17.この子と
朝の日差しを感じて目が覚める。マイルーム以外で目覚めるのも久しぶりな気がする。
横を見るとハクがこちらのベッドに移動してきており服を掴んで寝ている。
寝る子は育つ。ヨシ!
服を掴んでいる手を緩めようとするとハクがむにゃむにゃと目を覚ます。
「おはよう、よく寝れた?」
声をかけるとハクは周りを確認してから私を見て安心したようにお腹に抱き着いてくる。
…やっぱり親が必要だな、どうにか探せないかオツサの街に着いたらギルドにでも聞いてみるか。
ハクに今日の予定を伝える。
「今日はこの町を出てオツサの街ってところに向かう予定だ。急ぐからハクを抱えての移動になるけどいいかな?」
尋ねると私のお腹で頷く。
「よし、じゃあ準備しようか。」
ハクは素直にベッドから降りる。
準備と言っても荷物はないのだが。
私は自分とハクを魔法できれいにし体をほぐす。首や肩を回しアキレス腱を伸ばす。するとハクも隣で真似をして体をほぐし始める。
かわいいな。
後は魔力循環をして準備は完了。
宿を出て門のある広場の方に向かう。普段は気が向いた時にご飯を食べるので朝は食べないことが多いのだがハクがいるので聞いてみる。
「今はお腹すいてる?」
私が聞くとハクのお腹が鳴る。
育ち盛り、ヨシ!
「じゃあ屋台で食べるものを買おうか、明日以降の分も買うから気になるものがあれば教えてね。」
頷いてくれたので広場で屋台を回る。
魚の塩焼きや肉串はアイテムボックス内の材料で作れるが屋台で買ってその場で食べるというのも経験だ。なのでハクが食べたいといえば買うつもりである。甘やかし過ぎか?
孫を甘やかすおじいさんの気持ちを考えているとハクが屋台の前で止まる。
「これを買う?」
聞くと大きく頷く。
そこは魚サンドの屋台。最初に会ったときに食べさせたのが美味しかったのかと思い10個ほど買い1つはハクに渡す。
ハクはすぐに魚サンドを頬張り笑顔をこぼす。
その後屋台を回るがハクが興味を示す屋台はなかったので広場で開いている市場でニンジン、ジャガイモ、タマネギ、ピーマンを買う。アイテムボックスに入っているのは肉ばかりなのでハクの栄養を考えてだ。この異世界での前世の野菜と似たものを選んだが熊猫亭で食べた野菜は前世と変わらなかったのでまぁ大丈夫だろう。一応自身のコピーで安全は確認する。
必要なものは買い終え、ハクも食べ終わっていたので町を出る。
「さて、今朝言った通りハクを抱えて走るがおんぶしていいかな?」
ハクが頷いたので背を向けてしゃがむとしがみついてくれる。
「よし、それじゃあ行くぞ。疲れたり気分が悪くなったりしたら遠慮なく言ってね。」
背中での動きを肯定と捉えて走り出す。最初はゆっくり。周りに人がいなくなったので透過魔法をかけてスピードを上げる。ちなみに透過魔法はハクにもかけて互いには透過しないように設定してある。
走る。ひたすらに走る。景色が矢のように流れていく。
ふとハクは大丈夫かと首を回して見てみると目を輝かせて速さを楽しんでいた。
あれかな?、犬耳だし早く走るのには慣れているのかな?
ハクに問題はなさそうなのでそのまま走り続ける。
そうして走り続けるとオツサの街が見えてくる。
アンシーの町を出たのが朝の早い時間帯だったはずだが空の太陽はまだ真上ですらない。うわっ…私の足、早すぎ…?
スピードを緩め透過魔法を解除する。
ハクを降ろして歩いて街に向かいながら隣に話しかける。
「あれがオツサの街だ。私はあの街を拠点に活動をしているんだ。」
ハクは周りの景色を見るのに忙しそうだが犬耳はこちらを向いているので話を続ける。
「これからの予定としてはまずは依頼人に報告して、その後冒険者ギルドで私の依頼達成報告とハクの両親を探すのに手立てがないか相談する。それが終わったら先に宿を数日分取って次にハクの衣料品を買いに行く。お昼ご飯は途中で屋台を見てみよう。…ハクはそれでいい?」
確認も兼ねて聞いてみるとハクはこちらを見て頷く。
まぁこの子は賢いし大丈夫でしょう。
程なくして門に着きハクの事を尋ねられたがアンシーの町の門番に伝えた話とすでに近隣に情報を回してもらっている話をしたら少し確認した後通してくれた。
街に入ると相変わらずハクはきょろきょろと周りを見ている。
まぁ私の服の裾を握っているからはぐれることはないだろう。色々なものに興味を持つことは子どもの感受性を育むのにいいとかうんたらかんたらなので自由にさせる。
とりあえず依頼人の元に向かっているがなんだか道行く人に見られている気がする。私は他人の目線を気にする方なのでいい気分ではない。…いや、これはハクを先に見ているな。ハクを見て私を見て、と。なんだ?、人間が獣人の子どもを連れているのは珍しいのか?。
まぁ今は我慢する。もしかしたらハクを人目に晒すことで両親の発見に繋がるのでは考えたからだ。もちろんトラブルも考えたがそん時は私が対処するので大丈夫だろう。…この考えはフラグかもしれない。
依頼人の元に着きサイン入りの受領書を渡して報告する。受領書は問題なかったのでこれで依頼は達成だ。手続きも完了し依頼人に別れを告げてギルドに向かう。
ギルドに着くと昼近くということもあり冒険者は少なかった。並ぶことなく窓口で獣人の職員さんに話しかける。
「こんにちは、依頼の達成報告と迷子の両親探しについて相談したくて来ました。」
「かしこまりました。まずは依頼達成についてですね、ギルドカードをお預かりいたします。」
そうだった。
私はギルドカードを渡す。
「はい、…はい、これで依頼は完了です。こちらが報酬となります。」
報酬は大銅貨5枚。懐に仕舞う。
「続いてご相談とのことでしたが詳しい話をお聞かせ願えますか?」
私は事情を説明する。アンシーの町付近の森でハクを見つけたこと、アンシーの町で近隣に情報を回してもらって反応を待っていること、両親が迎えに来るまで私が預かっていること。他所からの反応を待つだけでなくこちらで出来ることはないかなど。
一通り説明が終わると職員の人が何かを確認した後口を開く。
「確かにアンシーの街から情報が共有されてますね。普通は待つだけなのですが考えられる方法としては同じ種族でコミュニティを作ることがありますので狼人族の方に話を聞いてそこからご両親に辿り着くという方法があります。ただ…」
ただ?
「そちらの子を見る限り狼人族の中でも珍しい白狼かと思います。白狼の方々はその希少さから狙われやすく各地を転々とすることがほとんどです。なので知っている人がいたとしてもご両親と連絡を取るのはだいぶ時間がかかるかと思われます。」
マジか、てかハクって狼でしかも珍しい種族なのか。そしてそれで捕まっていたと。…となると人前に出したのは不味かったか
「それとアンシーの町付近の森で発見したとおっしゃられましたが、あそこは野盗の被害報告もありましたのでもしかしたら遠方から攫われた可能性もあります。その場合時間はもっとかかりますし知っている人を探すのも難しくなると思います。」
うーん、そうか…。だがまぁ悲観的には考えない。両親がすぐに見つかる可能性だってゼロではないからね。
「分かりました。それではギルドで信頼できる狼人族の方に声をかけてもらうことはできますか?」
「はい、可能です。ですがそうするとカルラさんに会いたいとおっしゃる方も出てきますがよろしいですか?」
致し方ない、これもハクの為だ。
「はい、ギルドの信頼する方なら大丈夫です。」
「かしこまりました。ではそのようにいたします。最後にお伝えしておきますが先ほど言ったように白狼は希少な種族ですので悪い考えを持った人も近づいて来ます。なのでその子から目を離さないようにしてください。ギルドでも力になれない相手はおりますので。」
職員の人は心配そうにハクを見ている。
この人はいい人そうだな。
「色々とありがとうございます。ちなみに白狼の人が狙われる理由とは何でしょうか?」
「主な理由としては2つあり、1つはその白い毛が美しく、一部の富裕層が高値で取引するため。もう1つは白狼の方は例外なく攻撃用の氷魔法が使えるため戦力として欲しがる人間や組織がいるからです。どちらも騙したり、無理やり攫ったりと違法なことがほとんどですので注意が必要です。」
はぁ、嫌だねぇ人を人とも思わない悪党ってのは。
「重ねてありがとうございます。それではギルドからの情報を待ちつつ個人でも白狼の方を知っている人がいないか慎重に探してみます。遠出する場合はギルドにも伝えますのでどうぞよろしくお願いします。」
私が頭を下げるとハクも真似をする。それを見て職員さんも顔が綻ぶ。
「かしこまりました。どうかお気をつけて。」
職員さんも頭を下げて話は終わる。
ギルドを出る前にしゃがんでハクに真面目な話をする。
「ハク、どうやらハクは珍しい人間みたいで悪い人が連れて行ってしまうことがあるみたいなんだ、だからもし知らない人に話しかけられたり触られたりしたら大きな声で助けを呼んでほしいんだ。」
出来るだけ分かりやすい言葉で伝える。
ハクは少し考えた後体を震わせて小さく頷く。
今の私の言葉から理解したのだろう。やっぱすごいな、この子。
何か安心させるような言葉をかけたいのだがここで思いつかないのが私という人間だ。なので分かってくれることを祈って事実だけ伝える。
「これからの事だけど私が絶対に守るとは言えない。ハクを一番大切に思っていた両親ですらハクが攫われるのを防げなかったからだ。だからハクには自分の身を守れるように魔法を使えるようになってほしいんだ。襲われても返り討ちに出来るように、攫われても逃げられるように、そして私がいなくても生きていけるように。」
私の言葉にハクの目に涙が浮かぶ。
分かる、こんな小さい子に厳しいことを言っているのは分かる。だがここは異世界。子どもを無条件で守る大人ばかりではないのだ。
私は真剣な眼差しでハクを見つめる。
私自身先の事は分からない。だが都合よく氷魔法使いと知り合いになったのとランクの高い魔法使いの知り合いもいるのでハクが自分の身を守れるようにすることはできると思う。後は本人の考え方次第だ。別に従わなくてもいいし私の下から逃げてもいい。
ハクは私の服の裾でごしごしと涙を拭き真剣な目で私を見返し頷く。
何しとんねん。
話はまとまったのでギルドを出て広場の方に歩きながら考える。
セイさんがオツサの街に来たら相談するとして、アローザさんはまだ街にいるか?。ハクに興味を示しそうだし最悪私の魔法を交渉材料にしてもいいがいないとなるとどうにかせねば。ギルドで伝言でも残しておけばよかったが先にハクの衣料品を揃えたいという思いもある。今は私のマントを紐で何となく縛って長さを調整して羽織っているがその下はボロボロの服だし、髪が目立つからフード付きの上着も欲しい。後は寝泊りするところだが狙われるのなら宿屋はダメか?。出入りを透過魔法で隠したとしても突き止められるか?、だとしたらもっと安全なところ…、私が依頼に出てハクを1人にすることもあるだろうし…、いや依頼に連れていく?、戦闘経験を積ませる?。…うーん。
考えがまとまらないので1つずつこなしていくことにする。まずはハクの衣料品からだ。
「ハク、今日の予定で宿を探すと言ったけど先に買い物に行こう。服や上着を買うつもりだけどフードで耳や頭を隠すことに抵抗はある?」
ハクは少し考えた後首を横に振る。
抵抗はないと、オッケー。
ハクの意志も確認できたのでお店に向かう。いつものポルカノさんのところだ。ついでに売れるものがあれば売ろう。
少し歩いてポルカノさんのお店に着いたので声をかける。
「こんにちは、ポルカノさんはいらっしゃいますか。」
「少々お待ちくださーい。」
奥からの返事が聞こえたので待つ。あの声はネズミの店員さんかな。
少しすると予想した通りネズミの店員さんが出てくる。
「あぁどうもカルラさん、お久しぶりです。ポルカノさんなら会長室におりますのでご案内しますね。」
「ありがとうございます。」
お礼を言って付いて行く。
店員さんが会長室の扉をノックして中に声をかける。
「ポルカノさん、カルラさんがお見えになりました。今お時間よろしいでしょうか。」
「どうぞ、入ってもらってください。」
店員さんに扉を開けてもらい中に通される。
「お久しぶりですカルラさん、お元気でしたか。」
笑顔のポルカノさんに迎えられる。
「はい、元気にのんびりと冒険者を続けてます。」
「それはよかった。こちらは細々とやっておりましたが取引先も増えてきたので新たに人員を増やそうと考えてましてね。頑張り時ってやつですよ。」
ほう、それは喜ばしいことだ。知り合いが順調だとこちらもうれしくなる。
「それで本日はいかがなさいましたかな?、そちらの子は初めて見ますが。」
ポルカノさんはハクに目線を向ける。ハクはポルカノさんの人当たりのよい顔を見返して手を小さく振る。ポルカノさんも手を振り返す。
やべ、どっちもかわいい。
お互いに好印象のようだ。
「この子はハク、訳があって両親が見つかるまで私が預かっています。今日はこの子の服やフード付きの上着などの衣料品を購入したいと思って伺いました。後はまた魔物の素材があるので買い取ってもらえればという感じです。」
「いやはや、白狼の子どもとはまた珍しいですな。ふむ、深くは詮索しませんが助けが必要とあれば私が出来ることはいたしましょう。それでは衣料品でしたね。一般的な下着や服、フード付きのマントは在庫がありますがその子のサイズに合わせたものとなると以前のように衣料品店を紹介いたしますがいかがでしょうか。」
うん、それに関しては子どもはすぐに成長するし出来るだけ人目に付くのは止めておきたいのでこの店にあるものを買わせてもらおう。
「この店の物を買わせてください。」
「かしこまりました、では少々お待ちください。」
ポルカノさんが席を外したのでハクに話しかける。
「そういえば勝手に話しを進めてしまったけどその元々着ていた服に愛着があったりする?」
ハクは首を横に振る。
「そっか、ならよかった。そのぶかぶかなマントもサイズの合ったものに変えようね。」
私がそう言うと着ているマントを抱きしめて激しく首を横に振る。
え、気に入ってたの?、でも私もマントがないと貧相な格好だしな。だが分かるぞ、私も子どものころはお気に入りのタオルケットがあったからな。
私がどうしようか考えているとポルカノさんが戻ってくる。
「お待たせしました、こちらが一般的な男女兼用の下着と服、それとフード付きマントとなります。どれもハクさんのサイズに近いものをお持ちしました。」
「ありがとうございます、ほらハク、これらはどうかな?」
ハクはポルカノさんの持ってきてくれたものを1つずつ広げて匂いを嗅ぐ。そして不満そうな顔をして私に渡してくる。
何?、さすがに分かんないよ。
「どうしてほしいの?」
聞くとハクが答える。
「あの匂いを消すやつ、してほしい。」
匂いを消すやつ?、…きれいにする魔法の事か?。確かにあれは汚れなどをまとめて除去するから匂いも消えるが。まぁ獣人かハク個人にしか分からないこともあるだろうしポルカノさんの前で魔法を使っても匂いが消えたことは分かんないだろうからいいか。
言われた通り魔法を発動する。するとハクが再び匂いを嗅いだ後、服を私に擦り付けてくる。
え、もしかして私の匂い?。やめて、匂い関係には敏感なお年頃なんだ。
「あの、ハクさん?、なにしてんの?」
私の問いにハクは満足そうな顔で返す。
いや、確かに私も子どもの頃にタオルケットがお気に入りだった理由は匂いだったけれども…。
…いや、いいか。大人になるにつれておじさんの匂いに嫌悪感を覚えるもんだ。色々な匂いを経験するのも成長に繋がるかもしれない。…知らんけど。てか今の私は若いんだったな、それでも自分なら嫌だけど。
「すみません、服を2セットとマントを買わせてもらいます。」
残りは魔法できれいにしてポルカノさんに返す。
「かしこまりました。ここで着替えていかれますか?」
「そうですね…、ハク、1人で着替えられる?」
聞くと頷く。
「じゃあ着替えたら呼んでね。」
ポルカノさんと一緒に部屋を出て、丁度いいので魔物の買い取りの話をする
「ポルカノさん、ガードシープを倒したの買い取ってほしいのですが需要ってありますか?」
「なんと!、ガードシープの毛は服にも防具にも使えますからとても需要がありますよ。…ふむ、非常に買い取りたいところですがその素材でハクさんの上着を作られてはいかがでしょう?。白狼の方は希少ゆえに狙われると聞きます、少しでも防御力のある衣服の方がいいのではないでしょうか?。まぁ商売人としてこの提案は間違いかもしれませんがね。」
ポルカノさんは微笑む。
素敵!、利益よりも子どもの安全を優先してくれるなんて大人の鑑!、抱いて!
アホなことを考えているが顔には出さない。
「お気遣い感謝します、そうさせていただきます。」
「そうなると仕立ててくれるところを紹介しないとですね。」
そう言ってポルカノさんはお店の入り口近くの机に向かい引き出しから名刺のような紹介カードを取り出す。
「こちらが衣服や軽装備を仕立ててくれるお店となります。魔物素材の持ち込みも受け付けていますので相談してみてください。」
「いつもありがとうございます。そうだ、お土産があったんでした。ポルカノさんは魚はお好きですか?」
「魚ですか?、干物や燻製はよく食べますので好きではありますね。」
「よかった、最近アンシーの町に行って銅鮭を買って来たのでよかったらもらってください。冷凍、未冷凍、三枚に下ろしたものがありますのでお好みのものはありますか?。もちろん全部でも大丈夫です。」
アイテムボックスには三枚に下ろしたものと買ってそのまま時間を止めたものが収納してあるので内臓を取って冷凍したものと内臓だけ取って時間を止めたものを用意しポルカノさんに見せる。
「カルラさんの魔法は色々すごいですね…」
ポルカノさん、驚きを通り越して若干引いてる?
「でしたら3枚に下ろしたものをいただいてもいいですか、この街で新鮮な魚は中々の値段ですのでうれしいですね。」
「喜んでもらえて何よりです。あ、氷も付けときますね。」
ポルカノさんに用意してもらった箱に氷を敷き詰めて3枚に下ろした銅鮭を入れる。
「ありがとうございます、こちらは冷暗所に置いてきますね。」
ポルカノさんが部屋の奥に消えたので待っていると後ろから服の裾を引かれる。振り向くと服をぐちゃぐちゃに身に着けて私の貸したマントで顔を隠したハクがいた。
この子は賢いと思わせて抜けているな。まぁ子どもはこれが普通なのかもしれない。
私はマントを受け取り自分で身に着けた後しゃがんでハクの服を整える。
見えるところは整え終えたので聞く。
「はい、これでちゃんと着れたかな。どこかきつかったり締め付けられたりしない?、ハクもしゃがんだり体を動かして確認してみてくれるかな。」
私の言葉に素直に従い服を確認するハク。
「…大丈夫。」
問題ないようだ。
ハクは半袖のシャツに長ズボン、マントを羽織りフードは耳のところが盛り上がっている。
少し大きめだが傍から見て髪も尻尾も隠れているので良さそうだ。
ポルカノさんが戻ってきてハクを見る。
「おお、1人で着れたようですね。問題はなさそうですかな?」
ハクは笑顔で頷く。
まぁ1人で着れてなかったがハクが笑顔なので訂正する必要はないだろう。
「それでは全部でおいくらでしょうか?」
「全部で銀貨1枚と大銅貨2枚ですね。」
私はお金を渡しお礼を言う。
「ありがとうございます、これから早速上着を仕立ててくれるお店に行ってみようと思います。今日もお世話になりました。」
頭を下げる。
「いえいえ、お客様の要望に応えるのは私のポリシーですから。そうだハクさんが着ていた服は処分でよろしいですか?」
忘れてた。
「はい、お手数をおかけしますがお願いします。」
「かしこまりました。それではお気をつけて、またいつでもきてください。ハクさんもまたね。」
ポルカノさんは私とハクに笑顔を向けて見送ってくれる。
ハクは笑顔を手を振り返し、私は再度頭を下げて別れる。
ポルカノさんは変わらずいい人だな。何かお礼をしたいがそういえば好きなものも知らなかった。しょうがないので稼いだお金をポルカノさんのお店で落とすことがお礼だと自分を納得させて次の店に向かう。
「ハク、次はハクの上着を作ってもらえるお店に行くよ。」
ハクはマントを内側から待ち上げて首をかしげる。
すでに上着はあると言いたいのかな。
「うん、マントも買ったけど作ってもらえる上着は防御力が高いんだ。後多分だけど触り心地がいいぞ。」
ハクはよく分かっていなさそうな顔で頷く。
まぁ気に入るかは作って着てみるまで分からないからな。私もどんなものになるかは分からないし。
少し歩くとカードに描かれたお店に着く。案外近かったようだ。
扉をくぐると煌びやかな内装と展示された商品が目に入る。商品は美しい服からごつい革のコートなど日常使いの服から防具として使えそうなものまで並んでいた。
商品に目を奪われているとカウンターにいた店主らしき人に声を掛けられる。
「ここには生憎子ども用の服は置いてないよ。」
見るとふくよかで背の高い女性が座っていた。
「どうもこんにちは、ポルカノさんの紹介で参りました。こちら紹介カードです。こちらのお店で魔物の素材から上着を作ってもらえると聞いたのですが合っていますでしょうか?」
紹介カードを見せながら尋ねる。
「なんだ、ポルカノさんのお客さんかい。ならサービスしないとね。確かにこの店では素材の持ち込みで服とかの装備を作っているよ。まずは素材を見してもらおうかね。」
私はアイテムボックス内のガードーシープを解体して毛皮にする。毛に付いた汚れや皮に付いた肉を除去して鞄から取り出したようにアイテムボックスから取り出す。
「ガードシープの毛皮かい、…えらいきれいだけど鞣しはまだだね。だが状態はすごくいい、まるでたった今剥ぎ取ったみたいだね。なのに肉片は付いていない…」
女性は無言で私を見る。
「…まぁ詮索はしないよ、ポルカノさんは甘い性格だけど人を見る目はあるからね。あんたは悪い奴じゃないんだろう。」
ポルカノさんの信用度たけぇー。疑いをかけられずに済んでよかったー。
「よし、素材はわかった。それで?、これで何を作ってほしいんだい?」
「作ってほしいのはこの子の上着です。」
小出しで説明するのは面倒なので先に言っておく。
「この子は白狼の狼人族でして危険に備えて防御力のある上着が欲しいのです。」
まぁ上着を作ってもらうなら採寸の時にでもハクの事はバレるだろうし言ってもいいだろう。
「へぇ、白狼とは珍しいね。まぁそう言うことならガードシープの素材は適しているね。」
店主はハクをじっと見つめる。
「ふーん…、それで他に要望はあるかい?、見た目の要望から追加料金はかかるが付与の要望まで言いたいことは言っときな。」
付与とな?、私、気になります!
「付与とは何ですか?」
「付与ってのは魔法で装備に追加機能をつけることだよ。聞いたことないかい?」
ゲームではお馴染みだが想像したものと同じかは答え合わせしないと分からないからね。分からないことはちゃんと聞く。
「田舎の方から出てきたので初めて聞きました。例えばどんな付与があるんですか?」
「よく頼まれるのは汚れ防止とか強度上昇とかかね。あ、ちなみに付与ってのは燃えるものが燃えなくなるとかそんなすごいもんじゃないよ、そういうのは使った素材の特徴で得られるものだからね。あくまで補助的なもの考えておくれ。それに付与は1つまでしか付けられないからね。」
そうなのか、まぁ子どもの着るものだし大きさの自動調整にしとくか。
「では大きさの自動調整というのは付与できますか?、そのガードシープの素材を全部使って1着の上着を作って子どもの成長に合わせれるようなものがいいのですが。」
「出来るけど…、この素材の量なら子どもの分とあんたの分も作れるけどいいのかい?」
「ええ、この子の分だけで大丈夫です。その代わり素材をふんだんに使っていいものを作ってもらえれば幸いです。」
「あたしの作るものは全部いいもんだよ!、だが子どもを優先する考えには共感できるから許してあげるよ。」
おっと、失礼だったな。
「付与については分かったよ。あとは見た目については何かあるかい?、この子の好きな色だったりフードやポケットだったり。」
うーん、フードは必須だとして他は何かあるか?
思いつかないので着る予定のハクに聞く。
「ハク、作ってもらう上着はどんなのがいいとかあるかい?、何色がいいとか、ポケットが欲しいとか。」
ハクはこちらを見ずに首を横に振る。
これは退屈を感じているな。まだ服に興味はないということか。
「ではフードは付けてほしいのですがその他のデザインはプロにお任せします。」
「分かったわ、付与にはその魔物の魔石が必要だから調達を依頼するんだけど運よく持ってたりしないわよね?」
ありまーす。運よく持ってまーす。
「魔石でしたら持ってます、使ってください。」
ガードシープの魔石を取り出し店主に渡す。
「あら、これなら上着の完成が多少早くなるわ。ありがたく使わせてもらうわね。」
店主はいつの間にか文字の浮き出ている板を手に持ち何かを書き込んでいる。
「付与、見た目、魔石持ち込み…っと、出来上がりは1週間後で料金は前払いで銀貨5枚だね。問題なければこの板のここにギルドカードをかざしておくれ。」
店主は板の右端を示す。
銀貨5枚か、私の全財産の半分以上だがまぁいいだろう。稼げばいいだけだ
しね。
ギルドカードをかざす。すると板が淡く光り私の名前が板に浮かび上がる。
謎技術!
お金を渡す。
「はい、それじゃあ1週間後また来ておくれ。」
あれ?、採寸とかしないの?。…あぁ自動調整を付与するからいらないのかな?
「それではよろしくお願いします。」
頭を下げ店主を信じて店を後にする。店を出るとハクが私の服の裾を引っ張りお腹を押さえる。
お腹が減ったのか、時間は昼過ぎっぽいのでお昼ご飯にするか。
「広場で屋台を見てみようか。」
ハクに聞くと頷く。
広場に移動し屋台を見て回る。ハクが覗き込むが興味を示すものはない。
味を知れば興味を持つかもしれないので今回は私が選ぶことにする。
私が何にするか考えていると屋台の1つから声をかけられる。
「おう兄ちゃん、肉串はどうだい?」
声の方を見てみると肉串のタレが自慢と言っていた頭から牛の角を生やしたガタイのいいおっちゃん。
「お久しぶりです、お元気でしたか?」
「おう、見ての通り元気だけが取り柄よ。そっちはどうだい?」
おっちゃんは力こぶを作って見せてくる。
「こちらも元気でやってますよ。それでは肉串を2本いただけますか?」
「あいよ!、毎度あり!」
おっちゃんが肉串を焼き始めるとハクがそれをじっと見る。
「このちっこいのは兄ちゃんの連れかい?」
「ええ、訳あって一緒に行動しています。」
「そうか、こりゃまたうちの客が増えちまうな。」
おっちゃんはガハハと笑う。
相変わらず気のいい人だ、こちらも楽しい気分になる。
その後世間話をしていると肉が焼きあがる。
「よし、焼けたぜ。」
肉串を受け取りお金を払う。1本をハクに渡し早速頬張る。
うん、やっぱり美味いな。
私の真似をして肉串を頬張ったハクは1口食べて目を輝かせる。
よかった、どうやら気に入ってくれたみたいだ。
おっちゃんにまた買いに来ることを伝えてお礼を言って別れる。
野菜スープを売っている屋台があったので2人分買い広場のベンチにハクと一緒に座る。
ハクに野菜スープを渡しのんびりと買った食べ物を楽しむ。
野菜スープは野菜の切れ端を使ったものだがしっかり煮込まれており優しい味だ。
野菜スープを味わっているとハクがこちらを見てくる。
どうやら自分の分の肉串を食べ終わったので私の分を狙っているようだ。
捕食者め、しょうがないな。
「食べる?」
聞くと頷く狼っ子。
肉串の口をつけた塊は食べ切って口をつけていない残りを渡す。一応ね。
受け取ったハクは笑顔で肉串に齧り付く。
私は野菜スープを飲みながら次の予定を考える。
街の外に出てハクの魔法について確認してみるかな、本人による自衛を最優先にしよう。
この思い付きの選択は間違いかもしれないがなるようにしかならないので深く考えないでおく。私の場合考えて面倒になって適当になるのがオチだからな。
予定についてハクに伝える。
「ハク、この後は街の外に出て魔法が使えるかどうかや体を動かしてみよう。」
私の言葉にハクは嬉しそうだ。
遊びじゃないぞ、分かってるか?。まぁ楽しみながら学ぶのも大事だからな、様子を見るか。
ハクは肉串の残りを平らげ私を急かすように引っ張る。
「早速行きましょうかね。」
自分とハクの串などのゴミをまとめてゴミ箱に捨てて門の方に向かう。
門番の人に子どもの街の出入りは同伴者の責任だから気をつけてと言われたがそれでいいのか?。情報が回っているから許されているとかか?
考えても分からないので気にしないが少年兵や子どもを使った犯罪とか悪いことが思い浮かぶのは私だけか?
考えていて歩みが遅くなった私をハクがぐいぐいと押す。
わかったわかった、行きましょね。
街の外に出てウキウキのハクだが街から少し距離を取りたいので運動能力の確認も兼ねて街道を走ることを提案する。
「ハク、この道を一緒に走ってみようか。全力を出してもいいけど人がいたら速度を落とさないとだけど、どうかな?」
私の提案にハクは大きく頷く。
「それじゃあ、よーい、スタート。」
地面を蹴りハクが飛び出す。そのスピードは私の知っている人間のものを優に超え一瞬で私を置き去りにする。
これは獣人だからなのかハクだからなのかは分からないがとりあえず私も走りハクを追いかける。
分かっていたが私も十分化け物なのですぐにハクに追いつく。
ハクは追いついた私に喜びの表情を見せて更にスピードを上げる。
こう見るとマントが風を受けて邪魔そうだ。これはあれだな、本気の時はマントを脱いで本来のスピードをお見せしようって言って戦うやつだな。今度剣針を飛ばせるレイピアでも買ってあげようかな。…いらんか。
アホなことを考えているとハクのスピードが落ちてくる。どうやら道の先に人影が見えたので速度を緩めたようだ。私の言ったことをちゃんと聞いていたんだな。ええ子や。
走るスピードは分かったのでハクを呼び止める。
見たところ疲れた様子はないので次は回避能力を確認する。
「よし、次は私がハクを追いかけてタッチするからそれを避けてくれ。今度は街の方に向かって進もうか。」
ハクは楽しそうに頷く。
「じゃあ、よーい、スタート。」
ハクが駆けだしたので私も続く。
最初は軽く、大振りで頭を狙う。それに対してハクはこちらを見もせずに頭を下げて避ける。
原理は分からないがやりますねぇ。
今度はまっすぐに背中と腕を同時に狙う。
ハクはこれもこちらを見ずに腕を反らし、体をずらして避ける。
うむ、この程度はこの子にとっては朝飯前のようだな。襲われることを想定しないといけないので強めにやるか。
私は前に回り込み首を掴もうと手を伸ばす。先ほどのようなギリギリでの回避には攻撃の向きを変えて対応するつもりだ。
ハクは私の行動を察したのか後ろに飛び、地面に足が付いたかと思うと低い姿勢で私の横を通り抜けた。
え、全然すごいじゃん。逆になんで捕まってたの?
私はすぐにハクを追いかけて追撃を繰り出す。しばらくタッチという名の攻撃を繰り返したがハクに当たることはなく、街が見えてきたので再び呼び止める。
「はい、終わり。疲れたり喉が渇いたりしてない?」
ハクは次をせがむような目でこちらを見ている。
大丈夫そうだが一応魔法で水球を作って飲ませる。
「次は魔法が使えるか確認しようかね。」
私の言葉にハクは一気に残念そうな顔をする。
そんな顔してもダメだぞ。
「まぁまぁ、問題なければハクの好きなことをするからやってみよう?」
今度はハクの顔がパッと明るくなる。
表情がころころ変わっていいですな。
「まず確認だけどハクは魔法は使える?」
首を横に振るハク。
「じゃあ自分の胸の奥に魔力、なんというかあったかいものを感じる?」
ハクは少し考えて首を横に振る。
速攻でお手上げだな、私も感覚で魔法を使っているので人に言葉で教えるのは難しい。やはり魔法の事はセイさんかアローザさんに聞くのが早そうだな。
魔法については私が教えるのは諦めて最後に魔物との戦いについて聞く。
「わかった、それじゃあ最後に聞きたいんだけどハクは魔物と戦ったことはある?」
首を横に振る。
「魔物と戦っている人を見たことは?」
今度は首を縦に振る。
「それを見てどう思った?、怖かったりした?」
ハクは首を横に振って答える。
「…美味しそうだった。」
まぁ魔物にもよるか。とりあえず恐怖がないなら大丈夫かな。人間と魔物は違うが襲ってくるなら同じようなものなのでそのうち私の考えを伝えよう。受け入れるかは分からないがこういう考えもあるということは伝えておかなければ。
「そっか、美味しそうな魔物もいるよね。よし、じゃあ約束通りハクのやりたいことをしようか、何がしたい?」
約束は守る。子どもは大人にやられた嫌なことが積み重なって人を信用しなくなるからね。まぁ個人の経験だけど。
ハクは嬉しそうに少し考えてから答える。
「…もっと走りたい。」
そうか、そんなに走るのが好きなのか。だとしたらアンシーの町からここまで走らせてもよかったな。てかそれなのに街中では大人しくしてくれていたのか、ほんまよくできた子やで。
「じゃあ今日は思いっきり走ろう。」
その後は日が暮れるまでひたすら走った。ハクは疲れ知らずで終始楽しそうに走っていた。
いや、マジでなんでこの体力と脚力で捕まったの?、これは明確な弱点があると考えた方がいいか?、それとも相当運が悪かったとかなのか?
疑問が残るが今は聞かなくていいだろう。この楽しい時間を邪魔したくないしね。
日が暮れてきたので街に戻る。
結局宿の事を考えていなかった。まぁハクの身体能力の高さは分かったから普通に泊まるか。何とかなるでしょ、考えるのも面倒になったし。
宿は前に泊まったところを考えているので後回しにして先に晩ご飯にする。
向かうのはいつもの熊猫亭。ダンさんに聞きたいこともあるしね。
店に入るといつものように元気に迎えられる。
「いらっしゃいませー。あっ、カルラさん久しぶり!」
マオさんだ。元気な笑顔が眩しい。
「こんばんは、2人だけどいいですか?」
「どうぞどうぞー。」
案内されてテーブルに着くと隣のテーブルには見知った顔があった。
「おう、カルラ、元気か!」
カイルさんだ。向かいにはレイさんもいる。
「カイルさん、レイさん、お久しぶりです。中々元気にやってますよ。今日アンシーの町から戻ってきたところです。」
挨拶をしたところで2人の視線が私の後ろのハクに向く。
「その子は?」
カイルさんに聞かれたので正直に答える。この2人は信用に値するからね。
「この子はハク。アンシーの町の近くで迷子だったのを保護して両親が見つかるまで一緒に行動しています。狼人族の中で珍しい白狼みたいなのでギルドの方で信頼出来る方に声をかけてもらって情報を待っている状況です。」
「へぇー、白狼なんて珍しいな。俺も見るのは初めてだよ。…てか言ってなかったっけ?、レイも狼人族なんだけど。」
聞いたっけ?、いや、聞いてないはず。
「いや、言ってないぞ。」
レイさんが教えてくれる。
「そうなんですね。でしたらレイさんの方で子どもを探している白狼の方をご存じないですか?」
「知らないな。だが知り合いに聞いておく。」
「俺も聞いとくわ、あ、ちゃんと相手は選ぶぞ。」
ありがてぇ、こうやって地道に探すのも大切だ。
「2人とも、どうぞよろしくお願いします。」
私は頭を下げる。ハクも下げる。
会話が一段落したところで別の人から声を掛けられる。
「おう、話が終わったなら注文してくれ。」
ダンさんだ。こちらにもお願いしておかねば。
「ダンさん、この子なんですが、」
「聞こえてたよ、信用できる客や知り合いに聞いておく。」
私の言葉を遮り引き受けてくれる。頼もしいお人だ。
「ありがとうございます。そういえばアンシーの町のお土産なんですが加工されてない魚ってお好きですか?」
私の言葉に目を光らせるダンさん。
「アンシーの町って言うと銅鮭か?」
お、反応がいいな。
「はい、銅鮭です。冷凍したものとそうでないもの、3枚に下ろしたものがあります。ご家族の分もありますしなんなら余分にありますのでよかったらどうぞ。」
冷凍とそうでないものを取り出してダンさんに見せる。
「この街で買うとまぁまぁな値段するからな、ありがたく頂こう。冷凍したやつを3匹ほどいいか?」
「分かりました、箱があればそちらに入れましょうか?」
「ああ、じゃあこれに頼む。」
ダンさんの持ってきた箱に氷を入れて冷凍の銅鮭3匹も入れる。
一部始終を見ていたカイルさんが驚きながら聞いてくる。
「カルラ…、お前バリバリ魔法使えてんじゃん。しかも今のは空間魔法か?」
あれ?、カイルさんに魔法の話してなかったっけ?。もう誰に話して誰に秘密にしているか分かんなくなってきたな。とりあえずカイルさんとレイさんには話すか。
「ええ、一応魔法は使えます。目立ちたくないので秘密でお願いします。」
カイルさんは少し考えた後悪い顔を作る。
「へっへっへ、黙っててほしければ俺にも魚を寄越すんだな。」
すかさずレイさんに頭を叩かれる。
「痛っ、冗談だよ、冗談。」
「普通にお土産なんで魚はお二人にも渡すつもりでしたよ。持って帰られますか?」
カイルさんは元の顔に戻して笑顔になる。
「やっぱカルラはいいやつだな!、じゃあそれをつまみにもう一杯やるぜ。ダンさん、カルラの魚でなんか作ってくれ!、あとエールをおかわり!。レイの分も!」
「分かった分かった、カルラは何にするかい?」
注文がまだだったのとハクの事を置き去りにしていたことに気づく。
「この子と考えますのでカイルさんの料理を優先してあげてください。」
カイルさんとレイさんの分の魚を渡すとダンさんは分かったと厨房に戻る。私は行儀よくテーブルに座っているハクに話しかける。
「待たせてごめんね、それじゃあ何を食べようか?。」
そう聞いてメニューを見せようとしたがこの店では見たことがなかった。
「ちょっと待ってね、カイルさん、このお店ってメニューとかないんでしたっけ?」
小声で聞く。
「え?、この店にそんなおしゃれな物があるわけないだろ。」
厨房からダンさんの鋭い視線が飛んでくる。
「…ってのは冗談で、定食だけが固定で他は材料によって毎日変わるって感じかな。メニューは決まった料理がないから置いてないってことだ。でもダンさんに言えば大体のものは作ってくれるぞ、何だかんだで優しいからなあの人。顔はあれだけど。」
最後の言葉で再び睨まれてカイルさんは顔をそむける。
私は教えてくれたカイルさんにお礼を言ってハクに話しかける。
「このお店は肉の定食が人気で他は毎日変わるんだって。食べたい料理を言ったら作ってもらえるかもしれないから聞いてみようか?、ハクは何か食べたいものはある?」
ハクは少し考えた後答える。
「…お肉」
肉ね、了解。
カイルさん達のテーブルにエールを運んできたマオさんに声をかける。
「注文いいですか?、肉定食2つにサラダがあれば2つお願します。」
マオさんは笑顔で注文を受けて厨房の方に戻っていった。
野菜は大事だからね。この世界の人間が野菜を必要とする体かは分からないけど一応ね。
ハクに話しかけながら料理を待っていると隣のテーブルからカイルさんが嬉しそうに話しかけてくる。
「うめぇ!、カルラの魚うめぇぞ。加工された魚はパサパサしてあんまり好きじゃないけどこの魚は美味いな、これはエールが進むぜ。」
「ダンさんの味付けがいいからですよ、でも喜んでもらえたのならよかったです。」
カイルさんはニコニコしているしレイさんは魚を食べて頬が緩んでいるので喜んでもらえたようだ。お土産が喜ばれるとうれしいものだね。
カイルさんはダンさんにもうめぇーと伝えてうるせぇと笑われていた。
和やかな雰囲気を楽しんでいると私達の料理が運ばれてくる。
「お待たせしました!、肉定食とサラダです。ごゆっくりどうぞ。」
マオさんが料理を並べるとハクは大きな肉に目を輝かせる。
このお店の肉は大きいからね。私も最初は驚いたよ、うんうん。
「それじゃあ食べようか、いただきます。」
私の言葉にハクは肉に齧り付く。ハクの顔以上の大きさの肉だがハクはどんどん食べ進めていく。この小さい体によく入るなと考えながら私も食事を楽しむ。やはり肉はいいな。ある意味罪の味だ。
私が肉の味に舌鼓を打っているとハクがこちらを見ている。どうしたかと思ったがすでにハクの料理の皿が空なのを見て察する。早いな。
「食べる?」
聞くと頷く。
まぁサラダも食べきっているのでいいでしょう。
「誰もハクの分を取らないからゆっくりよく噛んで食べようね。」
そう言って手を付けていない肉を皿ごと渡す。
ハクは頷き今度はゆっくり食べ始める。
私がハクを眺めながら水を飲んでいるとダンさんが近づいて話しかけてくる。
「その子よく食うな。」
「そうですね、白狼の人ってよく食べるとかあるんですかね?」
何となく聞いてみる。
「そんなことは聞いたことねぇな。ただ単にこの子が食べるだけだろ。」
そもそもこの世界の基準が分からないからな。私もこの体になってから食べようと思えば食べれるし。逆に食べなくても大丈夫そうだから私の場合は普通っぽくないけど。
そんなことを考えているとダンさんが重要なことを言い出す。
「そういえばこの前店で一緒にいた冒険者、アローザって人が何度かカルラを探しに来てたぜ。伝言でもあるか聞いたら会えたら話したかっただけだと言ってたぞ。もう会ったか?」
「いえ、会ってないですね。ギルドでも伝言はなかったので本当に話がしたかっただけだと思います。今は私の方から用事があるので探してみます。ありがとうございます。」
「おう、それとその子の事だがこれからどうするつもりだ?」
ダンさんが小声で話すのでこちらも合わせる。
「先ほどカイルさん達に言ったようにギルドの連絡を待っていますが、その間に本人の自衛力を上げようと思っています。魔法はまだ使えないみたいなので先ほど話に出たアローザさんに相談して魔法を使えるようにすることを考えています。」
「そうか。…日中も一緒に行動するつもりか?」
「そうですね、不安はありますが今日確認したところ持久力と回避能力は高かったので一緒に行動しようと思っています。」
私の答えにダンさんは考えている。
「…よかったらなんだが店で預かろうか?、安全面は俺かシオンがいるし同性って意味ではシオンかマオがいる。それにカルラも依頼に集中出来るだろ。」
正直めちゃくちゃ助かるが迷惑がかかるからな、いいのか?、素直に甘えて。
「ありがたい申し出ですが白狼を狙って悪い人が近づいてくるかもしれません。そしてその相手がダンさんやご家族に迷惑を通り越して危険な目に合わせるのではと考えると素直にお願いできないところもあります。」
「俺の家族を案じてくれるのはありがたいが若いカルラに心配されるほどじゃねぇよ。それに誰かを守りながらだと自分を疎かにしてケガをする奴が大勢いる、カルラもそうなるんじゃないかと思うとちと不安でな。」
わ、私の心配もしてくれている、だと…。そうか、ダンさんから見たら私も駆け出し冒険者。心配する対象だと。…感動した!。大人になると心配されることなんてないから忘れていたが心配されるとは大事に思われているということだ。こんなにうれしいことはない。
「分かりました。それではお言葉に甘える前にこの子の意見も聞いていいですか?」
「おう。」
ダンさんとの話がまとまったのでハクに話をしようと目を向けると、そこには不満げな顔でこちらを見るハクがいた。
まぁ小声で話していたが目の前だしね、全部聞こえてたか。
「ハク、こちらこのお店の店主で今食べた美味しい料理を作ってくれた人でもあるダンさん。話は聞こえていたかもしてないけどこのお店でハクを預かってもらおうかと考えています。ハクの意見もあるだろうけどまずは聞いてほしい。」
ハクは変わらず不満げだが話は聞いてくれているので続ける。
「こちらのダンさんは私よりすごい冒険者でハクを守ってくれます。そして奥さんのシオンさんもいるので大人が2人、単純に守ってくれる人が2倍です。娘さんのマオさんはハクとも年が近いので友達もしくはお姉さんになってくれるでしょう。美味しい料理も食べれるし危険も少なくなります、これらを踏まえてハクはダンさん家族に預かってもらった方がいいと考えました。以上です、ハクの意見を聞きましょう。」
私の話を聞いたハクは徐に椅子から立ち上がりこちらに近づいてくる。
私がどうするか見守っているとハクは私の膝によじ登り両手で顔を挟んで口の周りをぺろぺろと舐め始める。
何してんの?
ハクを引きはがし魔法でハクと自分をきれいにした後、真面目な顔で言い聞かせる。
「ハクよ、お父さんとお母さんから何を習ったかは知らないが家族でもない他人にこういうことをしてはいけません。」
ハクは何を考えているか分からないがまだ不満げな顔だ。
どうしたもんかと考えていると隣のテーブルのレイさんが教えてくれる。
「カルラ、それは狼人族の親愛の情の表現だ。人里で生活している狼人族はしないが未だに自然の中で群れで暮らしている狼人族はやったりする。」
そうなのか。だとしても街ではよくないのでどうしたもんか。
私が考えていると隣のテーブルは盛り上がっている。
「レイ、まさかお前も俺を舐めるのか?」
カイルさんのふざけた問いにレイさんは無言でカイルさんの皿から魚を奪う。
「あっ、俺の大事に残しておいた一番美味しいところをっ。」
「ふざけたことを言うとこうなる。覚えておけ。」
レイさんは冷ややかにそう言って奪った魚を口に放り込む。
カイルさんがギャーギャー騒いでいるが私の考えはまとまったのでハクに話しかける。
「ハク、ハクが私を大事に想ってくれているのは分かった。だけど人や種族によって普通と思うことが違うんだ。ハクが相手に大切だと伝えるための行動だとしてもそれを知らない相手からするとびっくりして伝わらないんだ。だから行動ではなくお互いに使っている言葉で相手に伝えるんだ。確かに言葉で伝えるのは難しくて自分の思った通りの事を言葉に出来ないかもしれない。それでも考えて考えて相手に伝えるんだ。お互いに大切なら相手の言いたい事を理解し合っていずれは通じるものだと私は思っているからね。」
私の言葉にハクはまだ不満げな顔だがぽつりと話し始める。
「…私は、離れたくない。…ずっと、一緒に、いたい。」
うーん…、両親が迎えに来たらお別れなんだがそこんところ分かってないのか?。だが頼られるのは悪くない。それに正直大分情が湧いている。私が守るという気持ちもあれば安全を考えるなら心を鬼にしてダンさんに預けるべきだという考えもある。
私が迷っていると見かねたダンさんが口を開く。
「これじゃあダメだな。当人達が納得してないんじゃ互いに気になってトラブルの元だ。まぁこっちはいつでも預かるからその子を納得させるのと店が安心できる場所だと分かるまで通ってもらうしかないな。」
申し訳ない、私の覚悟も足りなかったようだ。
「すみません、そうさせてもらいます。」
ダンさんに謝りハクに向き直る。
「ハク、それじゃあこれまで通り一緒に行動するけどダンさん達もいい人だから少しずつでも相手を知っていこう。それとご両親が迎えに来たら家に帰るだろうから私とはお別れだよ、それは覚えておいてね。」
私の言葉にハクは俯く。
なんだか沈んだ空気になってしまった、今日はお暇しよう。
ダンさんに料理の代金を支払いカイルさん達に挨拶して店を出る。
ハクは下を向いたまま私の服の裾をしっかり掴み歩いている。
どうしたもんかね、出会いがあれば別れもあるがそれは悲しいことではないことを伝えるか、それともいっその事嫌われてみるか?。ただでさえ他人への気遣いとか苦手なのに子ども相手となるともっと分からんしな。
うだうだ考えるのも嫌なので正直に伝える。
「ハク、私はハクの事を大事に思っている。大事に思っているからこそより安全な場所にいてほしいし家族の下というよりよい環境で生活してほしいと思っている。だから決して離れたいとか一緒にいたくないと思っている訳ではないんだ。それだけは知っておいてほしい。」
ハクに反応はない。まぁ伝えたいことは伝えたので私が出来ることはもうない。後はハクの返事を待とう。
しばらくお互い無言で歩いていると腰にしがみ付かれる感触がある。
後ろを見てみると眠そうな顔をしたハクがもたれかかっている。
「はいはい、おんぶね。」
私はしゃがんでハクを背負う。
ハクはしっかりと掴まりながら私の背中でぽつりぽつりとしゃべり始める。
「…カルラは、私を檻から助けてくれた。」
あの状況は誰でも助けるよね。
「…私にどうしたいか聞いてくれる。」
まぁ、分からないし聞くよね。
「…ご飯を分けてくれる。」
育ち盛りの子どもには分けるよね。
「…いっぱい遊んでくれる。」
今日はね。明日からは分からないぞ。
「…怒鳴らないし。」
普通大人は子どもを怒鳴らないぞ。
「…いい匂いだし。」
それはコメントに困る。
「…お父さんもお母さんも言ってた、自分が一緒にいて安心できたり、この人といれば安全だと思うのなら、その人は群れのリーダーの素質があるって。そして困ったらその人を頼れって。」
両親はなんてことを教えているんだ。私ほど人を導くのに適さない人間はいないというのに。
「…最初は分からなかったけど今は一緒にいたいって思う。いつかはお別れするのは分かってるけど、今は、一緒にいたい…。」
そっか。
「…カルラの言った通り頑張って言葉にしてみたけど伝わった?」
やっぱりこの子は色々考えているんだな。いっぱい言葉にもしてくれて…、やべ、心が、あったかい?
「うん、伝わったよ。」
私の返事に安心したのかすぐに寝息が聞こえ始める。
寝たか、今日は体も動かしたし、あんなにしゃべったのも初めてだったしな。
…完っ全に情が湧いてる。これは私の方が離れられないのではないか?
ダメだ、大切な存在を作っては失った時に心が壊れてしまう。やめろ!、うわぁー!
…そんなことを考えながらも大切な存在の重みを背中で感じなら宿に向かう。
宿は以前泊まったおしゃべりなおばちゃんがやっているところ。一応入るときは透過魔法で姿を消して入る。
「こんばんは、大人1人、子ども1人で泊まりたいのですが部屋は開いていますか?」
相変わらず眠そうながらも受付に座っているおばちゃんに小声で声をかける。
「ん、あぁいらっしゃい。…おや、あんたは前にも来てくれたね。ツインの部屋があるけどそれでいいかい?」
部屋を分けることも考えたが昨日にも思った起きた時の不安を考えると面倒なので一緒の部屋にする。
「はい、それでお願いします。」
「あいよ、料金は大銅貨1枚ね。」
お金を渡し鍵を受け取る。
「部屋は2階の一番奥だよ、それじゃおやすみね。」
「おやすみなさい。」
おばちゃんに挨拶を返して言われた通りの部屋に入る。
変わらず掃除が行き届いたシンプルな部屋にベッドが2つだけだ。
ハクと自分を魔法できれいにしハクのマントだけ脱がせてベッドに横に寝かせる。
私もマントを脱ぎ自分のベッドに横になる。
明日からの事を考える。ハクの自衛力向上も課題だが思った以上にお金がかかっている。ハクに不自由のない生活をさせるためにはお金を稼がなければ。
はぁ、考えることが増えてしまったが、今日は…、疲れた…。
なんだかんだで私も体を動かして疲れたのだろう。ベッドで横になるとすぐに眠りに落ちた。




