11.騒動
外からの音で目が覚める。窓の方に目をやると外はまだ薄暗い。
街の人達の朝は夜明け前から始まるのだろう。
体を伸ばしベッドから起き上がる。準備運動と魔力循環をして一日を始める。
部屋を出る前にベッドはキレイにしてマントと鞄を装備していざ出発。
階段を降りると箒を持ったおばちゃんがいた。
「あら、あんたも早いんだねぇ。お昼までは部屋は使えるけどもう出るのかい?」
部屋でやりたいこともないし大丈夫かな。
「はい、もう出ます。部屋がキレイでとても心地よかったです。どうもお世話になりました。」
「そう言ってもらえるとうれしいねぇ。またいつでも来ておくれ。」
挨拶を済ませ宿を後にする。
空はまだ暗く人が本格的に活動する時間ではなさそうなので街をぶらぶらと散策してみる。自由に行動したいので透過魔法は発動して。
当てもなく歩いているとちらほらと人を見かける。掃除や水汲み、店の準備をしている人。うーん、これが人の営みってやつなのかね。意味はよく知らんけど。
しばらく歩いてやることがないことに気づく。
さすがに朝が早すぎたな。店も開いてないしギルドにでも行くか?。行き先を考えているとふと思い出す。
そういえばギルドには訓練場があったな。他の人がどんな動きをしているかあまり情報を持っていない。私が見たのは最初の検査してくれた教官みたいな人とトカゲ兄妹くらいだ。暇だし行ってみるか。
行き先が決まったので早速向かう。
ギルドに入ると職員の人が作業しており依頼の張り出しを待っている冒険者が何人かいた。
私は奥の通路をから中庭に出てそこから地下にある訓練場へ降りて行った。
訓練場では朝早くにもかかわらず数人が体を動かしていた。柔軟、ジョギング、ダッシュなど私が見てわかるものから剣の型?を確認している人や目を瞑り胡坐をかいている人など様々だ。
私も隅の方で体をほぐす。ちなみに透過魔法はギルドに入る前に解除している。人の動きを観察しようと思ったが本格的に体を動かしている人はいないようなので軽い運動でもするか。
準備運動をして訓練場の壁沿いを走る。
少しするとぽつぽつと人が増えてきてその中に見覚えのあるトカゲ頭のセデクがいた。
遠くから見ていて気付いたが彼の周りにいる冒険者は不満げな顔をしている。まぁ彼の印象はオラオラ系の俺様タイプなのでトラブルがあっても驚かないが。
そんなことを考えているとセデクは準備運動が終わったようで槍を持って鎧をつけた木人形の前に移動した。そして息を吐いて木人形に向かって槍を振り下ろす。突き、薙ぎ、体術を混ぜてと連撃を繰り出している。…繰り出しているのはいいんだが周りの人が迷惑そうにしている。あれだけ長物を振り回すなら一言周りに声をかけないとダメじゃないか?。あれは嫌われるな。
ちなみに私は自分に被害がなければ他人の行動は自由という考えなので注意はしない。仲良くもないしな。
セデクは一通り動くとさっさと訓練場を後にした。あの短時間なら苦情はこないのか?、…いや、文句を言って絡まれるよりか我慢するって感じか?、うーん上のランクの人なら注意しそうだがどうなんだろ。
気になったので近くにいた武器の手入れをしている人に聞いてみる。
「おはようございます。先ほどの槍を持った人はすごかったですね。」
「あぁ、おはよう。あいつは最近来た新人でな、腕は立つんだが生意気な奴で問題も多い。あんまり近づかない方がいいぞ。」
うわぁ、ストレート低評価じゃん。
「ギルドや上のランクの人達は注意とかしないんですか?」
「そっちの人達は実力を買ってるみたいでなにも言わないんだよ。」
憎まれっ子世に憚るってやつかな。
教えてくれた人にお礼を言って離れる。
参考にできるほど体を動かしている人がいなかったのでそろそろお暇する。
依頼でも見に行くか。
ギルドのエントランスに移動すると朝の依頼受注で賑わっていた。
依頼ボードの方は近づきがたいので掲示板を見る。そこには”北東の森に異常が見られます。現在調査中ですが近づく際は自己責任です。しかし有力な情報には報酬が支払われます。”と張り出されていた。
ふーん、こういうのが一攫千金とか評価を上げるチャンスなのかね。
評価はあげたいがどうしたものか。
悩んでいると掲示板に貼られた別の紙が目に入る。
”傷に効く薬草を高価買取します。5つ単位から”
”ポーション類を高価買取します。1本単位から”
おー、薬草は集めればいいとしてポーションは素人でも作れるのか?
一旦掲示板から離れて壁際に寄る。
資料の情報を調べてみるとポーションは薬草などの素材の成分を抽出、調合して効果を高めた液体とあり、作成には手作業、魔道具、魔法によるものがあるとあった。作成方法を探してみると手作業での方法だけ出てきた。
ギルドの資料には魔道具や魔法で作る方法はないみたいだな。
手作業での方法はというと、薬草を使う場合は薬草を細かく刻んで布で絞る。絞った液体ときれいな水、少量の粉末にした魔石を混ぜて火にかける。色が変わったら冷まして清潔な容器に入れて完成。
うーん、分量など詳細な情報はないな。ギルドの資料は新人向けだからアバウトな情報しかないのか?。…いや、魔物の情報は詳細なものがあったしなぁ。
まぁ無料の情報だしな、そういうものだと割り切ろう。
とりあえず今日は昼まで薬草集めをしてその後ポルカノさんにでもポーションの作り方や容器について聞いてみるか。
依頼争奪は私には無理なのでギルドを後にする。
外に出ると空には日が昇り通りでは多くの人が活動を始めている。
歩いて門に向かい街の外に出る。
ポーションには魔石を使うんだったな、感知魔法で傷に効く薬草を自動回収しながら魔物がいたら狩って集めよう。
日が真上に来るまで草原を探索して魔物数匹と薬草十数本ほど集まった。
当初の予定通り一旦街に戻る。薬草は高価買取と掲示されていたのでどれほどになるか一度ギルドに行ってみようかな。
ギルドに着くと何やら騒がしく昼の時間帯にもかかわらず多くの人が集まっていた。
周りの人に聞ける雰囲気ではないので話し声に耳を傾ける。
「要塞が…」
「昨日はあんなものなかったのに…」
「人を集めないと…」
話を聞く限り何か脅威が現れたのか?、要塞という単語が聞こえたので昨日カイルさん達が言っていた要塞蜜蜂なる魔物かな?
集まっている冒険者の様子を見る限り結構危ない状況なのか緊張した空気が流れている。
周りの様子を窺っているとギルドの職員さんが声を上げる。
「お集りの冒険者の皆さん、現在要塞蜜蜂の巣が確認されておりその大きさはランクC相当と見られます。すでに危険な大きさな為ここに招集を発令し討伐作戦を実行いたします。つきましては受付にてギルドカードを提示し指示があるまで待機してください。繰り返します…。」
あれ?、低ランクも招集されるのか。まぁ初めての事だし従いましょう。
大人しく受付の列に並びギルドカードを提示すると読み取られただけですぐに終わった。
後は待機すればいいのか。思うに参加者を把握して作戦内容や振り分けを考えると見た。
壁の方で待機しているとどんどん人が集まってくる。混雑するかなと思ったがギルドに入って来るのと同じくらいの人数が入れ替わりで出て行っている。よく見ると出て行っているのは4,5人のグループのようで人をまとめて順次送り出しているように見えた。
こういう時は兵は考えずに上の命令に従うのがスムーズに行くよななどと考えていると見知った顔にいきなり声をかけられる。
「おい、テメェは俺と妹と組むことになった。先に言っておくが期待はしてねぇ。足だけは引っ張るなよ。」
どうした?、いきなり。
「に、兄さん…。」
現れたのはトカゲ兄妹、セデクとルトラ。
正直この二人は嫌いなんだがな。兄の方は他人へのリスペクトがないし妹の方は言葉だけの謝罪で兄の行動を改善させないし。まぁ他人がとやかく言うことではないけど私には合わない、それに尽きる。
もしかしたら今回一緒に行動することでいいところを垣間見れるかもしれないけどね。私はチョロいので他人の評価は簡単に変わるし。
「そうなんですね、どうぞよろしく。」
考えは顔に出さずに無難に挨拶をする。
「チッ。」
舌打ちで返される。挨拶もできないとは。
「兄がごめんなさい…。ギルドの指示で臨時のパーティーをということになりました。私たちはEランクでカルラさんも昇格の条件を満たしているらしく同ランクとしての行動とのことです。どうぞよろしくお願いします。」
昨日の依頼で昇格出来てたのね。今は緊急事態だからギルドからは話がなかったと。了解。
「とりあえずさっさと行くぞ。情報共有は道すがらだ。」
セデクの言葉に返事をしてギルドを出ると二人は走り出す。
街中で危ないなと思いつつ後ろを付いて行く。何事もなく門を出るとルトラが説明してくれる。
「先遣隊が防衛地点までの道を作ってくれているそうです。まずはそこに行きましょう。」
「わかりました。」
進行方向の森を見てみると奥に白っぽい大きなものが頭を覗かせておりその周りを無数の何かが飛んでいた。
確かにあんなもの昨日はなかった。といっても今日の午前中も気づいてはいなかったが。
森に着くと木が切られ道となっていたので速度を緩めずに走る続ける。
二人の装備は軽装で動きやすさを重視しているように見える。そのため武器を持って走っていてもかなりのスピードだ。ちなみに二人は以前と同じように槍を担いでいる。
…やべ、私は何も武器を持っていなかった。今は何も言われてないが戦闘が始まったらどうしよう。
いらんことを考えていると開けた場所に到着した。そこは木を切って作られたスペースでテントがいくつか設置されており複数の冒険者が忙しそうにしていた。
私達は一際大きなテントの近くで指示を出しているリーダーらしき男性の下へ行く。
まぁ私は二人の後ろを付いて行っているだけだが。
セデクが男性に話しかける。
「Eランクの臨時3人グループだ。指示をくれ。」
男性は私達3人を順に見てから口を開く。
「確か二人は噂になっているリザードマンの兄妹だな。Eランクなら後方支援を指示するが今は防衛線の設置で戦力が欲しい。危険な作業をやる気はあるか。臨時の者がいるから断ってもいいがすぐに決めてくれ。」
二人は有名人だね。
私の意思を伝えようとするとセデクが先に答える。
「大丈夫だ、その危険な作業をやる。」
話し合いはなし、と。どんどん彼への評価が下がっていく。
「…わかった。現在は要塞蜜蜂の巣を囲むように防衛線を設置している途中だ。ここから左右に広げているが蜂兵が邪魔してきて中々進んでいない。なので防衛線の先端に行って魔物の対処を手伝ってくれ。」
「わかった、では行く。」
セデクは了承して移動を始めたので付いて行く。
セデク君は偉い人には素直なのね。
移動しているとセデクが言う。
「言っておくがギルドの指示だからパーティー組んでるだけだ、臨時のパーティーだろうと助けねぇから覚えとけ。実力に見合ってねぇと思うなら最初から隅っこで隠れてな。」
口が悪いな。まぁそういうスタンスね、理解しました。
「あいよ、では私は一緒に行動しますがお二人はいないものとして動きますね。それではよろしく。」
セデクはムッとした表情で舌打ちする。
なんだ?、何を期待してたんだ。
セデクとの会話が終わるとルトラが小声で話しかけてくる。
「ごめんなさい、兄の言い方は悪いですが私達兄妹は早く強くならないといけないんです…。」
で、出たぁー。問題を抱えた登場人物だー。そして後々発覚してもっと早く言っておけば大きな問題にならなかったのに、ってやつー。
実際にどうなるかは知らないができるだけ関わりたくはないな。
物語で個人的にイラつく展開を考えながらも何事もないように返す。
「いえいえ、お気になさらず。どうぞご自身の事を優先に行動してください。」
ルトラさんは何か言いたそうだったが目的地に到着したので会話が続くことはなかった。
到着したのは木が切り開かれたスペースの終着点。
そこには数名の冒険者がおり、周りを警戒している人達と丸太で作った防衛柵の後ろで身を潜めている人達がいた。
こちらに気づいた一人が大柄で赤い鎧を着た男に伝えると手招きされる。
あれがここのリーダーかな?
セデクが赤鎧の男と話す。
「Eランク3名到着した。臨時パーティーだが俺と妹は腕に自信がある。壁でもなんでもやらせてくれ。」
「噂のリザードマンか、口だけでないことを期待するぞ。状況を説明すると防衛線を築くための空間を作るのに風魔法使いにまとめて木を伐採してもらっているんだがその都度蜂兵の大群に襲われてな。木を切るために魔力は温存してもらっているから蜂兵は魔法なしで対処していてなかなか進んでいない状況だ。」
「風魔法使い以外はいないのか。」
セデクが質問する。それは私も思った。
「火魔法使いがいたんだが真っ先に狙われた。大群相手に魔法使いを守りながらは危険な為責任者判断で今は戦闘からは外している。」
「そういうことならうちの妹は戦える。自分の身は守れるし火の魔法も使えるからな。」
周りから期待に満ちた声が上がる。
「そういうことなら一度試してみる、一刻も早く防衛線を張りたいしな。だが忘れるな、俺が無理だと判断したならお前らは後方支援だ。」
セデクは頷きルトラと一緒に周りを警戒している冒険者に混ざる。
赤鎧の男は私の方を向く。
「ちなみに君は…、いや、君は丸太の柵の近くにいる魔法使いたちと一緒にいてくれ。」
私はアピールが足りなかったみたいだ。まぁ自ら前に出るタイプでもないし他人と一緒に戦った経験もないから大人しくしときましょ。
指示に従い移動すると丸太の柵の陰にはローブを纏った女性と眼鏡をかけた男性がいた。
「どうもこんにちは。」
挨拶して近づくと女性の方は返事をしてくれたが男性の方は震えていてこちらの方を見ていない。
「ごめんなさいね、この人は蜂兵の大群に襲われて大変だったのよ。」
先ほどリーダーが言っていた狙われた火魔法使いの人か。
火魔法使いの人は何やら呟いている。
「おかしい…、おかしいよ…、明らかに…、僕を…、」
聞き取れないので耳を近づけようとすると女性にやんわりと止められる。
「そっとしておいてあげて、何か見たみたいで怖がっているの。」
こりゃ配慮が足りませんでしたな、失敬、失敬。
「失礼しました。」
謝ると女性は微笑む。
「若いわね。あなたランクは?」
「Fランクですが昇格の条件を満たしているみたいでEランクとしてこちらに参加しています。新人ですがよろしくお願いします。」
「そうなの、でもここに送られてきたってことはギルドが評価しているからだと思うわよ。同じ冒険者としてよろしくね。」
こちらは風魔法使いの人か。いい人そうだ。
少し会話をしたところでリーダーの赤鎧の人から指示が飛ぶ。
「新たに戦力が合流したので防衛線作りを再開する。周りの奴らは引き続き警戒、リサは合図で所定の範囲の木を切り倒してくれ。」
風魔法使いの人はリサさんと言うのか。
リサさんは立ち上がり私に小さく手を振ってリーダの方へ移動する。
冒険者達の準備が整ったのかリーダーが合図を出すと防衛線作りが始める。
リサさんが風魔法で広範囲の木を切り倒すと周りの冒険者数人がそれを運び簡易的な柵を作っていく。
柵は木を並べただけのものであんなので大丈夫かと心配に思ったがここに来る途中の柵は壁のようにしっかりしたものだったのでおそらく後続の部隊が最終的なものを作るのだろう。分担作業ってやつね。
そんなことを考えているとどこからかヴォーンという重く耳障りな音が聞こえてきた。
「全員戦闘態勢!、リサは柵の影へ!」
リーダーの声が辺りに響くとすぐに戦闘が始まる。
私は柵の影から様子を窺う。
そこには人ほどの大きさの蜂が冒険者と戦っていた。
要塞蜜蜂という名前だったが見た目はスズメバチのようなシャープな感じで地上に這っているものと空を飛んでいるものがいた。
冒険者達は背後を取られないように互いに守り合い一匹ずつだが確実に倒していっている。
なるほど時間はかかるが安全な方法だな。
蜂兵は数は多いが一斉に攻撃してくることはないようで冒険者一人に対して二、三体が襲ってきている状況だ。
…魔物だからか?、数の有利を生かせよ。敵味方関係なく針で刺せよ。
おっといかんいかん、魔物を応援してどうする。それに魔物だって考えがあるよな、人間と同じ考えとは限らないし。反省反省。
応戦している人達を眺めているとその中から赤い光の線が飛んでいき蜂兵の大群を爆発とともに吹き飛ばす。
はぇー、あれがルトラの魔法か。爆発は派手だね。
爆炎が消えると蜂兵の大群は跡形もなく消えていた。戦っていた冒険者から歓声が上がる。しかしここで周りに散らばっていた他の大群がルトラの方に一斉に襲い掛かる。その様子は今までの数匹で攻めていたのとは打って変わって見境なく群がるような凶暴さが見て取れた。
ルトラがどのように戦うのか注目していると横にいた影が近づく魔物を次々に蹴散らす。よく見るとそれは兄のセデクで槍で的確に急所を貫き、薙ぎ払うと蜂兵はふっ飛ばされていく。
ルトラが魔法で広範囲を攻撃し狙ってくるのならセデクが迎え撃つ。
あれが噂になる人の動きなんだね。
感心していると重なった蜂兵の一匹がセデクの攻撃をすり抜けルトラに襲い掛かる。ルトラは詠唱中のようだったが即座に反応して兄と同じように危なげなく処理した。
その後何度か魔法が放たれると集まって来た蜂兵たちの討伐が完了した。
戦っていた冒険者達は口々に兄妹を称賛し穏やかな空気が流れている。
リーダーの男が周りに言う。
「よし!いい調子だ、息を整えたらどんどん進めていくぞ。リサ!魔力は大丈夫か。」
リーダーからの問いにリサさんは問題ないと手を挙げて答える。
次の場所に移動するみたいなので蹲っている火魔法使いの人に声をかける。
「すみません、次の場所へ移動みたいですが動けそうですか?」
返事はない。困ったのでリサさんを見るとリサさんはリーダーともう一人、犬の獣人らしき人を呼んだ。
二人は火魔法使いの様子を見た後リーダーが獣人の人に問いかける。
「この作戦のリーダーは俺だが彼のパーティーリーダーは君だ。君の意見を尊重したいと思うがどうする。」
リーダーそれ優しさか?、どうするって何よ、判断を任せていざという時責任逃れ出来るようにしていないか?。考えすぎか。
「俺の意見を尊重してくれんのはありがてぇがこいつがこんなに役立たずとは知らなかったんだ、こいつはここに置いていこう。」
無情!、圧倒的無情!!
「そうか…、しかし一人だけ置いていくとなるとな。」
リーダーは考えるそぶりをする。
「じゃあこいつも置いていくか、戦闘では何もしていなかったし。」
獣人の人が私を指さす。
事実だな、なんも言えねぇ。
「いや、彼はリサと一緒にいさせるよ。」
リーダーがそう言うと獣人の人は何か気づいたように返事をする。
「あぁ、そういう…。」
これ完璧捨て駒にされるやつやん。魔法使いより新人の命の方が安いってやつですやん。これで逆に新人に経験を積ませるためにあえて連れていくとかなら惚れるわ。尊敬したるわ。
心の中で変な関西弁を出していると二人の話はまとまったようで他の人達を呼んで説明している。
「みんな聞いてくれ、作戦があるので彼はここに置いていく、一応木や草で隠していくので後続部隊が見つけてくれるだろう。後続部隊なら予備の人員もいるので街まで運んでくれるから心配はいらない。」
リーダーの話を聞いて大体の人は受け入れていたが二人ほどは納得できないような顔をして獣人の男に詰め寄っていた。しかしそれも獣人の男が宥めると渋々ながらも引き下がったようだ。
あれは火魔法使いのパーティーの人達かな。私は今回臨時パーティーでの参加だがあの人達は元々パーティーだったってことね。しかしリーダーの言うことは絶対で抗議空しく火魔法使いさんは置いて行かれると。悲しいね。
火魔法使いの人の上から木や草を被せると警戒しながら移動となる。
リサさんの魔法はかなりの距離の木を切り倒したようで森の中の開けた空間が奥へと続いている。
私達一行は無言で進む。
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カルラ達のいた遥か上空。そこには子どもほどの大きさの半透明な蜂がおり冒険者達の行動を監視していた。
人数、戦い方、強者、魔法を使う者、そして置いて行かれた単独の者。
半透明な蜂が巣の方に飛んでいくとすぐに蜂兵が現れる。
その数は3匹、それは的確な人員、いや、蜂員配備であるかのように派遣され、まっすぐに火魔法使いの隠されているところに降り立った。
木や草が取り除かれ火魔法使いが露になる。
「な、なんっ…」
火魔法使いが驚きを口にする間もなく大顎で喉を切り裂かれる。
その手際は魔法使いの弱点を知っているかのようであった。
蜂兵2匹が火魔法使いの死体を運び、残りの1匹が周りを警戒しながら飛び立って行く。その様子は奇しくも冒険者の行動に似ていた。
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私達が再び開けた空間の行き止まりに着くとリサさんの魔法で作業が開始する。2度目ともなるのでトカゲ兄妹は置いておいて他の人達を観察する。
赤鎧のリーダーは長い剣、ロングソードってやつかな?、を使い危なげなく蜂兵に対処している。その隣には軽装に弓矢を背負った細身の男性が短剣で戦っている。あの二人は互いに連携しているように見えるので本来のパーティーなのかもしれない。
次に犬の獣人の人、宥めていた2人と一緒に戦っている。武器は3人とも剣。これと言って特徴はないがそれは見ている私が素人だからだろう。
最後は猫の獣人と半獣人の3人組。ちなみに獣人と半獣人は私が勝手に言っているだけで正式かは知らない。人型で獣の割合が多ければ獣人、獣の要素がありつつ人の割合が大きければ半獣人って感じかな。もちろん正式名称が分かるまでは他人の前では口に出さないように気をつける。
話を戻すが猫獣人の人は服装からして女性かな、軽やかに動いて短剣で蜂兵を倒している。残りの猫耳の2人は男性でこちらも短剣で戦っている。腰に複数の小型ナイフが見えるので場合によっては投擲するのだろう。
冒険者達は互いに背を守りながらも元々のパーティーとは連携して戦っていると、勉強になるなぁ。…明日には忘れそうだけど。
「あまり顔を出すと狙われちゃうわよ。」
リサさんが優しく声をかけてくる。
確かにこちらを狙われたらリサさんにも迷惑がかかるな。一通り観察できたしもうやめとくか。
「はい、隠れておきます。」
「ふふっ、素直ね。おまり物怖じしていないようだけれども魔物は怖くない?」
あのサイズの虫は怖いが魔物だから怖いという発想はないな。
「あまり怖いとは思いませんね。まぁ昔から変とは言われるので感覚はおかしいんでしょうが。」
一応昔からアピールしとく。
「それは考え方次第よ、冒険者なら恐怖で体が動かないと死んじゃうからね。魔物が怖くないのは一つの才能と考えてもいいんじゃないかしら。」
リサさんいいこと言うなぁ。そうね、考え方一つで利点にも欠点にもなるっていうね。
「ありがとうございます、そう言っていただけると助かります。」
その後は和やかに談笑していると戦闘音が止む、どうやらあちらは終わったようだ。
その後何度か戦闘を繰り返すと反対側からの部隊と合流することができリーダーから交代で警戒と休憩をしつつ待機との指示が下された。
私は一人で丸太の柵に腰掛ける。
私は何もせずにここまで来たがよかったのだろうか。…いや、絶対陰で何か言われている。私でも必死に戦っている中何もしないでおしゃべりしている奴がいたら文句は言わないにしても不満は持つわ。
と言ってもな、やる気のある無能が一番悪いって聞くしな。集団行動で良かれと思っても勝手に動くのはダメだし。
ということで開き直って何もしない。
私は思うのだが指示待ち人間は嫌われるというが問題はその人ではないと思う。これは会社などの組織での話だが指示待ち人間と言われるのは大体新人や一般社員だ。社長です、指示を下さい。や、部長です、何すればいいかわかりません。なんてのはいない、そいつらは指示を出す側だから当然だ。前者は使われる側、後者は使う側だ。これは悪い意味ではなく上の者に使われて会社に利益を出す、下の者を使って会社に利益を出すと目的は同じだ。これが組織という大人数をまとめる仕組みだと思っている。なので指示を出すのが仕事の人がいるし指示を受けて動くという人がいるのは普通だと思う。自分で考えて行動しろと言う人もいるがあれは指示する側の手間と責任をなくして利益だけよこせと言っていると同じだ。まぁ中間管理職も大変なんだろうけどね、断る人も増えてるってどこかで聞いたし。
前世の記憶で現状の事を考えていると誰かが近づいてくる。
「新人君、調子はどう?」
声をかけてきたのはリサさん。
何もしていないから元気いっぱいだ。おそらくこの人が言うのは皮肉ではないだろうから丁寧に答える。
「お気遣いありがとうございます、調子は上々です。そういえば名乗っておりませんでしたがカルラと申します。」
「ご丁寧にどうも、なら私も自己紹介するわね。Cランクパーティー赤流の魔法使いリサよ。パーティー名で分かるかもしれないけどさっきの作戦でリーダーをしていたのがうちのリーダーでもあるわ。」
赤鎧の人と同じパーティーなのか、これは赤鎧の人がいい人かリサさんが悪い人かわかんないな。一体どうなってしまうのかぁ、わかりません!
「よかったら聞いてもいいかしら?」
リサさんが敵か味方かわからないので必要最小限で答えよう。
「はい、なんでもどうぞ。」
「あなた武器は何を使うの?、大きいものは持っていないように見えるけど。」
「武器は何を使うか考え中なので今は素手です。あとは土魔法が使えるので石を作って投げて戦います。」
「そうなのね、先輩からのアドバイスをしてもいいかしら。」
聞きましょう。
「ぜひお願いします。」
「ふふっ、やっぱり素直ね。アドバイスとしては戦士か魔法使いかどちらかに絞ることをおすすめするわ。あのリザードマンの女の子を見て憧れるかもしれないけれどあれは小さい頃から鍛錬しているわ。今武器を考えている状況なら一つに絞った方がお金もかからないし成長も早いわ。それに慣れない状態で魔物と戦うのは危険だしね。」
しっかりとしたアドバイスだった。
「もちろんこれは私の考えだからあくまでアドバイスね。自分の考えを貫くのも冒険者には大切よ。」
「ありがとうございます、参考にさせていただきます。」
うーん、アドバイスはありがたいが自分の考えの方でいくかな。人間失敗しないと学ばないやつもいるからね。特に私。
リサさんと話した後は少しすると休憩と警戒の人で交代し、その後は後続の部隊も合流するとリーダーに伝令が届いた。
伝令を聞いたリーダーが周りの冒険者達に声をかける。
「みんな聞いてくれ!、ギルドからの伝令で要塞蜜蜂の巣の包囲は完了した。準備が出来次第包囲した部隊で一斉に巣の破壊作成に入る。そしてここにいる部隊の指揮はCランクパーティー赤流のリーダーである私が取ることとなった。これに異議のあるものはいるか。」
言葉を発する人はいない。どうやらCランクは高い方のようだ。
「よし!、ならば作戦を立てるため各パーティーのリーダーは列になって私の下へ来てくれ。」
リーダーの指示で皆動き始める。
その後はサクサクと作戦が決まったのかリーダーが選んだパーティーが横一列に並び巣に向かうのを待っている。
リサさんとトカゲ兄妹は破壊部隊として巣に向かうようだ。
私はもちろん巣に向かう人員には選ばれなかったのでこの場で待機だ。この場に残された人達は抜けてきた蜂兵や外の森からの魔物を対処する役目だそうだ。頑張るゾイ。
リーダーの合図で破壊部隊が巣に向かい森に入っていく。
現在は夕方、空は赤い。これ夜になったらどうするんだろ?。それに今巣に向かった人員で破壊しきれなかったらどうなるんだ?
疑問に思ったので近くにいた人に聞く。
「すみません、夜になったらどうするんですか?」
「ん?、お前こういったことは初めてか。夜になったら照明魔法弾を上げるんだよ。昼間と同じくらいの明るさにになるがその分光を嫌う魔物が来るから対処しなくちゃならない。」
へぇー、夜通し戦うってことね。
「ありがとうございます、ついでにもう一ついいですか?」
「おう、聞け聞け。」
「今巣に向かった人達で破壊と討伐が出来なかったらどうするんですか?」
「そうなったら他の街から高ランクの冒険者を呼んで、来てくれるまで防衛戦だな。要塞蜜蜂は巣の大きさで戦力が決まるから巣の拡大さえ止めれば持ち堪えることができる。まぁ一気に突破されて巣の拡大を止められなくなったら皆終わりだな。」
討伐はできなくても巣を破壊すればやりようはあるってことか。
教えてくれた人にお礼を言って警戒作業に戻る。
その後は外の森から来る魔物を他の冒険者が対処しているくらいで何事もない雰囲気が漂っていたが巣に向かった方からボロボロになった冒険者が姿を現したことで空気が一変した。
待機していた人が駆け寄るとボロボロの冒険者は倒れこむ。
周りはざわつき始め不安が広がっていく。
すぐに数名が忙しなく動き傷ついた冒険者の手当てからどこかへの連絡を行っている。
少しすると待機部隊のリーダーが前に出てくる。
「皆聞いてくれ、巣に向かった破壊部隊だが蜂兵の抵抗が激しく返り討ちにあったそうだ。なので今から救助に向かいその後前線をここまで下げることになった。前線を下げるとそれだけ巣が拡大して危険だがギルドが職員から引退した冒険者まで人員を集めて送るとのことだからそれまで耐えることとなる。」
ギルド職員や引退した冒険者は戦力になるのか?、それで頭数を揃えて他の街からの増援を更に待つってことか?
周りから不満の声が上がるが待機部隊のリーダーが冷静に伝える。
「言っておくがこの巣の規模だとここで食い止めないと街に被害が出る。そうすると冒険者は街への被害を見逃したとして罰則を通り越して指名手配犯だ。一生追われる身でいいなら逃げればいいが冒険者として恩恵を得ているのならやるべきことはやれ。」
リーダーの言葉に一瞬場が静まり返ったがすぐに雄たけびに変わる。
「うおぉぉ!」
「やってやるぜぇ!」
「魔物がなめんじゃねぇぇっ!!」
指揮を高めるとはこういうことなのかね。うるさいけど。
「では、救助部隊を募る。危険だが人手が欲しいので参加してくれるなら誰でも構わない。仲間を助けたいと思う奴は是非とも頼む。」
先ほどの雄たけびを上げていた人達でも救助に向かうのは半数ほどのようだ。案外冷静なのね。
私はどうするか、以前も思ったが私に英雄願望はない。大切な人がいればもちろん助けに行くが顔見知り程度を助けるために我が身を危険に晒そうとは思わない。ちなみに顔見知り程度はトカゲ兄妹ね。
リサさんは…、あれは敵か味方か分かんなかったしな…、いや、分からない状態でこちらから梯子を外すのはよくないな。味方ならOK、敵ならバイバイで済む話だ。よし、救助部隊に参加しよう。
待機部隊のリーダー改め救助部隊のリーダーに参加の旨を伝えて集合場所に集まる。
救助に集まったのは20人ほど。それを4人1組の5つに分けて作戦に当たる。「いいか、森の中は視界が悪い。チームで互いを守り合え。そして救助が優先だ。蜂兵は無理に討伐しなくて構わない。更に言うと二次被害は勘弁してくれよ。冒険者として引き際は見極めろ。」
リーダーの言葉に私を含めて全員が返事をする。
「それでは、行くぞ!」
私達は救助のために巣の方へと森に入っていく。
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救助部隊が森に入っていくのを上空から眺める一匹の半透明な蜂。
餌に集まるのは人間も同じと言わんばかりにギチギチと顎を鳴らしながら巣の方に飛んでいく。
空は日が落ち始め薄暗い森を闇で塗り潰す時間が近づいていた。




