20.色々発生
「バカヤロォー!!!!」
私は叫びながら飛び起きる。
外からの明かりに現状を理解しながら徐々に落ち着く。
空間魔法が自動的に声を消したのか隣にいるハクは穏やかに寝息を立てている。よかったー。
…私にはどうしても許せないものがある。それは戦闘シーンではリアルロボットの様にぴょんぴょん動くスーパーロボットだ。
私の理想は敵の攻撃を全て受け止めても傷1つつかず、ゆっくり狙いを定めて1撃で敵を葬る、そんなスーパーロボットだ。
分かる、それは昔のアニメの都合だというのも分かる。激しく動いた方が見栄えがいいのも。重くて巨大な機体を動させるだけのエンジンを積んでいますっていう設定も、大技の時だけオーバーヒートを承知で無理やり動かすって言うのも分かる。うん、だがマジンエンペラーG、お前はダメだ。私の鉄也さんはな、グレートブースターを1発撃ったら後は雑魚処理するような、そしてその雑魚処理も必中を使わないと攻撃が当たらないような、そして会話パートでは活躍している他の主人公たちに偉そうに先輩面するそんな鉄也さんが好きだったんだよ。あと名前ね、マジンエンペラーGて、最初聞いた時銀魂が頭に浮かんだわ。
…ダメだ、新しいものを受け入れられないからって文句を垂れるのは立派な老害だ。いかんいかん、この世界にゲームはないにしても思い出はいいものを覚えておかなくては。
スパロボの思い出か…、その昔、2人で対戦できるスパロボがあってな、タイトルは思い出せないが決められたロボットのチームを選んで戦うというやつだった。そのスパロボは友人の持ち物でありこちらはなんの知識もない状態での対戦で友人の勧められるままにチームを選んだんだ。相手はボス軍団1、私はボス軍団2。相手の説明は各作品のボスクラスのロボットを集めたチームとのことだった。そしていざバトルが始まると友人には凶悪なロボットがずらりと並び、私にはボスボロットというクソ雑魚がずらりと並んでいた。私は負けた。
あ、あとセーブデータを上書きされたな。…うーむ、こう考えると碌な思い出がないな。これはもう忘れよう。
また朝から意味の分からないことを長々と考えてしまった。まぁ考えながらも朝の運動と魔力循環は終わらせたけどね。
はぁ、なんだかんだで前世の記憶に囚われているな。心の奥底では未練があるのかな…。私自身は満足していると思っているのだが…。
ま、いいか。気持ちを切り替えて今日も1日頑張りましょう!
私は水狼を取り出しハクの寝ているベッドに投げる。水狼はハクの顔をぺろぺろと舐めて目覚めの時を知らせる。ちなみに水狼はきれいな水でできているので顔を洗うのと同じだ。
ハクは眠そうながらも体を起こし水狼を抱きかかえる。
「おはよう。」
「…おはよう。」
私の挨拶に返事をしながらハクはベッドから降りて体を動かし始める。
何も言わずとも朝の運動をするとは流石ハクだ。そういえば昨日魔力を知覚できるようになったみたいだが私の言う魔力循環はできるのだろうか?。まぁ私の言う魔力循環も私が魔力と思っている体の中の温かいものを適当に動かしているだけだが。
朝の運動の終わったハクがベッドに腰掛けて目を瞑る。
お、魔力循環ですか。
私が眺めているとハクは目を開き私を見て言う。
「…私がちゃんと魔力を動かせているか、確認してほしい。」
ハクはそう言うと抱えていた水狼を膝上に置き両手を差し出す。
確認か、おそらく昨日アローザさんがやっていた手を握って魔力に干渉するやつだと思うが生憎私にできることではない。断ろうかと思ったが確認ならスキャンでできるのではとふと頭によぎる。できるだけこの子の希望は叶えたいし私も思いついたことは試したい。ということでハクの手を握ってスキャンしてみる。体の中の魔力を見ることをイメージしてみると心臓からの流れが確認できる。ふむ、今度は自分の体をスキャンしながら魔力循環をしてみると思ったところの流れが太くなるのでおそらく魔力で合っていると思う。再びハクに戻りスキャンで見える流れの太いところをハクに聞いてみる。
「今は右手に魔力を流してる?」
私の質問にハクは目を瞑ったまま嬉しそうに頷く。
その後はハクの動かす魔力の場所を何度か当てると満足してくれたようで目を開いてベッドから立ち上がり魔力循環の時間は終わった。
部屋を片付けてマントを羽織り出ようとしたところでハクがベッドの下を覗いていることに気づく。
「何か探し物?」
私が聞くと今度は私のマントの中を探しながら聞いてくる。
「…小っちゃい、あの子がいない。」
小っちゃい?、水狼のことか?
「水狼のこと?、あれは魔法で作ったものだからね、外で遊ぶのは危ないから一旦収納したよ。」
これで私には見えない妖精とかのことだったら恥ずかしいな。
どうやら水狼で合っていたようでハクは目に見えてシュンとしている。
ここで選択肢は2つある。1つは水狼を常時私の魔法範囲内に出しておいてハクと私にだけ見える、触れるように透過設定をする。もう1つはハクに我慢してもらって宿などの安全な場所でのみ遊ばせる、だ。正直どちらでもいいのでハクに聞いてみるか。
「ハクはどうしたい?、いつも一緒にいたいか、この宿みたいな休める場所でだけ一緒にいたいか。」
こう聞くと前者一択な気がする。
「…いつも一緒がいい。」
まぁそうなるよね。
「そっか、じゃあ約束してほしいんだけど水狼と遊んで私の言うことを聞き逃したり疎かにしないこと。あと水狼は私とハクにしか見えないし触れないから他の人に聞かれても知らないフリをすること、約束できる?」
ハクは頷く。
まぁ子どもだし約束を破られてもいいようにはしておこう。
私は水狼を取り出し自動行動と透過を設定、動きは少しぎこちない気がするが
急ごしらえなので勘弁してもらおう。
水狼が現れるとハクはすぐに抱えて笑顔になる。気に入ったのなら、まぁええか。
今度こそ部屋を出て階段を下りる。おばちゃんに挨拶と鍵の返却を済ませて宿を後にする。透過しながらギルドに向かいギルドに着いたら魔法を解除して依頼ボードで仕事を探す。今思えば宿の部屋で朝食を済ませてもよかったな、明日からそうするか。
ご飯の事を考えながら良さげな依頼を探していると気になる1枚が目に留まる。
”香草の採取”
内容は料理用の香草が現在街の南側の草原で多く見られるため採取、納品してほしいとのこと。10本1束単位で銅貨3枚と報酬は少ないが個人的に塩以外の調味料が欲しかったので受けることにする。依頼書の絵を記録しつつハクにも見せて覚えてもらう。
「ハク、今日はこの草を探す依頼を受けるからね。もし見つけたら教えてね。」
ハクは水狼を抱えながら頷いてくれる。
依頼書を持って窓口に並び、自分の番となったのでいつものように依頼書とギルドカードを出す。
「おはようございます、依頼の受注をお願いします。」
「はい、おはようございます。お預かりしますね。」
職員さんは手続きを済ませギルドカードを返してくれる。
「依頼受注は完了です。カルラさん宛てにEランク冒険者のセイさんから伝言がきておりますが聞かれますか?」
お、来たか。
「はい、聞かせてください。」
「それでは、”遅くなって申し訳ない、オツサの街に到着したので都合のいい時に会いたい。”とのことです。」
「分かりました、返信をお願いしてもいいですか?」
「承ります。」
「では”毎日朝の刻くらいにはギルドにいますので声をかけてください。朝の刻を過ぎると依頼に出るのでそれはご了承ください”とお伝えください。」
「かしこまりました。」
職員さんにお礼を言って窓口から離れる。伝言は残したのでセイさんは明日以降だな。
私がギルドを出ようとすると後ろから声を掛けられる。
「あっ!、あの…。」
振り向くと蜥蜴人族の半獣人の女性、ルトラがおどおどとしながら立っていた。
おや、お兄さんはいないのかな?
私が返事をしないのでルトラはさらにおどおどし始める。めんど…。
「ここでは何ですのであちらのテーブルに行きましょうか。」
「は、はい…。」
ギルドの朝の時間帯に立ち話は他の人の邪魔になるので空いていたテーブルに移動する。
3人で座り話を聞く。
「それで?、お兄さんから私との関わり方について聞いていると思いますが何か用ですか?」
嫌味を込めて聞く。相手が女性とか関係ねぇ、男女平等!。約束は守られねばならん。
ルトラは私の言葉に委縮しながらも話し始める。
「あ、それは…、ごめんなさい…。でも、助けてもらった…お礼を言いたくて…。」
最後の方は声が小さくなる。
「分かりました、お礼は受け取りましょう。はい、受け取りました。これでよろしいですか?」
滅茶苦茶嫌な奴だな、私。
「あ…、その…。」
ルトラは口ごもりながら何か言おうとしている。
私もそこまで暇ではないのだがな。
「言いたいことがあるならはっきりどうぞ。私も暇ではないので時間がかかるようならお暇させてもらいますよ。」
私がそう言うとルトラは覚悟を決めたようで話し始める。
「は、はい…、あの、私か兄が何か機嫌を損ねることをしたのなら謝りたくて…、カルラさんは助けて下さったのに、あれから兄に近づくなと言われて…、どうしても理由を聞きたかったんです…。」
はぁ、そういうとこやぞ。あ、私はそういうとこやぞと言って具体的なことを言わないやつが大嫌いなのでルトラにはちゃんと伝える。
「では近づいてほしくない理由をお教えしましょう。セデクは力があるのか知りませんが出会ったときから失礼な態度や言動でしたし、あなたはそんな兄を止めもせずに仕方ないと放置して過ごしていました。傍から見れば目立つ方がいる好き勝手に行動する2人組にしか思えません。それとあなたは今も兄の言いつけを破って自分を優先して聞きに来ました。なので基本的に2人とも他人の事を考えられない人だと私は判断しました。そして最後は私個人の話ですが仲良くなった人が死ぬと精神状況が不安定にあるので死にそうな人には近づいてほしくないのです。」
私の説明にショックを受け、俯きながらも言葉を絞り出すルトラ。
「それは…、ご、ごめんなさい。でも…、兄の態度は、そうしないと、悪い人に漬け込まれるし…、私…、私が言っても、兄はやめてくれないし…、それに最後の死ぬなんて、私たちはちゃんと依頼をこなせてます…。」
言い訳は結構。
「考え方は育った環境などもあるでしょうから別に構いません。ですがその考えや行動を嫌う人がいるのも事実です。もっと簡単に言いましょうか。私はあなたたち2人が嫌いです、なので近づかないでください。これで分かってもらえましたか?。あと死ぬに関しては死にそうなところを助けたので言っています。依頼をこなせてるとかは知りません。」
俯いたルトラから涙が落ちる。
「私は…、ただ、仲良くなりたくて…。」
それも自分の意見を優先で私の意見は無視だしな。この人は甘やかされて育ったのか?、言動の端々に自分は悪くない、最終的に何とかなると思っているように感じられる。ハクがこのような大人にならないように気をつけねば。
ハクを見ると水狼と遊ぶので忙しそうだった。ぜんっぜん興味ないのね。
というかこの人が泣くとお兄さんが出てこないのか?
私が周りを見渡すと以外にも冷静な顔のセデクと目が合う。
何だ、いるのか。
私が手招きするとセデクは素直に近づいて来る。
「お久しぶりですね。いつから見てたんですか?」
「妹が泣くところからだ。」
最後だけか。
「そうですか、一応説明すると関わってほしくない理由を妹さんが聞きに来たので私が2人のことが嫌いだと説明したら泣かれました。あと死なれたら私が心を痛めるのも理由です。」
兄にもきちんと伝えておく。
「そうか、妹が迷惑をかけたな。行くぞ。」
えらい素直だね。
セデクがルトラの肩に手をのせるがルトラは首を振って拒否する。
「兄さんからも言ってよ!、カルラさんは私たちの味方になってくれるわ。」
いきなりなんの話だ?
ルトラは興奮しているのかさっきまでと違いはきはきと話し始める。
「兄さんだってカルラさんを認めてるし私たちを利用しようとする人たちとは違うって分かるでしょ!」
いや、勝手に話を進めないでもらっていいですか?。あとヤバいのは妹の方だったか?
セデクが宥める。
「落ち着け、それは俺たちの都合だ。それにさっき言われたように俺たちは拒否されたんだ。諦めろ。」
セデクは説得するがルトラは引き下がらない。
「なんで!?、いつもの兄さんなら力づくでも言うことをきかせてたじゃない!」
やっぱり日頃から兄を汚れ役にしてたのか、印象変わるなぁ。
「ルトラッ!」
セデクの一喝にルトラはビクッと肩を震わせる。
セデクは少しだけ悲しそうに続ける。
「ルトラ…、それじゃあ村の奴らと同じだ。相手のことを考えずに自分たちの都合を押し付ける、それが嫌で俺たちは村を出たんだろ。それに俺が力づくで言うことをきかせていたのは俺たちを利用しようとした奴らだ。ルトラがさっき言ったようにこいつは俺たちを利用しようとはしていない。」
ルトラは黙る。
なんかいい話風にしてるけど私のルトラに対する印象は急降下中よ。
「…俺たちは2人で生きるのに必死で周りを敵視してたんだ、そんな俺たちが拒否されるのはルトラだって分かってただろ。」
兄貴の方は分かっててあんな態度を取っていたと。
「…でも!」
「でもじゃねぇっ!」
うるせぇ!、ここはギルドの中だ、透過魔法で音を遮断してなかったら注目の的だったぞ。一応席に着いた時から魔法を発動しててよかったわ。
「静かにしてください。お二人の事情は知りませんし興味もありません。仲間でもなければ友達でもありませんのでこれ以上お話することはありません。お兄さんは妹さんにちゃんと言い聞かせてください。あと私に話しやお願いがあるなら信用を築いてからにしてください。それじゃ。」
「あ…」
最後にルトラが何か言いたそうだったが知ったことではない。困っている人を見過ごせない主人公はよくいるが自分の人生は自分が主人公だ。世の中よくなってないってことは助ける方が少数派ってことだよね。というかこれは助けを求めていたのか?、途中から2人の言い争いで分からなくなったな。まぁそもそも話を聞く気がなかったのは私だけど。
私とハクは席を立ちギルドから出る。
「待たせてごめんね、それじゃあ行こうか。」
頷くハク。水狼と遊んでいたから退屈ではなかったか、よかったよかった。
依頼は南側の草原が目的地なので気持ちの切り替えも兼ねて広場で朝食を食べてから行くことにする。
食事はハクに色々なものを食べてもらいたいので食べたことないものから選ぶ。もちろん美味しくなさそうなものは除外だ。広場の屋台なので滅多にないが稀に形容しがたいどえらいものが売られていることがある。異世界ではポピュラーなものかもしれないがこんなところで冒険する気はないのでハクが興味を示さない限り除外だ。
今日は蛇串とジャガイモスープのパン粥を買ってベンチに座って食べる。蛇串はハイドスネークの肉らしく味は悪くないが骨が邪魔で食べづらい。ハクはバリバリと骨ごと食べているけど…。ジャガイモスープのパン粥はジャガイモのポタージュみたいなスープに小さいパンが入っており、ハードとソフトと看板に書いてあったのでハクと私で1杯ずつ買ってみた。見たところハードはカリカリに焼いたクルトンみたいなパンが入っており、ソフトはスープを吸って溶けたパンが入っていた。ハクは歯ごたえがある方が好みらしく両方味見したうえでハードの方を選んで食べている。
買う時に店主に聞いたが看板のハードとソフトの表記は分かりづらく売り上げはイマイチとのこと。ならば変えればいいのになと思いながらパン粥を食べる。パンチはないが優しい味だ。落ち着く。
ハクが私の食べ進んでいない蛇串を見るので食べるか聞くと頷く。口の付けたところは切り取ってから渡すと嬉しそうに食べる。朝から食欲があるのはいいことだな。
食事も終わったので依頼の目的地である南の草原に向かう。南門をくぐり今日は最初から街道ではなく草原を歩きながら進む。依頼書の香草の絵を頼りに感知魔法で通知が来るように設定、1つ見つかればハクに匂いを覚えてもらえば探すのは楽だろうという考えでいく。
ハクに走るか聞いてみると嬉しそうに頷くのでハクと私と水狼の2人と1匹で軽く走りながら進む。ハクが水狼と戯れながら草原を走る姿を見ていると心が洗われる。なんならアニメのエンディングとかでよく見る感じだが実際に見るのと世話している子どもとが相まってちょっと感動する。
しばらく走っていると感知魔法に反応がある。
「ハク、止まって。」
ハクは私の言葉にすぐに止まってくれる。えらいぞ。
私は感知した香草を根から引き抜く。見た目は草、匂いは…、独特な匂いな気がする。まぁ乾燥させたりなど使い方はあるだろうからダンさんにでも聞いてみよう。とりあえずハクに匂いを覚えてもらうか。
「ハク、この草の匂いを覚えて探してほしいんだ。」
私が香草を見せるとハクは近づいて匂いを嗅ぐ。匂いを嗅いだハクは顔をくしゃっとさせて水狼の小さな体に顔を埋める。
かわいい仕草だがハクの苦手な臭いだったか?
「大丈夫?」
私が聞くとハクは水狼で顔をゴシゴシしてから小さく頷く。結構雑に扱うんだね。
「この草を探すのはできそう?」
臭いに慣れたのか今度はしっかりと頷くハク。
私は香草をアイテムボックスに仕舞ってからハクにお願いする。
「じゃあ草のある所に案内をお願い。回収は私がするからハクは好きなように走って構わないよ。」
私の言葉を聞くと水狼を地面に降ろしてから駆けだすハク。香草を自動収納に設定して私もそれに付いて行く。
ハクの嗅覚による探知は素晴らしくどんどん香草を回収していく。うーむ、体は人間だが動物の嗅覚や聴覚などいいところは持っている。…これ人間いらなくね?。獣人だけでいい気がするがこの世界で人間という種族が生き残っている理由は何なんだろう?。…愚問か、優れた種族だけ生き残る世界じゃないってだけだな。思えば前世もそうだったし。
また適当なことを考えているとハクの足が止まる。どうしたのかとハクを見ると耳をぴくぴくさせながら草原の奥を見ている。私も同じ方を見てみると遠くの方に複数の人影が見えた。
以前にハクに言った”人がいたら止まる”ということを守ってくれたようだ。本当にこの子はいい子だな。
感動したので頭を撫でて褒める。
「よく覚えていたね、えらいぞ。」
人を褒めるのは偉そうな気がするのだがハクが嬉しそうなので良しとする。
とりあえず人影とは別の方向に行こうかと思ったが人影の周りに小さな影がおり、その小さな影が人影を襲っているように見えたので少し考える。
冒険者は危険を承知でなるもんだ、襲われているからって助けるのが正しいのか?。…いや、そもそも冒険者かどうかも分かってないな、見に行くだけ行ってみるか。
私は用心するためにハクに声をかける。
「ハク、前みたいに私の背におんぶされて目を瞑ってもらってもいいか?」
ハクはすぐに私の背に乗ってくれる。ライドオンッ!
水狼をハクの頭の上に移動させ透過魔法をかけて人影の方にダッシュする。
近づくうちに人影と襲っている影の正体が見えてくる。人影は4人組で鎧姿の男と同じく鎧姿の背の低い男、鎧は見るからに安物に見える。それに軽装にローブの女と大きな鞄を背負った鼠頭の男。鼠の獣人はポルカノさんのお店の店員さんもそうだったがあちらはシュッとしていてこちらは丸っこい感じ。私は動物に詳しくないのでこのような表現しかできない。残念。それは置いておいて全員若く見える。駆け出しかな?。そして鎧姿の男はもう1人の背の低い鎧姿の男に肩を組んで支えられており1人では立てない状態のようだ。
襲っている影の方は角ウサギ、どうやら3匹に飛び掛かられており背の低い男とローブの女がなんとか武器で対応している。鞄の鼠頭はというと…、なんかオロオロしており角ウサギの攻撃が鞄に当たって中身が落ちている、これはメタルスラッグで見た光景!
大変そうだが何とかなっているのでどうすべきか考えているとローブの女が叫び始める。
「もーっ!、何なのよ!。角ウサギなんかに苦戦してっ!。これも全部アンタのせいだからね!。街に帰ったら絶対クビにしてやるっ!」
お、クビ?、追放モノですか?。おじさん数多の追放モノを読んでるからね、追放モノにはちょっとうるさいぞー。
興味が湧いたので助けることにする。角ウサギが草むらに入ったところで首を落として収納のコンボ、それを3回繰り返して終わり。
角ウサギの襲撃がピタリと止むと攻撃に対応していた2人は訝しみながらも警戒を解く。
「見逃された…のか?」
背の低い鎧姿の男が呟く。
「なんでもいいわ!、今のうちに街に急ぐわよ!」
ローブの女がそう言いながらぐったりして支えられている男を反対側から支えて歩き始める。
鼠頭の男はオロオロしながら落ちた荷物を拾っているがそれを見たローブの女がイライラを隠しもせずに叫ぶ。
「そんなもの拾っている場合じゃないでしょ!、ちょっとは頭を使いなさいよ!」
鼠頭の男は叱られたことでビクッとして穴の開いた鞄からさらに荷物を落とす。コントじゃん。
くぅーっ、こいつら気になるー!。街まで付いて行って行く末を見守りたーい。だが依頼の香草は現在22本、数は少ない。うーむ、自分用を考えていたが
全て納品して自分の分は明日にするか?。…よし、そうしよう。突発イベントには積極的に参加するものだよな。ハクには悪いがちょっと我慢してもらおう。
私は4人組に付いて行きながら話に耳を傾ける。
「ホンット信じらんない!、こんなんじゃ赤字よ。」
このローブの女は気が強い感じかな?
「しかも魔物と戦って傷つくならまだしもこんな役立たずをかばって毒を受けるなんて意味分かんないわ!」
ローブの女が鼠頭の男を睨む。
「ほ、ほんとにごめんよ…。」
鼠頭の男が委縮しながら謝罪すると支えられている鎧姿の男が弱々しく口を開く。
「ヒ、ヒンナ…、あまりリックを責めないでくれ…。攻撃を受けたのは僕だし…、毒消しも使ってくれたじゃないか…。」
「その毒消しが足りなくてアンタは苦しんでるんでしょ!」
ヒンナと呼ばれた女性が心配そうに叫ぶと背の低い鎧姿の男に窘められる。
「ヒンナ、トールをしゃべらせたらダメだよ。とにかく街に運んで安静にさせないと。」
ヒンナは渋々といった感じで口を閉じトールと呼ばれた男性を運ぶのに集中する。
運ばれているのがトール、紅一点がヒンナ、オドオドした鼠人族がリックね。背の低い人の名前はまだ分からないと。オッケー。
少し進んだところでヒンナがまた口を開く。
「アンタ、水を出しなさい。少しでもトールに飲ませて毒を薄めるのよ。」
言われたリックは慌てながら鞄の中を探し始める。
「あ、あれ?、おかしいな…、確かに入れたはずだけど…。」
ヒンナの怒りが溜まっていくのが分かる。
「…あ、さ、さっき襲われたときに落としたみたいだ…。ごめんよ…。」
ヒンナの怒りが爆発する寸前で背の低い男がまたもや窘める。
「ヒンナ、今は言っても仕方ないよ。落ち着いて。」
ふむふむ、背の低い男が世話役ね。じゃあトール君がリーダーかな?。ふーむ、今のところリック君が戦闘もしてないし荷物の管理もできてないと…、これは追放されても仕方ないんじゃないか?。この危険な魔物の蔓延る世界でパーティーを組んで冒険者をするなら各々の役割を全うしないと他の人にしわ寄せがいくからな、不安を感じるのならメンバーを変えるのは悪いことではないと思うがね。死んでからじゃ遅いし。
そんなことを考えているとヒンナが騒ぎ出す。
「ちょっとミゲル!、トールが気を失ったわよ!」
あ、背の低いのはミゲルというのか。
「分かってるよ、さっきも言ったけど落ち着いて。動ける僕らが動揺すると危険が増すからね。トールは足りないとはいえ毒消しを飲んだし体力もあるから大丈夫だと信じて早く街に運ぼう。」
「わ、分かったわ。」
ミゲル君は冷静だね。この4人がどういう関係なのか気になるところですな。
このまま眺めていてもいいがトール君が少し心配になる。この周辺で毒を持つ魔物となるとハイドスネークか?、確かアイテムボックスに以前狩ったハイドスネークが入っていたはずだ。魔石は売ったが体や毒腺は残っているので確認してみる。トール君をスキャンしてハイドスネークの毒と同じ成分がないか調べてみると見事に一致するものがあった。うひょー、冴えてるー。
私はトール君の体内から毒を取り除き、ついでに傷口と胃の中に手持ちの薬草の成分をぶち込む。毒消しの薬草で効果のあるものが分からなかったので傷に効く薬草だ。再生力を高めるなら体を元気にしてくれるだろう。間違ってたらごめんな。
その後トール君の顔色が少し良くなったところで街に着く。一応私は魔物が近づかないように警戒もしていたぞ。
4人が門をくぐった後に私も魔法を解除して門をくぐる。その後は再び透過して観察を続ける。この後追放されたリック君が自身も知らなかった力に目覚めて復讐する物語が始まる可能性は限りなくゼロに近いがここまで付いてきたので最後まで見届けることにする。
4人はギルドまで歩き窓口に言って休憩室を借りるようだ。トール君を休憩室のベッドに寝かせて中庭の井戸で水を汲む。動いていたのはミゲル君とヒンナ嬢、リック君はトール君の寝ているベッドの横でオロオロしていた。リック君、それはダメだよ…。流石の私も擁護の言葉が浮かばないよ…。
その後トールを休ませるのが一段落して残りの3人はベッドに腰掛ける。そのタイミングでヒンナが口を開く。
「アンタマジで何なのよ!、足しか引っ張らないし、庇ってくれたトールに何もしないでただ立ってるだけなの!?」
お怒りはごもっともですな。
「ヒンナ、声が大きいよ。でもリック、ヒンナの言ってることは正しいよ。僕たちは同じパーティーで仲間だ、互いに助け合うことが大事なのに君は助けてもらうだけ、これがダメなことくらいは分かるだろ。」
ミゲルの諭すような言葉にリックは黙って俯く。
「ほら!、これよ。アンタが臆病なのは知ってるけど私たちにまで話さないってどういうことよ!。こんなんじゃパーティーでやっていけないわ!」
今のところリック君が全面的に悪いな。…でもなぁ、リック君の気持ちも分からんでもないんだよなぁ。おそらく失敗する恐怖の悪循環で体が動かないんだろうな。失敗、怒られる、恐怖から体の動きが鈍る、また失敗、の繰り返しでもう体が動かなくなる段階まできているのだろう。私も経験があるが私の場合は歳を重ねて心が何も感じなくなってから別にどうでもよくね?って振り切れたからな…。この世界じゃそうなる前に死ぬから私の経験は役に立たないんだよな。あれ?、なんか最近同じような状況な人がいたようないなかったような…、まぁいいか。…だがリック君、君には仲間がいるぞ!。君は私とは違う!、君の物語を見せてくれ!
なんだかんだで若者たちの青春ストーリーは気になるのでどうにかハッピーな結末を望む私。
これからどうなるのかワクワクしながら見守っているとベッドで横になっていたトール君が目を覚ましたのか小さな声を出す。
「…うぅ、リ、リックは、成長、途中なんだ…。信じて待つのだって…、仲間だろ…。」
「トール!、気が付いていたのね!」
ヒンナが安堵の表情でトールを覗き込む。
「あぁ…、ヒンナの声で目が覚めたよ…。」
ヒンナはムッとしてトールをはたこうとするが相手が弱っているので近くにいたミゲルを代わりにはたく。
「いてっ、なんで僕なんだよ…。」
3人は穏やかな雰囲気だがリックだけは黙っている。
ふむふむ、三者三様ではあるが皆リック君を心配していると、トール君は信じて待つ、ミゲル君は優しく諭す、ヒンナ嬢は厳しく叱るって感じね。そして肝心のリック君はというと…?
黙っていたリックが小さな声だがはっきりと呟く。
「…皆、ごめん。僕は…パーティーを抜けるよ…。」
3人は驚きの表情でリックを見る。
ほほう、そうきましたか。
「な、なんでよ!」
ヒンナの問いにリックは答える。
「…僕は、僕は辛いんだ。皆を待たせるのも…、心配されるのも…。」
「ア、アンタ…、心配してあげてるのに!」
ヒンナがさらに問い詰めようとするとミゲルがそっと止める。
リックは続ける。
「皆に心配されるたびに…、僕は惨めになる…。もちろん皆に悪気がないのは分かる…、でも…、でも…」
リックが口ごもったところでトールが口を開く。
「…そっか、リックが決めたのなら…僕は何も言わないよ。ぐっ、それで…」
「僕が聞くよ、トールの聞きたいことはだいたい分かるからね。」
辛そうなトールをミゲルが引き継ぐ。
「それでリックはパーティーを抜けてどうするんだい?、何か当てがあるのかい?」
ミゲルの問いにリックは口ごもりながらも答える。
「わ、分からないよ…、でも、しばらくは1人で考えるよ…」
その答えにヒンナが割って入る。
「アンタ!、そんな考えでどうするのよ!。戦闘も荷物持ちもできない臆病者のアンタが生きていけるほど世の中甘くないのよ!。アンタは大人しく私たちと一緒にいればいいのよっ!」
ヒンナは強い言葉を使っているがその表情は泣きそうだ。
「…ヒンナ、それを続けてきた僕たちがリックを追い詰めたんだ…。」
「っ!」
トールの言葉にヒンナはついには涙をこぼす。
「…最後にこれだけは聞いておきたいんだけど、リックを心配することがなくなったら…パーティーとしてじゃなくても、また一緒に集まることは…できるかな…」
トールの途切れ途切れの言葉にリックは答えない。
「…そんなことは、分からないよね。じゃあ、これだけは覚えておいて…ほしい。僕たち4人は…いつだって、友達だよ…。」
トールは言い終えたところで気を失う。
「寝ちゃった。トールが言ったけど僕も同じ気持ちだよ。リックの意見は尊重するし離れていても友達だと思ってる。悲しいけどね。」
ミゲルが悲しそうに笑うと今度は涙を拭いたヒンナが口を開く。
「なんで2人はそんな簡単に納得するのよ、リックが死んじゃうかもしれないし、死ななくたって悪い人に騙されるかもしれないのよ…」
「それも承知の上でリックは僕たちとの別れを選んだんだ。心配するのはやめて行かせてあげよう。ね?」
ミゲルの説得に渋々ながらも頷くヒンナ。
「僕たちばっかりしゃべっちゃったね。リックからは何かない?、悲しいお別れより笑ってお別れしたいな。」
ミゲルが笑って問いかけるがリックは答えない。
「…そっか、必要な荷物は持って行って大丈夫だよ。気をつけてね。」
リックは俯きながら部屋を出ていく。
ミゲル君聖人すぎぃー!、そしてリック君態度悪すぎぃー!。まぁ他人を気遣えない程参ってると考えれば分からないこともないが…。だがこれで明日リック君の死体が発見されても不思議でないのが異世界というもの、4人の運命はいかにっ!。…とまぁ若者の青春ドラマ感覚で見ていたがこの世界で生きていくために生まれ育った村を出て冒険者になったって感じかな。適当に生きている私よりかよっぽど大人だな。オチはないが人生なんてこんなもんだと思い出させてくれた。他人をどれだけ思った行動でも相手が嫌ならどうしようもないし、嫌なことから逃げるのも一つの手だ。昔からの友達でも歳を重ねるごとに離れていく、惰性で付き合い続けてもいいがきっぱり別れるのも悪くない。4人を見ていてそんなことを思ってしまった。
さて、いいものを見させてもらった。願わくばこの4人には死なないでほしいものだ。
私を休憩室を後にする。時間は午後の何とも中途半端な時間、今から街の外に出るのは気が進まないのでどうしたものか…。
そういえばハクをほったらかしだったと思い背中に声をかけてみるが返事はない。よくよく耳を澄ますと小さな寝息が聞こえる。どうやらお昼寝中のようだ。
やることもないので今日は熊猫亭でのんびりすることにする。ギルドの窓口で依頼の報告を済ませて熊猫亭に向かう。いつもより早い時間だがお店は開いておりいつも通り客はいない。
店に入ると厨房からダンさんが迎えてくれる。
「いらっしゃい。」
「こんにちは、早いですが大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない。シオンとマオは夕方からだが昼には俺1人で開けている。」
許可をもらえたので厨房前のカウンター席に座る。ハクはおんぶしたままだ。
「今日はのんびりさせてもらおうと思って来ました。あと食べ物の事で聞きたいことが。」
「おう、客がいない時は好きにしろ。それで、何が聞きたいんだ?」
ダンさんは食べ物の事となると料理人の血が騒ぐのかちょっと嬉しそうだ。
私はアイテムボックスから香草を取り出しダンさんに見せる。
「この香草の使い方を教えてもらえればなと思いまして。」
「あぁ、それは肉の臭み消しや味付けに使える一般的な香草だ。そのままだと独特な匂いと味だが癖になる、バターと混ぜて肉に塗って焼いたりする使い方があるな。あとは乾燥させて粉末にすれば独特さが薄れて使いやすい調味料になる。味を例えるなら少し刺激的って感じだ。」
香草の臭いで起きたのかハクが背中で動き出す。長時間のお昼寝は夜に眠れなくなるのでそろそろ起こすことにする。
「ハク、起きれるかい?」
私が背中から降ろすと目が半開きながらもしっかりと立つ。椅子に誘導すると座ってくれたので水狼をテーブルの上に出すとハクは水狼で顔を拭く。…まぁ扱い方は自由だ。
話を戻してダンさんに追加で質問する。
「香草の使い方は分かりました、ありがとうございます。ちなみにこの香草を使ってウインナーを作ろうと思うのですが燻製にする際のチップってここらへんだと何を使うかご存じですか?」
「お、自分でウインナーを作るのか。チップなら森にある枝の広がってる木だったら何でもいいぞ。そういえば以前カルラの食べてたコムの実の木で燻製にするといいと言ってた客がいたな。まぁ好みもあるだろうから色々試してみな。」
コムの木なら栽培空間にある、ウインナーはガードシープの肉と腸で作ろうと思っているがそういえばシャントラーズドの肉も残っていたな。鹿肉もとなると脂と追加の腸がほしい。
「分かりました。それとダンさん、この街の近くで豚か猪系の食べられる魔物となると何がいますか?」
「食べられる魔物はレッドボアかオークだがどちらも森の奥で偶然出会うくらいだ。異常発生とか目撃情報がない限りは狙って見つけるのは難しいぞ?」
えぇ、そうなのか。
残念に思っていると顔に出たのかダンさんが教えてくれる。
「まぁ自分で狩らなくてもそういう特定の魔物を専門にしている冒険者がいるから街では売っているぞ。値段は出回っている量によるから時期によって結構違うけどな。」
時価ってやつか。できれば肉は自力で手に入れたいんだよなぁ。保存はアイテムボックスで問題ないから鹿の方は置いておいて羊のウインナーだけ作るか。
「ありがとうございます、今度お店を見てみます。あとは…米っていう食材は聞いたことありますか?」
パンもいいがそろそろ米を食べたい。私の生きがいは楽しいことと食事だ。まぁ米がないならないで探す旅に出てもいいけどな。この世界は前世と同じようなものが多いから探せばあるだろう。…多分。
「米か、珍しいが知ってるぞ。大きな商会なら取り扱いか取り寄せができるんじゃないか?。取り寄せは時間も金もかかるとは思うがな。」
あるんかーい。
「そうなんですね、米を作っている国とか地域ってどこか分かりますか?」
「そこまでは知らねぇな、知りたいなら扱っている商会に聞くかだな。」
次会ったときにポルカノさんに聞いてみるか。
ダンさんにお礼を言ってご飯を注文することにする。ハクにお昼ご飯を食べさせていなかったので謝罪して注文してもらう。。
「ハク、お昼を食べてなくてごめんね。食べたいものを注文してみようか。」
ハクは首を横に振る。これはご飯がいらないのではなくあまり動いていないしお昼寝してたから大丈夫という意味だろう。ハクがご飯をいらないとは考えられないからね。
案の定ハクは少し考えてから私に耳打ちで聞いてくる。
「…魚って、あるかな?」
かわいいな、ダンさんに聞くのはまだ怖かったか?
私は内心デレデレしながらも顔はいつもの表情で対応する。
そういえばダンさんに魚を売ったな、料理を試すか研究かしているとか言っていたがどうなったんだろう?。まぁ料理がなくても手持ちの魚を焼いてもらうくらいはできるだろうから聞いてみるか。
「ダンさん、魚料理ってどうなりましたか?。あれば注文、なければ私の手持ちの魚で何か作ってもらいたいのですが。」
「おう、俺の考えている料理はまだ完成してないから持ち込み分で何か作ろう。おまかせでいいか?」
ハクを見ると頷くのでお願いする。
「はい、それでは2人分お願いします。」
魚を渡しハクと一緒に待つ。
ぼんやりとハクを眺めているとふと思う、魔法で全身はきれいにしているがハクの髪は肩まであって長めだ。これは櫛を買ってあげた方がいいか?。私も髪が長い時に櫛を使ったことがあるが案外気持ちいいものだ。将来的に自分で髪を解かすだろうから今から練習というのもいいだろう。これもポルカノさんのところに寄ったときに在庫があるか聞いてハクに確認してからだな。覚えておこう。
しばらくすると料理が完成しダンさんが並べてくれる。
「できたぞ。魚はムニエルにした、下味とソースが付いているからそのまま食べてもいいしレモンをかけてもいいぞ。あとはセットのパンとスープだ。」
ムニエルと聞いて想像したのは皿にちょこんと切り身が乗った料理だが目の前にあるのは深皿に山盛りの切り身が乗ったもの。脳裏に盛り付けとかないんか!?とか、ムニエルってことは1つずつ焼いたのか?などのツッコミとも疑問とも言えないものが湧いたが、そういえば2人分で魚を1匹ずつ渡したのでそりゃあこの量になるわなと冷静になる。ハクを見ると山盛りの料理に目を輝かせているので良しとしよう。
気持ちを切り替えて食事を頂く。
「いただきます。」
ムニエルを切り分けて口に運ぶ。表面はパリッとしており中はふんわり、バターの香りが広がったかと思うとその後に鮭の旨味が溢れてくる。美味し!。お皿の隅にある輪切りのレモンを絞ればアクセントになりこれまた美味し!。ムニエルなんて小洒落た料理は数えるほどしか食べたことはなかったがこれは印象が変わる。異世界補正もあるだろうがガッツリ食べれる魚料理として私の記憶にインプットされた。
私がムニエルに舌鼓を打っているとハクに服の裾を引っ張られる。どうしたのかと見てみるとハクのパンが無残にちぎれており虚無みたいな顔でこちらを見ていた。
あれかな?、ムニエルをサンドするためにパンを半分に割ろうとして失敗したと。まぁ普段では見れない顔が見れたので甘やかすことにする。
私は自分のパンをナイフで割ろうとする。が、すでに食事に使っているので思い留まる。些細なことだが一応ね。パンを魔法で割ってハクの分と交換する。
ハクは笑顔で受け取るとパンにこれでもかというくらいムニエルをはさんで頬張る。何とも幸せそうな顔で食べているので交換した甲斐があったというものだ。
パンに挟むことはできないがパンを千切って私もムニエルと一緒に食べてみる。…何とも美味しい。パンがバターソースを吸って調和している。パン、バター、サーモン、そりゃ合わない訳がないよな。
私もハクも夢中で食べて完食する。
食事を終えてのんびりしているとシオンさんとマオさんがお店に出てくる。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませー。」
マオさんはハクに手を振ってくれ、ハクも小さく振り返す。…尊い。
少しすると他のお客さんが入ってきたので店を出ることにする。ダンさんに美味しかったことを伝えてお会計を済ましマオさんに見送られてお店を後にする。
空はまだ明るく日暮れ前だ。食後の運動を兼ねて街中をぶらぶら歩く。たまには気の向くままに道に入って探検するのもいいだろう。完全に気が緩んでいるが警戒して毎日同じ道の往復ってのも味気ない。というか飽きる、私は自由を愛する男だからね。
のんびり歩きながら今日の4人の若者冒険者のことを思い出す。
友達と言っていたが他人を想って心配や怒ったりと青臭いが汚れてない純粋な心を感じた。…結果は1人離脱となったけど。まぁそれは置いておいて、そんな心は大人になると無くすものだと勝手に思っているが私ももっと他人に優しくした方がいいのか?。今思いつくのは今朝突き放した蜥蜴兄妹だが…、うーむ、流石に簡単に影響され過ぎか?。次会うことがあれば話だけでも聞いてみるかな。まぁこういう場合次の機会は訪れないのが定番だがね。
そんなことを考えながらしばらく適当に歩いていると人通りのない裏路地に迷い込む。
お、人を襲うのにうってつけだな。
ハクが私の服の裾を引っ張る。見てみると耳をぴくぴくさせて周りをきょろきょろとしている。
こ、この反応は!
私が後ろを見てみるとフードで顔を隠した2人が道を塞いでいた。
と、いうことは?。
今度は前を見てみると先ほどまでいなかったはずの同じようにフードで顔を隠した2人が立ちはだかっていた。
い、いつの間に!?
「な、なんなんだあんたたちは!?」
大袈裟にリアクションしているが内心変なおじさんの流れになってくれないかなと思っている。
”な、何だチミは、ってか!。そんです、私が変なおじさんです。”ってやつね。もしくはロケット団の口上でもいいぞ。…古いか?
私の問いかけに何も答えずに4人は道の両側からゆっくりと近づいてくる。
無駄な問答をしないのはなんかプロっぽいな。
私はハクを庇う格好で無抵抗感を醸し出す。そしてある程度相手が近づいたことを確認してからハクに”おんぶ”と耳打ちする。ハクが私の背中に飛び乗ってくれたので透過魔法で攻撃をすり抜けるようにしてついでにこちらの音が周りに漏れないようにもしてハクに聞いてみる。
「この4人以外に周りに人はいるかな?」
私の問いに小さな声で答える。
「…屋根の上。」
オーケー、すべて理解した、皆まで言うな、オールグリーン、商売繁盛、日々成長。
…ちょっと興奮してきたな、脳内麻薬の分泌を感じる。脳内麻薬の分泌を感じるとか思っちゃう時点で相当ヤバい気がするがこの謎の無敵感は楽しいので結構好きだ。まぁ注意力散漫になるので気をつけなければ、特に今は1人ではないのでハクを心のセーフティにして己を律しよう。うん、わかった!。誰だお前!。もう1人の!
やべ、テンション上がってきた。頭の中が雑念で溢れる。元々俺は頭おかしいからな。誰だ頭おかしいって言った奴は!
…はぁ、これだから私は子どもといるべき人間じゃないんだよなぁ。
背中のハクをアイテムボックスに収納する。前方の2人と距離を詰めて2人の両足を土の槍で貫通させる。今回は土の槍にかえしを付けて抜けないようにした。後ろの2人にも近づいて同じように動けないようにして屋根に飛ぶ。4人が悲鳴を上げた時には屋根の上の1人の胸ぐらを片手で掴み持ち上げていた。
「何か御用ですか?」
私が胸倉を掴んだ相手は暴れながら掴んだ手を振りほどこうとする。しかし胸ぐらは掴まれているが腕には触れない。透過魔法はそういう設定だからね。
相手はパニックになりさらに暴れるので私は鳩尾に拳をめり込ませる。
「何か、御用ですか?」
私はもう一度聞く。ちなみにパンチは大分手加減したぞ。
相手はぐったりしているが意識はある。今は超ハッピーモードで頭が湧いているのでできれば素直に話してほしいものだ。否!、歌わせてもいいぞ!
「もう一度だけ聞きます。何か、御用、ですか?」
3度目でようやく相手は口を開く。これでしょうもない内容だったらこの屋根の上から地面にパイルドライバー決めて脳ミソぶちまけたる!
「…うぅ、俺たちは、白狼の…ガキを、探してた…だけだ。」
だけってなんだよ、この後挽回しないと死確定やぞ。
「いちいち質問するのは面倒だから俺の知りたい情報を察してしゃべれ。狙った理由や依頼されたならそいつの特徴とかな、おら。」
相手を宙に持ち上げたまま揺さぶると苦しそうにしゃべり始める。
「狙った、理由は…、白狼のガキを手に入れれば、報酬を貰えると言われたからだ。言ってきた相手は顔を隠してて分からなかった。ほ、本当だ。それと…、そうだ!、そいつは女だった。そいつは俺に気があるのか近づいて来て耳元で期待してるって言ったんだ!。そん時にいい匂いがしてよぉ、へへっ、胸の谷間を見せて来たからあれは誘ってたんだ。」
面白い面白い。話しているうちに体力が回復したみたいだね。
私は無言で鳩尾にパンチを叩きこむ。
「おぐっっ!?」
相手を屋根に転がして考える。
以前狙って来た連中の獣人も香水とか言ってたからこいつの言ういい匂いも同じな可能性がある。近づいて来たって言ってるから服に匂いが付いてんだろ。
「おい、その女に会ったときもその服だったか?」
「…あ、あぁ、そう…だ。」
「じゃあそのマント脱げ。」
男はふらふらしながらも素直にマントを脱ぐ。フードを外すと毛のない頭が姿を現す。
ハゲとるやないかいっ!。…いや、ハゲ自体は悪くないんだ。ブルース・ウィリスやジェイソン・ステイサム、ドウェイン・ジョンソンはかっこいいと思うからね。だがこいつはハゲだし、少女を狙うし、出っ歯だし、肌汚いし、鼻毛出てるし、顔の作りが生理的に無理。異世界の人ってだいたい顔が整っているのにこいつは例外だ。逆に初めての例外を見たわ。怖っ。
…なんかこいつの顔を見たら冷静になってきたな。というか冷静に考えてこいつのマントの臭いをハクに嗅がせるのは可哀そうだ。てか嗅がせるとか私が嫌だわ。…だがハクを狙う黒幕を知るにはこれしかないしな。
考えた結果、マントに接触させないで女の方の匂いが覚えられるギリギリの距離で嗅いでもらうことにする。すまん、ハク。
ハゲ男のマントをアイテムボックスに一旦収納して襲って来たこいつらの処遇を考える。頭ハッピー状態のときは生きて返さねぇと思っていたが、もう冷静になったので有用な利用法がないか考える。前回の連中は見逃したが今回は見せしめにでもするか。見せしめにするには残酷なことをしないといけないが致し方ない。…だが待てよ、見せしめは他のハクを狙う悪党に伝わらなければ意味がない。そしてこいつらを殺すにしても1人だけ逃がして触れ回らせるにしても本当に伝わるかは分からない。うーん、数をこなすのも面倒だしな…。
とりあえず屋根に座っているハゲ男を下で足を貫かれて移動できない4人の上に蹴って落とす。
口々に発する驚きと痛みの声を聞く限り全員男のようだ。最初の無口はどうしたよ。
私も屋根から飛び降りて5人の前に着地する。
さて、どうしようかね。前回見逃したのは悪手だったしな、怪しいという情報だけでも次の悪党を引き寄せるし私の能力が広まろうものなら街や国の移動、もしくは隠居生活を視野に入れないといけない。
そういえば確認が終わってなかった。
「そういえば聞いてなかった、なんで私たちを狙ったのか説明してくれる?」
4人は痛みでそれどころではなさそうなので結局ハゲ男が話す。
「ぐ、は、白狼のガキを探すのに手当たり次第ガキを確認していった…。だいたいは遠くからの確認で事足りたんだがお前のガキはフードを外さないから直接確認することにしたんだ。…へへっ、こんなに反応するってことはどうやら当たりだったみたいだな。」
ハゲは不敵に笑う。
?、今の発言で殺すしかなくなっちゃったけど何笑ってるんだ?。はっ!、もしかして別の監視や盗聴器が!?。それなら私の負けだ、大人しく全面戦争しよう。
とりあえず殺すが最後に一応確認しよう。
「バレてしまったらしょうがないですね、もう5人とも殺すしかないですが構いませんね?」
5人は寝耳に水だったようで目を見開いて驚く。
あれ?、命までは取られないと思ってたの?、私がEランクだから?。それとも異世界は命の軽い世界だと思ってるのは私だけで最低限命の保証はされてるの?。…そんな訳ないよな、魔物は待ってくれないし。それか人間相手なら魔法で言うこと聞かせるとかあるのか?、それで罪人に死刑はないとか?、そんなエッチな本みたいなことが…?。ゴ、ゴクリ…。
私がこの世界の命の扱いから脱線したことまで考えているとフードの男の1人が声を上げる。
「お、俺は誰にもしゃべらねぇ!。だから俺だけは助けてくれ!」
1人がしゃべり出すと他の奴らも口々に命乞いを始める。だがその中でハゲだけはまた不敵に笑っている。
いや、お前もさっき驚いてただろ。お前の立ち位置が分かんねぇよ。
気になるので聞く。まぁ悪党が本当のことが言うかは分からないがこいつはアホっぽいので聞く。
「お前らは黙れ。おいハゲ、何笑ってんだよ。」
私の言葉にハゲは笑いながら答える。
「へっ、強ぇ言葉で威嚇したって所詮はEランク。年も若いし人間をぶっ殺したこともねぇだろ。」
えぇ?、私が殴ったの忘れたのか?。それにこの世界には野盗とかいたよね?、だとしたら若くても人を殺したことある人って結構いるんじゃないか?、自衛の為とか理由があれば人間何でもするもんよ?。
こいつから情報を得られない、さっきから嘘か本当か判断がつかない情報に惑わされている私がいる。
なんか面倒になってきたな。
私は横に並んでいる一番左のフードの男から首を落としていき3人の首を落としたところで一旦止める。
これでEランクで年が若くても人間を殺せることを証明できたかな。
残ったフードの男もハゲも理解が追い付かないのか固まっており私の行動にに反応できていない。躊躇うのもあれなので残りのフードの男の首を落とす。そこでようやく我に返ったハゲが焦りながら口を開く。
「ま、待て、待ってくれ!。考えてみたら俺たちはまだ何もしてねぇ!。こいつらは運がなかったってことでいいからよぉ、俺は見逃してくれねぇか?、な?。」
でもこいつらはハクを狙ったからな、攫われたハクがどうなるかは想像できる。攫われなかったからいい、何もなかったから許すとはならない。いつだって何かあってからでは遅いのだ。
私はハゲを無視して首を落とす。
はぁ、頭がこんがらがってよく分からなくなったな。簡単に人を殺し過ぎか?、だが自分のしたことに後悔はない。別に誰からも愛される正義のヒーローを目指しているわけではない。そういう奴って助けられることを当たり前と勘違いした自称守られるべき弱者に嫌気がさして闇落ちするのがオチだ。…また脱線したな。ともかく自分のしたことで恨まれようが殺されようがそれは自分の責任だ。それを分かったうえで自由にするのが私だ。
とりあえず5人の死体をアイテムボックスに収納、血もキレイにしてからハクを私の背中に取り出す。
ハクは一瞬で周りの状況が変わったことに驚いたがすぐに私の背中に顔を埋める。ハクは時間を止めている方のアイテムボックスに収納したので出し入れされるとビックリするわな。ごめんな。
ハクにお願いがあるので丁重に話しかける。
「ハク、お願いがあるんだけど嫌だったら断ってね。説明するから一旦降りてもらっていい?」
そう言うと素直に降りてくれるハク。
私は近くにある箱の上にハゲのマントを取り出して置く。
「ハク、このマントに付いてる香水…、女の人が付けている匂いって言うのかな。とにかくその匂いを覚えて街で匂いがあれば教えてほしいんだ。要領の得ない説明で申し訳ないけどできるかな?」
私の拙い説明にハクは頷いてくれる。そしてマントに少し近づくとすぐに踵を返して私のお腹に抱き着いてくる。ハゲの臭いはきつかったか?
「匂いは分かった?」
ハクは私のお腹で頷く。
「ありがとね。」
私はお礼の意味も込めてハクの頭を撫でるとくすぐったそうに身をよじる。
よし、やることはやった。今日はもう宿で頭と体を休めよう。
「それじゃあ宿に行って休もうか。」
ハクが私を放してくれたので透過魔法で2人の姿を消して宿に向かって歩く。
熊猫亭を出た時は日暮れ前だったが今はもう薄暗い。
今日は色々あって疲れた…。宿に着いたら情報を整理しよう。
宿に着くといつもと変わらぬおばちゃんがいたので声をかけて部屋を取る。
部屋に入ってハクをベッドに座らせると私はもう1つのベッドに横になる。
今日は…、セイさんからの伝言、蜥蜴兄妹に会って、香草、若人、ご飯…、それで…、ハクに、匂いを…覚えてもらって、…ダメだ、眠い…。
私の意識が薄れていく中で頭を撫でられる感覚がある。
…ハクか、まぁ好きにしてくれ…。おやすみ。
もしかしたら労ってくれているのかもしれないが眠気がピークなので申し訳ないが寝かせてもらう。




