13.日々は続く
目が覚める。
今は何時だ?
自分で作った空間、マイルームは光を調節しているので薄暗い。
外の光を取り入れるよう設定すると眩い光が入ってくる。
昼ぐらいかな。
ベッドに座ったままボーっとする。
無気力、喪失感、何もやる気が出ない。
しばらく動かずにいると頭が働いてくる。
何か気分転換の方法を考えないとな、このままではダメだ。
自分に言い聞かせ立ち上がる。
体を伸ばし、魔力を循環させ、魔法できれいにする。
湯船に浸かりたいなと何となく思いながらマイルームから出る。
とりあえずギルドに向かおう。
プラプラしながら歩く。
はぁ、やっぱりやる気が出ないな。
ノロノロとした足取りでもギルドには辿り着く。
ギルドの中は昼の時間帯にも関わらず多くの人がいた。
まぁ昨日の事があったから依頼以外で人が集まっているのだろう。
窓口で報酬でも貰うかと並ぼうとすると掲示物が目に入る。
そこには大きく”要塞蜜蜂討伐の経緯について”と張り出されていた。
内容はこうだ、
事の発端はDランクパーティー”ゴルドルート”が洞窟にて要塞蜜蜂の巣を見つけたことから始まる。ゴルドルートの者達は要塞蜜蜂の蜜がお金になることを知っていたため巣が大きくならないように蜂を間引き、数を調整して蜜を集めていた。しかし巣の場所の洞窟には横穴があり、そこで少しずつ数を増やした蜂兵に対処できなくなったゴルドルートの者達は逃走した。残された要塞蜜蜂は洞窟の中で繁殖を続け、地上に巣を作るのに1日もかからない程の数となった。そして先日巨大な巣が発見されて対処することとなったのが経緯である。なお逃走したゴルドルートのメンバーは捕縛されており経緯を聞き出した後奴隷落ちとなった。今後このようなことがないよう冒険者の皆様はギルドへの報告を徹底するようお願いいたします。
続いて討伐までの流れについて、
北東の森で要塞蜜蜂の目撃報告があったことから始まり、森の魔物が草原で、森の奥の魔物が浅い場所で発見されたという報告が相次いだ。それらの魔物は重症もしくは息絶えた状態であった。その時点で森の調査を進められていたが上記の経緯で記載している洞窟内での繁殖により要塞蜜蜂の影響とは紐づけられなかった。その結果巣が巨大化した状態での発見となり緊急の対応を行った。対応内容は巣の更なる拡大を防ぐため防衛線を築き包囲を実施。包囲から巣を破壊し要塞蜜蜂の戦力を削ぎ、弱点である女王の討伐を予定していた。しかし今回の要塞蜜蜂は魔法使いを優先して狙う、傷ついた冒険者を餌に他の冒険者をおびき寄せる、罠を張るなどこれまでの個体とは異なる行動が見られ作戦の変更を余儀なくされた。次なる作戦として他の街からの応援を待ち、人員投下による物量での掃討が考えられていた。しかしBランクパーティー”アパシオナーダ”と連絡が取れたため魔法部隊による殲滅作戦に切り替えられた。その後はアパシオナーダのリーダー、アローザによる高威力炎魔法で巣を攻撃、激しい戦闘が予想されたが蜂兵達からの反撃はなく、巣から飛び出してきた蜂兵を遠距離から魔法で撃ち落すだけとなり作戦及び討伐は完了した。
…そういえばキングはどうなったんだろ。魔法で討伐されたんならいいけど。
一通り掲示物は読んだので改めて窓口に並ぶ。
私の番となりギルドカードを出して話しかける。
「どうもこんにちは、昨日の討伐参加で報酬があるか確認したいのですが。」
「はい、それではギルドカードをお預かりします。…はい、確認できました。報酬はこちらとなります。」
渡されたのは銀貨4枚。
「それとカルラさんは討伐への参加前に昇格条件を満たしておりました。お望みであればEランクへと昇格出来ますがいかがなさいますか?」
「お願いします。」
考えるまでもないだろう。
「かしこまりました。それではカルラさんはEランクへと昇格となります。
Eランクの依頼は街の外での採取、討伐、遠方の村や町からのものなどがございますのでしっかりと準備をしてから挑まれることをおすすめします。」
「わかりました。」
ギルドカードを返してもらうとそこにはEの文字があった。
何ともわかりやすい。
「それとアパシオナーダのリーダー、アローザさんから伝言を言付かっております。」
「なんでしょう?」
今は人と関わりたくないんだけどな。
「時間があるときに会って話しがしたいとのことです。ギルドで返信をお預かりしてアローザさんにお伝えすることも可能ですがいかがいたしますか?」
うーん、面倒だな…。私から聞きたいこともないしな…。
「時間を決めてお会いするのは苦手なのでお断りします。もし偶然出会ってその時都合がよければお付き合いします。とお伝えください。」
自分勝手でいいじゃないか。
「かしこまりました。そのようにお伝えします。ギルドからは以上となりますがその他何かございますか?」
特にないのでお礼を言って窓口から離れる。
さてこの後はどうしようかね。
視界の端でトカゲ兄妹がいた気がして妹さんが兄に止められていた気がしたが多分気のせいだろう。ちゃんと約束したしな。
そういえば蜂蜜がアイテムボックスに大量にあるんだった。色々聞きたいこともあるしポルカノさんに会いに行こう。
ギルドを出てポルカノさんのお店へ向かう。
街はいつも通り活気に満ちており要塞蜜蜂の騒ぎがあったとは思えない程だ。
この世界の人達には日常なのかね。
街の人達を眺めながら歩きポルカノさんの店に着く。
「こんにちはー。」
挨拶すると店の奥から返事がある。
「いらっしゃいませー。少々お待ちくださーい。」
少し待つと鼠獣人の店員さんが顔を出す。
「これはカルラさん、いらっしゃいませ。」
「どうもこんにちは、ポルカノさんはいらっしゃいますか?」
「生憎ポルカノさんは出てまして予定通りならそろそろ帰ってくるはずです。急ぎの用でしたか?」
急ぎなことはない。今日は依頼や狩りはしないつもりだしな。
「いえ、急ぎではないので迷惑でなければ待たせてもらいます。」
「迷惑なんてことはありませんよ。ではお待ちの間お茶でも入れましょう。」
店員さんは笑顔で対応してくれる。
いい人だなぁ。
「いえいえ、お構いなく。でしたらいくつか探している物があるのですが聞いてもいいでしょうか?」
「はい、何なりと。」
まずは寝具かな。
「ベッドに敷くマットと毛布と枕が欲しいのですが取り扱いはありますか?」
「寝具ですか…、うちでは扱っていないので取り扱うお店を紹介いたします。紹介はポルカノさんに一筆書いてもらうので準備をしておきますね。」
残念、しょうがないね。
「わかりました、お願いします。後はキレイな容器、調味料やポーションなどが入るものはありますか?」
「はい、それなら在庫がございます。種類がありますので見て選んでもらってもいいですか?」
「大丈夫です。」
「ではこちらです。」
店員さんに付いて行くと奥の部屋に案内される。そこの棚にはいくつもの容器が並べられており、小指ほどの大きさのものから顔ほどの大きさのもの、透明なものから色付き、蓋や取っ手付きなど多くの種類のものが揃えられていた。
「どうぞこちらからお選びください。」
「ありがとうございます。」
ありがたく選ばせてもらう。
入れたい物は蜂蜜、ポーション、調味料。
蜂蜜は前世でジャムが入ってそうな容器、ポーションはポルカノさんに以前貰った低級ポーションと同じような容器、調味料はラーメン屋で胡椒が入ってそうな容器を選んだ。数は蜂蜜用5、ポーション用10、調味料用を5だ。
値段は大銅貨2枚と銅貨5枚とのことだったので問題なく購入した。
他に欲しいものはあったかなと考えていると聞き覚えのある渋い声に話しかけられる。
「これはカルラさん、ようこそいらっしゃいました。」
振り向くとポルカノさんがいた。
相変わらずダンディなジェントルマンだ。見ているだけでほっこりする。
「こんにちはポルカノさん。また会いに来ました。」
「お待ちいただいたみたいですね。どうぞこちらに。」
店員さんと別れて以前にも通されたポルカノさんの会長室に移動する。
お互いに座り本題に入る。
「さて、カイルさん。また何か手に入れたのですね。」
さすがポルカノさん、話が早い。
「これです。」
先ほど買った容器を魔法できれいにして中に要塞蜜蜂の蜂蜜を入れてポルカノさんの前に出す。
「これは…。」
ポルカノさんは容器を持ち上げ中の液体をまじまじと見る。
「要塞蜜蜂の蜂蜜です。量は大量にあります。確認もあると思いますのでそれはポルカノさんに差し上げます。」
ポルカノさんは驚いた顔をしたがすぐに考えるような難しい顔になる。
「うーむ、これは売るとなると問題がありますね。確か要塞蜜蜂の討伐は魔法により巣を破壊して殲滅したと聞いております。そしてそもそもの発端は欲をかいた冒険者の方々だとも…。となると要塞蜜蜂の蜂蜜が出回ると発端の悪い冒険者のものだと考える人が大半だと思います。そうなると売るのは難しいですし、最悪関係者と見なされてギルドに没収される可能性もあります。」
そうか、そうなるか。
「なので今回はお力になれそうにありません。申し訳ありません。」
ポルカノさんは本当に申し訳なさそうにしている。
「いえいえ、何も考えずに持ってきたのはこちらですから。逆にはっきり断ってくださってありがとうございます。あっ、その蜂蜜は持っているだけで罪だとか嫌いでなければ貰ってください。お土産です。」
「要塞蜜蜂の蜂蜜は高級品なのですが…。お土産ということでしたらありがたく頂戴いたします。」
なんか微妙な空気になってしまったので話題を変える。
「そうだ、欲しいものがまだありました。こちらに調理器具や食器はありましたでしょうか?」
「それならいくつかありますよ。具体的なものがあればお持ちいたします。」
「でしたらフライパン、鍋、フライ返し、お玉、後はお皿、フォーク、スプーンが欲しいです。」
「かしこまりました、少々お待ちください。」
ポルカノさんが部屋を出ていく。
ふぅ、ポルカノさんに気を遣わせてしまったな。まぁ教えてもらえてよかったと考えよう。
少しするとポルカノさんが箱を抱えて戻ってくる。
「お待たせいたしました。ご希望の品で手頃かつ使いやすいものを選んで持ってきました。どうぞご確認ください。」
箱から取り出し並べられる品を見ていく。
フライパンは鉄製、持ち手も握りやすく重さも気にならない。鍋は銅製、一人用サイズが丁度いい。フライ返し、お玉、皿、フォーク、スプーンは木製で温かみのある見た目となっている。
いいんじゃないかな。
「いいですね、全部買います。」
「ありがとうございます。全部で銀貨1枚と大銅貨2枚となります。」
お金を渡し買った物をアイテムボックスに収納する。
ポルカノさんは何も言わないがいろいろ察してくれているのだろう。敢えて何も言わない男、非常に助かります。
「今日はありがとうございました、そろそろお暇します。」
「またいつでもお越しください。そういえば寝具をお探しでしたね。こちらは私の紹介カードとなっております。店の場所は裏面に記載されておりますのでそちらでカードを見せれば話がスムーズに進むと思います。」
そういえばそうだった。
「何から何までありがとうございます。また何かあれば寄らせていただきます。」
お互いに礼をして別れる。
その後寝具は無事に買えた。特に変わったことはなかったので買い物の様子について語ることはなし。
買い物を終えたころには空はもうオレンジ色となっていた。昼に起きたとはいえ時間が過ぎるのが早く感じる。今日は何もしないと思っていたが買い物で潰れてしまったな。
少し考えて今日の残りは熊猫亭でのんびりしようと心に決める。
店に着いて扉を開くと元気な声に迎えられる。
「いらっしゃいませー!」
今は他人の元気な姿が眩しい。見習いたいものだ。
「こちらの席へどうぞ。…んー?」
席に案内しようとしたマオさんが首をかしげている。
そして私の周りでうろうろしたかと思うといきなり抱き着いてきた。
捕食ですか?
「お母さーん!、蜂蜜の美味しそうな匂いがするー!」
マオさんが厨房の奥に向かって叫ぶ。
ポルカノさんの店で容器入りのものをアイテムボックスから出しただけだが分かるものなのか。嗅覚がすごいな。
奥からシオンさんが出てくる。
「こら!、お客さんにダメよ。」
注意を受けてマオさんは離れてくれる。
「ごめんなさいね、この子蜂蜜に目がないのよ。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
「…それで、持っているの?」
シオンさんの目付きが鋭い。まるで獲物を見る目だ。
私がどう言おうか迷っていると厨房から声がかかる。
「おう、シオンもマオもちょっと奥に行っててくれるか。」
ダンさんが真面目な顔で厨房から出てくる。
雰囲気を察した二人が奥の方に姿を消すとテーブル席に座るよう促される。
席に着くとダンさんが口を開く。
「さて、悪いが確認しないといけないことがある。」
いつになく真剣な顔だ。
「要塞蜜蜂の蜂蜜を持っているのか、そして持っているならそれはどこで手に入れたものだ。正直に話せ。」
うーむ、真面目な雰囲気だ。ここは正直に話しますか。
「要塞蜜蜂の蜂蜜なら持っています。どこで手に入れたかについては巣に入って取りました。証拠になるかは分かりませんが巣の中で倒した要塞蜜蜂はこちらです。」
アイテムボックスから容器入りの蜂蜜と女王の頭と強化兵を一匹出す。
ちなみに情報を隠して話がややこしくなるようなことはしない。もちろん相手は選ぶが信用した相手には正直に話す。思った反応と違ったなら縁を切るだけだしね。
魔物の死体をいきなり出したがダンさんは表情を変えずに黙っている。
そして少しして口を開く。
「その蜂蜜、味を確かめてもいいか?」
「どうぞ。」
蜂蜜を渡すとテーブルに置いてあるスプーンで掬い口に運ぶ。
するとダンさんは目を瞑り動かなくなる。
どうしたんだと不思議に思いながら待っているとダンさんが口を開く。
「…そうか、いや、疑って悪かったな。詫びとして今日は店の奢りだ。何でも飲み食いしてくれ。」
どうやら疑いは晴れたようだが気になるので聞いてみる。
「えーと、味で何か分かるんですか?、というよりそもそも何の質問だったんですか?」
「ああ、すまん。昨日の要塞蜜蜂の騒ぎなんだが知ってるかもしれないが発端はどこぞの馬鹿どものせいでな、そいつらは要塞蜜蜂を囲んで蜂蜜を作らせて売ってたんだ。そんなもん買うやつも共犯だし俺の家族に渡そうもんならぶっ飛ばしてやろうと思ってたところにお前さんが蜂蜜の匂いを纏って来たから質問したんだ。それと味についてだが要塞蜜蜂の蜂蜜は巣がデカいほど美味くてな。馬鹿どもが売っていた時の巣の大きさから考えたら味が違うからお前さんが嘘を言ってないと判断したんだ。」
理解。悪いことが許せない家族を愛する男ってことね。
アイテムボックスから出したものを収納しているとダンさんがバツの悪そうに話しかけてくる。
「…それで相談なんだが蜂蜜を売ってもらうことはできないか?。いや、分かる。疑っておいて図々しいのは分かっているがどうか頼む。」
頭を下がられる。
正直そんなことしなくても、何ならタダであげるけど。
ポルカノさんの話もあるので確認する。
「先ほどダンさんも疑ったように、今蜂蜜を持っていると騒ぎの発端の冒険者から手に入れたものだと思われるのではないですか?。それにギルドに疑われると没収されると聞きましたがそこのところ大丈夫ですか?」
ダンさんは頭を上げて答える。
「そこらへんは大丈夫だ。店では出さないし見つかったとしても俺は過去に要塞蜜蜂の巣に突入して討伐する作戦に主力として参加したことがある。蜂蜜は保存がきくからその時のだと言えば問題ない。ギルドに関してはこれでも昔、Bランクまでいったから疑われることはない。」
そうなのか、まぁ本人が大丈夫と言うのなら私が言うことはないが。
「あと条件として私についての事は全て秘密にしてもらっていいですか、面倒ごととか嫌いなんで。」
「それは言われなくてしゃべるつもりはないぞ。冒険者にとって技や魔法の情報が漏れるのは死活問題だ。それをべらべらしゃべるのは冒険者としても客商売としても失格だからな。」
「で、あれば別にタダで差し上げますよ。大量にあるんで。」
「いやダメだ、そこはちゃんと金を受け取れ。冒険者の仕事には対価が支払われる。無償や安請け合いは他の冒険者の迷惑になるから気をつけた方がいいぞ。」
そうだな、世の中いい人ばかりじゃないもんな。前世でも人の優しさに漬け込んで図々しい要求してくる奴の話とか聞くしな。
「分かりました。ただ味見したやつはお土産として貰ってください。親しい人には配ってますので。あと適正価格を知らないのでどれだけの量をいくらで買うかはそちらで決めてください。」
「…わかった、それが互いの落としどころだな。ちょっと待っててくれ。」
ダンさんは厨房に入り容器を持ってすぐに戻ってくる。
「これに入れてもらっていいか?、この量なら銀貨3枚でどうだ。」
ダンさんの持ってきた容器は私の持っている容器3つ分ぐらいの大きさだ。
「大丈夫です、では入れます。」
一旦容器をアイテムボックスに収納して魔法できれいにした後蜂蜜で満たして取り出す。
「ありがとよ、これで二人も喜ぶぜ。」
ダンさんが笑顔でお金を渡してきたので受け取る。
「よし!、それじゃ約束通り何でも注文してくれ。」
ダンさんが厨房に入るとシオンさんとマオさんも戻ってくる。
何を注文するか考えていると二人が近づいてきて声をかけてくる。
「あの人から聞いたわ、貴重な蜂蜜を譲ってくれたんですってね。私も娘も大好物だからとっても感謝してるわ、ありがとう。あっ、もちろん誰にも言わないから安心してね。」
シオンさんはニコニコと笑顔だ。
「カルラさん!、ありがとう!」
マオさんに抱き着かれる。
ふと思ったがマオさんはいくつなのだろう。見た目熊だから判断がつかない。ずっとさん付けしていたが今日の行動を見る限り幼い感じがする。まぁそこまで気にすることでもないか、その内分かるかもしれないし。
「いえいえ、お気になさらず。美味しい料理のお礼みたいなものですので。」
料理が美味しいのは事実。
「カルラさんって実はすごい人なの?。」
抱き着いたままのマオさんがこちらを見上げて小声で聞いてくる。
「いえ、運がいいだけの新人冒険者ですよ。」
答えるとマオさんはシオンさんに剥がされる
「ほらほら、料理が選べないから離れなさい。それじゃカルラさん、本当にありがとね。」
二人は厨房の奥に戻っていった。マオさんは戻り際笑顔で手を振ってくれた。
癒されるね。
その後少し考えて料理を注文する。
「決まりました、肉定食をお願いします。それとパンケーキって作れたりしますか?」
「ああ、作れるぞ。」
「ではそれもお願いします。」
肉食って甘いもので締める、これぞ自由。
料理を待っていると店に人が入ってくる。
「あー、いたいた。カルラちゃーん。」
のんびりと間延びしたような声。目を向けると要塞蜜蜂討伐の時に会った女性、確かアローザさんだったか、と真面目そうな眼鏡の女性、気の強そうなこちらを睨んでいる獣耳の女性、そして金髪ドレスのマッチョがいた。
気の強そうな獣耳の女性がズカズカと近づいてくる。
「お前か!、アローザ様にあんな失礼な返事をしたのは!。Eランクごときが舐めた態度取ってると許さんぞ!」
いきなりだな。確かに言い方は悪かったかもしれないがこちらにも都合があるしな。しかも高圧的な態度で来られると素直に聞く気がなくなってしまう。
どうしたもんかと考えていると厨房からドスの効いた声が飛んでくる。
「おい、うちの客に絡むんなら追い出すぞ。」
ダンさんが顔を覗かせると獣耳の女性の動きが止まる。
ダンさんかっこいいー。
一旦収まったところで残り3人が近づいてきてアローザさんが口を開く。
「カルラちゃんごめんなさいね、この子はすぐに熱くなっちゃうのよ。私から言っておくからどうか許してあげて。」
そういうのは先に言い聞かせておいてほしい。
「店主さんもごめんなさい。お騒がせするつもりはないから食事をしてもいいかしら。」
「ああ、それなら断る理由はない。」
店主の許しが出たのでまだ動きのぎこちない獣耳の女性は眼鏡の女性に連れられて隣のテーブルに、アローザさんとドレスのマッチョは私の向かいに座った。
「何してるんですか?」
私は尋ねる。
「あら、そうよねぇん。隣でお酌しなくちゃねぇん。」
マッチョが私の隣の席に移動しようとする。
「違います、なぜ同じテーブルに座っているのかを聞いています。」
マッチョ、お前はその場から動くな。
アローザさんが答える。
「えー?、食事しながらお話ししようと思ったんだけどダメだった?」
えー?、マジで言ってんの?
「あなた達とは親しい間柄でもないですし断りもなく同じテーブルに着く人は正直嫌いです。」
なぁなぁで流されてトラブルに巻き込まれる展開が一番嫌いだ。
「そうね、嫌な人もいるわよね。」
なんだその反応は、この人の周りはイエスマンしかいないのか?
「ごめんなさい、あなたとお話がしたいから一緒に食事をしてもいいかしら?」
「最初からそう言ってください。」
周りの3人は言ってあげないのか?、逆に可哀そうだわ。
「お前っ!。さっきから聞いていれば生意気だぞ!」
獣耳の女性が立ち上がる。
こいつはダメだな、妄信するタイプだ。
アローザさんが窘める。
「ダメよエラちゃん、今までこんなに言ってくれる人はいなかったでしょ。それにエラちゃんだけ追い出されて一緒にご飯が食べれないのは悲しいわ。」
アローザさんが厨房に目を向けるとダンさんがこちらを見ており、それを見たエラと呼ばれた獣耳の女性は静かに席に着いた。
「それで、お話してもいいかしら?」
アローザさんはこちらに聞いてくる。
この人は話がしたいだけなのか。まぁ迷惑をかけられないならいいか、アローザさんの隣で熱い視線を向けてくるマッチョは迷惑だが。
「お話しできることがあるならいいですよ。それと先に料理を注文してください。」
アローザさんの顔がパッと明るくなる。
隣のマッチョの頬がポッと赤くなる。なんでだよ。
「ありがとう、それじゃあ注文しようかしら。おすすめはあるの?」
私に聞かれても困る、私もこの店に来たのは3回目だ。
「私が教えてもらったのは肉の定食ですね、肉と野菜のスープも食べましたががどちらも美味しいです。」
「じゃあお肉の定食を貰おうかしら、皆はどうする?」
アローザさんが3人に聞くとどうやら同じものにするようだ。4人分注文をして私の方に向き直る。
「さて、それじゃあお話ね。まずは自己紹介でもしようかしら。私達はアパシオナーダっていうBランクパーティーよ、といっても冒険より魔法の研究をしている時間の方が多いんだけどね。リーダーは私アローザ、見ての通りエルフ
よ。」
アローザさんは尖った自分の耳を指さしている。
異世界定番のエルフさんか、ありがたやありがたや。
「そしてさっきから怒っているのが狐人族のエラちゃん。エラちゃんの炎魔法は奇麗なのよ。」
紹介されたエラは静かに睨んでくる。
あれは狐耳か、ちなみに失礼な奴は頭の中では敬称はつけない。
「次はネルケちゃん、繊細な炎魔法で魔道具だって作っちゃうの。」
ネルケと呼ばれた眼鏡の女性は頭を下げる。
ご丁寧にどうも。こちらも頭を下げる。
「最後はビスコちゃん、コントロールは苦手だけどとっても熱い炎魔法が体から出せるの。」
ビスコと呼ばれたマッチョはこちらにウインクしてくる。
お前だけ説明化け物やん。
「私達の自己紹介は終わり、カルラちゃんの事も教えて。」
相手に自己紹介されたらこちらもするしかないな。
「私はカルラ、つい最近この街に来て冒険者になりました。世間の事に疎く皆様の事も存じ上げませんでしたが今覚えました、どうぞよろしく。」
「よろしくね、それじゃいろいろ聞いてもいい?、答えたくなければ答えなくてもいいから。」
アローザさんは前のめりで聞いてくる。
これが本題か。
私が肯定しアローザさんが質問を始めようとしたその時、両手にアツアツの鉄皿を持ったシオンさんとマオさんが料理を運んできた。
「お待たせしました、肉定食です。」
皆の前に料理が並べられていく。
「要塞蜜蜂の女王を倒したのってカルラちゃん?」
アローザさんの言葉にマオさんの料理を並べる手が一瞬止まる。
「なんでそう思ったんですか?」
私は素直に聞いてみる。
「うーん、最初は要塞蜜蜂の巣に魔法を打った時に反撃が全然なかったから疑問に思っててね、その後防衛本部であなたの姿を消す魔法を見て巣に入れるなーって思ったの。確証はなかったんだけどこの子が反応したから多分合ってるかなって。」
そうきたか、正直バレること自体は問題ではない、バレて面倒ごとになるのが嫌なだけだ。
とりあえずとぼけてみるかと口を開こうとした時、
「ごっ、ごめんなさい…。私のせいで、カルラさんの…」
マオさんが泣きそうな顔で声を絞り出す。
おっと、泣くのはノーサンキューだ。
「大丈夫大丈夫、このお姉さんはすごい魔法使いだからすぐに見破られてたから。逆に手間が省けて助かったよ、私も言いたい気分だったし。ほら、マオさんは元気が一番。ね。」
私のフォローを聞いてマオさんは袖でごしごしと涙を拭う。
「うん、でもやっぱり私のせいでお客さんの事を知られちゃうのはダメだよ、お父さんにも言われてたのに、だから、ごめんなさい。」
深々と頭を下げる。
自分の非を認めて謝れるのはいいことだ。どうかその心を失わないまま大人になってほしいものだ。
「謝罪を受け入れて許します。これでこの話は終わりにしましょう。」
頭を上げたマオさんはいつも通り笑顔だ。
「うん!、皆さんもお騒がせしました、それじゃあごゆっくりどうぞ。」
笑顔でシオンさんと厨房の方に戻っていく。
ほぇー、しっかりした子だ。
料理も来たし食べるかとナイフとフォークを手にしたところでアローザさんがもじもじしなから口を開く。
「私の事をお姉さんだなんて、人族からしたらおばあちゃんだよ。」
うるせぇな、大人なら子どもに気を付かえ。お前の発言が原因だぞ。
「あなたの発言が原因ですからもっと配慮してください。気をつけないともう話しませんよ?」
イラっとしたので強めの口調で言う。
「なんという口の利き方!、私の我慢にも限界があるぞ!」
エラがなんか喚くがビスコに窘められる。
「今のはアローザ様が悪いわぁ、それに普段からいる私達が言わないからカルラちゃんが言ってくれてるのよぉ。」
「だがっ!」
「ダメよぉ、アローザ様を理由に怒るのは。それに二人のお話の邪魔しちゃここに来た意味がないでしょ。」
ビスコに言われて静かに食事に手を付けるエラ。しかし一口食べると顔が晴れる。単純か?
私も食事を始めるとアローザさんが沈んだ声で話しかけてくる。
「ごめんなさいね、魔法以外の事はあんまり気が回らなくて。」
「自覚があるなら直して下さい。それを気にしない人で周りを固めるのなら直さなくていいですが少なくとも私と話したいのであれば気をつけてください。」
「わかったわ、気をつける。…ふふっ、歳を重ねると怒られなくなるから言ってもらえるのはうれしいわ。」
そのせいで緊張感もなくなってるからマジで気をつけろよ。Bランクだか知らねぇけど高ランクだからって無条件で尊敬できるとは限らないんだな。…いや、これは私が勝手に思い描いていただけか、改めよ。
「話が逸れちゃったわね、それでもしよかったらなんだけど魔法を見せて欲しいの。もちろん信用ならなければ信用されるまで待つし見せたくないならそれで構わないわ。私はその人の人となりと魔法の関係性を調べているから見せたくないのも含めて知りたいの。」
ちょっとおもしろそうだな。
「今のところ信用なりませんので魔法はお見せしませんがアローザさんの調べていることに少し興味が湧きました。」
「本当?、うれしいわ。なら調べてることについて少しお話しするわね。カルラちゃんは魔法って何なのか知ってる?」
以前ポルカノさんに軽く教えてもらったな。
「確か精霊の力を借りるとかなんとか、触り程度しか知らないですね。」
「うんうん、普通の人はそれくらいよね。じゃあ精霊はどうして力を貸してくれるのかしら、もちろん気まぐれだとか私達の想像できないことだとかいう意見もあるんだけれども私は基準があるんじゃないかと思って調べているの。もしその基準が分かれば自分の使いたい魔法が使えるかもしれないしね。」
まぁ何事にも疑問を持ってそれを解き明かすのはいいんじゃないか。それで精霊の怒りを買って滅ぼされるまでがセットね。
私が妄想しているとアローザさんは続ける。
「私なら種族はエルフ、火の魔法が得意だけれど生活魔法くらいなら他の属性も使える。他のエルフも私の出会った人はだいたい同じで得意な魔法が違うくらい。となると得意な魔法が違うのはなぜなのか、最初はそこから疑問に思ってね、種族が同じなら人となり、性格や考え方、行動からくるのかなって思ったの。まぁそう言った情報をコツコツを集めてる感じかな。」
話を聞く限り途方もないデータが必要じゃないか?、そもそも考え方自体間違っているかもしれないし。まぁでもいつだって何かを成し遂げる人は地道に努力した人だろうしな。応援はするよ。
話を聞いていると肉定食を食べ終わる。すると丁度のタイミングでパンケーキが運ばれてくる。
焼きたてをジャストなタイミングで持ってくるとはこの店のいいところをまた一つ知ってしまったな。
さて、パンケーキには蜂蜜をたっぷりかけて食べようと思っていたのだが同じテーブルの人の目がある。どうしたものか…、まっ、別にいいか。今日は自分へのご褒美だし、愛のままにわがままに、僕は蜂蜜を傷つけない。
ついでにアイテムボックス内の木苺と蜂蜜を新たに買ったフライパンで過熱してジャムを作る。砂糖の変わりに蜂蜜でジャムが作れると聞いたことがあるが果たしてお味の方は。
まずは蜂蜜をかけて一口…。前世のテレビで見たようなふわふわなパンケーキではなくはしっかりとしたやつだが甘く濃厚な蜂蜜を絡ませて頬張ると口の中が幸せで満たされる。
これは美味い。甘さもくどくなく二口、三口と食べてもまったく手が止まる気配はしない。あっという間に一枚平らげてしまった。甘いものは別腹とはよく言ったもんだ。
「すみません、パンケーキもう一枚追加でお願いします。」
厨房からダンさんの返事が返ってくる。
次のパンケーキを待っているとアローザさんが話しかけてくる。
「さっきの蜂蜜はどこから出したの?、それもあなたの魔法?」
さぁ?、どうでしょう?
「私から魔法を見せたり説明することはありませんが勝手に見る分にはご自由にどうぞ。」
アローザさんは目を輝かせて私を見ている。いや、観察している。
アローザさんが話し終わると隣のテーブルに座っていた眼鏡の女性、ネルケさんが話しかけてくる。
「今のは要塞蜜蜂の蜂蜜ですか?」
この方と話すのは初めてだな。要塞蜜蜂については私が女王を倒したことはこの人達にはバレているみたいだから言ってもいいか。
「ええ、そうですよ。」
ネルケさんの目が見開かれた、と思ったすぐに表情が戻る。クールな人なのかな?
「もしよかったら私にも食べさせてもらえないでしょうか。もちろんお金は払いますのでどうか。」
真剣な顔だ。
「あっ、なら私にもくれっ!。」
エラがその横から割り込んでくる。
なぜこいつはあれだけ突っかかった相手から物を恵んでもらえると思えるのだろうか?。頭おかしいんか?
「ネルケさんでしたか、別に食べる分の蜂蜜くらい差し上げますよ。パンケーキはお店で注文をお願いしますが。ただしエラ、テメーはダメだ。」
「なっ、私は先輩だぞ!」
ネルケさんは表情を緩ませエラは眉を吊り上げる。
「なんの先輩かは知らんし先に冒険者になろうがランクが高かろうが失礼な奴に恵んでやる物はない。礼儀を弁えてから出直してこい。」
「ムキー!、Eランクのくせに!」
私の判断基準は尊敬できるか否かだ。基本出会った人は尊敬から始まるが行動次第で軽蔑、嫌悪と下がっていく。エラは今のところ軽蔑。
「あらあら、エラちゃんはカルラちゃんに嫌われちゃったわねぇん。ちなみに私は分けてもらえるのかしらぁん。」
ビスコさんも聞いてくる。
討伐の時は心の中でさんざん悪態をついたが正直距離感を間違えてこなければこの人は嫌いじゃない。私はいろんなキャラに弱いのだがその中でも普段はお姉キャラでいざという時にゴリゴリの漢になるキャラに弱いのだ。傍から見る分にはだが。
「ビスコさんは失礼なことはしていませんので構いませんよ。ちなみに差し上げたものを仲間に分けても何も言いません。」
エラの顔がパァと明るくなり二人の顔を交互に見る。
「やるべきことをやれば考えます。」
「そうねぇん、こういうのはちゃんとしないとねぇん。」
ネルケさんとビスコさんの言っていることが分からないようでエラは困惑顔だ。
「なんだ!?、何をすればいいんだ?、教えてくれぇ。」
やり取りを見ているとパーティーの関係性が何となく見えてくるな。今の私には眩しい光景だ。
しみじみと考えながらアローザさんに聞いてみる。
「アローザさんも蜂蜜いかがですか?」
「ぜひともいただくわ。」
信用してないとは言ったがアローザさんは尊敬ラインから転落していないので普通に対応する。邪険にはしない。
3人はパンケーキを注文しエラはまだ考えている。そんなエラにビスコさんが耳打ちする。
ハッとしたエラが私の方を向き胸を張って言う。
「後輩!、先輩に媚びを売っておけば面倒見てやるぞ!」
ビスコさんは後ろで頭を抱えており、アローザさんとネルケさんはいつもの事かのようにどこ吹く風だ。
「ごめんなさい、優しい言葉を使うのよって言ったんだけど勘違いしちゃったみたい。」
「ビスコさんは気にしないでいいですよ。」
ビスコさんが謝ってくれるが別に気にしていない。エラへの評価が嫌悪から無関心に向かいつつあるからだ。
そんなやり取りをしていると一人を除く皆の前にパンケーキが到着する。
三人のパンケーキには蜂蜜を掛け私のパンケーキには木苺蜂蜜ジャムを載せる。
「それは何ですか?」
ネルケさんが聞いてくる。
「木苺と蜂蜜で作ったジャムです。私も初めて食べるのですが試してみますか?」
三人とも頷くので容器に詰めてテーブルに置く。
魔法を使うたびにアローザさんが目を輝かせているのは気のせいではないだろう。しっかり観察されている。
準備が整ったので四人でパンケーキを食べる。…私は2枚目だが。
木苺蜂蜜ジャムは蜂蜜の甘さに木苺の酸味が合わさり抜群の美味しさだ。やはり私は甘酸っぱいものが好きだ。
三人も味に感動しているのか笑顔で頬張っている。いい笑顔だ。
甘味を堪能していると服の袖を引っ張られる。
「私はどうすれば蜂蜜を貰えるのだ…、はっきり言ってくれ…。」
狐耳を畳みしょぼんとした表情のエラ。
私は失礼な人は嫌いだ。特に高圧的な態度は一発で尊敬度が下がる。
「あなたは初対面にも関わらず下のランクを理由に高圧的な態度で突っかかってきましたので嫌いです。そして嫌いな相手に物を分け与えたりはしません。あなたの今後の行動で評価を改める可能性もありますが現状は話しかけられたくもありません。」
エラはショックを受けたような顔で呟く。
「これでも私はすごいんだぞ…、街では声をかけられるし…、Bランクパーティーのメンバーだし…。」
知るか、どちらも私には何の関係もない。せっかくの甘味を楽しむ空気が悪くなる。
「ではパーティーと話して分けてもらえばいいんじゃないですか。私は席を移動しますね。失礼します。」
私はパンケーキの皿を持ってカウンター席の方に移動する。
するとダンさんが小声で話しかけてくる。
「あんまり上のランクの人と揉めると嫌がらせとか面倒くさいことになるぞ。」
どこでも縦社会は面倒だね。
「ご忠告ありがとうございます、そうなったらその時考えます。それよりパンケーキ美味しいですね。」
木苺とコムの実の果肉をトッピングして更に楽しむ。木苺の食感とコムの実の果物の甘みが加わり無限の美味しさだ。
「パンケーキがトッピングで埋もれてんじゃねぇか、まぁ面倒事をどう対処するかも冒険者には必要か。」
ダンさんと話していると後ろから声をかけられる。
「お隣、よろしいかしらぁん?」
振り向くとビスコさん。話し方でわかるな。
「どうぞ。」
「ありがとぉん。」
ビスコさんが隣に座る。
「さっきはごめんなさいねぇ、エラちゃんは悪い子じゃないんだけど周りが見えなくなることがある上に打たれ弱くてねぇ。そこがかわいいところでもあるんだけれどカルラちゃんには合わなかったみたいねぇん。」
そうだな、人には相性がある。私には合わなかった、ただそれだけだ。
「それとアローザ様がまた会って話をしてくれると嬉しいって言っていたからカルラちゃんがよければお願いしたいわぁん。」
「お互いの都合が合えば構いませんとお伝えください。」
「必ず伝えるわぁん。それじゃ私達はお先に失礼するわねぇん、蜂蜜もおいしかったわぁ、ありがとねぇん。チュッ。」
ビスコさんは投げキッスをしてパーティーの皆と店を去っていった。
はぁ、仲間か…。
私が思い出してブルーになりかかっているとダンさんが声をかけてくれる。
「さっきの奴らとなんかあったか?、飯食ってるときは何ともなさそうだったが。」
よく見てるね。
「ダンさんにちょっとお聞きしてもいいですか?」
「おう、どうした?」
「冒険者をしていて仲間や知り合いを亡くしたことはありますか?」
「…ああ、あるな。」
「その時は気分が落ち込んだりしましたか?」
「そりゃあな。…そうかお前、昨日の討伐で誰か亡くしたのか。」
「はい…、知り合って間もない方だったのですが頭から離れなくて…。ダンさんはこういう時どうやって踏ん切りをつけていますか?」
「踏ん切りか…、これは俺も含め大体の冒険者が持っている考えだが、冒険者ってのは命を懸ける事を承知でなるもんだ。それを他人が気にするのはそいつの覚悟にケチをつけるも同じだ。だから死んだ奴の為に献杯することはあっても悲しみに暮れて歩みを止めることはしないな。…答えになったか?」
そうか…、この世界の人達はそういう考えなのか。そうだよな…、環境が違えば考えも違うよな。
「ありがとうございます。」
「まぁ冒険者の壁の一つだな、耐えきれずに辞める奴も珍しくないからカルラなりに考えて踏ん切りをつけるしかないな。」
そうだな、顔見知りの関係でこの心の乱れ様だからな、仲間とかだったらやばいかもしれない。私の冒険者生活はここで終了か?、…いや、気が早いか。ソロで活動すればいいし。あとは踏ん切りか、さっきのダンさんの考えなら冒険者は死ぬもんだと、本人も分かっているから他人が気にすることではないと、うーん、でもこう言っちゃなんだが考えるのは残された方だしな、まぁだからどう踏ん切るかなのか、
…、
…、
…よし、忘れよう。人間は忘れることのできる生き物だ。忘れることで自分の心を守る、忘れることは悪いことではない。うん、まぁそんなキッパリ忘れることはできないので徐々に薄れさせていくしかないのだが、それは時間が解決してくれるだろう。薄情かもしれないが強引にでも踏ん切りをつけよう。
決心を固め残りのパンケーキを平らげる。
やはり甘いものはいいな。
「ご馳走様でした、今日も美味しかったです。」
ダンさんに伝える。
「おう、またいつでも来い。」
奥からシオンさんとマオさんが顔を出し見送ってくれる。
私は挨拶して店を後にする。
外は夜、ぶらぶらと歩きながら考える。
最初はひっそりと生きていこうと思っていたが早々に破綻してきた。まぁものぐさな性格が悪いのだがこれが私なのでそれはしょうがない。人には恵まれている,一人で生きていく分には十分な生活基盤は整った、後は何を目的に生きていくかだが…。名声?、金?、持ち家?、この世の食を制覇?、旅行?、うーん…、名声には興味ない、その他は基本お金がいる、一先ずはお金稼ぎかな。お金が貯まったらその後の事は考えよう。段階的な目標設定と達成の繰り返しでモチベーションが保たれると聞いたことがあるのでこれでいこう。
思えば贅沢な悩みだ、私は幸運だな。
手頃な裏路地で自分の魔法空間に入る。
今日はもう休もう。
気持ちが完全にすっきりした訳ではないが前に進めるくらいには回復した。明日も何となくで頑張ろう。




