動かすのと食べ物で喜ぶと思うが…、うん、私にできるのは食べ物か。香草も集まったしガードシープのウインナーでも作ろう。
準備するのはガードシープの肉と腸、塩、香草、木。
肉は余分な脂肪とスジを取り除き粗いひき肉にする。腸は内側も丹念に魔法できれいにして香草は生のまま叩いたものと乾燥させて砕いたものの2種類を用意、木はアイテムボックスに入れっぱなしだったものがあったのでその木の汚れを取り除き、細かく砕いて乾燥させてスモークチップを作った。
材料の準備が終わったら後はひき肉と塩と香草を混ぜて腸に詰める。一定の長さで腸をねじって形を整えてから乾燥、からの燻製にしたら完成だ。食べるときは焼くなり茹でるなりすればいいだろう。…うん、ガードシープ自体が大きいからできたウインナーも大きい。これはウインナーというよりフランクフルトだな。それに1匹分丸々使ったから思ったより大量にできてしまった。まぁ食べ物はあって困ることはないからいいけど。
あとは…、ウインナー、いや、フランクフルトか、に必要なものといったらケチャップだな。
前世のケチャップとは程遠いだろうが簡単なものを作る。トマトの皮をむいて攪拌、塩を入れてとろみがつくまで煮詰めれば完成。
全てアイテムボックス内での作業なので一瞬だが、私の魔法で作っているので手作りといっても過言ではないだろう。…いや、過言か。
今日の昼ご飯でハクと一緒に食べようかと思ったが毒見のためにホットドッグにして食べることにする。時間停止したマイルームに入り先ほど作った乾燥香草の方のフランクフルトを焼いてタマネギをみじん切りにして辛みを取るために水にさらす。あとはパンにその2つを挟んでケチャップをかけて完成。
実にシンプル。だがそれでいい。それではいただきます。
私は大きく口を開けて齧り付く。
うぅんまぁぁーーーーーい!
フランクフルトは皮がパリッとはじけると肉汁が溢れ独特ながらもクセになる旨味が口いっぱいに広がる。肉は粗びきにして正解だ。ジューシーな食感で肉の味を感じられ混ぜた香草がその味を引き締めている。タマネギもシャキシャキ感がアクセントとして素晴らしく、ケチャップの酸味もマッチしている。これはあれだね、ただパンに挟んだものではなくホットドッグという一つの料理だね。ホットドッグにハズレはないと思っていたがこれは美味い。簡単なのに美味しいなんて最高かよ。
大満足で完食して魔法で全身をきれいにしてからマイルームを出る。
ハクの魔法練習をのんびり眺めるかなと思っているとハクが急にこちらに振り向き私の方に飛んでくる。そして鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ始めたかと思うと私のお腹に顔を埋め思いっきり匂いを嗅いでくる。
ご飯の匂いは魔法で消したはずだ、ならハクは何の匂いに反応しているんだ?
私が疑問に思っているとハクが口を開く。
「…美味しいもの?、の匂いがする。」
なん…だと!?
私は冷静に考える、先ほども思った通り匂い自体は魔法で消した…はずだ。ハクの嗅覚がいくら優れようとも存在しない匂いを嗅ぐのは不可能だ。となると…?。そもそも私とハクの匂いの認識が…違う?。私は物体の微小なものを鼻の嗅覚で感じ取ったものという認識だがハク、もしくは狼人族、もしくは異世界では違うのか?。
考えても分からないのでハクに聞いてみる。
「ハク、私は魔法で匂いを消したのだけれどもハクには匂いを感じられたのかい?」
ハクは少し考えてから首を傾げて答える。
「…言葉にするのは難しい。…けど、美味しいものを食べたんだなって思った。…そんな匂いがした。」
分からん!、感覚的なものか!?。”美味しいものを食べた”という行動の匂いとかだったらまったくの理解不能だぞ。だがその仕草はかわいい!
聞いても分からなかったので話を変える。謎は謎のままでも別にいいし。
「そっか、じゃあちょっと早いけどご飯にする?」
訊ねるとハクは私のお腹から顔を放して頷く。
うんうん、小難しいことはほっといて美味いものを食らおうじゃないか。
私が自分のマントを脱いで敷物代わりにして座るとすぐ隣にハクが座る。
私は先ほど自分で食べたホットドッグと同じものを作ってハクに渡す。
「口に合わなかったら無理して食べなくていいからね。」
ハクが臭いに顔をしかめた香草を使ったので一応言っておく、が私の心配は杞憂だったようでハクは一口食べると満面の笑みを浮かべる。
よかった。美味しいを共有できるのはいいものだからね。
そんなことを考えてふと目を離した隙にホットドッグは平らげられており、ハクは私の服の裾を引っ張りながらこちらをじっと見てくる。早いな。
「おかわりする?」
私が聞くとすぐさま頷くハク。
「分かった、でも食べ過ぎはよくないからあと2つまでね。それとスープも挿んでゆっくり食べようね。」
私は即席でニンジンのスープを作ってホットドッグと一緒に渡す。
ハクは頷き、今度はゆっくりとだが美味しそうにホットドッグを頬張る。
作った料理を美味しそうに食べてもらえると嬉しいものだ。
その後はのんびりとしたお昼ご飯の時間を過ごす。
食事が終わり少ししてからハクに尋ねる。
「ハク、今日はもう私のやりたいことはないからあとはハクのやりたいことをしよう。何かあるかい?」
ハクは嬉しそうに考えている。
「…魔物を倒してみたい。」
…てっきりかけっことかの遊びが出てくるものかと思ったがまさかの狩りだった。もしかしてハクにとって魔物退治は遊びの一種なのか?
私は確認のために聞いてみる。
「ハク、かけっことかじゃなくていいの?。魔物と戦うというのは危ないことだよ?」
ハクは分かっているという風に頷く。
うーん、ハクがよくてもな…。人様の子どもに命を奪うことについてを教えれるほど私は立派な人間ではない、むしろ悪い見本だしな…。それにこの世界の魔物の扱いが分からない。”魔物だって生きているんだ、だから命について考えよう”なんて余計なことを考えさせてそれが原因でやられるのも嫌だし…。
考えた結果、親に丸投げすることにする。
「じゃあこれだけは約束してほしい、私といる間はハクの考えで魔物を倒していいけれどもお父さんとお母さんの元に戻ったら2人の言うことを聞くこと。その時は私の考えが間違いでお父さんとお母さんの考えが正しいと素直に聞き入れること。約束できる?」
ハクは少し考えてから頷く。
この世界の人々の魔物に対する考えを知っておかないとなとぼんやりと考えつつハクに言う。
「よし、それじゃあこの草原で魔物を探そうか。ハクは魔物の倒し方はどうしようと考えてる?」
「…遠くから魔法で狙う。」
うんうん、安全を考えれていいね。
「分かった、私はハクの後ろを付いて行くから自由にやってみて。何か分からないことがあれば聞いてね。」
ハクは頷き立ち上がって草原を進み始めたので私も付いて行く。
草原を歩いているとハクが耳を動かしながら立ち止まる。そして今度は先ほどまでとは異なりゆっくりと音を立てずに歩き始める。
これは何かいた感じですね。
私が後ろで様子を見ているとハクが小さな声で呪文を唱えて魔法を発動させる。
ハクから放たれた氷の針は遠くに飛んでいき、そこにあった茂みを大きく揺らした。
ハクは走り出し結果を見に行く。私も付いて行き大きく揺れた茂みを覗くとそこには体に氷の針が刺さった瀕死の角ウサギがいた。
おぉ、結構遠かったがちゃんと当てるとはすごいな。
感心しているとはハクが私の方を向く。
「…ナイフって持ってる?」
ナイフか、アイテムボックスに大分前に襲って来た盗賊から没収したものが入っているが、もしかしたら人を刺したかもしれないナイフをハクに使わせる訳にはいかないので今はないということにする。
「ナイフは持ってないね、必要なものは覚えておいて街で買おう。とりあえずその魔物をハクはどうしたい?」
「…楽にしてあげたい。魔物でも苦しませるのはよくない。」
ご両親の教育かな?。そこは私と同じ考えでよかった。
「そっか、それじゃあ今回は私が止めを刺そう。」
ハクが頷いたので私は瀕死の角ウサギの首を切って楽にする。
「よし、これでいいかな。さて、この魔物はハクの獲物だ、どうするかはハクが決めようか。」
私が聞くとハクは角ウサギを掴んで私に差し出してくる。
「…これはカルラにあげる。いつもよくしてくれるお礼。」
お、おう。これだけ見ると子どもからデカいウサギの死体を渡されているホラーな絵だが、これはこの子なりの感謝の印なのだろう。ならば無下にはできないな。
「ありがとう、それじゃあ仕舞っておくね。」
私は角ウサギを受け取りアイテムボックスに収納する。ハクと私を魔法できれいにしてからハクに尋ねる。
「ハク、狩りはまだ続ける?」
ハクは首を横に振る。
ありゃ、もういいの?、ナイフがなくて萎えちゃった?
ハクのやりたいこともなくなったようなのでこれからどうするか考える。
時間は…昼過ぎくらい、現在地は…ここから見える景色と街の位置から考えて街の西側かな?。ギルドで見た鳥の魔物のこともあるから東の方に移動して森で狩りと採取でもするか、その方がお金になりそうだし。
やることを決めていざ移動しようかと思うとハクが服の裾を引っ張ってくる。
ハクを見ると耳を動かしていたので私も周りを警戒する。
…あれだな。
遠くに複数の人影が見える。数は…2,いや、3人か?。1人を両脇の2人が抱えてこちらに走ってきているように見える。
昨日に続いてまた人か。まぁ昨日は透過して様子を見ていただけだが。
昨日と違い今日は姿を消さずに待ってみる。一応ハクは私の後ろに隠れてもらおう。
ハクに声をかけて少し待つと近づいてくる3人の顔が見えてくる。
…君たちは昨日の青春若人冒険者じゃないか!
近づいてきたのは脱退した鼠頭を除く3人の若者。
「た、助けてくださいっ!」
鎧姿の片方、確かトール君だったか、がこちらに助けを求めてくる。
「どうしました?」
私は冷静に聞く。
「い、いきなり鳥の魔物に襲われて、な、仲間が負傷しました。」
トール君はしゃべるのも辛そうだがしっかりと答えてくれる。
負傷と聞いて抱えられているローブの女性、ヒンナ嬢をよく見てみると顔の右半分と右肩が酷く爛れており、昨日の生意気そうだが元気で傷一つない顔が見るも無残な痛々しい姿だった。
…これは、…酷いな。
トール君が続けて説明する。
「魔物は、追って来ていて…、攻撃してきては空に逃げていきます。どうか、どうかお願いします。仲間を街に運ぶのに魔物を引き受けてくれませんか。お礼は何でもしますので…、どうか…。」
女性を抱えているもう一人の方、ミゲル君もお願いしますと頭を下げる。
抱えられているヒンナ嬢は痛みで弱々しく呻いている。
「分かりました。魔物が私に注意を向けたら街まで走ってください。」
私の言葉に2人は感謝の言葉で返す。
咄嗟のことでよく考えずに引き受けたが…、大変な状況のようなのでまぁええでしょう。
私は空を見上げて追ってきているという魔物を探す。すると確かに私たちの上空で旋回している鳥のシルエットが見える。
一羽だけか、複数じゃなくて助かったな。
私は近くに落ちている石を拾い全力で魔物に当たらないように投げる。石は魔物のすぐ横を飛んでいき嫌でも私が脅威であることを分からせる。
魔物に石を当てなかったのはあの魔物がギルドで見たヴァシミッドであれば胃酸がそこら中に飛び散るのではないかと思ったからだ。もちろん私とハクには当たらないように透過するが若者たちに被害が出ては申し訳ないからね。
投石でアピールできたようで魔物が私を目掛けて急降下してくるのが見えたので若者たちに合図する。
「今だ!、走って!」
私の声にケガ人を抱えた2人が街の方に走り出す。
よし、この状況であの若者たちはこちらを振り向かないだろうと予想して魔物をさっさと仕留めることにする。
こちらに向かってくる魔物を待ち、いつも通り魔法範囲内に入ったら首を落とそうかと思っていると魔物はある程度近づいたところでこちらに向かって口から液体を吐いてくる。
おっと汚いな。
私は自身とハクを透過させ液体をすり抜けさせる。液体は地面に飛び散るとそこにあった草や石を瞬時に溶かす。
これを受けてヒンナ嬢はよく生きてたな。ひどい状態だと思ったが生きているだけで奇跡だったのか?
私が吐き出された液体の威力に驚いていると魔物は再び上空に戻り私の上で旋回を始める。
私を狙ってくれる分にはいいが攻撃が効かないことに気づかれて標的を変えられると困るので次で仕留めることにする。
私は考える、相手は魔法範囲内に入ってこないのでいつもの首狩りはできない。攻撃チャンスは相手が攻撃しようと近づいてくる時だな。
倒すこと自体は何とでもなりそうだがここで生来の貧乏性な考えが頭をよぎる。
せっかくなら肉や素材は無傷で手に入れたい。
となるとどうするか…。
私は何か使えるものがないかアイテムボックスを探す、すると大分前に作った
植物の繊維で作った糸が目に付いた。
これを編んで適度な太さのロープにして網を作ればいけるんじゃないか?。捕獲まで行かなくても落とせさえすれば接近して魔法で仕留めれるしな。
早速作って網の周りに石の重りをつけて何度か試す。飛び方、挙動、速度、飛距離、とりあえず納得できるものができたのでぶっつけ本番でやってみる。避けられたり溶かされたりしたらそん時はそん時ということで。
空を見上げ再び攻撃しに近づいてくるのを待つ。すると魔物はすぐに急降下してくる。
私は相手の先ほどの攻撃を基準にギリギリまで引き付ける。
まだ…、まだ……、まだ………、今!
勝負は一発!、スペースバズーカ!ってな。
魔物に向かって発射された網は相手が口を開く前に絡まり見事に地面に落とす。
やりぃ。
私は即座に近づき首を切ってアイテムボックスに収納する。網は魔物の口の端から漏れた液体で一部が溶けており再利用は難しそうなので分解して捨てる。。
よし、何とかなったな。
戦闘が終わり、私は後ろでじっとしていてくれたハクに声をかける。
「ハク、待たせてごめんね。魔物との戦いは終わったよ。」
ハクは何事もなかったかのように頷く。
戦いが終わってみると呆気ないものだが若者冒険者たちには相性が悪かったのだろう。しょうがないね。
森の方まで移動するつもりだったがなんだか気分ではなくなったので今日は草原でのんびりすることにする。ちょうど薬草のストックも減ってきていたので集めつつぶらぶらしよう。
ハクにも伝えて草原を当てもなく歩く。時々襲ってくる角ウサギやアシドリはハクの魔法の練習台になってもらい、薬草や香草などの必要な草は自動収納で回収していく。自動収納といっても狙って探している訳ではないので成果はぼちぼちだった。仕留めた魔物はアイテムボックス内で解体する。ヴァシミッドの胃酸は胃袋の両端を縛って作った簡単な入れ物に入れてある。アイテムボックス内では零れる心配はないが取り出す時を考えて一応作っておいた。
そうこうしていると空は夕暮れとなる。
今日は終わり、ご飯食べて寝る。大したことはしていないが生きているだけで合格よな。
ハクに声をかけて街に戻るとギルドには寄らずに熊猫亭に向かう。
今日は何を食べようかと考えていると後ろから声を掛けられる。
「あ、あんたっ、その子どもは、じゅ、獣人の子かい?」
振り向くとそこにはみすぼらしい格好に汚れた布切れをかぶったおじさん。
えぇ…、こんなおじさんもハクを狙ってるのか?。…いや、見た目で判断するのはよくないな。この姿は仮の姿で実は手練れの殺し屋かもしれないし。…な訳ないか、だが殺し屋ではないにしろ騙そうとしてくるかもしれないから一応は警戒しておこう。
私はとりあえず冷静に嘘をつく。
「いいえ、この子は知り合いの人族の子です。なぜそんなことを聞くのですか?」
相手のペースを崩すためにこちらからも質問する。
「い、いや、ちょっとな。それより、い、一応確認させてくれないか?」
私の質問には答えずに更に注文を付けてくるとは、そんな態度では怪しむしかないじゃないか。
「怪しい人に子どものことを教えることはできません。ですがこちらの質問にちゃんと答えるのなら考えます。」
「わ、わかった、ちゃ、ちゃんと答えるよ。」
話しの通じる人でよかった、最近は襲ってくる奴ばかりだったからな。
「では、なぜそのようなことを聞くのですか?」
「た、頼まれたんだよ。フードを被った子どもが獣人かどうか確認してくれって。」
「その頼んできたのは誰なんですか?」
「し、知らない奴だよ。金をくれるって言うから引き受けただけだ。」
そうか…。おじさんの恰好から考えて街の浮浪者を金で動かしたって感じかな?。
「そうですか、ではその知らない奴はどんな人でしたか?」
「そ、そいつもフードを被ってたからよく分からねぇんだ。わ、分かったのは声で男だってことくらいだ。」
男か、香水の女ではないと。まぁ聞ける情報はこれくらいかな。
「分かりました。正直に答えてくれたと信じてこちらも誠意を見せましょう。」
私はハクにお願いしてフードを外してもらう。するとハクの獣耳のない頭と灰色の髪が露わになる。
「これで人族だと信じてもらえましたか?」
「あ、ああ。ありがとよ。それじゃ。」
おじさんはハクを一瞥するとそそくさと離れていく。
ふむ、咄嗟にハクの見た目を魔法で変えたがバレなかったな。魔法で変えたといってもあくまで他人から見える姿だけだ。ハク自身に魔法をかけたわけではなくハクの周りの空間を変えたと言ったほうが正しいな。
ハクにありがとうと言ってまたフードを被ってもらう。
怪しいと言えば怪しかったがおじさん自体に害はなさそうだったので後を追ったりはしない、というか今日は人と話してなんだか疲れてしまった…。もうすべてを後回しにして何もしたくないのでおじさんのことは忘れてお店に向かう。
店に到着し扉をくぐると温かく迎えられる。
「いらっしゃいませー!」
ダンさん家族に挨拶して席に着く。
「ハク、今日は何を食べようか?」
私が聞くとハクは少し考えて答える。
「…お肉。」
ホント肉が好きね。
肉の定食を注文してのんびりと待つ。すると後から店に入ってきたお客さんが空いている席に座らずにこちらに近づいてくる。
「すまない、ちょっといいかな?」
話しかけてきたのはあまり特徴のない犬耳の男性。
今日は勘弁してくれよ…、人と話すのも疲れるんだよ…。
私は答える。
「申し訳ないですけどこちらには食事を楽しみに来ております。それに今日は知らない方の相手をする気にはなれないのでご遠慮ください。」
丁寧に断りを入れるが相手は引き下がらない。
「すぐに済むよ、私は狼人族でその子について話があるんだ。」
そう言われると断る訳にはいかないが信用していいのか?。口ぶりからハクのことはバレているみたいだがどうしたものか…。
私は警戒しつつも話を聞くことにする。
「分かりました、話を聞きましょう。」
「では手短に、私はワリーフ、その子を両親の元に帰す依頼を受けた者だよ。」
ワリーフさんね、これまで襲ってきた人とは違って丁寧な対応だ。
「私はカルラ、この街でE級冒険者をやっています。」
一応名乗り返す、ハクのことは伏せておくが。
ワリーフさんは柔らかい物腰で返す。
「よろしくね、それじゃあ私はその子を連れて行きたいんだけどいきなり出てきた相手に預けられるものじゃないと思うから質問があれば聞いてほしい。」
質問ね、ここで相手がいい人かどうか確かめないといけないと。
「そうですね…、ではこの子についての情報とご両親について知ってることを言ってください、あと依頼者がご両親とは別であればその方についても、最後にあなた自身についても教えてください。」
ワリーフさんは物腰を崩さずに答えてくれる。
「当然の質問だね、まずその子は狼人族の中でも珍しい白狼で名前はハク、人攫いにあって掴まっていたところを誰かに救助された…かな。両親と依頼主については悪いけど言えないんだ、白狼の人たちは静かな暮らしを望んでいるから同族でも知っているのはごく一部、それ以外には教えることはできない。これで信用するのは難しいかもしれないけど信じてもらうしかないんだ。最後に私についてだけど私は旅の狼人族、どこかの町に定住はしていないけど町の外でも問題なく生きていける程度には腕は立つよ。」
ハクについては知っていると、それに両親と依頼主については白狼が珍しいという話は知っているから秘密にするのも分からなくはない、ワリーフさん自身については私もこの街に運よく来れていなければ旅人になっていただろうから判断はできない。
私は追加で質問する。
「できればご両親に直接この子をお渡ししたいと思っています。なのでご両親がこちらに出向くか私がご両親の元に連れて行くかしたいのですがどうにかなりませんか?」
「それは難しいね、さっきも言ったけど同族の狼人族でも会えるのはごく一部なんだ。それに白狼を狙うのは人族が多いから君がご両親に会うのは無理だと思うよ。」
うーむ、そうか…、言っていることはそれっぽいがそもそも私が判断できるほどの情報を持っていないしな、こういう場合はハクや他の人の知識を借りるに限るので一旦保留にする。
「そうですか、一旦考える時間が欲しいので2,3日待っていただけますか?」
私がそう聞くとワリーフさんは柔らかい表情を変えずに答える。
「分かった、でもご両親が心配して待っていることは忘れないでくれよ。私は2日後にまたここに来るからその時に返事を頼むよ。」
ワリーフさんはそう言うと席を立って店から出ていく。
あっさり引き下がるんだな、個人的に丁寧な態度は高評価だが店に入って何も注文せずに出ていくのは低評価だな。
そんなことを考えていると料理を運んでマオさんがやってくる。
「お待ちどーさま…って、あれ?、一緒にいた人は帰っちゃったの?」
入れ違いで料理を運んできたマオさんが不思議そうに聞いてくる。
「ええ、私に用事があっただけみたいで帰ってしまいました。」
「ふーん、まぁいいや!、肉定食、ごゆっくりどうぞー!」
マオさんにお礼を言って並べられた料理をハクと一緒に食べ始める。
早速美味しそうに肉を頬張るハクに尋ねる。
「さっきのワリーフさんはハクをお父さんとお母さんの元に連れて帰ってくれるみたいなんだけどハクはどう思った?。信じていいと思う?」
ハクは首を傾げて肉を飲み込んでから答える。
「…私には、分からなかった。」
そうだよなぁ。
「ちなみにワリーフさんの言っていた通り白狼の人たちって他の種族と関りを持たないの?」
ハクは少し考える。
「…多分。群れにいた時は私たちと違う姿の人は見たことなかった。」
ワリーフさんの言っていたことは正しいと…。
ハクの言葉で前から気になっていたので聞いてみる。
「確認なんだけどハクの言う群れっていうのは生活している集団ってことで合ってる?」
「…生活している集団、うん、合ってるけどカルラの思っているよりもっと近い存在だと思う。お父さん、お母さん、おじさん、おばさん、その子どもたちが集まってリーダーを中心に生活してる。ちなみに私のお父さんがリーダー。」
ほーん、血の繋がりで集まっているって感じかな?。あとハクはサラッと言ったけどハクの父ちゃんがリーダーか、これは群れの安全を優先して実子を見捨てるか、はたまた逆に群れを危険に晒してでも我が子を助けに来るパターンか、どちらも考えれますねぇ。
「そうなんだ、ちなみに嫌な質問するけどハクのお父さんはハクが攫われたら助けに来てくれる人なのかな?」
すまんハク、嫌な質問だが父親の人物像を知ることも大事なことなんだ。
私の心配を他所にハクは何ともないかのように答える。
「…絶対に助けにこない、群れが優先。」
あ、そっちなんだ。薄情だとも思うがこれも考え方の違いなのだろう。
質問に答えてくれたハクに肉定食の肉を半分献上する。ハクは嬉しそうに食事を続けているのでダンさんに相談してみる。
「ダンさん、相談があるんですが。」
厨房の方に声をかけるとダンさんがやってきて私の座っている席の隣に腰掛ける。
「おう、さっきのワリーフって奴についてか?」
「聞こえてたんですね。」
厨房からそれなりの距離だし話しているときは料理中だったはずだが。
「まぁ俺くらいの料理人になるとな、それよりも相談ってのは?」
それは料理人のスキルなのか?、私の疑問は置いておいて聞きたいことを素直に聞く。
「あの人を信用していいのか迷っています。言っていたことに変なところはないように思えましたが信用に値するかと言われると何とも言えない感じです。ダンさんが聞いていて不審な点はありませんでしたか?」
「不審な点は特になかったな…、種族と言われるとそれまでだしな。」
種族か…。
「そういえば最近レイさんってお店に来ていますか?」
レイさんも狼人族だとカイルさんが言っていた、そちらに相談すれば何かアドバイスを貰えるのではないだろうか。
「レイなら昨日カイルと来たな、だが生憎あいつらは遠出するときは決まってここで食いだめしていくんだがそれが昨日でな、だから数日は顔を出さないと思うぞ。」
運がないね、残念。
「そうなんですね。」
早速当てが外れたので次の手立てを考える。
「ギルドに相談するとかですかね?、あとはこの街って情報屋みたいなのっているんですか?」
「ギルドか…、ギルドは冒険者の情報は提供してくれるが奴は旅人って言ってたからなぁ、情報屋についてもこの街にもいるだろうが一般人が会えるような奴はたかが知れてる、ましてや定住しない相手の情報なんて持ってないんじゃないか?」
終わり!、閉廷!。もういっその事ハクを渡して尾行してみるか?、…いや、ダメだな。私の魔法は有効範囲内にいてこそ守れるというもの、相手が悪党だった場合を考えると不安過ぎる。うーん、そもそも相手を警戒し過ぎか?。信じて送り出すのも…、いやいやいやダメだダメだ、何かあってからでは遅い、ハクの安全第一!、これゼッタイ!
考えてもいい案が思いつかないので一旦考えるのを止める。明日ポルカノさんにでも相談してみるかな。
「相談に乗ってもらってありがとうございます。他の人にも聞いて考えてみます。」
「おう、いい答えがなくて悪いな。」
ダンさんは厨房に戻っていく。
ポルカノさん以外の他の人となるとアローザさんだがすぐに会える人ではないから奇跡的に会えたらだな。あとはギルドの作業場にいるシェーンさん、ハクの情報がギルド内で回ってくるほどの立場ならワンチャンあるか?。
考えて出てくるのはそれくらいなので明日か明後日で会えれば相談してみることにする。
食事を終えて挨拶してから店を出る。街中で絡まれるのが面倒なので透過魔法を徹底して宿に向かう。
明日からは基本姿を消しておこう。
いつものおばちゃんの宿屋の前で魔法を解除して建物に入る。部屋を借りて中に入りハクと自分のマントをアイテムボックスに収納、魔法で全身をきれいにしてからベッドに腰掛けたところで一息つく。
はぁ、今日は疲れた。肉体的にはそうでもないが精神的にどっと疲れた。
ハクはベッドに飛び込み水狼とゴロゴロしている。その姿を見ると少しは癒されるが根本的な問題を解決しなければ私の心の平穏は訪れないので私もベッドに横になりながら考える。
私の目的はハクを無事に両親の元に帰すこと。現在はギルドに連絡が入るのを待っている状態だが問題はハクを狙う輩がいるのと私の目的を引き継ぐという人が出てきたということ。その人は何も説明できないが信用してハクを渡してくれと言っているので信じていいのか迷っている。
うーむ、ワリーフさんもご両親が心配していると言っていたしな、早めに決断しなければ…、ん?、両親が心配?。いや、子どもが攫われたら心配するのが普通だがハクはリーダーである父親は群れを優先するから絶対に助けに来ないと言い切っていた、なら心配しているのは母親?。…何か引っかかるな、こちらを説得するために誇張したのならそれは逆効果だ。信用してほしいのなら小さな嘘もついてはいけないと私は思う。そして私は自分が納得できなければ折れる気はない。信用するならいきなり現れた見知らぬ人より断然ハクだしね。ということで次会ったときに申し訳ないが信用できる証拠がないとハクは渡せないと断ろう。
よし、迷っていたことが解決したので上機嫌だ。私はハクにおやすみを言って目を閉じる。
うじうじ考えるのなんて大嫌いだ。私は飯と天気のことを考えながらのんびり過ごしたいんだ。あ、湯船につかるのもいいな。今度魔法空間で風呂場でも作ろ。
私は頭の中でババンババンバンバンを繰り返していると意識が遠のいていきやがて眠りについた。




