03.道2
速足で森に向かい、ほどなくして到着した。
怪しまれるかうだうだ悩んだが特に何事もなかった。ナイフまで貸してもらったし。
人にやさしくされると世の中捨てたもんじゃないとしみじみ思ってしまう。つくづく単純な人間だと思うが、
そんな自分が好きである。
なくさないようにナイフをアイテムボックスに収納する。ナイフを渡されたとき断りたかったのは
身に着ける類のものが嫌いだからである。指輪やネックレス、時計など。それらとナイフを同一と考えるのも
問題あるかもしれないが嫌いなものはでしょうがない。
それはさておき人を待たせているので素早く行動する。
とにかく木を伐採し収納、加工まで行う。自然に配慮して広範囲からバランスよく、数は将来何かに
使用するかもしれないので十本ほど頂戴する。
伐採は風魔法で行う。草原で試したときは威力の確認はできていなかったので少し試してみる。
まずは魔法の制御下2メートル以内での場合、直径およそ30センチの木に対して風の刃を横一線する。
何の抵抗もない。木を押してみるとゆっくりと傾き始めたので収納する。うまくいった。
次は5メートル先にある木に対して風の刃を飛ばしてみる。カッと音がして木の皮が切れただけだった。
うーん、威力が低すぎる…。魔力量か何なのかわからないが今後の課題だな。
今はできることで事を進めよう。
私は密集しているところから木を集めていく。
途中木苺らしきものが自生しているのを見つけた。植物は詳しくないが確かそのままでも食べられて
ジャムにするとおいしいとかなんとか。とりあえず実だけでなく根っこごと収納しておく。時間があるときに
試したいことがあるからだ。
その後大した時間もかからずに木を集め終わった。
次は加工だ。切った木をそのままは使えないと聞いた記憶があるので聞きかじった知識を試してみる。
アイテムボックスは時間停止ができるので逆に時間を進めることもできる。…はず。
まずは収納した木一本の皮を剥ぎ板状にカット、次に乾燥のために時間を進める。進める時間は1年ぐらい。
あとはスキャンした情報を基に車軸の形に加工。元の世界のやり方とは違うだろうがそれはそれ。
アイテムボックス内での魔法による加工はこんなものだろう。
アイテムのリストには「車軸 × 1」と表示された。
最後に確認としてスキャンした馬車の情報の車軸部分を新たに作成した車軸と交換して動きを
シミュレーションしてみる。以前は動かず車軸部分が赤くなっていたが今度は色が変わらずスムーズに
動いていた。
実際はどうなるかわからないが自分の魔法を信じよう。素人だし。あの人たちもそこまで期待していない
だろう。これぐらいの心の余裕が人生を楽しく生きるコツだよな。
自分を肯定しつつやることは終わったのでそろそろ戻ることにする。
アイテムボックスからナイフを取り出して、…しまった。森から戻ってきた男が車軸を持って戻ってきたら
どう思われるだろうか。不自然だ。理想は気づかれずに車軸を交換して小さな石が挟まって悪さしていた
ことにして馬車を動くようにすること。手の内を明かさない、これは大前提。
いや、そもそも修理に木が必要と言ってしまったな。うーん…、石が挟まっていた方面で辻褄を合わせると
して、てこの原理で馬車を持ち上げるのに木を使って車軸部分を確認しつつスキャンの応用で対応する。
これでいこう。最悪怪しまれても馬車が動けばそちらに意識がいくだろう。
そうと決まればアリバイ用の手ごろな石をアイテムボックスに収納して、それなりの太さ、長さの木の棒3本
を肩に担いで馬車へと戻る。
森を抜けると遠くに馬車が見えた。
目を凝らしてみると馬車上のレイさんが弓を引いているように見える。
もう少し近づくとレイさんとカイルさんが戦っているのが見えた。ポルカノさんの姿が見えないのは
馬車内に隠れているのだろう。これは他人の戦いを見れる絶好のチャンス。
ある程度近くで見学したい、しかし隠れて近づくとレイさんに矢を撃たれるかもしれない。紛らわしい行動は
慎むべきだ。そう考えると今の距離が限度となる。しばらくここから見学することにした。
ここから見て取れるのはレイさんが弓で遠くの何かを攻撃し、カイルさんが近づく何かに剣で対応している
ようだ。魔法のようなものは見えない。使っていたとしても身体強化か?
確認できたのは派手な動きはなく堅実に対応していたということだけだった。
しばらくすると動きが収まった。
その後も警戒しているようなので少し待つ。
そろそろいいかなと思い手を振り声をかけながら近づいていく。
「おーい、ただいま戻りましたー」
まずレイさんが気づきカイルさんに何か言ったみたいだ。カイルさんがこちらを見つけ手を上げる。
ポルカノさんも馬車の後ろから顔を出して周りを見ていた。
3人に合流する。馬車の周りにはくすんだ緑色の肌をした生物の死骸が複数見えた。
「戻りました。戦っていたようですが大丈夫でしたか?」
私は声をかける。
「ああ、ゴブリン程度問題ない。前に駆け抜けたゴブリンが追って来たんだろう。」
カイルさんが何事もなかったように答える。これがゴブリンというやつか。覚えておこう。
「そっちはどうだ。必要なものはあったか?」
「はい、手ごろな木があったのでこれで試してみます。そういえばこちらはお返しします。
ありがとうございました。」
借りていたナイフを渡すとカイルさんは状態を確認してから腰に戻す。
「何事もなかったようだな。」
見ただけでわかるようだ。
「おかえりなさい。ご無事でなりよりです。」
ポルカノさんが馬車から降りて声をかけてくれる。この人はいちいち優しい。悪い意味ではなく。
「こちらは問題ありませんでした。ゴブリンが来ていたとのことですがポルカノさんは大丈夫でしたか?」
「ははは、私は隠れていただけですよ。カイルさん達にお任せしたので怪我一つもありません。」
それはよかった。いい人に不幸があると寝覚めが悪いからな。話していて思ったが3人の間には信頼関係が
見られる。付き合いが長いのかもしれない。
「何事もなくてよかったです。木を手に入れれたので早速修理を試してみますね。それともゴブリンの
処理か手伝ったほうがいいですか?」
一応聞いてみる。処理手順など知れれば儲けもんだ。
「いや大丈夫だ。数もそこまで多くないからカルラは修理を優先してくれ。」
カイルさんに言われる。見たところ10数匹くらいか。この世界ではゴブリン10数匹は多くないらしい。
「わかりました。」
それでは修理に取り掛かる。
それっぽく車輪の横に木を置き、それっぽくもう一本の木で少し浮かせる。
馬車の下側に隠れるようにしてスキャンの要領で車軸を新しいものに置き換える。
全体を確認するふりをしながらもう一度スキャンする。手に入れた情報を画面に映し動きを確認してみると
問題なく動いていた。
よし、考えうる限りのことはやった。失敗したらドンマイだな。
「修理が終わりました。確認をお願いします。」
ポルカノさんに伝える。
「おお、早いですな。では動かしてみましょう。」
ポルカノさんは御者台に座り手綱を操る。すると馬がゆっくり動きそれに合わせて馬車も動き出した。
「動いた!動きましたよ!」
ポルカノさんは嬉しそうだ。その後すぐに馬車を止めて降りてきた。そして頭を下げる。
「ありがとうございます!実は正直に言うとあまり期待はしておりませんでした。悔しいが日暮れが
近づいたら荷物はあきらめようと、そう思っておりました。しかしあなたは見ず知らずの
私を助けてくれた。本当にありがとうございます。そして疑ってしまい申し訳ありませんでした。」
言わなくてもいいことを言葉にする正直な人だと思った。あとこちらも情報欲しさに近づいたので
綺麗な感情をぶつけられると困る。
「いえいえ、持っていた知識がたまたま役に立っただけのことですから。それに目的地まで動き続ける保証は
ありません。無事に到着できることを祈りましょう。」
「そうですね、失礼しました。気持ちが昂りすぎました。それでは街に到着した暁には最大限の感謝とお礼を
お約束します。」
やったぜ人助け万歳。
「そういえば我々はオツサの街を目指しているのですがカルラさんも同じ目的地でしたでしょうか?」
オツサの街は知らないが人のいる場所に行きたかったので同意する。
「そうですね、街を目指しています。ちなみに教えてほしいのですが私は修行の旅をしていて
荷物は何もないのです。街に入るのに必要なものがあったりしますか?」
ポルカノさんは少し驚いた顔をしている。
「そうなのですか!?何も持たずに旅とは私には考えられません。そんな過酷な旅をなさっているなんて…。
わかりました。街に入るには身分証が必要で、持っていない場合は一時金を支払って入り、街で身分証を
作って返金してもらう仕組みとなっています。今回はお礼もかねて一時金はこちらで支払わせていただきます
のでカルラさんは街で身分証を作成していただければと思います。」
人に頼られるのは好きだが人に頼るのはなんか好きじゃない。が、選べる立場ではないのでありがたく提案を
受けさせていただく。。
「お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます。」
「ではみなさん、出発いたしましょう。カルラさんも馬車にお入りください。」
ポルカノさんは御者台、レイさんはその横につき、カイルさんと私は馬車の後ろに入った。
馬車が動き始めるとカイルさんが話しかけてくる。
「馬車を修理してくれて助かったよ。依頼主の安全が第一だがポルカノさんとは長い付き合いでな。
要望にはできるだけ答えてやりたかったんだ。」
依頼主と受注者というだけではないの関係性、いいね。
「よければ教えてほしいんだが馬車が動かなかった原因は何だったんだ?あと修理はすぐに終わったようだが
簡単にできるものなのか?」
おっと、それっぽく答えなければ。
「実は正確に原因がわかっていたわけではないんです。車輪が動かないように見えたので何かが
挟まっているか噛み合わせに問題があるのではと思い少し浮かせて落としてみて振動を与えてみたら
運よく動いた次第です。」
「そうだったのか。なんにせよ助かったのは事実だ。それに運のよさってのは冒険者に必要な要素だと
俺は思っている。興味があるなら冒険者になってもいいかもな。」
自由気ままな冒険者。実際の冒険者がどんなものかはわからないが興味は津々である。
「前向きに考えておきます。私からも質問してもいいですか?」
「おう、なんでも聞いてくれ。」
自然な会話の中で情報収集をせねば。
「ポルカノさんが街に入る際の一時金を払ってくださるとおっしゃっているのですがこれは実際いくら
くらいなのでしょうか。」
「一時金か、たしか銀貨3枚だな。大金だが身分証を作れば返金される。まぁそれだけ信用されてるって
ことだな。」
銀貨3枚は大金と。
「ありがとうございます。勉強になります。」
他は何を聞こう。自分の目標としては安定した生活なのでそれを踏まえる。
基本的な衣食住のためにはなんにせよ先立つものがいる。
「さっき言っていたことなのですが、冒険者になるのに条件はあるのでしょうか?」
「おっ、興味あるか。条件ってほどのものはないが適性診断があるな。これは冒険者を測るものだが
ごく稀に弾かれるやつがいる。まぁ俺が見た限りカルラは問題ないだろ。」
特に条件がないのは助かるな。
「冒険者になるんだったらギルドカードが身分証にもなるぞ。街に着いたらギルドに報告に行くから
一緒に行くか?」
「ぜひお願いします。」
いつになったらのんびりできるのかわからないがやることを一つずつ片づけていこう。
カイルさんと話しながら馬車に揺られていると前方のポルカノさんが声をかけてきた。
「街が見えてきましたよ。」
そう言われて前方を見てみると遠くのほうに街が見えた。あれがオツサの街か。
日は傾き空は夕暮れ、日没までには街に着けるだろうとぼんやりと頭に浮かんだ。




