02.道
丘の上から周りを見下ろすとそこには草のない道が見えた。道があるということはそれを利用する存在がいるということ。
まさに人里へのヴィクトリーロード。無駄な横文字が頭に浮かぶほどわくわくする。新たな発見の連続はさながら冒険。
大人になり徐々に死んでいく心。それでも捨てきれぬ幼き日に熱中したゲームの中の冒険。それを実際に体感する。
最高だ。心が躍るのを感じる。久しく忘れていた感覚に酔いながら道に近づいていく。
道までたどり着くと考えることは一つ、どちらに行くか。方角はわからない、
太陽の位置から割り出す方法をどこかで見た気がするがその方法がこの世界でも当てはまるか不明なため勘で決めることにする。
風の向くまま気の向くままに。ちなみに丘の上から道の先を見渡したときは人里は見当たらなかったので
かなりの移動が必要なことが想像できる。夜に移動はしたくない。これサバイバルの基本。そのため陽のあるうちに移動する。
勘で決めた方向に。
道に沿って移動しながら身体強化についていろいろ試してみる。
まずは走る。徐々に速度を上げ全力疾走してみる。速い、そして全然疲れない。以前であれば全力疾走なんて数十秒も
続けられなかったが今は疲れる気配がない。逆にちょっと怖い。
次はジャンプ力。走る速度を少し落とし軽めにジャンプ。…明らかに高さ、距離とも人間離れしていた。
そして着地時には痛みはなかった。立ち止まり体に異常がないか調べてみる。特に異常は見られなかったので身体強化最高!!と
深く考えないようにした。
再び走り始める。走り続けてどれほどか経った頃に前方に何かが見えた。まだ豆粒ほどだが散々楽しんでいた自然の景色の中に
現れた見慣れないものだったため気づくことができた。足を止め目を凝らしてみる。どうやら道の横に馬車が止まっており
その近くに人影が見えた。
普通に判別できてしまったが視力もすごいことになっているようだ。
さて、待望の情報源だがいろいろ考えてしまう。襲われることはないか、そもそも言葉は通じるか。
いや、問題あればダッシュで逃げよう、そうしよう。何事も挑戦。とりあえず警戒されないように歩いて近づこう。
見つかりやすいように道の真ん中を歩いて近づく。少しすると人影の一つがこちらに気づき他の人影に話かけていた。
ある程度近づくと人影を判別できた。馬車の上に最初にこちらに気づいた弓を持った男が一人、馬車の横で車輪を調べている
男が一人、そしてその馬車横の男の近くに革っぽい鎧を着け、腰に剣っぽいものを携えた男が一人。
弓も剣も構えてないないことから警戒しつつも敵視はしていないと判断する。
会話できる距離まで近づいた私はそこで気づく馬車上の弓を持った男は頭部に獣耳が生えていた。
これが異世界名物獣人ってやつか!と内心テンションが上がっていたが他人をじろじろ見るのは失礼なため内心で止めておく。
自分がやられて嫌なことは他人にしない。これ大事。
「どうもこんにちは」
まずは挨拶、基本コミュニケーション。
革鎧の男が前に出てくる。年は若く20歳にも満たないように見える。そしてその男は怪訝そうな困惑したような顔で
私の格好を見ながら返事をしてくれた。
「ああ、どうも。君は…一人かい?」
相手の反応から察するにシャツとズボンのみの男がいるのは不自然らしい。あと君呼びということは私も若いようだ。
少し不信がってはいるが軽装に武器も持たない私に脅威は感じられないのだろう。
警戒まではしていないようなのでフレンドリーに接する。
「ええ、一人です。私はカルラ、修行の旅をしています。なにか困りごとならお手伝いしましょうか?」
私は馬車横で車輪を調べている男のほうをちらと見て笑顔で聞いてみる。
ちなみに私の筋書きとしては場所も知らぬ深い森の中でおじいさんに育てられた捨て子。
おじいさんは私にカルラと名付け大切に育てていた。そんな外界を知らずに育てられた私を修行と称して草原に配置。
今に至る。これは目覚めた草原でまどろんでいた時に考えた。
「あ、ああ。俺はカイル、うーん。困っているのは確かだが…」
カイルと名乗った男は考えているようだ。この世界の住人との出会いに浮かれてぐいぐい行き過ぎたか。
初対面の相手に頼めることなどたかが知れている。この世界のことを知らない自分が出しゃばったな、と少し反省。
「よし」
どうやらカイルさんの考えがまとまったようだ
「実は馬車が動かなくなってな。普通なら荷物は置いて街まで行くんだが依頼主がどうしても荷物を
置いていきたくないとのことでな。カルラとかいったな。馬車の修理ができたり…しないか?」
カイルさんの顔を見るに本当に困っているように見えた。
「断言はできませんが私の知識が役に立つかもしれないので馬車を見てみてもいいですか?」
情けは人の為ならず。可能であれば助けたい。
「ああ!少しでも可能性があるのなら頼む。依頼主に話をするから少し待ってくれ。」
カイルさんはそう言って馬車横の車輪の調べている男のほうに向かった。
待っているとふと馬車上の獣耳の男と目が合った。こちらは私を含め周りすべてを警戒しているようだ。
こんな私にも油断しないところはプロっぽいね。SPってこんな感じなのかなと考えながらとりあえず会釈しといた。
この世界に会釈があるかは知らないけれど。
「おーいカルラ、こっちに来てくれ。」
呼ばれたのでそちらに向かう。
「この人が俺の依頼主で荷馬車の持ち主でもあるポルカノさんだ。」
紹介されたので挨拶する。
「よろしくお願いします。少しでもお力になれればと思います。」
ポルカノさんと呼ばれた人は白髪の混じった頭に口ひげがダンディなナイスミドルであった。
「これはご丁寧にどうも。カイルさんにお聞きしましたが馬車を見てくれるそうで、私の都合でここに留まってもらっているので
少しでも力を貸していただければ幸いです。」
大事な荷物なのだろう。あまり期待されても困るができることをやってみよう。
「ではまず馬車を見させていただきます。」
まずはポルカノさんの見ていた車輪を見てみる。ぱっと見たところ車輪自体には破損は見当たらない。
今度はしゃがんで車軸部分を見てみる。こちらも見ただけでは異常は見られなかった。
まぁ素人なんてこんなもんですよ。しかしここは異世界。いろいろ試してみよう。
魔法を試したときに制御は2メートルを超えると不能となった。これは逆に言えば2メートル以内であれば制御できる。
2メートル以内は私の魔力が届くと仮定すると時空間魔法を応用していろいろできるのではないか。
ということでいろいろ試してみる。
アイテムボックスに入れたものはスキャンするように設定したがいきなり馬車を収納するわけにもいかない。
そこで収納せずにスキャンだけする。イメージはスキャナー。対象の端から収納すると同時に取り出す。
情報だけを収納するといったところかな。はたから見ても対象、今回の場合馬車が収納されて消えたりするわけではないので、
中の荷物が落ちたり、馬車上の獣人の方が違和感を覚えたりすることはない。はず。
とりあえずスキャンしてみる。馬車全体は私の制御範囲に収まらないので各方面から確認するついでに馬車をぐるっと周る。
スキャン自体は一瞬で完了した。スキャンした情報を画面に表示。ちなみに画面は自分以外には見えないように設定。
画面に表示されたのは馬車の3Dモデル。動くようにイメージしたが動かない。動かない原因、問題個所をイメージしたところ
車軸の一部分が赤くなった。車軸に異常があると当たりをつけてポルカノさんに聞いてみる。
「ポルカノさん、馬車が動かなくなる前の出来事を教えてもらってもいいですか?」
「あぁ、そうだな、ゴブリンの襲撃があってね。これ自体はそんなに珍しくもなくレイさんに前方のゴブリンを排除してもらって
その隙に馬を走らせて事なきを得たんだがそのあとから馬車の速度が出なくなっていって
ついには動かなくなったという具合かな。」
「レイってのは馬車の上にいる俺の相棒のことだ。あとゴブリン襲撃の前に一度馬車が大きく跳ね上がったな。
おそらくデカい石を踏んじまったんだとは思うが。」
カイルさんが補足してくれる。二人の証言とスキャンした情報から考えると車軸の異常で間違いなさそうだ。
となると車軸を交換すれば動くかもしれない。交換に関してはスキャンの応用でいける。
あとは交換用の新しい車軸か。スキャン時の情報から材質は木材。細かな柔性、剛性、強度などの数値はわからないので
現在の車軸に似たものを用意する。木さえあればアイテムボックス内での加工でいけるんじゃないかという根拠のない考えで
やってみる。となると道から外れて奥に見える森に行って木を手に入れたい。しかしいきなり修理に木が必要なので
ちょっと取ってきますと言ったらどうなるだろうか。うーん、盗賊を警戒するなら獲物見つけたやつが増援呼びに行ったぞと
思われるのか?というかこの世界盗賊いるのか?さっきの話からゴブリンは存在する。となると森までついてくるか?
いや、依頼主と言っていたから護衛依頼と想像できる。片方だけでも依頼主から離れることはないだろう。
あぁー!!考えるのめんどくせぇー!!
「修理に木が必要なのでちょっと取ってきます。」
私は考えるのをやめた。
「えっ!?、なぜ動かないのかわかったの?」
ポルカノさんは驚いている。
「いえ、確実かはわかりませんので試してみようかと思います。もちろん馬車を傷つけない範囲でですが」
「そ、そうですか。しかしここら辺は比較的危険はないとはいえそれは私の用に冒険者の護衛がいての話です。
ましては君のような若者を一人で行動させるのは看過できません。なのでカイルさんに同行してもらいましょう。」
「む、しかし俺はポルカノさんの護衛ですので。それは…」
カイルさんは難色を示す。
「心配無用です。これでも私は成人していますので自分の身は自分で守ります。」
この世界の成人が何歳かは知らないが中身はいい歳なので間違ってはいないだろう。
「そうなのですね。相手を見た目で判断するとは人として商人として浅はかでした。申し訳ございません。」
ポルカノさんめっちゃ礼儀正しい。そして自分の適当な発言で謝らせてしまった。反省。
「いえいえ、お気になさらず。紛らわしい見た目なのは自覚しておりますので」
この世界に来て自分の顔をまだ見ていないが、まぁいいだろう。
「それともし私が帰らぬ間に移動することとなっても待つ必要はありませんので、その場合もお気になさらず。」
何があるかわからないので一応言っておく。
「わかりました。お気遣い感謝します。カルラさん、どうかお気を付けて。」
私は笑顔でうなずいて返事とする。ポルカノさんいちいちダンディだな。
「カルラよ、さっきは悪いが依頼主に何かあっては問題なんだ。わかってくれ。」
カインさんが少しバツが悪そうに話してくる。この人もなんだかんだで律儀な人だ。さっき出会った若造に真摯に対応してくれる。
「カインさん本当に気にしないでください。依頼の優先度は何となくわかりますから。
それに木を手に入れたらすぐに戻ってきますよ。」
「そうか、そう言ってもらえると助かる。ちなみに丸腰のようだが武器は持っていないのか。」
「ないですね。落としました。」
ドジっ子設定でいけるか?
「マジか、よく生きてたな…」
引かれた。冗談は通じないみたいだ。
「そういうことならこれを持っていけ。何もないよりかはマシだろう。」
そう言うとカイルさんは腰のナイフを外して差し出してくれた。
ここで、マジでいらないんで遠慮しときます。とは言わない。空気を読む。時には大事。マジでいらんけど。
「ありがとうございます。必ずお返しします。」
しかしこの相手を気遣う心意気。そこに温かいものを感じる。
待てよ、気遣ってくる相手を気遣う自分がいる。優しい世界。しかしマジで荷物邪魔と思ってしまう自分もいる。
世界平和には程遠いな。無念無念。
少し脱線したが頭を切り替える。
「それでは、行ってきます。」
私はカイルさん、ポルカノさん、レイさんそれぞれに軽く頭を下げてから速足で森に向かった。
…
「カイル、信用しすぎだ。もっと警戒しろ。」
レイが馬車上からカイルに話しかける。
「まぁお前がそういうのもわかる、わかるぞ、あんな軽装だしな。だが盗賊にしては堂々としていてこちらの油断を
誘っている感じではない。魔物にしては受け答えがはっきりしている。あとは、そうだな、俺の勘が問題ないと言っている。
…ていうのじゃダメか?」
「いや、考えているならいい。お前の勘はよく当たるしな。」
「そうだろ、そうだろ」
カイルは得意げな顔をする。
「だが、渡したナイフが戻ってこなかったら自腹だぞ。ポルカノさんに請求するなよ。」
「わかってるよ!そんなダサいことしねぇよ!」
二人は軽口を言い、ポルカノは微笑みながらそれを見守りカルラの帰りを待った。
…




