01.目覚め
「…いい天気だなー」
気が付くと私は快晴の空の下、草原に寝転がっていた。
「…」
ここはどこだ、なぜここにいるのかなど考える必要がある気がするが
そんなことはどうでもよくなるほどめちゃくちゃ気持ちいい。
ぽかぽかな陽気、爽やかな風、柔らかな草の布団、何もしないという贅沢。
「…」
まどろみを全身で感じながらも頭では現状を整理する。
(この状況、異世界転生か?それともドッキリの可能性…は、ないな。芸能人でもないし。)
自身の希望的願望もあり、異世界転生の方向で話を進める。
これが異世界転生だとしたら魔法的なパワーがあるのではないかと考える。
自身の体の中を意識してみるとなにやら心臓付近に違和感を感じる。
ほんの些細な違和感だが確かにある。普段なら病気を疑うが物語脳なので
不思議パワーとして考える。私はゲームなどでは物語内の”そういったもの”を
いったんありのまま受け入れる。現実的にはとか、科学的にとかは考えない。
そのほうが没入して楽しめるからだ。そして失敗したら改める、トライアンドエラーだな。
などと考えながらも心臓付近の違和感を意識して動かせるか試してみる。
動かすというより流れる、広げる?ような感覚。うまく言い表せないがゆっくりと体の中を巡るような。
(これはあれだ熱い湯豆腐を飲み込んだような、いや、これは表現がチープか?まぁどうでもいいか。)
雑念も混じるがそれはそれ、もしかしたらモンスター的なものに襲われるかもしれないが
急いては事を仕損じる精神である。
そんなまどろみと思考と違和感の確認の最中ではあるが”ガサガサッ”と近くで音がした。
体を起こしながら音のしたほうに目を向けてみる。今まで目をつむっていたが改めてみると小さな茂みがところどころあり、
その一つから音がしたようだ。私はその茂みを注視する。するとウサギのような生物と目が合った。
ウサギのようなと表現したのは頭に鋭利な角を持ち、体長40センチほどの大きさだったからだ。
その生物は姿がばれたのが分かったのかシャー!と鳴きながらこちらに突進してきた。
私はあの角で刺されたら死ぬななどと考えながらもその生物の動きを目で追っていた。
いや目で追えていたと言ったほうが正しかった。私は年を重ね、特に動体視力を使うような生活もしていなかったため、
目はいいほうではなかったはずだ。そんな私が野生生物の攻撃を目で追いながらも頭では別のことを考えている。
これが転生パワーかもしくは体の中の違和感の作用かはわからない。わからないがふと一つ思い出したことがある。
「俺死んだんだった」
そうつぶやきながらも突進してくるウサギのような生物の後ろ首をつかむ。当然ウサギのような生物は暴れるが
私の手は振りほどかれない。どうやら動体視力に続き瞬発力や握力も強くなっているらしい。
私は声をかける。
「言葉は通じますか?」
いかに野生動物っぽくとも相手を見た目で判断してはいけない。意思疎通ができるか否かは試してみなければわからない。
ウサギのような生物、いや角ウサギと呼ぼう。角ウサギはシャー!と声を発しながら私の手の中で暴れ続けている。
ふと、自分より大きな生物に首根っこつかまれた状態で意思疎通もクソもあるか?と頭によぎった。
恐怖や怒り時に冷静な判断は難しい。私自身小心者のため何度も経験がある。いかんいかん、自分を戒めよう。
私は角ウサギをそっと地面に降ろす。私に敵意はないと行動で示すのだ。
角ウサギは地面に降ろされるや否や再び突進してきた。速攻攻撃である。
私も再び首根っこをつかむ。
「どうかやめてください、敵対したくありません」
言葉が通じないことを考慮して暴れる角ウサギの目を見てニッコリ笑ってみる。…暴れる力が強くなった。
どうやら分かり合えないようだ。最後と思いながら再び角ウサギを地面に降ろす。激高した角ウサギは再度突進してくる。
私は角ウサギの首根っこをつかみ反対の手で頭をつかんで首の骨をねじるようにして折った。
角ウサギはだらんとして絶命した。
「南無阿弥陀仏、どうか安らかに」
声に出したがこれは自分の罪を軽減したいだけの自己満足なのかもしれないなと考え心が少しブルーになった。
というか信心深くない自分が都合のいい時にだけ神や仏に頼るのはよくないなと考え重ねてブルーになった。
異世界のお約束、命の価値が軽いを体験したがそういえば元の世界でも自分が恵まれていて命の価値について
考えていなかっただけだなどと思考が散らかってきたため、頭を振って気持ちを切り替える。
もっとシンプルに考える。命に感謝を。
などと考えてはいたが角ウサギを簡単に対処できていたことにいまさらながら疑問に思う。
明らかに元の自分とは異なる。一旦角ウサギは横に降ろし体の中の違和感に集中してみる。
心臓付近にあった違和感がなくなっており全身に巡っている感覚がある。
数々の漫画や小説を読んできた私(自称)が仮定してみる。全身に巡っているものが魔力、その魔力で身体を強化し、
角ウサギに対処できた。とすると身体強化の検証をしたい。
辺りを見回すとこぶし大の石が落ちている。私をその石を拾い試しに軽く小突いてみる。
私の手に痛みはなく石は半分に割れていた。
やばい。
とりあえず石を置いて次は魔法を試してみる。
魔力を意識し実行したい魔法をイメージする。最初を安全性を考慮して水。球体、手の平の上に浮く、サイズはピンポン玉ほど。
出た。
形を変えれるか試してみる。球体から魚へ、魚から猫へ。
できた。
動かしてみる。手足などの細かな部分はぎこちない。慣れが必要なようだ。
今度は体から放してコントロールできるかどうかを試す。
1~2メートルであれば自分のイメージ通り動かせるが2メートルを超えると動かしづらくなった後制御できなくなるようだ。
火、土、風も試してみる。
出た。
だいたい水と同じような感じだった。
拍子抜けするほど簡単でイメージするだけで発動できた。これは自分だけなのかそれともこの世界の標準なのか。
まぁ考えても仕方ないので問題が起きてから考えよう。
あとは時空間魔法、いろいろやってみたいことはあるが今は角ウサギ保存のためアイテムボックス的なものが欲しい。
イメージは箱、入れたものに合わせてサイズを拡張、対象をスキャン、判別して同じものは同じ箱へ入れる。
異なる場合は新たな箱へ。対象の時間を停止。生物は不可。対象の加工、調合、調理等可。
UIとして保存したものをリスト化して表示。ソート可。フォルダ分け可。
とりあえずはこんなところで気になったら都度修正しよう。早速角ウサギを保存してみる。
収納方法は対象に触れて収納をイメージ。手に取った角ウサギは瞬く間に消えた。
リストをイメージすると目の前に現れそこには「角ウサギ × 1」と表示されていた。
一通りの現状確認と問題解決はできたので今後について考えてみる。
目標は何にも縛られずのんびり楽しく生きること。そのためにはこの世界の情報収集と衣食住の確保が必要。
となると移動するか。陽は真上、周りは草原、遠くには森や丘が見える。この場合は丘のほうに行き少しでも高いところから
周りを見てみよう。
丘を目指して歩き始める。角ウサギのような襲ってくる存在がいるかもしれないがびくびくしていてもしょうがないので
楽観的思考で景色を楽しみながら歩く。見渡す限り自然の緑、透き通った青い空。田舎の風景を思い出す。
都会と田舎、住むならどっち論争があるが私は田舎派である。どちらもいい点悪い点があるため僅差ではあるのだが。
そんな他愛のないことを考えているとふと自分自身についても考え始める。
服装はシャツとズボン、あとは簡易な靴。科学繊維の感触を覚えている自分にはどれも不思議な着け心地だが違和感はない。
それよりも一番の違和感はヒゲがなくなっていることだ。私のそれなりの年齢だったためヒゲを蓄えていたはずだが
すっかりなくなっている。これはお約束の若返っているってやつか?。心なしか肌にハリがあり体もがっちりしている。
この世界で目覚めた理由はわからないが健康な体は最高だ。これは体に不調を来した経験がなければ実感できなかっただろう。
景色を楽しみながら体が軽く動くことに心を弾ませて歩いていきほどなくして丘にたどり着く。




